英文契約を電子契約で締結する際の注意点を解説 外国企業・外資系企業と契約締結する際の実務とは
英語で書かれた契約書と日本語の契約書には、どのような違いがあるのでしょうか。また作成するにはどのような点に注意すべきでしょうか。本記事では、英文契約書の電子契約化に関する実務とともに、外国企業・外資系企業との英文契約書締結時の注意点について解説します。
英語での契約締結と英文契約書
米国法人や中国法人などの外国企業や外資系企業と取引する上で、避けて通れないのが英語での契約書の作成です。グローバル化が進む近年では、大企業だけではなくオフショア開発や外国人の雇用を導入する中小企業も目立ち始め、さまざまな契約書を英文で交わす場面が増えています。
外国企業とビジネスをする際は、日本の企業との取引と同様に、業務委託契約書や秘密保持契約書(NDA)などを作成します。その目的や内容は日本語の契約書と同じものでも、形式や書き方が異なる部分も多いため、日本の契約書作成に慣れた人でも戸惑った経験があるのではないでしょうか。
英文契約書の特徴・日本語による契約との違い
英語で書かれた契約書と日本語の契約書には、どのような違いがあるのか。以下、4つの違いに注目してまとめました。
(1)言語・専門用語の違い
日本語の契約書でも法律用語や独特の表現が用いられるように、英語の契約書では専門的な法律用語や特有の言い回しが使われることが多々あります。英文契約について意識的に学習しかつ読み慣れていなければ、その内容を正しく理解するのは難しいでしょう。
(2)準拠法・裁判管轄の違い
英文契約書で外国企業や外資系企業と契約を締結しようとした場合、交渉上の衝突がおきやすいのが、
- その契約書の解釈のベースとなる準拠法
- いざ紛争となった場合に訴訟を提起する裁判所の管轄
この準拠法と裁判管轄という2つのルールについて、日本法・日本の裁判所は言語等の障壁から外国企業に受け入れられないことが多く、英語圏の準拠法・裁判管轄が選ばれやすい傾向があります。
基本的には、その取引におけるバーゲニングパワー(取引上の立場の優位性)によってこれが決定されることになります。
(3)契約文化・商慣習の違い
多くの日本語の契約書には協議事項の記載があり、疑義が生じた場合は協議の上解決するとした上で、紛争を避ける姿勢があることを示します。
一方、英語の契約書では、想定しうる誤解や紛争を避けるために、事前に取引の条件をできるだけ詳細に定めようとします。言い換えれば、日本の契約は信頼できる相手と取引をすることを前提とした内容であることに対し、英語の契約は信用できない相手も契約内容で縛ることができるようになっています。
日本では口頭や意思表示で成立する契約も、英米法では口頭証拠排除原則を踏まえ、完全合意条項を記載することが多く、これにより契約書に明記された以外の場所や手段で異なる合意の証拠があっても、契約書の内容が最優先で保証される仕組みになっています。
英語の契約文化は「契約書に書かれていることが全て」であるため、ページ数や文字数が多くなる点も特徴と言えます。
(4)文書構成・締結形式の違い
日本語と英語の契約書の違いは、文書の構成や締結形式の違いにも表れます。
英語では、契約を交わす日付を条項よりも前に記載し、次に定義条項が続き、文書内で使われる用語がどのような意味を持つかを細かく明示した上で取引の内容を記していきます。
また、署名(サイン)のみで調印する点も、形式面での大きな違いです。押印で契約を締結することがほとんどである日本企業の経営者からすると、自分の直筆サインを書くことに抵抗がある方もいます。
なお、近年のグローバル取引における契約締結シーンでは、署名(サイン)した契約書をスキャンしてPDF化し、それをメールで双方が送り合うことで直筆署名を交換したこととみなす実務が定着しています(関連記事:米国におけるクラウド型電子署名の有効性について—サウスゲイト法律事務所弁護士による米国電子署名判例の解説)。
英語で契約書を締結する際のトラブル事例と注意点
文化や形式の違いがこれだけあると、誤解でトラブルに発展する例もあります。最も気をつけたいのが、文言の解釈の違いによるトラブルです。取引の範囲を明確に記していたつもりが、表現が微妙だったために解釈の違いで契約違反を争われ、支払いが行われないこともあります。
管轄裁判所が外国に設定されている場合には、コスト面から争うことも諦めざるを得ず、泣き寝入りというケースもめずらしくないことから、後々こちらが不利になりそうな条件や表現がないか、日本語の契約書以上に精査した上で契約する必要があります。
特に、契約書のドラフトを相手側が作成した場合、相手側に有利になるような条件が書かれていることは多々あります。英語が苦手だからと読まずに契約したり、性善説で相手を信じて契約すると、後になって不利な条件だったと泣きをみることになります。
英文契約書のひな形を使う時のポイント
インターネット上には英文契約書のひな形やサンプルが公開されていることがあります。それらを参考にするのは構いませんが、利用する英文契約書ひな形がどの立場で作成されたものかを見極める必要があります。
契約書は起案した側にとって有利になるように作成されているため、自社と異なる立場を想定して作成された契約書ひな形をベースに作成してしまうと、自社に不利な契約書ができあがってしまいかねません。
日本語の契約書以上に、書かれていることについての解釈の争い、権利義務の帰属が厳しく問われます。したがって、ひな形だけに頼って作成するのではなく、取引相手と合意した準拠法や裁判管轄に鑑み、実務に詳しい現地の法律資格を有する弁護士等専門家に相談するのがセオリーです。
英文契約書で電子契約は利用可能か?
日本でもようやく普及し始めた電子契約ツールは、外国企業と英語で締結する契約書でも、もちろん利用可能です。むしろ、日本よりも海外のほうが、電子契約を積極的に利用する意向が強いといえます。
アドビ社による2021年2月の「電子サイン使用に関するグローバル調査」によれば、「パンデミックが収束したあとも、電子サインを使い続けますか?」の問いに対し、日本以外の地域では約80%が使い続けると回答しており、59.5%に止まった日本と比較すると、20ポイント以上高い結果となっています。
地理的距離が離れたグローバルな取引で用いる英文契約書だからこそ、電子契約を利用すべきでしょう。
海外での電子契約判例
海外では、電子契約の有効性が争われ、判例によって電子契約が訴訟上の証拠として有効である旨が確認されたケースがすでに多数存在します。
たとえば米国では、クラウド型電子署名を利用し、原告が契約を読んだことや同意したことを争った事例で、電子署名をもって法的拘束力が認められたものとして、Newton v. American Debt Services, Inc.などがあります。
クラウドサインでは、米国において電子契約の有効性を裏付ける法令や裁判例などについて詳しく知りたい方向けに、サウスゲイト法律事務所作成ホワイトペーパー「米国におけるクラウド型電子署名の有効性について」を、フォームからお申し込みいただいたお客様に無料で配布しています。
→「米国におけるクラウド型電子署名の有効性について」ダウンロード申込フォーム
英語に対応している電子契約ツール
契約書を英語で作成し、契約に定める準拠法に照らして専門家によるチェックを受けても、その英文契約書で電子契約をすぐ締結できるかというと、そうではありません。
- 電子契約システムから相手方に送信される通知メール
- クラウドへのアクセス方法の説明
- 電子契約サービス内のメニュー画面
- ユーザーガイド等
の電子契約システムのインターフェースすべてについて、契約相手方が理解できる言語に対応している必要があります。
たとえば、米国人や中国人が英文契約書を締結しようとアクセスした電子契約システムのメニューがすべて日本語で書かれていたら、、相手方は締結作業にとまどってしまい、そこで契約締結プロセスがスタックしてしまうのは、想像できると思います。
この点クラウドサインでは、システムから送信されるメールを英語または中国語(繁体字・簡体字)で送信したり、書類確認のガイダンスを英語で表示できるようになっています(クラウドサインヘルプページ:英語で書類送信、合意締結を行う)。これにより、英語でコミュニケーションを行う外国企業や外国人の方々とのスムーズな契約締結が可能です。
英文契約書にこそ電子契約の導入を
英語で契約書を交わす際、海外に文書を郵送すると時間もコストも膨れます。そんな場合こそ、電子署名で締結ができる電子契約が便利です。
クラウド型電子署名サービスを利用することで、契約書の締結にかかる煩雑な処理を大幅にカットし、本業のパフォーマンスに注力することができます。
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今すぐ相談この記事を書いたライター
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。