鹿児島県志布志市
下平晴行市長
鹿児島県の東部、志布志湾に面する志布志市。その地名から「志あふれるまち」として知られ、「志布志市志布志町志布志の志布志市役所本庁・志布志支所」の看板はメディア等でも取り上げられて話題になりました。
豊かな自然環境も魅力の同市ですが、その一方でデジタル化、DXに向けた取り組みにも積極的です。2022年10月から庁内の一部でクラウドサインを導入し、対象案件の9割の電子化を達成しました。さらに2023年7月からは庁内全体での本格運用を開始しています。まだ多くはない自治体における電子契約サービスの導入。そこに至るまでの苦労や運用開始後の成果について、志布志市の下平晴行市長に伺いました。
ICTやAIの導入、電子化により住民と事業者の利便性向上へ
電子契約サービス導入の背景について教えていただけますか。
本市は「第4次志布志市情報化計画」において、市民1人ひとりの多様な幸せが実現できる社会を目指して、誰一人取り残されない、人にやさしいデジタル化で将来にわたって豊かな社会づくりを推進し、質の高い市民サービスを提供するために、従来の枠組みを抜本的に見直した「スマート自治体」への転換を目指すこととしています。
これまでも志布志市では光ファイバー網の「しぶし志ネット」の配備、キャッシュレス決済の導入による市民サービスの向上、AIによる議事録作成支援システムを用いた業務効率化などデジタル化への取り組みを進めてきました。また、今後も、電子図書館のサービス開始、住民や事業者からのお問い合わせへ対応するためのAIチャットボットの導入を計画しています。電子契約もそうした「スマート自治体」に向けた取り組みの1つに位置づけられます。
電子契約サービスの導入を検討し始めたきっかけは、本市がふるさと納税への取り組みを強化するようになり、それに関連して都心部の企業と契約する機会が増えていたこと、さらに2021年の地方自治法施行規則の改正によって事業者署名型(立会人型)の電子契約が利用できるようになったことです。
以前より企業など一部の事業者から「電子契約は可能ですか?」と尋ねられることが多かったのもあり、調べてみるとメリットが大きいこともわかって、一気に電子契約サービス導入への意欲が高まりました。とりわけ事業者は電子契約だと印紙税の対象外となり経費節減にも直結しますので、可能な限り早く導入しようということになりました。
重視した点は、適法性と日本の法律に特化した専門的な導入支援
電子契約サービスにクラウドサインを選択した理由を教えてください。
自治体として利用するわけですので、システムが法的に問題ないものかどうかという適法性は最も重要です。また、そのうえで操作がシンプルでわかりやすいかも大切でした。さらに電子契約サービスを本市でスムーズに運用を始められるように、導入サポートにも力を入れてもらえるかどうかという点も重視していました。
その点クラウドサインは「グレーゾーン解消制度」を用いて関連省庁からお墨付きを得ており、私たちにもわかりやすい形で法の基準をクリアしていることを示していましたので不安はありませんでした。
法の知識、例規整備等に詳しいスタッフが多数在籍している弁護士ドットコムが運営しており、代表者も弁護士資格を保有しています。運用方法の相談にも、例規整備にも適切なアドバイスをいただける安心感がありました。
そんな風に導入段階で手厚いサポートが期待できたのは、クラウドサインを選択した大きな理由です。実際、導入時や運用開始後、ちょっとした疑問が出るたびに相談に応じてもらっています。本市では2022年10月に一部運用開始、2023年7月から本格運用開始というように段階的に導入していったのですが、その都度生じる疑問に的確に対応してもらえたおかげでスムーズに進めることができました。
事業者への丁寧な説明により電子契約への不安を払拭し、電子化普及を促進
導入を進めていくにあたって、ハードルとなるような課題はありましたか。
導入の際、市役所内部では、契約書を電子化するだけでなく、すでに稼働している他システムとの連携を図らないと事務作業がかえって煩雑にならないか、という意見も出ました。しかし、他システムとの連携を同時に進めようとするとシステム選定や費用、導入スケジュールの調整などの面で一気に難しくなり、電子化の足が止まってしまいます。
そのため本市では、既存システムとの連携は後回しにして、単純に電子契約サービスの導入を進めることにしました。他システムとの連携については、今後市のDX推進に関わる協議の中で判断し、進めていくこととなっています。
契約の相手方である事業者から、導入時に戸惑いの声などは寄せられませんでしたか。
一部運用開始後、最初の半年間ほどは「電子契約がどんなものかわからない」「難しそう」といった不安から、紙書類での契約を希望される事業者が4割ほど占める状況でした。しかし、そういった不安を抱えている事業者には丁寧に説明を行い、難しいものではないことをご理解いただいて、電子契約を選ばれる事業者が少しずつ増えていきました。現在では不安を理由に紙契約を希望される事業者はほぼなくなっています。
丁寧な説明により事業者の不安も払拭されたのですね。過去クラウドサインを導入いただいた自治体の事例からも、自治体から住民・事業者へ主体的に説明していくのが電子化促進に効果的であることは明らかです。今回のお取り組みを伺い改めてその点を再確認しました。
導入後の約半年間で、対象案件の約9割の電子化を達成
どのようなところで導入の効果を感じていますか。
2022年10月から2023年6月末までの一部運用期間中の集計になりますが、対象案件の9割前後を電子契約で締結しました。契約の相手方の決定を行ってから契約締結に至るまで、事業者が市役所に来庁することなく完結できるところにメリットを感じています。
これまではメールや電話で連絡を取り合ったうえで、最終的には事業者が記名・押印した紙の契約書を持参して来庁されていました。遠方の事業者の場合は簡易書留で契約書を郵送する手間が発生していましたし、本市側でも押印後に契約書1部を事業者に返送する作業もありました。電子契約なら、契約の内容確認と署名をいつでもどこでもでき、双方の負担を軽減できるのが最大のメリットと感じています。
それと、電子契約では文字訂正を簡単に行えませんから、これまで以上により慎重に文言をチェックして契約書案を作成、アップロードするようになりました。結果的に契約書の誤りを未然に防ぐ良い効果にもつながっています。
事業者側の効果についてはいかがでしょうか。
紙の契約書では紙代や印紙代、郵送代などの直接的なコストが1件あたり通常200円~数千円かかり、案件によっては印紙代だけで1万円を超えるものもあって、それらは全て事業者側の負担になっていました。しかし電子契約ではこれらの費用が一切かからなくなっています。
加えて紙の契約書を製本、押印したりする作業がなくなり、郵送や市役所へ持参する手間もありません。電子契約になったことで事業者側では契約内容の確認と同意の操作のみとなり、業務量は圧倒的に少なくなったと思います。
業務フローを大きく変えずに自分たちに適した形で運用できる
最後に、これからクラウドサインの導入・活用を検討している他の自治体に向けてメッセージをお願いします。
私たちも電子契約の有効性について初めのうちは不安がありました。しかし、関係各省庁からお墨付きをもらっているクラウドサインということで、安心して電子契約を利用できています。操作も簡単で、比較的安価な料金も魅力ですし、契約事務が簡素化されて経費削減にもつながるという、事業者側と市側の双方にメリットの多いツールです。
本市のような小規模な自治体であれば、職員への周知もしやすく、全庁での本格運用もスムーズに始められるでしょう。導入するかどうか迷っている自治体もあるかもしれませんが、思い切って始めてみるのがおすすめです。契約締結の形態が紙書類から電子データに取って代わるだけで、契約に関するフローそのものが大きく変わることはありません。どの自治体にも適した運用方法がすぐに見つかると思います。