ソフトバンクの通信障害と利用規約(契約約款)上の責任制限
ソフトバンク社の携帯電話通信網で大規模な障害が発生し、平日の日中に数時間通信ができなくなるという事態に。利用規約上、ユーザーに対する損害賠償責任はどうなっているのか、確認をしてみました。
4時間半にわたる大規模な通信障害が発生
ソフトバンク社が提供する携帯電話通信網において、12月6日午後1時39分ごろから午後6時過ぎまで、約4時間半にわたり不通状態となる大規模障害が発生しました。私のスマートフォン回線も繋がらなくなり、やむなくサブ機のドコモ回線で通信を代替せざるを得なくなりました。平日日中の出来事であったため、ビジネス影響もかなり大きかったことと思います。
電気通信事業法施行規則58条の定義によれば、緊急通報を取り扱う音声伝送役務の場合、1時間以上かつ3万人以上の利用者に影響を与える電気通信役務の全部又は一部の障害は「重大事故」と位置付けられています。
ソフトバンク社の発表によれば、東京センターおよび大阪センターに配置されたエリクソン社製パケット交換機全台で、ソフトウエアに異常が発生したとのこと。エリクソン社の発表では、
An initial root cause analysis indicates that the main issue was an expired certificate in the software versions installed with these customers.
と、交換機のソフトウェアの電子証明書の有効期限が切れたことが根本原因であった、との説明がなされています。
ソフトバンクの利用規約(契約約款)に定められた責任制限条項
さて、このような重大事故が発生した場合の損害賠償責任について、利用規約上はどのように規定されているのでしょうか。ソフトバンク社の利用規約(契約約款)を見てみましょう。
第11章 第51条(責任の制限)を読むと、
- 通信サービス等が全く利用できない状態にあることをソフトバンク社が認知した時刻から起算して24時間以上その状態が連続したときに限り、当該契約者の損害を賠償
- その賠償額は、24時間ごとに日数を計算し、その日数に対応した基本料金・過去6ヶ月平均した1日あたりの通信料を損害とみなす
とあります。つまり、1日単位でカウントしたそのユーザーのふだんの利用料相当額をみなし損害として金銭賠償する規定になっており、それ以上の損害、たとえば通信ができなかったことで発生したユーザーの逸失利益等は、これらの責任制限規定により事実上ほとんどが免責される こととなります。
1984年に発生した世田谷ケーブル火災事件では、電話回線が最長10日間不通となりました。地元商店街の店舗らが原告となり、当時の電電公社に対して電話が通じないことによる営業損害等を訴え、上記同様の責任制限の有効性が争われましたが、現在の電気通信事業法および契約約款にあたる「公衆電気通信法」が損害賠償額を制限しているのは合理的であるとされ(東京高裁平2・7・12)、一般的には有効と考えられています。
交換機ソフトウェアの電子証明書の期限管理漏れは「重大な過失」に当たらないか?
しかし、今回のケースで問題となる可能性があるのが、第4項にある「当社の故意または重大な過失により通信サービス等の提供をしなかったときは、前3項の規定は適用しない」という規定の存在です。故意ということではなかったにせよ、「重大な過失」で通信がとまった場合は、さきほど見た1〜3項の責任制限規定は適用されず、民法上の債務不履行責任にもとづく損害賠償責任をソフトバンク社が負う ことになります。
発表によれば、今回の重大障害は、通信を支える交換機ソフトウェアの電子証明書の期限管理がなされていなかったという過失が原因となっています。この電子証明書の期限管理は誰が行うべきで、どの程度の注意義務をもって管理されるべきものだったのか。この点が今後の論点となるのではないかと考えます。
電子証明書の期限は、その証明書にアクセスすることで確認ができます。サーバーエンジニアであれば、利用するソフトウェアの電子証明書の期限は相当の注意を払って管理をしているというのが一般的だと思います。今回のような、通信の根幹を支える交換機の電子証明書ともなれば、同社が誰もその存在を知らなかったということはないようにも思われます。
現状ではエリクソン社が全面謝罪をしているわけですが、果たして、この電子証明書の期限管理漏れという過失は、ソフトバンクにとっての「重大な過失」にあたらないのか? 総務省からもこの点が詳しくヒアリングされることは間違いがないと思いますが、ユーザーとの法的な論点ともなっていく可能性もありそうです。
(橋詰)
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