茨城県笠間市
市長公室 デジタル戦略課 情報政策調整官 長谷川尚一様
やるか、やらないかを考えてみるよりも、「一度やってみる」
デジタル庁の創設や行政におけるDX推進の政策により、行政のデジタル化は加速しています。茨城県笠間市では、いち早く「笠間市デジタルトランスフォーメーション計画」に、電子契約の導入・文書の電子化の推進・プリンターの廃止などを盛り込み、クラウドサインの導入に至りました。その導入に至った背景や取り組みのポイントなどについてお話を伺いました。
クラウドサイン導入のポイントや、導入時にはどういった取り組みをされたのでしょうか?
電子契約の導入を検討した当初は、クラウドサインから様々な情報を提供して頂きました。地方自治法施行規則の改正や、グレーゾーン解消制度を活用した適法性も明確でしたので、安心して導入できると感じました。クラウドサインのサイトを見ても、民間企業の活用事例が公開されていたので、私たちが取引する民間企業にとっても導入しやすいことがわかります。
政府による押印廃止が示された後、私たちは昨年の秋頃に問い合わせをはじめました。地方自治法施行規則の改正については、茨城県から連絡が入りました。県では、事業者署名型(立会人型)を自治体で利用できるよう要望を出していましたので、そういった動きもみながら進めていきました。
2020年6月くらいからDX計画を策定しはじめて、9月にはパブリックコメントの募集を終えています。今は笠間市全体として、オンライン化や押印廃止を進めている状況です。
さらに、クラウドサインではグレーゾーン解消制度を活用した照会がなされて、国の契約書も電子契約でできることが明確となりましたので、今年の2月頃には「いけるな」と感じて方向性を決めました。
導入を決めたのが、たまたま繁忙期にあたる年度末だったということもあり、進みは遅かったのですが、県の動向も踏まえて、笠間市でもしっかりやっていこうと、マニュアル作成や庁内への共有などに時間をかけました。導入が確定してから2ヶ月くらいかけたでしょうか。私がクラウドサインの操作を確認しながら、マニュアルを作成しました。操作が簡単なのでできたことですね。シンプルな操作性やわかりやすさは重要だと思います。自分で理解できないものは民間企業にも推奨できません。クラウドサインのWebサイトにある民間企業の導入事例も参考になりました。
昨年の春から文書管理の電子化が始まりましたが、財務会計の電子決裁は5年以上運用していましたので、テレワークが実施できる環境も準備できていました。新型コロナウイルス感染拡大のタイミングと重なったりして、準備していたことが即座に実施できたことは不幸中の幸いでした。
電子契約はどの部署が利用しますか?職員の皆さんはどういった反応でしょうか?
全庁的に一斉に導入を開始します。先日、庁内の職員向けに説明会を行い、周知しました。
笠間市全体で年間数千件の契約実績がありますが、すべて電子契約で行いたいと思っています。電子契約の利用にあたっては、契約金額の制限もつけていませんし、できない契約はないはずです。 庁内の既存システムの仕組みや事務的な手続きの関係で一部できないものありますが、年内には解消して、来年には全面的に電子契約ができる体制になります。
電子契約に関しては、はじめてのことなので「やってみないとわからない」というのが正直なところだと思います。ただ、クラウドサインを使って協定を締結していますが、送信側も受信側も「わからない」ということはなく、誰でもできるということがわかりました。やりはじめてから「やっぱり難しい」ということはないと思います。
ただ、相手方が紙を希望する場合には併用していくことになると思いますので、お互い同意のうえで進めていきたいと考えています。
契約の電子化に至った背景を教えてください。
先ほど申し上げたように、財務会計や文書管理はすべて電子化できています。基本的には、起案から予算の執行、支払まで一気通貫で電子化できます。今年は入札も電子化されているので、唯一、契約締結に関しては紙が発生していたんです。紙が発生すると、契約締結のフローだけでなく、スキャンして保存する作業まで発生します。件数が多ければ、結構な時間がかかってしまう。こういった時間の削減もできるよう、電子契約を進めています。契約業務が完了するまでの手間がかかりませんし、印紙税が不要になるなどメリットのほうが大きいです。
また、押印の代わりに電子署名をすると考えたときに、「押印が適切になされているか」ということが重要ですね。形式的な押印・公印管理になっていないかという視点で比較すると、電子契約であればしっかりと記録が残ります。また、承認者設定をすると必ず課長等の承認者にメールで届きますから、1対1だけの契約書も発生しないですし、必ず笠間市が承認したとわかる契約書が相手方に届きます。公印が不正利用された過去の事例などを考えると、圧倒的にセキュリティの面では安心できると考えています。そういったメリットも民間企業の皆さんにはお伝えしていきたいですね。
これから利用を開始する自治体へのアドバイスをお願いします。
「やること」を前提に壁を乗り越える感覚で進めるのが良いのかなと思います。やるか、やらないかを考えてみるよりも、一度やってみるということです。自治体の内部の規定上で、書面の義務があるものはほとんどないと思うんですよね。なぜなら、紙を前提に作成しているので、そんな当たり前のことは書いていないんです。でも、今回それが電子化への足枷にならないことで、想像よりもスムーズにいくのではないかと思います。逆に、押印のセキュリティを考えたら、電子化のほうが高いといえます。そのあたりを、利用者が理解することで一気に進むのではないかと思います。
当初、笠間市と契約を行う地域の民間企業に使ってもらえるのか知るために、実証実験を行いました。参加した企業のうち半数以上が「使いやすい」といった感想でした。一部、課題が残る内部的な手続きに関しては解消が必要ですが、契約を電子化すれば非常に楽になるというのは、私たちも参加した民間企業側もお互いに確認できました。民間企業の皆さんにとっても手間が省けるので「行政として初の民間への普及」を目指しています。官民ともにDXに取り組んでいければと思っています。
電子契約説明会の案内を通知した約半数の企業に参加いただいていますので、想像以上の反響でした。さらには、電子化に対して敷居が高いと感じている方からの申し込みがあったのには私も驚きました。セミナー後には「毎回市役所に来る手間が省けるのですごく良い」「市が前向きに推進してくれているのが良い」という声もいただきました。効果として目には見えにくいですが、導入が簡単にも関わらず官民ともにDXが実現できるのは非常に良いですね。 参加できなかった方からもお問い合わせをいただいて、電子契約の仕組みなどを説明しています。
個別に電子契約に関する質問やお問い合わせをいただくこともありますが、将来的には双方が作業の手間を減らせますし、「どんどんやっていきましょう」というスタンスで対応しています。導入しただけでなく、100%の浸透を目指していきたいですね。