エン・ジャパン株式会社
取締役 岩﨑拓央様
中途求人メディア事業部 事業管理部 部長 高橋淳也様
SX支援室 マネージャー 野田勇次郎様
日本最大級の総合転職サイト「エン転職」をはじめとした多様な求人サイト運営や人材紹介事業など幅広く人材ビジネスを手がけるエン・ジャパン株式会社様。現在ではベトナム、インド、中国など海外にも事業展開し、企業と人材の橋渡しをするという役割を日本だけでなくグローバルでも担っています。
事業の拡大が進み、活況な企業の採用ニーズもあって、頭を悩ませていたのが契約に関わる業務の増大でした。そこで、単に契約業務を省力化するだけでなく、それによる営業生産性の向上も見据えてクラウドサインを導入。まだ電子契約サービスが広くは浸透していなかった2017年のことでしたが、同社がどんな思いで契約の電子化を進め、どんな成果を得たのか、話を伺いました。
申込書回収にかかるリードタイムの短縮と、営業個人の生産性の向上に期待
電子契約サービスの導入を検討することになったきっかけを教えていただけますでしょうか。
野田様
1つは、紙の申込書だと回収までにかかるリードタイムが非常に長かったことです。求人情報の広告掲載に関する申込書を作成しメールなどで送付して、企業様の方で印刷して押印した後、またPDFにして送り返していただく。締結までにかかる作業が互いに大きな手間になっていました。申込書を返送いただけるまで5~7営業日はかかっていたので、とにかくリードタイムを短くしたいと考えていました。
当社が運営しているサイトは、企業の求人情報を広告として掲載するものが多いのですが、契約締結ができないと掲載もスタートできないため、企業様の採用活動にも影響がでてしまいます。また、掲載がスタートしないと当社の売上にもならないため、契約締結に時間がかかると、その分会社の毎月の業績に影響を与えてしまうのも問題でした。
もう1つが、企業様での紙の申込書への押印に不備が頻発していたことです。
企業様に押印いただいた印影が薄いケースも少なくなく、送り返していただく際に、スキャンで白黒になり更に薄くなってしまうことが起こっていました。そうなると契約書不備で社内で受理できず、再度申込書を作成し、押印し直していただく必要がでてきます。先方の作業が増えるためこちらからお願いしにくいところもありますし、再度のやり取りでリードタイムが長くなってしまいます。そこで押印の必要がない電子契約の導入を検討してはどうか、と考えました。
岩崎様
さらに言うと、多数の競合他社がいる中で当社を選んでもらうためには、1人当たりの生産性を高め、本質的な業務に時間を割くことが重要でした。例えば、営業スタッフであればお客様への提案時間をどれだけ増やせるか。本質的な業務という観点でみると、契約という業務自体は顧客満足度や売上に対してはあまりインパクトのある話ではありません。それなのに手間がかかっているのだとすれば、やり方を変えなければいけない。
たとえば契約に少なくとも5日かかっているということは、1カ月間の営業日数のうち1週間分が丸ごと契約締結に取られているというイメージになります。もしそれがなくなれば、1週間分を本来の営業活動に充てられるはずです。営業日数が単純に増えるわけで、そこで契約業務を省力化できる電子契約サービスの効果は大きいのではないかとも思いました。
ダメだったらアプローチを変えればいい。部分的導入で負荷を最小限に
導入した2017年は、まだ電子契約サービスが日本でそれほど広くは認知されていないタイミングでした。そんななかでクラウドサインを選んだ理由と、導入に不安はなかったのかどうかについて、お聞かせいただけますか。
高橋様
事業部から電子契約の導入について法務部門に相談したときに、すでに法務部門でもクラウドサインを検討中でした。これが一番の選定理由です。私たちは法律の専門家ではありませんので、法務部門のお墨付きがあるサービスなら信頼できると考えました。イニシャルコストは高くないですし、契約書を送信した分だけ料金がかかる従量課金という安心感もありましたね。
当初は受注から請求まで1つのツールでデジタル化してはどうか、という案も出ていました。ですが、エン転職に関わる事業の規模が大きく、私たちの部署だけでなく全社を巻き込むことにもなります。全面変更は導入自体にかなりの時間がかかってしまい、難しいと判断しました。そこで、業務フローを「パーツ」に区切り、部分的な改善を進めるようにしました。そして「押印を不要にしたフローで電子契約が滞りなく締結できるか」にスコープをしぼり、トライアル導入を進めたのです。
岩﨑様
導入にあたって不安は特になかったですね。そもそも紙を使っている現状を変えない限り、先には進めないと思っていましたので。それに、もし電子化がうまくいかなかったとしてもアプローチの方法を変えればいい。最初から大規模に導入するのではなく、部分的にトライアルの形で始めて、ダメだったら変えればいいか、という感覚でしたから、それほど不安も抵抗もありませんでしたね。
導入にあたって難しかったこと、苦労したところはありましたか。
高橋様
大手企業のお客様は継続的にご発注いただけることが多く、最初に一度クラウドサインでの申込方法を説明すれば2回目以降は説明がほとんど不要です。そういう企業様はそもそもクラウドサインを自社で導入されていることも多いので混乱もありません。ただ、中小企業のお客様が相手のときは難しい場合もあります。求人サイトへの掲載が年に一度くらいのお客様だとクラウドサインに慣れていないのと、そもそもクラウドサインをご存じではないこともありますので、営業スタッフがどうすればわかりやすく説明できるかは、今も模索しているところです。
営業スタッフがわかりやすく説明するために、これまでにたとえばどんな活動をされてきたのでしょう。
高橋様
まず勉強会ですね。勉強会は「概要説明+ロープレ」の構成にしました。ロープレではスタッフの2人がペアになって、クラウドサインで申込書を送る側と受け取る側として、交代しながら両方の立場で実際にやりとりし、どのように使えるかを確かめてもらいました。さらに電子契約に切り替える旨のリーフレットも作成し、お客様に配布して具体的に説明するようにもしました。
加えて、電子契約の仕組みなどについてイメージしてもらいやすくなるよう、弁護士ドットコムが用意している動画も営業スタッフ全員に見てもらいました。特に大手企業を担当している営業部門の責任者にはしっかり周知しましたね。社内普及を進めるうえでは、上の立場にある人たちから浸透させていくことが大事だと思っていましたので。
上長確認はあえて最後に。スピード重視の承認フローは電子化でも維持
現在のクラウドサインの主な用途を教えてください。
高橋様
大きくは2つの部門において、それぞれ異なる用途で活用しています。私たち事業部の方では、営業担当がそれぞれ契約書の送付ができるようになっていて、法務がすべての契約書を閲覧できる管理者として設定されています。主に求人サイトに広告掲載を希望される取引先企業様の申込書の取り交わしなどに使用しています。
それとは別に人事・労務部門では社内の雇用契約書で利用しています。数百人ほど在籍している契約社員は半年ごとに契約を更新しますので、ここも紙の契約書のときは大変でした。電子化できたことで、雇用契約に関わる業務はかなり効率化できていると思います。
クラウドサインで契約書をやりとりするときのフローはどのようになっていますか。
高橋様
営業担当者が利用するときは、クラウドサインに本人がログインして、そこにひな形となる申込書などをアップロードして送付します。その後、私のいる事業管理部が、クラウドサインの利用が社内的に認められている種類の書類かどうかと、正しい宛先かどうかを確認します。それで問題がなければ相手先企業に送信され、必要事項が記入された書類が戻ってくる、という流れになります。
上記が「導入時期」のフローです。その後、業務フローの改善を重ね、現在は営業がクラウドサインを先に企業に送付し、顧客締結後に私のいる事業管理部で最終チェックをしています。営業側がクラウドサインに慣れたこと、また営業が「自分の送りたいタイミングでいつでもクラウドサインを送れるようにする」ことが営業生産性につながるためです。
そのフローのなかで工夫したところはありますか。
高橋様
最初の頃は、営業担当者の上長の承認を経て企業に送るフローも試していましたが、やはり時間がかかってしまうので、上長による確認はフローの最後にしています。元々紙のときも上長確認は最後でしたから、電子契約でもその流れに落ち着いたということになりますね。
岩﨑様
求人サイトへの採用情報の掲載は、スピードがとにかく重要です。企業としては他社より先に優秀な人材を獲得したいものですし、契約書関連で確認プロセスが増えてしまうと掲載が遅くなってしまいます。対面で営業するときも、その場で申込書をやりとりして、できるだけ早く掲載枠を押さえる、といった動き方が求められていましたので、電子契約でも紙の申込書のときと同じ流れを崩さずできるかどうかは大事なところでした。
高橋様
あと、取引先がフリーメールアドレスのときにどう対応するかは迷ったところです。企業として申し込んでいるのかどうかは、その企業のドメイン名が入ったメールアドレスを利用していることがわかりやすい判断基準になります。
ただフリーメールアドレスをNGとしてしまうと企業ドメインを取得していない企業や個人事業主の方など利用できないシーンが多くでてきてしまうことも事実ですので、弊社では客観的に見てそのアドレスが実際に業務の中で使われているアドレスであるかどうかを確認するために、実際にそのメールアドレスを使って過去に案件に関するやりとりをしているかどうかを判断基準として法務部門と協議を重ねて「実態」を重視したフローにしております。
無駄を削った分、もっと力を発揮できる業務に営業個人の力を使う
クラウドサインを含めた電子化や、働き方改革のような活動は、御社はかなりスムーズに進めてきたようにも見えます。
岩﨑様
それまでの習慣を変えるのは、やはり大変なことです。たとえばこのコロナ禍でテレワークがメインになりましたが、リモート環境になると、個人が困っていることはその本人が発信しない限り周囲の人は気付きにくい。同じオフィスで顔を合わせていれば、その人が「元気ないな」というのがなんとなくわかるけれど、リモートでは発信が苦手な人もいるので、そのまま良くないスパイラルに陥りがちです。
ただ、そういう場面でも個々人の課題をしっかり拾えるのが我々の会社としての強みだと思っています。一例を挙げると、毎日全員にフリーフォーマットで書いてもらっている日報。内製のグループウェアの掲示板のようなところに記載するのですが、誰でも閲覧ができるためSNSのようにコミュニケーションをとることも可能です。各事業部の責任者は全員の日報に必ず目を通しています。
創業以来ずっと続いている習慣で、このおかげでテレワーク下でも社員の声をしっかり拾えています。日報を見ていると何かに悩んでいてパフォーマンスが上がっていないメンバーもわかるので、自然とフォローもしやすいんです。
野田様
日報のなかには「クラウドサイン」というワードも頻繁に出てきています。特に月末になればなるほど「クラウドサインのおかげで、月内の納品に間に合った」というような声が多く発生します。スムーズに契約締結ができることで企業希望の月内納品、また自社の売上に貢献できています。そうしたメリットもあり、使いこなしている人がどんどん増えているなという印象です。
ただ契約業務が楽になるだけでなく、売上向上という部分でもクラウドサインが役に立っているところがあると。
岩﨑様
無駄を省いて効率を上げ、その分できることを増やすのは、営業活動の両輪として不可欠なことなんですよね。契約業務の電子化で作業量はたしかに減らすことができます。ただ、減らしただけでよしとしてしまうと、本人は楽になるけれど、会社としては何も変わらない。無駄を減らしたうえで何かを乗せる、というのが事業責任者としてもっておくべき意識だと思うんです。
楽になって暇になると、仕事にやりがいを感じなくなってしまうこともあります。削れた分は、もっとその人の力を発揮できるような業務に振り分けないともったいない。最初、電子契約の導入を検討し始めた理由として、1週間分の契約業務がなくなればその分本来の営業活動に充てられる、という話もしましたが、クラウドサインにしたことで、まさにその生産性を上げられるというメリットが得られたと思っています。
たとえば企業から申込書を受領しないと社内的には次のプロセスに進められないのですが、受領しても実際には求人ページの原稿などを作成するために1週間から10日はかかり、その納品が終わらないと売上になりません。ですから、できるだけ早くに申込書をいただくことが重要になります。クラウドサインでそのやりとりが最小限の期間で済むようになったので、納品と売上を予定していたタイミングにきちんと報告できるようになったのは、営業部門にとっても、事業部のマネージャーにとっても、ハッピーなことでした。
契約の電子化は「相手も待っている」
今後のクラウドサインの活用方針についても何か計画があれば教えていただけますか。
岩﨑様
私としては、営業部門に限らず、各スタッフの本来業務の割合をどれだけ増やせるか、というところを重視しています。手間やコストがかかっている周辺業務のなかでクラウドサインに置き換えられるようなところがあれば、積極的に活用していきたいですね。
高橋様
リスクなどを鑑みてクラウドサインの利用範囲を一部制限している契約書があったのですが、2022年1月からルールを見直して、基本的にすべての契約書でクラウドサインを利用する方針に変えています。そのためよりクラウドサインの活用の幅が広がると思います。
また、クラウドサインが備えている、契約書の検索機能をもっと使いこなせるようにしたうえで、社内で利用しているkintoneとの連携を進めたいと考えています。受注や契約の管理などに関しても、クラウドサインをはじめとするSaaSで効率化できるよういろいろ試していくつもりです。
これからクラウドサインを活用していきたいと考えている企業に向けてアドバイスがありましたら。
岩﨑様
繰り返しになりますが、単に無駄な業務を削減するだけではなく、その空いた分で何をするか、どこに集中させるのかを考えないと、こういったツールの本当の導入メリットは見えにくいと思っています。もちろん業務削減だけでも十分メリットはありますが、さらにクラウドサインの良さを実感いただくためには、どう生産性を上げるか、という部分も設計して導入してほしいなと思います。
高橋様
私は「相手も待っている」ということも大切な考え方の1つではないかと感じています。以前、どうしても社印を使って取り交わさなければいけない申込書があり、その相手方から、社印を押す、それだけのために出社している、と言われたことがありました。特定の申込書はクラウドサインを使えない社内ルールにしていたことで、大切なパートナーの方々に苦労をかけてしまっていることに気付いてショックだったんです。
それで、すべての申込書にクラウドサインを利用できるように社内ルールを改めました。頭に入れておくべきなのは、こういった電子化は自社のためだけではなく、相手もそれを待っている可能性があるのだということ。電子契約という選択肢を用意しておくことは、これからは企業として必要不可欠なことではないかなと思っています。
野田様
営業スタッフの動きを日々間近で見ている自分としては、リードタイムを短縮できることがクラウドサインの大きなメリットだと感じています。契約業務の手間を省ける分、納品や売上計上も早めることができます。クラウドサインの社内利用がなかなか広がらないということであれば、クラウドサインを活用することで売上につながる、というメリットがあることにも気付いてもらえるような取り組み方をすれば、社内普及を進めやすくなるのではないでしょうか。