ランスタッド株式会社
管理本部 リーガル&コンプライアンス本部 ビジネス法務部 部長 島野英之様
マーケティング&ブランドコミュニケーション本部 コミュニケーション室 シニアマネージャー 古賀小百合様
人材派遣、紹介予定派遣、インハウス支援などの人材サービス事業を国内で展開するランスタッド株式会社様。1960年にオランダで設立された世界で最も長い歴史をもつといわれる総合人材サービス会社の日本法人です。「ONE RANDSTAD」を合言葉に、多様な人材ソリューションをワンストップで提供する同社では、DXを推進し、ICTツールを積極活用することで、企業と人材が互いの力を発揮できる土壌づくりを支えています。
クラウドサインを複数部署に導入し、契約書の電子化を進めたのもその一環。しかし紙書類の製本や押印、郵送の作業を省けるようになる代わりに、電子契約ならではの新たな課題が立ちはだかったことから、「ゼロベース」でワークフローの再検討を行うことになりました。同社ではどのようにしてクラウドサインを導入し、社内普及を図っていったのでしょうか。
スピードが要求される事業で、紙の契約書に限界
電子契約の導入を検討することになったきっかけを教えていただけますか。
島野様
もともと社内で使うICTツールについては、親会社をはじめグローバルからさまざまな情報がもたらされることもあって、積極的な導入が図られています。その中で電子契約も、すでにグローバルでは活用し始めていて、日本でも要検討となりました。
ちょうどその頃、コロナウイルスの影響で会社として在宅勤務が推奨されるようになったこともあり、契約処理に絡む課題が顕在化しました。契約締結のためにオフィスに出社して、契約書を印刷・製本して郵送する、という作業が困難になり、電子契約サービスの必要性が高まってきたんです。年末や年度末は契約書をやりとりする件数が多く、作業量が膨大で、郵送代がかさんでいたのも課題でした。
また、締結までにかかる時間も大きな課題としてありました。たとえば契約によっても、様々な押印フローのパターンがあり、当社の代表取締役名義で交わしたいケースは特に時間がかかります。各地域の拠点で契約締結する際にも、押印のためにいったん東京の本社などに契約書を送ってもらわなければならないからです。そうした拠点間での郵送の手間も発生するせいで、余計に時間がかかっている事情もありました。
人材派遣や紹介予定派遣の事業では、できるだけすぐに派遣・紹介して業務を開始してほしい、という企業からのニーズも少なくありません。紙の契約書ではスピードを重視したサービス提供のニーズには対応しにくいですが、電子契約であれば、即座に契約を交わして健全な形で業務をスタートできるだろうという期待もありました。
数ある電子契約サービスのなかからクラウドサインを選択された決め手はなんだったのでしょうか。
島野様
実績と信頼感です。当社は官公庁様とも取引がありますので、クラウドサインが行政との契約にも利用されているのは安心材料の1つでした。また、クラウドサインのサービス提供している弁護士ドットコムの創業者が弁護士の方ということで、信頼感もある。海外の本社では別の電子契約サービスを使っているのですが、契約書に関係する法規程は各国で異なるところもありますから、本社から特定の電子契約サービスの利用を強制されることはなく、日本では日本の法律に即したサービスにすべきということになりました。電子契約サービスの検討を始めてから、当社のリーガル部門でも、マネジメント部門でも、第1候補にクラウドサインが挙がりましたし、満場一致で導入が決まった感じですね。
承認フローをフラットに再検討、権限の設定にも工夫
クラウドサインは業務のどの部分に導入されましたか。
島野様
取引先と締結する人材派遣契約書や紹介予定派遣にかかわる基本契約書、それとセットとなる機密保持契約書、あとは派遣先の職種の特殊性に応じて覚書も必要になりますので、そういった契約書類が用途としては多いですね。また、部署によっては不動産の賃貸借契約などにも利用しています。
導入にあたって苦労されたところがありましたら教えてください。
島野様
締結した契約書の情報を部署内のどこまでの範囲で共有したいのか、あるいはしたくないのか、という前提条件が部署によって異なっていたので、共有範囲ごとにしかるべき人が契約書を閲覧できる状態にするために、どのように設定を行うかを整理するのに苦労しました。途中、二転三転しながら、最終的に閲覧範囲ごとに3つチームを導入する構成にたどり着いた感じです。あとは権限設定も悩んだところですね。
というのも、紙の契約書で締結する従来の手順では、物理的な判子が必要で、そのための申請も必要ですし、押印権限をもつ人も決まっていました。しかし、電子契約になると判子が不要になりますので、業務フローやルールを根本から考え直さなければいけないわけです。
そこで、クラウドサインを導入するこのタイミングで、そういった承認フローを一度全部フラットに検討し直すことにしました。新たに電子契約の権限に関する規定を新設し、そのなかで権限を委任する場合の規定も網羅しました。少し時間はかかりましたが、納得いく形にできたと思います。
導入にあたって工夫されたところはどんなところですか。
島野様
やはり閲覧範囲ごとにチームを3つに分けたことです。チームを3つに分けて、それぞれで活用を進めています。
チームの1つは営業部門です。同じ営業部門でも人材派遣がメインの部署や、紹介予定派遣がメインの部署などに細かく分かれています。それぞれで契約のプロセスは少し異なっていますが、いずれの場合も取引先は人材を探している企業様という点で共通していますので、締結した契約は営業部門全体で共有・閲覧できるように1つのチームとして設定しました。
2つ目が管理部門で、多くのベンダー様と締結する契約の管理のためにチームをもう1つ作りました。ここについては営業部門のようなニーズはなかったので、契約締結後の情報共有はしていません。 3つ目が管理部門のなかの人事部のチームです。人事部が交わす契約には、他の部署に見られたくないセンシティブな情報も含まれるので、完全に独立したチームにしています。こうした3つのチーム構成は、当社の事情をクラウドサインの担当者に相談したうえで、ご提案いただいた内容に沿って決めていきました。
新たな規定を作っていくところで特に難しかった点はどんなところでしょうか。
島野様
紙の契約書では締結までのリードタイムが長かったので、電子契約ではできるだけそこを短縮することも目標としていました。そういうこともあり、まずは承認権限をあまり上の立場の人にしないようにしました。承認権限を上の立場の人にしてしまうと、そこまでに承認のステップがいくつも必要になったりして、電子化しても結局時間がかかってしまうと考えたからです。
承認権限をもつ人に契約のメールがどんどん集まり、処理が間に合わなくなる可能性もあります。スピードアップを図り、かつコンプライアンスを遵守できる、シンプルな承認の流れをいかに作るかは難しいところでした。クラウドサインの導入コンサルティングも活用していたので、判断が難しい部分については導入支援担当の方と相談しつつ運用ルールについて決めていきました。
操作説明用の動画も作成し、誰もがビジュアルで理解しやすく
社内普及を進めていくうえではどんな活動をされましたか。
島野様
まずは社内向けに電子契約やクラウドサイン利用に関する説明用の資料を作成して、イントラネットやクラウドストレージに保管し、いつでも閲覧できる状態にしました。そのうえで、クラウドサインの方にもご協力いただき、クラウドサインの操作説明用の動画も作成しています。社内ルールや業務プロセス、契約書の管理方法がどう変わるのかを説明し、クラウドサインの画面上での具体的な操作方法についても解説する内容になっています。
古賀様
テキストだけの資料だと、なかなか読まれませんよね。そのため、社内に対しても、社外の取引先に対しても、ビジュアルに訴える形で少しでも楽しく理解してもらえるように、動画で説明するなどの別のコミュニケーション方法も取るようにしたんです。
導入後、社内導入後、社内や取引先からはどんな声が上がっていますか。
島野様
社内の契約締結の現場からは、クラウドサインは使い勝手が本当にシンプルで、手がける件数が多いほど工数削減になるうえに、在宅ですべて処理できると好評です。社外の取引先については、既にクラウドサインを導入しているところも多いですし、戸惑いみたいなものは特になかったようです。
相手方で契約の承認権限をもつ人と、契約書を直接やりとりする担当者が異なる場合に、スムーズに確認プロセスが流れていくかが心配でもありましたが、実際に導入してみれば、世の中に電子契約が浸透してきているせいか、そのあたりも問題ありませんでした。懸念していたほど電子契約は難しいことではなかったんだな、という印象ですね。
特に効果を実感しているところがあれば教えてください。
島野様
紙の契約書のときは、押印して相手方に発送し、返送されてきたものを保管する、という一連の流れを、回収管理簿というものを別途作って管理していました。ただ、手作業なので記載漏れもありましたし、相手方からなかなか契約書が返送されず混乱することもありました。
今はその進捗がクラウドサインの画面上でひと目で確認できて、早ければ1時間もかからずに契約締結できるときもありますし、必要ならリマインド機能で承認・返送を促せます。これで本当に契約が成立したってことでいいの? というくらい、簡単すぎて不安になるほどです。
契約業務の最初から最後まで、電子化で一気通貫に
今後クラウドサインをどのように活用していこうと考えていますか。
島野様
2022年3月末までに社内で発生している契約書の全体の半分程度まで電子化を進めることを目標にしています。社内の人事部門では、正社員のほか、契約社員やパートなど有期契約の方との雇用契約にクラウドサインを利用する計画が進んでいますし、営業部門が使用しているSalesforceとの連携も実現したいと考えています。そうすれば契約の電子化率がさらに高まり、コスト削減も進むはずです。
また、現在は紙の契約書をPDF化して社内システムに取り込んでいます。クラウドサインと、紙から電子にしたものの二重管理になっていますので、ここもいずれは一括管理していけるよう計画しています。当社では他にも社内業務に多くのツールを利用していますから、それらの連携・統合を進めて、業務効率を少しでも上げていきたいですね。
契約業務というのは、最初に社内稟議を通して、さまざまな検討や手続きを経て締結し、契約書として保管されるものです。どういう経緯をたどってその契約にたどり着いたのか、どういう稟議を通っているものなのか、といった記録も含めて保管されています。
これらがすべて一気通貫でできることで初めて適正な契約管理につながるわけですが、当社の場合、その途中のいろいろなところでシステムが分断されていました。ですので、それらをとにかく繋げたい。契約業務の最初から最後まで、電子化して一気通貫にするのが最終目標です。
クラウドサインの導入を検討している企業、もしくはこれからもっと活用していきたいと考えている企業にメッセージをいただければ。
島野様
電子契約サービスの導入にあたっては、まずは社内でどういう形で契約書の情報を共有したいのか、逆にしたくないのかなどを、十分なヒアリングを通じて把握することが大切だと思います。導入後の業務の流れをイメージしながら、承認プロセス自体を見直す必要もあるかもしれません。
一方で、取引先が電子契約に応じてくれない限りは紙の契約書も残りますから、そうすると紙のみだったときより管理の手間が増えることになります。それをどうやって管理するか。作業が倍になってしまうと元も子もないので、いかにシンプルに整理できるかが肝になります。そのためにも、先のことを見据えて、事前に業務プロセスやルールを明確にしておくことが重要だと思っています。
古賀様
クライアント様にとっても、私たち従業員にとっても、利便性を高めていくためにはさらなるDX化が不可欠です。ただし、そのDXの先にはCX、顧客満足度を上げるという目標があることを忘れてはいけないと思っています。それを実現するために、電子化、システム化が必要ならそうしますし、それによって人間の方は人間がすべき業務により注力できるようになるはずです。だからこそ、クラウドサインのようなDXにつながるツールはこれからもどんどん導入していきたいですね。