奈良県生駒市
総務部 契約検査課 山本貴史様
生駒市は奈良県の北西に位置し、大阪府に近接しています。大都市圏に近いながらも豊かな自然に囲まれていることから、関西圏の住みたい街ランキングでも人気のある同市。宝山寺をはじめ寺社仏閣などの歴史的建造物が多く、茶筌(ちゃせん)の製造でも知られる、歴史的情緒溢れるまちです。
同市では2022年2月にクラウドサインを導入し、関西圏では契約を含めた電子化の動きが早い自治体となりました。鍵となったのは、動画を含むマニュアルの整備。急ピッチで電子化を進めている同市の担当者に、導入時の工夫などを伺いました。
関西圏の自治体で一番最初に電子契約を導入したい
電子契約サービスの導入を検討し始めたきっかけを教えてください。
ご存じの通り、政府が2020年に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定し、行政での押印をなくすという動きも活発になりました。2021年1月に地方自治法施行規則が改正され、特定の認証局の電子署名ではなく、事業者署名型の電子署名による電子契約も可能になり、2021年9月にはデジタル庁も発足しました。
その頃、民間事業者から提案があってクラウドサインの資料をチェックしていたところでしたから、ちょうどいいきっかけだと考え、まずは実証実験として電子契約サービスを使ってみようということになりました。このご時世、遅かれ早かれ契約業務が電子化することは間違いありませんので、できるだけ早めに取り組んだ方がいいだろうと。
関西圏の自治体でまだ電子契約を導入しているところはなかったので、本市がその先駆けになれたら嬉しいなという気持ちもありました。
電子化に積極的になったのはコロナ禍の影響もあったのでしょうか。
我々行政も人と対面する機会は減っています。研修や会議など、ZoomなどのWeb会議ツールを活用しているところです。同じように契約も電子契約にできれば感染リスクを減らすことが可能になります。コロナ禍があったから電子化が加速したとは思います。
契約にかかる時間を短縮し、書類の保管スペースも減らす
紙書類による契約業務で感じていた課題はありましたか。
例えば、契約書の書面の取り交わしに時間がかかってしまい、案件のスタートがずれこんでしまうというケースがありました。手続きを簡素化する方法など、なんとかしてスムーズに解決できないかと考えていました。また、契約書類は長いもので10年間ほど保管する必要があり、保管スペースを圧迫していました。
電子契約になれば、契約にかかる時間が短縮され、案件をスピーディーに進めることができます。また増え続ける契約書の保管スペースも減らせるため、メリットがあると考えました。さらには契約業務の正しい手順をさらに徹底するように職員の意識改革を促すことにもつながります。
クラウドサインを選んだ理由を教えていただけますか。
なんといってもサービス運営事業者の中で唯一「グレーゾーン解消制度」を用いて法的に問題ないことが確認できた、ということです。自治体と民間事業者との間のクラウドサインでの契約締結が、電子署名法に規定されている電子署名に該当し、かつ地方自治法が要求する電子署名にも該当しています。その安心感が決め手となってクラウドサインを選びました。
※グレーゾーン解消制度:産業競争力強化法に基づき、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度
また、弁護士ドットコムによる実証実験での手厚いサポートがあったことも理由の1つです。電子契約導入にあたっての条例規則の改定について相談に乗ってくれたこともとても助かりました。実際に、最初の実証実験では10社の民間事業者と電子契約を行いましたが、大手企業ほど受け入れていただきやすく、ツールとしての使い勝手も難しいところはありませんでしたので、これだったらいけるな、と確信しました。
シンプルな操作感。個別に使い方を説明する必要もなく導入が進む
導入にあたって工夫されたこと、苦労されたことなどはありますか。
こういった新しいツールを導入する場合、職員向けに説明会や研修を実施することもありますが、コロナ禍ではそれもままなりません。したがって今回クラウドサインの導入時には、私たち発注者向けと、民間事業者などの受注者向けに、Microsoft PowerPointでクラウドサインの概要や利用方法についての資料を作成し、配布をしました。さらにPowerPointにナレーションを吹き込み、動画にして誰もが見られるようにYouTubeにアップロードし、本市のWebサイトの電子契約案内ページにも掲載しています。
電子契約のツールを使うのは初めてでしたので、導入していく過程で疑問や課題はありました。ただ、契約というのはとても重要な業務ですから、1つ1つ確かめながら慎重に進めていく必要がありました。疑問に思うことがあれば、弁護士ドットコムの担当の方に連絡して、すぐに解決していきましたので、大変だったという感覚はあまり感じませんでした。
市で締結する全ての契約の電子化を目指す。各課でスムーズに利用が進む
現在はどのような契約書で利用されていますか。大まかな契約の流れも教えていただけますと。
物品の購入契約や、業務委託契約、工事請負契約など、ほとんど全ての契約で利用しています。契約締結は各課で行いますので、各課の担当者にクラウドサインのアカウントを用意しました。弁護士ドットコムから最初にいただいた契約書のひな形をもとに、実態に合わせて各種契約用のテンプレートを作成し、それをイントラネットに置いてすぐにダウンロードして使えるようにしています。
担当課と相手方とで契約内容をメールで詰めて、問題なければクラウドサインで送信するというのが大まかな流れですが、各課で締結した後は、その契約内容を総務部のほか、監査部門、会計部門といった必要な部署の担当者が確認できるようにしています。紙からの移行でまだ慣れないところもあるようですが、みんな抵抗なく使い始めてくれて、思った以上に活用している印象です。
民間事業者についても、クラウドサインを違和感なく使えているようで、問い合わせなどはあまりありません。そもそも操作が簡単な上、すでに民間でも契約の電子化が進んでいるところがある、ということが理由にあるのではないでしょうか。
運用ルールを整えて、可能な限り早くチャレンジを
まだ導入して間もないですが、利点や効果として感じるところ、将来の展望などがありましたら教えてください。
10社と始めた実証実験において、アンケート調査から試算したところでは、概算ですが年間での事務費用の削減が生駒市側で300万円以上、民間事業者側で5,300万円以上、年間での作業時間の短縮効果としても生駒市が約7,000時間、民間事業者が約1万6,000時間と、パーセンテージにして70~92%もの削減効果があることがわかりました。
事務作業の手間軽減による業務効率化や、印紙税を中心としたコストの削減といった効果は確かに大きいと感じています。ますます活用を促進して、令和4年度には、全体の7割の契約を電子化できれば、と考えているところです。もちろん将来的には100%電子契約になることを期待しています。
(※)クラウドサービスを活用した電子契約の実証実験の結果について
これからクラウドサインを導入したいと考えている他の自治体に向けて、メッセージをお願いします。
今や政府が自治体のDXを推進していて、どこの自治体も対応に苦慮していると思います。本市がWebサイトで電子契約導入をアナウンスしたことで、他の自治体より電子契約の使用感や活用状況についての問い合わせも数多くいただいています。こういったデジタルツールは、運用ルールさえきっちり整えれば、さほど苦労せず導入できるものです。まずは興味を持ってみるということが大事ではないでしょうか。