金融業

金融機関初の「タブレット署名型クラウドサイン」導入。融資契約書類の管理コスト減、業務効率向上も

  • 2021年1月25日(月)

大阪協栄信用組合
業務企画部 部長 影山陽一様
業務企画部 係長 井上貴広様

 

紙がなくなるだけでなく、そこから派生するコストや手間を軽減できるのがペーパーレスのメリットでした。

「クラウドサイン」および「クラウドサインNOW」を導入することになった経緯を教えていただけますか。

影山様
大阪協栄信用組合では以前からペーパーレスに取り組んでおり、電子署名を利用した融資契約の書類のデジタル化もいつか実現したいと考えていました。融資関連の契約書類は記入する項目が多く、署名や捺印も必要で、お客様の手間は少なくありません。しかし、それを電子化してペーパーレスにするには法的にクリアな電子署名の仕組みが必須です。そんななかで、2019年の「FIT」という金融国際情報技術展で、クラウドサインに出会いました。

それまで電子署名は、相手と証明書の鍵を交換してデータの正当性や本人が送信したものであるという証明を行う方式が当たり前だと思っていました。ただ、それだと我々の側にITリテラシーが必要になるのは仕方ないとしても、融資させていただくお客様の方にもその知識や電子署名発行のための負担を強いることになってしまいます。我々信用組合がお取引させていただくお客様は、中小企業の、しかもご年配の方が多いので、なおさら難しいんです。

ところが、クラウドサービスで電子署名とタイムスタンプの発行を行う「立会人型」であれば、鍵の交換と同等のことを実現できると知りました。そこで、クラウドサインとクラウドサインNOWの導入を進めていくことになった、というわけです。

導入にあたって課題になったところはありませんでしたか。

影山様
1つ議論になったのは、クラウドサインとクラウドサインNOWが法的に問題ないかという点でした。

ただ、弁護士ドットコムが公開している「クラウド契約法律ガイド」のおかげで、法律上問題ないのはもちろん、むしろ紙書類の契約書より有効性が高いということが理解できました。最終的には顧問弁護士のリーガルチェックでも問題ないと判断いただけましたし、2020年7月には総務省、法務省、経済産業省が、クラウドによる立会人型電子契約サービスが適法であるとの見解を示したことで、より安心できましたね。

検討段階では、どこか1箇所でも他の金融機関が同じような電子署名の仕組みを使っていれば、もっと自信をもって進められるのに……と思うこともありました。まだどこの金融機関もやっていないことをやる覚悟というのは、なかなか勇気がいることでしたので。

導入決定後、実際に運用を開始するまでに苦労した部分はありますか。

井上様
当初は2020年4月から運用を開始しようと準備してきたのですが、コロナ禍で、クラウドサイン導入に関する従業員への研修ができず、10月に延期することになってしまいました。融資関連の業務については、今まで完全に紙文化のなかで仕事をしてきましたから、これをいきなりクラウド化してペーパーレスにするとなると、簡単な説明だけで理解してもらうのは難しいと思います。しっかり研修ができる状態になるまで導入は延期することになりましたが、その分システムの充実を図ることもできました。

関西を中心に13店舗あるとのことですが、その全店舗に一斉に導入されたのでしょうか。

影山様
全店舗です。我々組合では、何かを始めるときに「試験的に1店舗だけ」というやり方はしていません。やるなら全店舗一気に、です。1店舗だけだと、不公平ですし、「やってみて、ダメだったらやめればいい」みたいなあやふやな気持ちになりかねません。展開するなら一気にやる。自分たちにプレッシャーをかける事が必要だと思います(笑)。

だからこそ準備を万全にしておかなければいけなかったんですね。

井上様
失敗はできませんから、お客様に説明することになる営業の担当者や、実際のオペレーションを行う貸付担当者に、クラウドサインや電子署名とは何か、といったところをきちんと理解してもらう必要がありました。リアルの研修は難しくなりましたが、それでもオンライン会議ツールを導入したことで一度に数店舗の担当者に説明していく形をとれたので、かえってじっくり時間をかけて研修や準備の時間を設けることができましたね。

クラウドサインNOWの導入で、融資契約の流れはどう変わったのでしょうか。また、お客様の反応はいかがですか。

井上様
融資の契約を結ぶ際には、金銭消費貸借契約証書、信用組合取引約定書、その他同意書といった書類が必要になります。従来は、それぞれ文字がびっしり書かれたA3サイズやA4サイズの書類1枚ずつという感じでした。これらを電子化するにあたっては、タブレット上で見やすくなるように文字サイズなどを大きくしたので、ページ数としては増えましたが、お客様からは「楽になった」と言っていただけるようになりました。

手続きの流れとしては、まず社内で契約内容や契約者の情報をあらかじめ記入した状態の契約書類のPDFファイルを作ります。融資の金額や条件などをシステム上で入力することで、金銭消費貸借契約証書などの契約書類に情報を反映させることができるので、それをPDF出力したうえでタブレットの画面ですぐ出せるように準備しておきます。

そこまで準備ができたところでお客様にお越しいただき、記入済みの契約書類をお客様にタブレットの画面で確認してもらって、画面上にサインしていただきます。従来は金額や日付、融資金の返済口座の情報など、1つ1つをお客様に手書きしていただいていましたが、今はタブレット画面でサインだけをもらう、という形になっています。

お客様の手間はかなり減ったわけですね。

影山様
ただ、契約内容についてはすべての項目について説明が必要なことには変わりありません。我々の側は、契約時はどちらかというと記入にかかる時間より説明する部分のボリュームが大きいので、時間短縮にはなっていませんが、省力化は図れていると思います。

また、金銭消費貸借契約証書などの書類については押印も不要になりましたが、担保関係の書類が付属する場合、そこには押印が必要です。担保関係の書類の電子化はまだ法務局が認めていませんので、まだ紙なんです。ですので、全体的な効果としては理想のまだ半分くらいかな、と思っています。この担保関係のところもデジタル化できれば、お客様もよりメリットを感じられるようになると思います。

信用組合側には何らかのメリットはありましたか。

影山様
契約書類の一番厄介なところは、契約締結した後の管理です。契約書類の原本は、言ってみれば現金よりも厳重な扱いをしなければいけません。契約書は何にも代えられない唯一物件で、汚損、紛失、消失は絶対にできないので。ただ、契約内容に変更が発生したときなど、後でたびたび契約書類を確認する必要が出てきますので、そうしたときに紛失などのリスクを減らすため、これまでは一定レベルの権限をもつ人しか契約書類にアクセスできませんでした。

そういった契約書類の管理にかかる人的なコスト、手間は、累積していくと大変なものになります。ですが、クラウドサインで電子化することで、契約書のデータは常にサーバーの中にあり、もちろんバックアップもありますから、誰がいつ見ても汚損も紛失もしなければ、改ざんもできません。以前ほど厳重なアクセス権限を設けずに済み、必要な人が必要な時にアクセスでき、アクセス履歴もログで確認できるようになったのが大きいですね。

紙書類をなくして管理にかかる手間を減らしたうえで、業務効率も向上できたと。

井上様
紙書類の電子化、ペーパーレス化には、単純に今ある紙をデータ化する、という考え方もありますが、我々は元からそうではありませんでした。紙をデータにしておけば、いちいち紙にアクセスしなくても、パソコンでいつでも見られるようになります。みんなが楽になるためにペーパーレスを推進すべき、という考え方です。

クラウドサインで電子化したことによって紙がなくなるだけではなく、その派生として、書類にひもづいていたあらゆるコストや手間が軽減します。さらに契約書類をいつでもパソコンで見られるなど、非効率になっていた業務の改善にもつなげられる、というのが我々にとっての一番のメリットだったと思っています。

クラウドサインNOWの運用開始後に戸惑ったところはありませんでしたか。

井上様
社内研修も行って使い方や仕組みを説明してきたものの、新しい取り組みということもあり、最初の1~2カ月は支店からの問い合わせが毎日のようにありました。クラウドサインの操作方法についての問い合わせもありましたが、契約が絡んでいますので、法律的な話になったりすると、システム管理を担当している我々の部署内だけで対応するのが難しかったところもあります。他の部署と連携して生成する契約書の手直しを行うなど、導入直後は大忙しでしたね。

また、実際の契約の場面でもすんなりいかない部分がありました。一番多かったのが、契約書類のPDFがお客様にメールで届かないことがある問題でした。メール不着の原因としては、迷惑メールフィルターの設定やキャリアメールの仕様など、お客様の環境によって変わってきます。今のところは問い合わせがあれば柔軟に対応するようにしていますが、いずれは根本的な解決策を見つけられればと。

他の金融機関に先んじてクラウドサインNOWを導入し、ペーパーレス化できた理由はどこにあるとお考えですか。

影山様
ペーパーレスや電子署名については数年前から自分の頭にありましたが、ペーパーレスに対して単に「紙を減らすだけ」という考え方をしていたら、ここまで進んでいなかったように思います。それよりも先にデータ化するものが一杯あるだろう、と言われてしまうとそこで止まってしまうんですよね。デジタル化した上でそれがどう生かされるのかが重要であって、そこを考えることで導入につながる説得力が生まれるのだと思います。

本来のペーパーレスは「紙を減らすだけ」ではなく、いつでも画面で見れるようにして、さらに次の段階ではそもそも紙が発生しないようにする、というものだと思います。当組合のように少ない従業員数で業務に取り組むためには、そうした省力化・効率化ができる仕組みがどうしても必要で、ペーパーレスはその鍵の1つでした。弁護士ドットコムにはシステム化のためにいろいろな要望にきめ細かく対応していただきましたが、結果的に、当組合の業務に一番うまくマッチするのがクラウドサインNOWだったと思っています。

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