法務が導入すべきテクノロジー3プラス1選
電子契約以外にも、法務業務を支援するテクノロジーがたくさんあります。この記事では、小規模な法務部門であっても導入を検討すべきテクノロジーを取り上げます。
法務が直面する課題とその解決を支援する3つのリーガルテック
電子契約以外にもたくさん存在するリーガルテック。法務が優先して導入すべきテクノロジーとして、電子契約以外にはどのようなものがあるでしょうか?
ここでは、どの規模の法務でも直面しているであろう課題と、その解決を支援するテクノロジーのうち、規模にかかわらず導入すべきものをいくつか取り上げてみたいと思います。
その1—チームでのナレッジ共有を可能にする案件管理システム
筆者は、法務部門で最も重要な財産は、過去の経験 だと信じています。
もちろん、未知の事案に対応するのも法務の腕の見せ所です。そはいえ、過去の経験が前提やヒントになることは多いですし、担当者によるブレがないこと(法的安定性の確保)は、法務の信頼にかかわります。
こうした場面では、過去にどのような案件に対応してきたかがすぐにわかる仕組みが求められます。しかし、相談がメールでやってくることもあってか、経験が担当者個人にだけ溜まっていくケースもまだ多いようです。
- ある企業と過去に締結した契約書や生じたトラブルにどんなものがあるか
- なぜ不都合な条項を受け入れることになってしまったのか
- 同じような相談を受けたことがあるが、そのときはどう回答したか、それはなぜか
このような情報にいつでもどこからでもアクセスできることが、法務業務の質や信頼の生命線だと考えます。さらに重要なことは、これらが 誰かのPCや頭の中ではなく、チームの共有財産になっていること です。この課題の解決を支援するテクノロジーに案件管理システムがあり、これを優先して導入すべきでしょう。
筆者の所属先では、現時点では法務内でしかこのシステムを利用していませんが、選定に当たっては次の点を考慮しました。
- 汎用性(契約書審査や法務相談以外の案件も記録できること)
- 拡張性(将来、全社的な利用も可能なこと)
- 可搬性(記録を外部に移せる、やめられること)
- 価格
結果、導入したものは案件管理には申し分なく、キーワードを打ち込めばすぐに過去事例を検索・閲覧でき、配属まもないメンバーにも共有できるようになりました。導入前はExcelで受付簿をつけていたのですが、システムに登録できる項目が柔軟なこともあり、検索のスピードと精度が格段に向上しました。メンバー全員がアカウントを持っても、年間50,000円程度から利用できるものを選びました。
その2—様々な法律文献へのアクセスを可能にする書籍検索・閲覧サービス
筆者は過去に大手法律事務所に勤めていたのですが、そこには立派な図書室があって、法律系雑誌や文献がずらりと揃っていました。もちろん、判例検索も複数のサービスを利用できます。
いかに大規模な法務部門でも、一般企業でこれほど揃えることは難しいでしょうが、小規模法務はさらに厳しいです。その上、働き方改革にコロナ禍と、なんとか調達した書籍さえ満足に参照できない状況になっています。
この状況に対応すべく、BUSINESS LAWYERS LIBRARY のように、いつでもどこからでも法律文献アクセスできるサービス が登場しています。筆者が以前にトライアル利用した際はまだ利用可能な文献が少なく、コロナ禍前ということもあって「買って書棚に入れたほうがリーズナブル」と導入を見送りました。
しかし、最近は文献が充実してきていますし、何よりテレワークでも効率的に文献にアクセスできるよう、次に導入するリーガルテックはこれにしようと考えています。
類似サービスで悩ましいのは判例検索サービスです。できることなら導入したいのですが、小規模な法務では、利用頻度と利用料のバランスを考えるとためらわれるかもしれません。
その3—契約審査の抜け漏れを防ぐAI契約レビュー支援サービス
法務部門の中心的な業務は、やはりいまだに契約書審査ではないでしょうか。筆者の所属先でも、業務時間の約4分の1が契約書審査に充てられています。
「契約書審査の抜け漏れチェックにかける時間を減らしたい」という課題を抱えている法務は多く、このような課題を解決するのがAI契約レビュー支援サービス です。
ただし、AI契約レビュー支援サービスは、弁護士法により禁止される「鑑定」業務に当たらないよう、あくまで契約書審査を「支援」する機能に限定されています(関連記事:リーガルテックと弁護士法)。
そのため、日本では、法務部員のマンパワーを完全代替するものとはなり得ず、最終的にどう修正するかは人の判断に委ねられ、自社の基準を持っていないと有効に活用できないことも肝に銘じておく必要があります。
プラス1—AI翻訳サービスで自由に使える時間を創出
ここでプラスアルファとして、筆者がぜひお勧めしておきたいテクノロジーは、AI翻訳サービスです。
筆者の所属先は国内取引がほとんどということもあり英語が得意な従業員が少ない一方、英文和訳の依頼は時々あります。その中には、プレゼンテーション資料など「内容が大体わかればいい」文書の翻訳依頼も少なくありません。
ある程度英文の読み書きができても、法律用語を含む文書の和訳作業にはそれなりの処理時間が必要です。「内容が大体わかればいい」「クリティカルなリスクは産まない」業務に、法務部員のマンパワーを何時間も費やすのはもったいないというのが正直な気持ちです。この問題を解決するのがAI翻訳 です。
精度に完全に満足しているわけではありませんが、人力で対応した場合には1日では終わらないボリュームも、一瞬で完了します。時間ばかりかかっていた翻訳業務が省力化されることで生まれた余剰時間を、他の業務の生産性向上のために充てることができるようにもなります。
小規模法務におけるリーガルテック導入と予算問題
法務業務で直面する3つの課題の解決を支援する4つのテクノロジーを取り上げました。
ところで、多くの会社の法務部門は、人数も予算も最小限で回していらっしゃることと思います。筆者も状況は同様であり、リーガルテックは「予算に余裕がある大規模な法務のためのもの」と感じていました。
しかし、考えてみればどの企業も法務業務は増加傾向のはずです。働き方の変革も迫られており、規模にかかわらずテクノロジーの支援が求められています。
ひとり何役もこなす小規模法務
企業の法務部門の団体である 経営法友会では、メンバーが5名未満である法務部門を「小規模法務」と捉えています。私はこの人数基準に加え、以下を2つ以上満たす法務部門も「小規模法務」と呼んで差し支えないのでは、と考えます。
- 部門が独立していないか、独立していても他部門と格が違う(「部」でなく「室」など)
- 法務部門内の組織がひとつでチームが細分化されていない
- 所属メンバー間で明確な役割分担がないか、一人で複数の役割を担っている
- 知財管理やリスクマネジメントなど、他企業なら法務以外の部門が担うような業務も受け持っている
筆者の所属先は、法務業務を担うグループ企業の従業員総数と比較すると、法務人員は0.1%余りです。経営法友会の定義および上記4つの要件もすべて満たし、れっきとした小規模法務と言えます。
小規模法務でもテクノロジーの導入は待ったなし
規模の大小にかかわらず、法務部門はどこも忙しいと聞きますが、なかでも 小規模法務は限られたリソースで広く深い業務をこなさなければなりません。
法務部門が小規模ということは、社内プレゼンスもまだまだ低いということで、当然、投資ともいえるテクノロジーの導入は遅れがちです。しかし、変化の激しい時代を生き抜かなければならず、さらにコンプライアンスや権利意識の高まりもあって、法務業務の量は増え、難易度も高くなってきました。そこにきて働き方の変革まで求められ、これまでのやり方のままでは対応できなくなってきています。
筆者もまさにそうで、この数年、これを打破するためにいくつかのテクノロジーを試してきました。
リーガルテック導入予算確保のコツ
小規模法務では、往々にして自由に使える予算も少ないのが悩みの種です。テクノロジーを導入したからといって人を減らすことは難しく、大規模法務のように目に見える効果を出すのは難しいからです。
これを乗り越えるためには、「法務の予算にしない」ことがコツ です。
王道は、情報システム部門を巻き込むことでしょう(関連記事:リーガルテック投資のための予算を確保する方法)。筆者が案件管理システムを導入できたのも、グループ再編があり、情報システム部門の予算にのせてもらうことができたためでした。
もうひとつは、負担費用を依頼部門に振り替えやすい料金体系のサービスを選ぶことです。従前からあるサービスであれば信用調査や登記情報サービス、新しいテクノロジーならAI翻訳などは、1件当たり●円という料金設定のものを利用し、費用を依頼部門に振り替えるのです。そして、サービスの利用を既成事実化し、必要だと共通認識できれば法務部門に予算をスライドさせます。
小規模法務こその強みーテクノロジーをすぐにスタンダード化できる
大規模な法務部門でテクノロジーを導入すると、必ずしも全員が利用しないことがあります。テクノロジーは、全員が利用して情報が蓄積されるからこそ価値があり、使わない人がいるのは非常にもったいないことです。
この点、小規模法務は、採用したテクノロジーをすぐに業務のスタンダードにできてしまうという強み があります。筆者の場合も、案件管理システムには法務が受けた依頼がすべて詰まっており、このシステムがある限り、メンバーに異動があっても記録が残ります。
テクノロジーを活用し、経験の蓄積と活用をはかって法務の力の源泉にな最大限活用することが重要です。
(文・イラスト:いとう)
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