高知県 総務部 デジタル政策課
DX推進室長 矢野隆補 様
DX推進室チーフ(計画推進) 川村洋平 様
DX推進室主幹 林 英典 様
(2023年11月当時)
導入後の効果
介護業界は働き手が少なく、大変なことが多いと思います。そんななか「クラウドサイン for 介護DX」を活用することで、契約業務にかかる時間や手間を省けるのはすごく大きいんですよね。紙書類で契約しなければいけない、というような固定観念をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、電子契約も問題なく使えます。
国内の民間業者のみならず、自治体への導入も進みつつある電子契約サービス。クラウドサインは2023年11月時点で、全国の120を超える自治体にご利用いただいていますが、なかでもつねに高い利用率を維持しているのが高知県です。月間300〜400件という契約書送信件数は、ほかの自治体に比べても圧倒的に多くなっています。電子契約サービスを導入する自治体の割合が全自治体の10%という中で、なぜ高知県ではクラウドサインを導入し、かつ速やかに全庁に利用を浸透させることができたのか。総務部 デジタル政策課の矢野隆補様、川村洋平様、林英典様にお話をうかがいました。
地元経済団体からの要請を機にサービス導入を検討
高知県がクラウドサインを導入したのは2022年5月。立会人型電子契約サービスを導入した都道府県としては、茨城県に次ぐ2例目となりました。まずはサービス導入に至った経緯をお聞かせください。
川村様:そもそもの背景として、高知県には人口減少や少子高齢化という課題がありました。この先も人口減少が進めば、将来的には県庁でも限られた数の職員で複雑化・多様化する行政課題に向き合っていくことになります。その場合、行政事務を効率化し、それにより生まれた人的資源を最大限に有効活用していく必要があります。
また、コロナ禍を契機に世の中でテレワークが急速に浸透するなか、県庁と取引のある民間事業者の方々は、契約書に押印したり、印紙を貼るために出社しなくてはなりませんでした。そういった背景から、県内の経済団体から知事へ電子契約を導入してはどうかという提案がありました。
矢野様:知事経由でご提案を受けて私たちの部署で電子契約サービスを研究したところ、有用なサービスであることはわかったものの、当時、自治体が利用できる電子契約サービスはいわゆる「当事者型」のみ。「立会型」でなければ導入の効果は薄いと、そんな話を意見交換のなかでした経緯があります。
川村様:その後、2021年1月に地方自治法施行規則が改正され、自治体において立会人型電子契約サービスが利用可能になったことで、高知県でも満を持して電子契約サービスを導入しようという流れになりました。
そこでクラウドサインを選んだ決め手はなんだったのでしょうか。
矢野様:まず、すでにアプローチいただいていた事業者のなかから弁護士ドットコムを含む2社にお声がけし、2021年8月に実証実験をはじめました。
具体的には、デジタル政策課の他、土木政策課、総務事務センターの協力を仰ぎ、それぞれが取引のある県内の事業者と電子契約の実証を行いました。当時、全国の都道府県に先駆けて電子契約サービスを導入していた茨城県さんにお話をうかがい、電子契約サービスの信頼性や安全性への不安は払拭されていたので、使用感を確認するために実証実験をした形です。
その点、弁護士ドットコムのクラウドサインは操作がきわめてシンプルで簡単でしたし、実施要項などの説明資料も充実していました。最終的に、県の契約規則に則って複数事業者から見積を提出いただき、費用対効果の観点からクラウドサインに決定となりました。
土木部のスタートダッシュがほかの部局へ波及
その後、2022年5月にクラウドサインを導入いただきました。これまでに行った電子契約の数はどれくらいあるのか、差し支えなければ教えてください。
川村様:2022年度は全庁で年間3,267件の利用がありました。契約変更のための利用も1件としてカウントされるので、利用回数=契約数ではないのですが。2023年度の上半期は1,986件ですから、年間では前年度を上回る見込みです。
全庁に一斉導入して、初年度から年間3,267件! 自治体の場合、最初から全庁に導入するケース自体あまり多くないと思うのですが、これほどスムーズに電子契約サービスが浸透した要因はなんだとお考えですか?
矢野様:土木部を中心に広がっていったと認識しています。公共事業を多く手がける土木部は契約金額が大きいので、電子契約で収入印紙が不要になれば、事業者のメリットも大きい。事業者からのニーズは高いだろうと予想していました。
そこで、早い段階から土木部の職員向けの研修を行った一方、事業者への周知も徹底しました。本県の場合、入札参加資格の登録を2年に一度更新するので、2021年3月に県内の1,800事業者に対して「来年5月から電子契約を導入する」旨を郵送で通知したほか、実際にどうやって使用するかをレクチャーする機会もつくって導入促進を図りました。
それがスタートダッシュとなり、ほかの部局にも波及していったのではないかと考えています。というのも本県ではデジタル化への取り組みについて部局間で情報共有する機会を定期的に設けているんです。ほかの部局がやっていれば「うちもやらないといけないな」となりますから。それもあって広がっていったのではないかと思いますね。
電子契約が庁内に急速に広まることで、職員の皆様が困惑・混乱することはなかったのでしょうか。
川村様:目に見える形ではなかったですね。あらかじめ職員向けの動画をつくって公開しましたし、導入にあたっての操作ガイドや法的根拠となる資料など、クラウドサインの丁寧で手厚いサポートもあり、スムーズに運用を開始することができたと感じています。
林様:先ほど矢野が申し上げたようにクラウドサインは操作自体がきわめてシンプルなので、私たちの課に職員から問い合わせがあっても「この資料を見てください」と言えばすぐに理解してもらえます。
サービス導入の目的だった業務効率の向上やコスト削減については成果を実感されていますか?
川村様:まさにいま、クラウドサイン導入後のさまざまなデータを集計している最中なので現時点で定量的なことは申し上げられないのですが、3,000回以上利用されていますので、単純に契約書の郵送コストだけでもかなりのコスト削減につながっているのではないでしょうか。事業者側にとっても印紙代のコスト削減は大きいと思います。
林様:実際、事業者からデジタル政策課に印紙についての問い合わせを電話でいただくことも多いですね。
矢野様:業務効率についても、従来は一通の契約書を2部つくるのに最低でも15分はかかっていました。電子契約になってその時間がかなり短縮されたのに加え、相手方に契約書を送ってから返ってくるのを待つ時間も短くなっているはずです。実はいま全国的に自治体の土木部は職員不足に悩んでいるのですが、その土木部を中心に電子契約が広がったのは、業務効率の改善に一定の効果があるからだとも見ています。
行政のデジタル化にもアジャイル開発的アプローチを
今後のクラウドサインの運用について、新たに計画していることがあれば教えてください。
川村様:2023年10月からクラウドサインにLGWAN環境下におけるファイルダウンロード機能が備わったそうなので、利用を検討したいと思っています。現状、県職員はLGWAN環境で作成した契約書をインターネット環境に移してからクラウドサインにアップロードしていて、ひと手間が発生してしまう状況です。
また、サービス導入の効果の最大化も今後取り組みたい課題のひとつです。本県では全庁に電子契約サービスを導入しているとはいえ、実際の利用数については部局によって差があります。先ほど申し上げたデータ集計が終わり次第、紙の契約が継続しているものについてはその理由を分析し、どのようにアプローチすべきかを考える見込みです。
矢野様:電子契約サービス導入の際、事前に研修会を行ったのは土木部がメインで、ほかの職員には「電子契約サービスを使いましょう」と文書で伝えただけです。部局ごとにアプローチしたわけではないので、それが利用率の濃淡につながってしまったのかもしれません。
川村様:また一方で、事業者側が「なんとなく不安だから」「これまで使ったことないから」といった理由で電子契約を選択しなかった場合、職員から事業者への利用方法やメリットを説明することも必要だと思います。
本県が「デジタル化推進計画」で目指す社会像は、「デジタル化の恩恵により、暮らしや働き方が一変する社会の実現」です。その中でも行政分野に関しては、行政手続きのオンライン化により役所へ足を運ぶことなく、自宅や職場からスマホひとつで行政手続きが完結するような将来イメージを描いています。電子契約はそのイメージを体現する取り組みだと捉えていますので、今後も利用を促進していきたいですね。
それでは最後に、クラウドサインの導入・活用を検討している自治体に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
矢野様:「案ずるより産むが易し」と申し上げたいですね。電子契約の取り組みにかぎらず、一般的に自治体職員は現状維持バイアスがかかりやすいのか、従来の業務フローやスタイルを変える必要性をそれほど感じていらっしゃらない方が少なくない印象です。
反対する方々の気持ちも理解できますが、冒頭で川村が申し上げたように、特に人口減少が顕著な自治体では、現状維持のままではいずれ行政が回らなくなってしまうかもしれません。ですから、まずは試してみること。導入コストがそれほどかからないものは、効果が確認できたのであればとりあえずやってみて、なにか問題が起これば改善していく。そんなアジャイル開発的なアプローチが、行政のデジタル化にも求められているのではないでしょうか。
※掲載内容は取材当時のものです。