不動産業における電子契約導入のメリット、解禁の経緯とは?電子化の成功事例を交えて解説
賃貸借契約や売買契約、重要事項説明などさまざまな書類が発生する不動産業界では、賃貸・売買ともに紙書類での手続きが根強く残っています。しかし、顧客のニーズの多様化や法規制の改正などのさまざまな要因から、紙の書類を電子化できる「電子契約」を導入する企業が増えています。
本記事では、不動産業で電子契約の利用が解禁された経緯や電子契約を導入するメリット、不動産業で頻繁に締結される契約の種類を解説します。
不動産業における電子契約の導入事例も紹介しますので、DX推進やペーパーレス化を目的とした電子契約の導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
電子契約とは
電子契約とは、インターネット等の情報通信技術を利用し、電子ファイルに対して電子データ(電子署名・タイムスタンプ等)を記録して締結する契約を可能にするものです。電子契約を導入すれば、従来の書面で行う契約締結業務とは異なり、ハンコによる押印なしで、パソコンやスマートフォンを使いスピーディかつ安全に当事者の合意の証を残すことができます。
不動産業界では、2021年8月末まではほどんどの契約書類に宅建士の押印義務や書面化の義務があったため、電子契約を利用することはできませんでした。しかし、2021年9月1日に施行されたデジタル改革関連法により、一部の書類が電子化できるようになりました。
現在では、一部の契約を除いたほとんどの契約書類を電子化できるようになっています。
電子契約について詳しく知りたい方は下記記事も参考にしてみてください。
不動産業では契約手続きをオンラインで完結できる
2022年5月18日に施行された宅建業法改正により、不動産業界において、契約手続きをオンライン上で完結することができるようになりました。借地借家法や宅地建物取引業法を含む48の法律が改正され、「書面化義務の緩和」や「押印義務の廃止」が認められたことで、これまで書面でのやり取りが必須であった多くの手続きがデジタル化可能になったためです。
具体的には、申込書、重要事項説明書(35条書面)、賃貸借契約書、売買契約書(媒介契約書)、37条書面、連帯保証契約書、その他駐車場使用やメンテナンスに関する契約書など、ほぼ全ての書面において電子契約の利用が可能となりました。
【不動産業において法改正前後でできるようになったこと】
なお、不動産賃貸で電子契約を導入する場合は、入居者から電子契約の利用について同意・承諾を得る必要があります。宅建業法において、電子化を望まない消費者の保護などを目的として、相手方の同意・承諾を取得することが義務付けられているためです。
また、下記の書面は依然として書面契約での締結が義務づけられており、電子ではなく対面・書面での手続きが必須となっているため、注意してください。
・事業用定期借地契約
・企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
・任意後見契約
不動産売買契約書の電子化については下記記事で詳しく解説しているので、あわせてご一読ください。
不動産賃貸における契約書の電子化については下記記事もあわせてご確認ください。
不動産業で電子契約の利用が解禁された経緯
法改正以前、不動産業では契約書の改ざん防止や不動産取引の透明性の担保、消費者保護の観点等から紙の書面での交付が義務化されていました。2017年以降は、社会的なニーズの高まりを受け、段階的に電子化が解禁され、2022年5月の宅建業法改正により全面解禁された経緯があります。
以下に不動産業界で電子契約の利用が解禁された経緯を解説しますので、確認しておきましょう。
2017年10月、賃貸取引における重説のオンライン化がスタート
不動産業において、従来は宅建業法第35条および37条の定めにより、宅地建物取引業者と顧客の間で重要事項説明と契約締結をする際は、宅地建物取引士が記名押印済みの書面を交付することが義務付けられていましたが、社会のオンライン化のニーズの高まりを受け、まず2017年10月から賃貸取引においてITを活用した重要事項説明(以下、IT重説)の運用が本格的に始まりました。

遠隔地に住む顧客もオンラインでの重要事項説明を受けることが可能に
その後、不動産売買取引においてもIT重説へのニーズが高まり、2019年に社会実験が開始され、2021年3月から本格運用が行われるようになりました(参考:「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドライン概要|国土交通省」)。
なお、不動産売買契約書の電子化について詳しく知りたい方は下記記事もご一読ください。
デジタル改革関連法によりさらに進んだオンライン化
不動産取引におけるオンライン化の流れは、法制度の整備によってさらに進みました。
2021年5月には、デジタル改革関連法が衆議院本会議で可決・成立しました。この法令に含まれる「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」においては、不動産取引における書面化義務や押印義務が見直されることとなりました。
宅建業法改正による電子契約の全面解禁と今後の展望
デジタル改革関連法の施行を受け、2022年5月に宅建業法が改正されました。この改正により、宅建士による記名・押印が必要だった重要事項説明書や契約締結後の書面において押印が不要となりました。
また、この改正により重要事項説明書、契約締結後の書面、媒介契約締結時の書面などの各種書類は電子ファイルで提供できるようになり、不動産業界において電子契約の利用が全面的に解禁されました。
なお、前述の通り、事業用定期借地に関する契約、企業担保権の設定または変更を目的とする契約、任意後見契約については、公正証書での契約が義務付けられているため、現時点では電子契約では締結できない点に注意が必要です。

電子契約で締結できない種類の契約書も一部存在する
なお、規制改革実施計画(令和3年6月18日閣議決定)では、公正証書の作成に係る一連の手続きのデジタル化について触れられており、2025年度の施行を目指しているとされています(参考:「論点に対する回答|内閣府」)。
電子契約できない契約の種類を確認したい方は下記記事もご一読ください。
不動産業界で電子契約を導入するメリット
不動産業界において電子契約を導入することは、業務効率化、コスト削減、顧客体験向上、コンプライアンス強化という多岐に渡るメリットをもたらします。ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
業務効率化につながる
不動産業界では、契約書の作成、重要事項説明書の準備、契約締結手続き、そして契約後の書類保管など、多くの業務で紙の書類が使用されています。電子契約を導入することで、これらの業務をオンライン化できるようになるため、大幅な効率化を期待できます。
例えば、従来の賃貸契約の場合、不動産業者と入居者との間で書類の郵送や返送のやり取りが必要でしたが、電子契約の導入によりこれらの事務作業が不要になり、オンラインで書類のやり取りが済むようになるため、発送から契約締結までにかかる時間も短縮できます。

紙書類で発生していた記入・捺印・郵送作業も電子契約を導入すれば不要に
さらに、書類の検索や管理も容易になります。紙の書類の場合、保管場所の確保や書類を探す手間がかかりますが、電子データであればクラウド上で一元管理でき、必要な時にすぐにアクセスできます。
不動産業においては、顧客からの問い合わせ対応のために過去の契約書を参照する場面も発生します。契約書管理を効率化し、日頃から書類を探しやすくしておくことで、急な問い合わせにも対応しやすくなるでしょう。
コストを削減できる
従来の紙の書面による契約の締結には、印紙代、郵送代、印刷費、さらにはそれらの作業にかかる人件費や、書類の保管費(法人税法上、紙の契約書は7年間の保存義務)といった様々なコストが発生します。
電子契約を導入することで、オンライン上で契約書類を受け渡し・契約締結でき、そのままファイルとしてクラウド上に保管できるので、郵送費はもちろん、印刷費、物理的な保管スペース確保の費用などが不要になります。
【紙の契約書と電子契約のコストイメージ】
例えば、賃貸契約の場合、契約書や重要事項説明書などの書類を印刷・製本する手間も省けるため、印刷代や人件費も削減できるでしょう。
また、紙の契約書には印紙税がかかる場合がありますが、電子契約にすることで印紙税が不要になります。電子契約を利用することで印紙税が不課税となる点については、税務当局の見解や国会答弁でも確認されているためです(参考:「電子契約で収入印紙が不要になるのはなぜか?」)。
具体的には、不動産売買契約書や土地賃貸借契約書など、不動産業で印紙税の課税対象となる契約書も電子契約を導入することで印紙税が不要となります。
顧客体験が向上する
電子契約の導入は、顧客体験の向上に大きく貢献します。従来、不動産取引では入居者の来店・対面手続きが必須でしたが、電子契約によりオンラインで契約手続きを完結できるようになります。遠方に住む顧客や忙しい顧客にとっては、移動時間や待ち時間を削減でき、大きなメリットとなります。
また、スマートフォンやタブレットからいつでも契約内容を確認できるため、利便性が向上します。契約書類を紛失する心配もなくなり、必要な時にすぐにアクセスできます。さらに、契約手続きの進捗状況をオンラインで確認できるため、顧客は安心して契約を進めることができます。
電子契約は、顧客にとって時間や場所の制約を受けずに契約手続きを進められるという点で、非常に利便性が高い手段です。これにより、顧客満足度を高め、よりスムーズな取引を実現することができるでしょう。
コンプライアンス強化につながる
電子契約サービスには、タイムスタンプ機能や電子署名機能が搭載されており、契約の証拠力を高めることができます。これにより、契約内容の改ざんや不正行為を防止し、コンプライアンスを強化することができます。
また、契約書の保管状況を可視化できるため、内部統制の強化にもつながります。不動産業界では、契約内容の正確性や証拠能力が非常に重要となるため、電子契約の導入はコンプライアンス強化に大きく貢献します。
例えば、重要事項説明書や契約書の改ざんを防止し、顧客とのトラブルを未然に防ぐことができます。また、契約書の保管状況を記録することで、監査対応もスムーズに行えます。
不動産業における電子契約成功事例
当社の提供する電子契約サービス「クラウドサイン」を例に、不動産業で実際に電子契約を導入した企業の成功事例をご紹介します。製造業におけるDX化、ペーパーレス化をご検討の方は、ぜひ自社で電子契約サービスを導入する際の参考にしてみてください。
IT重説と組み合わせて顧客第一の不動産売買を実践(株式会社不動産流通システム)

株式会社不動産流通システム 深谷十三様、坂口誠二様、菅野洋充様、2022年
株式会社不動産流通システムは、デジタル化・DXによるコスト削減を図るために電子契約を導入しました。
同社では、主に以下の書類の締結業務で電子契約サービス「クラウドサイン」を活用しています。
- 対法人の取引に関する契約(管理部)
- 媒介契約(営業部)
- 不動産売買契約(お客様のご要望に応じて)
- 重要事項説明書(お客様がIT重説を選択された場合)
クラウドサイン導入により得られた主な効果は次の通りです。
- IT重説と組み合わせることで、契約締結にかかる費用や時間、労力を大幅に削減
- 電子化によるコスト削減への注力が、顧客からの印象向上に貢献
「当社は不動産売買の仲介手数料をかなり安く設定しています。それを維持するためには、業務において省けるところはどんどん省いていかないとなりません。そのための一番最初に取り組みやすいところが業務の電子化でした。」(深谷様)
▼株式会社不動産流通システムの詳しいインタビュー内容はこちら
電子契約が安価で高品質なサービスを支える。IT重説と組み合わせて顧客第一の不動産売買を実践。
電子契約で時代に合った顧客体験の実現へ(日神不動産株式会社)

日神不動産株式会社 総務部 総務課、2022年
日神不動産株式会社は、IT化の推進により顧客からの信頼性を高めるために、電子契約を導入しました。
同社では、主に以下の書類の締結業務で電子契約サービス「クラウドサイン」を活用しています。
- 一般のお客様とのマンション販売における売買契約
- 土地の仕入れや建築などを手がける開発事業部での契約
- マンション建設にあたって必要になる手続書類
また、将来的には重要事項説明書面、取締役会議事録、労務関係の契約書などへの活用も検討しています。
クラウドサイン導入により得られた主な効果は次の通りです。
- 年間400~500万円ほどかかっていた印紙費用がゼロに
- 契約締結のスピードが向上し、お客様を待たせないスムーズな契約を実現
「クラウドサイン導入前は「不動産のような大きな買い物は、紙契約がいいと考えるお客様が多いのではないか」と思っていたのですが、実際のところお客様はそうは全く思っておらず、「紙契約がいい」というのは完全に社内や業界の固定観念だったのだと思わされましたね。」(日神不動産株式会社 総務部 総務課 ご担当者様)
▼日神不動産株式会社の詳しいインタビュー内容はこちら
お客様はIT化が遅れた不動産会社を選ばない。電子契約で時代に合った顧客体験の実現へ。
不動産業の業務効率化を推進するなら電子契約サービスの検討を
2022年の宅建業法改正により、不動産取引関連の契約書類は一部書類を除いてほぼ全面的に電子化できるようになり、今後は公正証書の作成に係る手続きのデジタル化も予定されています。
電子契約サービスを導入することで、契約業務のオンライン化、書類管理の効率化、印紙税や郵送費などのコスト削減が実現可能です。また、顧客は時間や場所の制約を受けずに契約手続きを進められるため、顧客満足度の向上にもつながります。
不動産業の業務効率化を推進し、顧客に新しい契約体験を提供するためにも、電子契約サービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
クラウドサインは導入社数250万社以上、累計送信件数1000万件超の実績を持つ電子契約サービスです。不動産業において「どのように導入するのが良いかわからない」「社内で承認を得るためにどうしたらいいかわからない」といった導入時によくいただくお悩みを解決するサポートも充実しています。
なお、クラウドサインでは契約書の電子化を検討している方に向けた資料「電子契約の始め方完全ガイド」も用意しています。電子契約を社内導入するための手順やよくある質問をまとめていますので、電子契約サービスの導入を検討している方は以下のリンクからダウンロードしてご活用ください。
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