長野県中野市
総務部 企画財政課 DX推進係 金井友也様
長野県北東部の自然豊かな山間に位置する長野県中野市。人口は約4万2,000人(2022年2月1日現在)で、ぶどう、りんごといった果樹栽培が盛んなほか、えのき茸の生産量では全国1位を誇るなど、農業を主力産業としている地域です。
そんな中野市では、2021年8月頃より業務のDXに向けた活動を本格的に開始しました。2022年4月からはその一環としてクラウドサインによる契約の電子化をいよいよスタートします。電子契約サービスの導入は長野県下の自治体では第一号。契約を電子化するに至った背景や、自治体ならではの苦労などを伺いました。
市民や事業者様にとっても実感できるDXにするために
はじめに、電子契約の導入を検討することになった経緯から教えてください。
2021年8月に、第4次中野市行政改革大綱を策定し、公開しました。市民サービスの維持・向上に向けた行政改革に取り組むにあたっての市の指針となるもので、そのなかの重点項目として「DX推進」が第一に掲げられました。業務のDXにはテレワークの導入、請求書の電子化、窓口のオンライン化、AIを活用した議事録の作成などが挙げられます。ただ、そうした市の業務すべてのDXを一気に進めようとすると莫大なコストがかかります。
DXのためのツール導入であっても、限られた財源を効果的に活用し、多くの方に効果を実感いただきたいと考えました。そこで目を付けたのが契約業務です。紙の契約では印紙税や郵送費用を契約相手方となる事業者様に負担いただいていますし、印刷、押印、封入、郵送など職員の煩雑な作業が必要になっていて、契約締結に1カ月以上かかることもあります。これらを削減・短縮でき、契約相手方となる事業者様にもメリットを感じていただけるところから始めようということで、電子契約サービス導入の検討を進めることにしました。
2021年1月29日には地方自治法施行規則の改正・施行があり、電子契約サービス導入のハードルも下がったかと思います。
たしかに、法律改正によって民間事業者様との契約において電子署名の規制緩和がなされ、クラウドサイン のような事業者署名型の電子署名を採用する電子契約サービスも利用できるようになりました。導入検討を進めるところでは、法律改正を受けてそれを実際の業務に反映させても問題ないかどうかなど、しっかり法的な裏付けをとったうえでアドバイスいただけたことで、自治体として不安なく電子化できるようになった部分もあります。
また、2020年夏頃に行政における脱判子の動きが始まり、その後デジタル庁が発足して、政府から各自治体でDXを進めるうえでの手順書などが公開されたことも、私たちのDXの加速に少なからず影響しています。
紙の契約書で発生していた非効率な修正・押印作業
紙書類による契約業務で課題となっているところはありましたか。
行政関係の書類の様式は、条例などでひな形がある程度決まっていますので、通常はその標準の様式を使うことになりますが、契約金額によっては文言の変更が発生します。それらについてどう変更したのか細かく記載し、すべての箇所1つ1つに公印を押印していく必要もあります。公印を管理している部署に都度お願いして押印しなければなりませんから、その事務には多くの時間がかかります。これは効率的ではない、という声は以前から職員の間から上がっていました。電子化して、本来不要な作業は減らすべきだろうと。
加えて、契約書は事業者様が最初に作成し、印紙税も事業者様に負担していただいていますが、市の職員が確認したときに契約書内容に誤りを見つけることもありました。契約書の修正や再作成となると、事業者様に余計な負担を強いてしまいます。もちろんそのたびに郵送する手間がかかりますし、書類の保管スペースの確保や倉庫への移動なども大変で、紙契約の課題は多かったと言えます。
使い勝手の良さ、わかりやすさに事業者側からも評価の声
クラウドサイン導入の決め手となったポイントはどこにあったのでしょうか。
事業者様にはできるだけ負担をかけない方法で電子化したいと考えていましたので、ポイントは低コストであることももちろんですが、一番は事業者様が簡単に利用できること。中野市では小規模の事業者様とのお取引も多くあります。そういった事業者様にも無理なく使っていただける仕組みであることが大切だと考えていました。
2021年秋には、電子契約サービス導入について事業者様の反応を知りたいと思い、建設業協会や商工会議所の方を対象に勉強会を開くことにしました。その際、弁護士ドットコムの方に何度も説明していただくなど手厚くサポートいただけたこと、さらに導入やランニングにかかる費用がそもそも安価であることが、クラウドサイン導入の決め手になりました。
勉強会の参加者からは、デメリットがないのでどんどん進めてほしいという前向きな声が多かったです。今回のことに限らず、市として何か新しいことを始めるときにこういった勉強会や説明会を開くことはあるのですが、新たな負担が生じたりする場合には厳しい反応をいただくこともあります。ただクラウドサインについてはそういう反応が一切ありませんでした。他の電子契約サービスと比較したときに、簡単に使える、操作性がいいというクラウドサインの特徴も魅力に映ったのだと思います。
市のスムーズな業務を崩さないよう段階的に電子化を拡大
現在はどのようにクラウドサインの導入を進めていますか。
今は具体的な運用フローを決めているところで、2022年4月から、基本的には民間企業との契約書類のすべてを対象に電子化するべく進めています。令和4年度(2022年度)中はできる限り電子契約をおすすめしつつ紙と電子の両方で対応し、令和5年度(2023年度)からは原則電子契約とする計画です。とにかく事業者様に電子化のメリットを感じていただきたい、というのを当面の目標にしています。
導入を進めるなかで苦労したこと、あるいは電子化スタート後の懸念点などはありますか。
クラウドサインを導入することで事業者様とのやりとりはオンライン上で完結しますが、契約締結後、たとえば市の予算で発注する取引の契約を電子契約で行った場合でも、内部での予算を執行するための手続きは現状紙で処理せざるをえません。紙を使わず電子契約にしたものをまた紙に印刷するという非効率な部分は今後どんどんなくしていきますが、段階を踏んでシステム構築していくところで、具体的な進め方など考えなければならない多くのことがあります。
また、導入開始となる4月は1年のなかでも契約件数の多い月です。電子契約は職員にとってもまだ完全に慣れていない新しい業務になりますから、そこでいきなり電子契約が多くなってしまうと反対に負担が増えて業務が滞ってしまいかねません。そのあたりの負担を軽くしながら、かつ令和5年度の原則電子化へスムーズに移行できるようにどうすればいいか、という議論もしているところです。
長野の77市町村と連携し、県全体の電子化もにらむ
クラウドサインや他のデジタルツールの活用について、将来的な目標を教えてください。
紙を使っている業務は他にも大量にありますので、契約締結を電子化しただけでは業務全体のDXにはまだつながりません。文書管理システム、ワークフローシステムの導入も進め、いずれは法律で不可とされているものを除くすべての契約締結を電子で行って、その後の事務フローでも紙を一切使うことなく済ませられるようにする、というのが目指すところです。あとは契約書だけでなく請求書にもクラウドサインを活用できればと考えています。
電子契約サービスの導入を検討している他の自治体に向けてメッセージなどありましたら。
長野県下の複数の市と取引している事業者様も多くいらっしゃいますので、中野市だけが電子契約サービスを導入しても、事業者様からするとメリットが薄く感じられてしまうかもしれません。長野の77市町村が参加する定期的な会合などで、足並みを揃えて電子化を進めていこうという話もしているところですが、まずは事業者様にご理解いただきやすくメリットも大きいクラウドサインによる電子契約を検討してみてほしいですね。導入費用はほとんどかかりませんし、一度デモを見るだけでも、操作が簡単で利用ハードルが低いことがわかると思います。