電子契約の運用ノウハウ

建設業界の2024年問題とは?背景とDXによる業務効率化の方法をわかりやすく解説

建設業界では既に話題となっている通り、労働環境や労働条件の改革を進めるために施行された「働き方改革関連法」の適用がいよいよ2024年4月1日から施行開始されます。

建設業における長時間労働が問題視されている中で、新たな法規制に対応するには、労働環境の抜本的な変革が必要となります。従業員の働き方や労務管理のあり方を見直したいが、どこからはじめたらよいか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

当記事では、法規制の要点解説や、労務管理や業務見直しの方法を解説しますので、建設業界におけるいわゆる「2024年問題」への対応を検討している方は参考にしてみてください。

※当記事は昨年2023年に実施した、匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生先生によるセミナーの内容を再編集し、記事化したものです(本記事冒頭から見出し「DXとの親和性が高い建設・住宅業界」まで)。

働き方改革関連法とは?

建設業の残業上限規制の解説に入る前に、改めて「働き方改革関連法」がどのような法案なのかの概要をおさえておきましょう。

働き方改革関連法は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革を行うための法案です。法案の全体像としては、以下の8つのポイントが厚生労働省の資料に示されています。

【「働き方改革関連法」の全体像】 

「働き方改革関連法」のポイント 概要
時間外労働の上限規制を導入 時間外労働の上限について月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合にも上限を設定する
年次有給休暇の確実な取得 使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について確実に取得させなければならない
中小企業の月60時間時超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ 月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を50%に引き上げ
「フレックスタイム制」の拡充 より働きやすくするため、制度を拡充。労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を3か月まで延長可能に
「高度プロフェッショナル制度」を創設 職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が高度の専門的知識等を必要とする業務に従事する場合に健康確保措置や本人同意、労使委員会決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外可能に
産業医・産業保健機能の強化 終業時刻から次の始業時刻の間、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)の確保に努めなければならない
正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止 同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な差を設けることが禁止に

※「働き方改革関連法に関するハンドブック」を元に作成

このように、「働き方改革関連法」はさまざまな観点から多様な働き方ができるようになる取り組みが進められています。

建設業界においては、働き方改革関連法の主要政策である残業時間の上限規制が2024年4月1日からスタートします。改正労働基準法自体は、既に2019年4月より順次施行されていますが、建設業界や自動車運転の業務等に関しては5年間の猶予期間が与えられています。

建設業における残業時間の上限規制については次項で確認しておきましょう。

時間外労働の割増賃金率引き上げと上限規制

2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられ、中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%になりました。

※画像の出典:月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省

月60時間超の時間外労働について、2023年3月31日までは25%だったところ、4月1日から50%に引き上げられたため、知らず知らずのうちに中小企業の経営者の方々の労務管理コストが上がっていることが考えられるでしょう。

また、2024年4月から建設業において時間外労働の上限規制が開始されます。従来、1日8時間・1週間で40時間を超える「時間外労働」や「休日労働」をさせる場合には「36協定」を労使間で締結し、労働基準監督署へ届出をすれば、残業に上限はなく、従業員に働いてもらう事が可能でした。今回の法改正を受けて、建設業にも時間外労働の上限が法律で明確に規定されることとなります。

具体的には、原則として時間外労働は月45時間かつ年360時間が上限となります。臨時的で特別な事情がある場合の「特別条項付き36協定」でも、これまでのルールとは異なり「2〜6か月の平均でいずれも80時間以内」「単月では100時間未満」といった細かな上限規制が設けられます。

上記残業規制に違反した場合には、労働基準法違反として罰則(6か月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金)のリスクがあるため、建設業を営む会社は残業規制に適合した働き方改革を実践していかなければなりません。2024年4月までに社内の労働基準法に関するコンプライアンスを高める必要性があるでしょう。

働き方改革を促進するための建設業法改正

働き方改革の促進については、労働基準法周りだけでなく建設業法改正もおさえておきましょう。2020年10月1日施行の改正建設業法は、主に次の3つの観点から改正されました。

【2020年10月1日施行の改正建設業法のポイント】
①建設業の働き方改革の促進
②建設現場の生産性の向上
③持続可能な事業環境の確保

ここでは、とくに今回のメインの取り組みとなっている①の「建設業の働き方改革の促進」に対応する規制・変更の例をみていきましょう。

著しく短い工期による請負契約の締結を禁止する

まず、「建設業の働き方改革の促進」に対する規制の例として「注文者に、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止する」という点が挙げられます。これは、元請け業者が下請け業者に対して突貫工事を依頼することによる労働者の残業時間の増加を防ぐために、著しく短い工期で作業を発注することができないようにするものです。

この規制を違反すると、請負代金が500万円(建築一式工事では1500万円)以上である場合 (施行令5条の8)、注文者は著しく短い工期による請負契約を締結したときに、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)から勧告を受けることになります(建設業法19条の6第2項)。

勧告に従わない場合は、企業名を公表されるペナルティも課せられることになるため(同条3項)、下請け業者への発注の際には留意しておきましょう。

請負契約書面の記載事項に対する変更

次に、請負契約の書面の記載事項に「工事を施行しない日・時間帯」の定めが追加された点も挙げられます。この変更により、例えば土日祝日が休みなら、請負契約の書面に下記のような内容を記載する必要があります。

【「工事を施行しない日・時間帯」の定めの記載例】

(工事を施工しない日・時間帯)
受注者は、以下の日時は本工事を施工しないものとする。
(1)土曜日
(2)日曜日
(3)年末年始(12月31日から1月4日まで)
(4)国民の祝日に関する法律に定める休日
(5)国民の祝日が日曜日にあたるときはその翌日

上記のように工事を施行しない日・時間帯を契約内容として定めることで、それを超える時間帯の工事は契約違反となるため、建設業における労働者の働き方改革の促進に繋がることが期待できるでしょう。

建設業において電子契約が注目された背景

2020年10月1日の改正建設業法に合わせ、国土交通省は建設工事における電子契約の技術的基準の要件として「原本性の確保」「見読性の確保」に加えて「本人性の確保」を追加しました。電子契約における「本人性の確保」とは、当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていることを指しています。

この対応により、クラウドサインをはじめとするいわゆる「事業者署名型」電子契約の利用が建設業でも認められるようになり、効率的な働き方を促進するためのDX導入が経営課題となっている建設業界において、電子契約が働き方改革促進に資すると注目されるようになりました。

また、建設業のなかでもとくに住宅業界では見積もりから請求までの期間をいかに節約し工期を短縮できるかが重要な課題となってきています。電子契約の導入により契約業務を効率化し、従来の紙の書面による手続きでかかっていたリードタイムを短くすることで、タイムロスを防ぐことも期待できるでしょう。

書面契約から電子契約に移行するメリット

書面契約から電子契約に移行するメリットとして、まず物理的な保管スペースが不要となることが挙げられます。古い契約書を探すために遠くの保管先倉庫まで出向き、目視で必要な契約書を探すといった手間を節約できます。

また、買主名や契約締結日等ですべての文書を検索することが可能になり、管理コストも削減可能です。「○○年にA社と結んだ契約書の第○条を確認したい」といった際にも検索することで瞬時に契約書を探すことができるようになります。

建設業界における電子契約の活用例

ここからは建設業界における電子契約の活用例として、次の2点を紹介します。電子契約を導入することでどのような効果があるのかを確認しておきましょう。

  • 工事請負契約書の電子化
  • 追加・変更契約の電子化

なお、ここで詳しく紹介する活用例以外にも、電子契約で合理化できる書面は竣工確認立会書や引き渡し確認書、秘密保持誓約書など複数挙げられます。実際の業務においてどの書面を電子化したいかもあわせて検討しておくとよいでしょう。

工事請負契約書の電子化

工事請負契約書を電子化することで、従来の紙による契約で発生していた印紙代が不要になるため、販管費を節約できます。建設業における電子契約導入の効果を考える上で、印紙代の節約というメリットは無視できないポイントになるでしょう。

追加・変更契約の電子化

建設業のなかでも、工務店業界は追加料金を貰い損ねるという未回収トラブルが多い傾向があります。発注内容の追加や変更が急に発生することで、発注業者との料金交渉に時間がかかったり、交渉がうまくいかなかったりといった不測の自体が起こるためです。

このような未回収リスクを低減するためには、追加工事の料金の費用回収をいかにスムーズに行うかも重要なポイントです。

【追加・変更契約の電子化の流れ】
追加・変更契約を電子化する際は「事務所に帰ったらすぐに見積もりを修正し電子契約で受発注を行う」という上図のような流れを運用に組み込むことで、事務所に帰ってからの時間を短縮・効率化し、現場の利益を確保することが可能になります。

DXとの親和性が高い建設・住宅業界

建設業界や住宅業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)と非常に親和性の高い業界です。

たとえば、これまでの住宅業界はモデルルームでの対面接客のため土日勤務が一般的でしたが、DX化によりオンラインでも物件見学が可能になります。具体的には、住宅展示場を全て無人にし、質問したい場合はテレビモニターで話しかけてもらい、担当者が遠隔で接客することにすれば、住宅業界でも土日に定休を設けることも不可能ではありません。

また、不動産業界においては入居時の重要書類や解約手続きの説明書など紙のやりとりは全て電子化することが可能なため、これまでの業務手順を見直すことで、より効率化を進めることができるようになるでしょう。

ただし、DXによるオンライン化を進めるに当たって、ひとつ注意点があります。それは、取り組み内容によっては個人情報保護法への対策が必要になる場合があることです。

賃貸借契約・売買契約ともに、本人確認書類、年収にかかる情報等、秘密性の高い情報を取り扱うことが多いため、オンライン化に取り組むにあたっては、個人情報保護の体制を改めて確認する必要があります。社内における個人情報保護法への教育体制を改めて理解し、必要に応じて見直すようにしましょう。

建設業における業務効率化ならクラウドサイン

建設業における業務効率化の手段としては基幹システムや会計システムの入れ替えなどさまざまな方法が考えられる一方、これらのシステムは導入までのハードルが高く、利用開始までの時間も一定かかってしまう傾向があります。

そこで、最初に取り組む業務効率化の方法としておすすめなのがクラウド型の電子契約サービスです。当社の提供する電子契約サービス「クラウドサイン」もクラウド型の電子契約サービスとしてこれまでに250万社以上の導入実績があり、建設業界の企業様にも導入いただいております。

当社ではクラウドサインの機能や料金をコンパクトにまとめた「クラウドサイン サービス説明資料」をご用意しています。クラウドサインを導入するメリットや導入までの流れ、お客様の声などクラウドサインの導入検討するために知っておきたい情報を網羅的に解説していますので、クラウドサインのサービスの詳細について知りたい方は、下記リンクからご入手ください。

「クラウドサイン サービス説明資料」
無料ダウンロード
無料ダウンロード無料ダウンロード

クラウドサインではこれから電子契約サービスを検討する方に向けた「クラウドサイン サービス説明資料」をご用意しました。クラウドサインの特徴や使い方を詳しく解説していますので、ダウンロードしてご活用ください。

ダウンロードする(無料)

監修者紹介

弁護士法人匠総合法律事務所
弁護士  秋野 卓生(あきの たくお)

弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任 (担当科目:法学演習(民法))。
管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの 執筆・著書を手掛ける。一般社団法人住宅生産団体連合会 消費者制度部会コンサルタント。

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。