学校法人関西大学
総務局 法務課 濱田七兵衛様
「学の実化(がくのじつげ)」を理念に掲げ、「実社会で有用な人材を養成すること」を絶えることなく追求してきた関西大学様。2022年に創立136年、大学昇格からちょうど100年を迎える長い歴史をもちながら、古い慣習に囚われることなく、近年は数千名に及ぶ教職員や2万7,000名以上の学生のために、さまざまなデジタルツールの導入を積極的に進めてきました。
そのなかの1つに電子契約サービスがあります。日本の18歳以下人口が減少し、学生数の減少が危惧される中で、大学事務の仕事は多様化、専門化が進んでいます。その様な状況下で、職員の負担を軽減するべく契約の電子化に取り組んだ同大学では、信頼性やコスト、サポートなどの面から、そのツールにクラウドサインを選択しました。
契約業務の電子化で通常業務の負荷はもちろん行政の監査対応の負荷も軽減
はじめに、契約書の電子化を検討することになった経緯について教えていただけますか。
関西大学では、2014年12月に「電子決裁システム導入及びペーパーレス化推進プロジェクト」を設置し、2016年4月から「電子決裁システム」の運用開始することができ、学内決裁の物理的押印作業の省略と意思決定の迅速化を実現しました。
2020年のコロナ禍の在宅勤務の増加や行政の押印見直しなどにより、更なる業務の効率化を行う必要性が生じ、同年10月に「書類に関する押印見直し及びペーパレス化推進プロジェクト」を新たに設置し、学内書類の電子化及び契約書の電子化を検討したのがきっかけとなります。
紙の契約業務ではどんな課題がありましたか。
研究機関でもある大学として、特許関係の契約、共同・受託研究、秘密保持(NDA)、試料提供(MTA)にかかわる契約を締結します。昨今は、業務の高度化・複雑化により、専門業者への業務委託契約(請負契約含む)も増加しております。それと併せて、個人情報保護に関する覚書の締結なども定期的に発生します。
従来は、契約書が全て紙だったため、押印のために都度出勤したり、物理的に紙契約書を移動させなければなりませんでした。収入印紙の費用も年々増加しておりました。契約書を頻繁に締結する部署がある一方で、たまに締結する部署では、その担当職員は締結完了まで、ずっと書類を意識していなければならず、実質的な拘束時間が長く感じていたのが実情でした。契約を電子化できれば、時間やコストだけでなく、職員の精神的負担の軽減にも非常に効果があるのではないかと考えました。
紙書類の管理や保管の部分についてはいかがでしたか。
契約書の原本は現場の各部署が書庫などに保管しています。大学は補助金をいただく関係でさまざまな監査を受けることが多く、契約書原本をチェックする際には各部署から取り寄せて確認しなければなりません。急ぎ確認が必要になったときは、探し出すだけでも大仕事です。もちろん保管費用や散在している保管場所の管理の手間もネックになっていました。
圧倒的に高かった信頼性と、サポートの充実度
電子契約サービスにクラウドサインを選んだ理由を教えてください。
クラウドサインは電子署名法に準拠したサービスであり、証拠力としても信頼できると判断したからです。他にもいろいろな電子契約サービスがあるなかで、クラウドサインは、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」を利用して、法務省など行政からのいち早くお墨付きを得ていた点も信頼に至った理由です。
※グレーゾーン解消制度:産業競争力強化法に基づき、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度
もう1つ選んだ理由としては、初期の導入コンサルサービスの充実です。我々は電子契約やデジタルツールの専門家ではありませんので、学内説明会や学内普及をスムーズに進めるのは懸念事項でした。そういった中で学内・学外マニュアル資料づくりなどを、弁護士ドットコムの担当の方に力添えいただけた点が学内導入・学内普及に至った秘訣です。一方で、クラウドサイン以外の他のメジャーな電子契約サービスも調べましたが、当時は初期導入時や法的な面のサポートが薄かった印象です。
海外の大学との契約にも利用。承認から締結後の管理までを一気通貫で電子化
クラウドサインは現在どのような用途で利用していますか。
主に本学が発注側となる業務委託・保守・施設関係の契約での利用が中心ですが、最近では海外の大学との契約書にも使い始めています。クラウドサインの英語版の説明資料があるおかげで、先方にも電子契約サービスの使い方やメリットを容易にご理解いただけるようです。一方で、民間企業等との共同研究契約、受託研究契約などでは、本学側から電子契約を言い出しにくいところがあり、これから活用を推進していきたいと考えています。
契約業務のフローを簡単に教えていただけますでしょうか。
契約締結行為は現場の各部署に委ねられています。現場と相手方で契約内容について調整した後、私たち法務課にその内容の確認依頼が来ますので、法務的視点でチェックを行って、問題がなければ学内の電子決裁システムで処理します。それが完了すれば、現場の各部署がクラウドサインを使って契約書を送信するという流れです。クラウドサインには管理者がすべての書類を閲覧できる機能がありますので、各部署で締結した契約書は全て法務課で確認できるようになっています。
導入やその後の運用で工夫したこと、もしくは苦労したことはありますか。
学内の規程には、紙書類に公印を使うときのルールは決められていましたが、クラウドサインを含む電子契約を使った電子署名に関するルールは決めていませんでした。ただ、電子契約のためだけに新たなルールを1から作るのも大変ですので、必要最小限の変更で済むように、既存の規程に電子署名するときの例外を一文だけ追加する形にして対応しました。
また、学内への普及はあえてじっくり進めました。試験的に先行導入する部署を決めて、弁護士ドットコムの協力をいただきながら、その部署を対象に個別に説明会を実施し、さらに職員全体にも説明会を開いて周知していきました。しかし、人によって理解度は異なりますし、説明を受けてもなお不安だという慎重派も少なくありませんでした。
その場合は直接私がその部署に対してもう一度説明したり、ときには実際にクラウドサインを操作してもらい、送信ボタンを押すところまで付き添ったり。手間をかけないと学内普及は難しそうでしたので、丁寧に対応していきました。
結果的には多くの部署で利用者が増え、現在ではほぼすべての事務職員がクラウドサインで契約書締結を行うためのアカウントを持っています。送付の際は、部署長をクラウドサイン送付時の宛先に必ずいれるルールにし、クラウドサインに関ってもらうことで、当事者意識をもってもらう、という決め事にしたのも良かったのかもしれません。一度クラウドサインを使ってもらえれば、その後も使い続けてくれるので、ハードルになるのは最初だけと実感しました。
印紙代だけでも削減は100万円規模
クラウドサインを導入した効果はいかがでしょうか。
契約書の全体的な電子化率としては、担当者としての肌感覚ですが、約50%前後かと思います。契約締結にかかる時間も平均3日以内に収まっています。収入印紙を省けたことによるコストカットは、2021年度だけで約100万円に達しました。他にも、印刷代・郵送代・作業時間およびそこにかかる人件費もカットできたのは大きいです。
契約締結業務に不慣れな職員にとって、当該タスクを長く抱えるのが心理的に負担に感じるとの意見もありましたが、クラウドサインによって、メイン業務に集中できるようになったという声もありました。また、契約書の管理としても、仕様書、見積書、設計図などの付属書類も合わせてクラウドサインで保管できるので、検索性を高い状態にできているのも、助かっている部分です。
デジタルツールの活用にはみなさん拒否感などはないのでしょうか。
今では学内決裁処理、グループウェアなど、多くの部分でデジタルツールを活用しています。以前はクラウドサービスについて、組織としてはセキュリティなどの点で慎重な見方をしていたことは事実ですが、いつまでもそうしていると業務効率を上げられませんし、緊急時のテレワークなどにも対応できません。そのため、膨大にある書類などについて、個別に用途や設定すべきセキュリティ要件を整理し、それぞれを適切なデジタルツールで扱うようにルール作りをしてきました。
監査ログ機能でコンプライアンス強化も狙う
今後、クラウドサインはどのように活用していこうとお考えですか。
学内の契約書は全て電子契約に切り替えて、電子化率100%を目指すのが1つ。それと、クラウドサインには誰がいつ何を操作したかがわかる「監査ログ機能」がありますので、この機能を内部監査の部署と共有するなどして、コンプライアンスの側面からも活用できるようにしていきたいと思っています。
大学職員の雇用契約も電子化していく計画です。また、将来的に電子決裁システムとクラウドサインの連携も実現したいと考えています。学内での認知は十分に広げられたので、これからはより積極的な活用が進むような方法も考えていきたいと思っています。
これからクラウドサインを導入・活用していこうとしている、主に大学などの教育機関の方に向けてメッセージをいただければ。
おそらく他の大学においても、業務の多様化により、外部の専門業者に委託すべく、業務委託契約を結ぶ機会は増えていると思います。現場の担当者としては、クラウドサインを利用することで、業務効率化につながり、契約書の締結・保管・検索業務のストレスが軽減されると思います。
さらに、紙書類が多すぎる、コストを削減したい、といった困りごとがあるのであれば、クラウドサインには、無料アカウントがありますし、マニュアルを読まなくても分かりやすい構造(操作性)を体験してみてほしいです。また、本学を含めて、他の大学の導入成功事例を紹介することで学内での理解も得られやすくなり、電子化を進めやすくなるかもしれません。