オンラインショップを開設する前に知っておくべき「電子契約法」
経済産業省の調査によると、2016年時点で国内のB2CのEコマース(消費者向け電子商取引)市場規模は15.1兆円。2010年から2016年までの6年間で約2倍近くにまで成長しています。
実店舗を持つ必要のないEコマースは、実店舗を構えた時に発生する維持コストを削減できるほか、場所や時間に依存しないため、全国の消費者をターゲットにすることができます。
また、24時間365日いつでも開店している状態にすることが可能となり、企業にとっては大きなメリットを持つと言えます。こういった世の中の流れに合わせ、これまでは実店舗のみでしか販売を行ってこなかった企業の中にも、オンラインショップの開設に乗り出した企業は多いのではないでしょうか。そんな企業のオンラインショップ開設の責任者に任命された方のために、「電子契約法」をわかりやすく解説いたします。
電子契約法とは
電子契約法の施行は、急速な拡大を見せるEコマースを誰もが安心して利用できるようにするために経済産業省が取り組んでいる対応策のひとつです。
もともと商取引には民法をはじめとする現行の法律が存在しますが、その多くはEコマースを前提としたものではありません。インターネット上で行われる商取引の増加に伴い、急増してきた問題に対応しきれない事例が多発するようになってきました。
電子契約法は、そういった問題の中でも、B2CのEコマースにおける「消費者」の保護などを目的として施行された法律です。
電子契約法には、以下の2つの内容が含まれています。
- 事業者・消費者間の電子消費者契約における消費者の操作ミスによる錯誤に関して、民法第95条の特例措置(第3条)
- 電子承諾通知に関して、民法第526条等の特例措置(第4条)
B2CのEコマースを運用している事業者側は、これらを理解し、「適切な措置」をとる必要があります。
電子商取引などにおける消費者の操作ミスの救済
まず、ひとつ目に挙げられている「事業者・消費者間の電子消費者契約における消費者の操作ミスによる錯誤に関して、民法第95条の特例措置(第3条)」ですが、これは簡単に言うと、インターネットなどのネットワーク上で行われる商取引において、事業者側が適切な措置をとっていない場合、消費者が操作ミスによって意図に反した申し込み(契約)をしてしまっても、それを無効にすることができる、というものです。
事業者側の適切な措置というのは、消費者がパソコンやスマートフォンなどから商品やサービスの申し込みをする際、申し込み内容の確認・訂正を行うことができる画面を用意することや、申し込みボタンを押すという行動がすなわち「購入(有料)である」ということを明確にすることを指します。
例えば、以下の流れでいうと、3、4の手順を踏める状態を事業者側が提供できていない場合は、消費者が誤って入力してしまった注文内容を確認・訂正する機会を与えなかったとして、注文を無効とすることが可能となってしまいます。
- オンラインショップで消費者が購入したい商品を選択し、購入画面へ行く
- 購入画面で、購入したい商品の注文数などを入力する
- 注文内容を確認するボタンを押す
- 注文内容を見て、誤りがないことを確認する
- 購入ボタンを押す
従来の民法でも、操作ミスによる「意図しない契約」は無効化することが可能とされていました。
しかし、その内容は、
「第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に 錯誤 があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」
というものであり、簡単に言うと、誤った操作で意図せぬ契約を行ってしまった場合、その契約は無効化することが可能ではあるが、操作を誤った側に重大な過失がある場合は無効を主張することができないということです。
つまり何が問題であったかというと、消費者側に「重大な過失」があったかどうかを巡るトラブルが発生してしまうことがあったということです。これが、電子契約法が施行されたことにより、事業者側が適切な措置を欠いていた場合は、契約の無効化が可能となりました。
電子消費者契約とは
「事業者・消費者間の 電子消費者契約 における消費者の操作ミスによる錯誤に関して、民法第95条の特例措置(第3条)」と条文にある通り、この法律は「電子消費者契約」の場で発生した問題に対するものであることがわかります。
では、「電子消費者契約」 とは何が含まれるものなのでしょうか。経済産業省の資料に記載されている情報によると、以下のような条件に該当する場合は「電子消費者契約」とされ、この法律の適用範囲内となります。
- B2C(事業者・消費者間の取引)であること
つまり、同じEコマース(インターネットなどのネットワークを介した商取引)でもネットオークションやオンラインフリーマーケットなどのような、C2C(消費者・消費者間の取引)は基本的には対象となりません。 - パソコンなどを用いて送信される消費者の申し込みであること
「パソコンなど」とは、内部にCPU(中央演算処理装置)を有している機器一般をいいます。従って、消費者が所有する機器であるかは関係なく、携帯電話やコンビニのチケットなどを発行する端末なども、画面上で契約の申し込みを行う場合は対象となります。 - 事業者が設定した申し込みフォームを利用して行う契約(申し込み)であること
消費者が申し込み内容を自由に記載して送信するような、メールによる申し込みなどは対象外となります。
出典:経済産業省商務情報政策局情報経済課
電子契約法について 〜電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律~ の施行に当たって
電子契約の成立時期の転換
次に、「電子承諾通知に関して、民法第526条等の特例措置(第4条)」について説明をしていきます。これは、電子契約(オンライン上で行う購入申し込みや契約)が成立するタイミングに関する法律です。
電子契約が、「何を行った時点で成立とみなすか」という点においては現行の民法でも定義されており、その内容は、「承諾の通知が発信された時点を契約の成立時点とするルール(発信主義)」となっています。
例えば、オンラインショップで商品を購入する際、消費者が「購入ボタンを押した瞬間」を契約の成立とみなすということです。特段問題がないように聞こえるかもしれませんが、この場合消費者は、事業者側から「注文を承諾した」という内容の連絡を受け取れていない状態でも契約は成立してしまっているというリスクを負わねばならない立場となります。
具体的なリスクの例としては、とある商品をオンラインショップで購入したが、注文を承諾する旨の連絡が届かず、商品も届かなかったので同じ商品を買い直したら、後日商品が2つ手元に届いた場合などが挙げられます。
こういったトラブルに対応するため、電子契約法では、契約成立時期が「承諾の通知が到達した時点」へと変更されました。
つまり、電子契約法施行前までは、下記の流れの1の段階で契約が成立していましたが、電子契約法が施行されてからは3の段階が契約成立のタイミングになりました。
- 消費者がオンラインショップで商品の購入ボタンを押し、注文を送信する
- 事業者から注文を承諾した旨の連絡を消費者に対して送信する
- 消費者が 2 の連絡を受け取る(契約成立)
これはつまり、事業者側は、せっかく消費者が商品を注文してくれても、その注文を承諾した連絡を消費者に届けなければ契約の成立にはならないというリスクを負うことになったということです。
ですから、事業者側はもしオンラインショップを開設した場合、商品やサービスの購入申し込みをしてきた消費者に対し、その申し込みを承諾した旨を伝える仕組みを作らなくてはなりません。
承諾の通知が具体的に何をもって到達したと判断されるのかという点に関しては、特に明確な規定は設けられていません。
現在の民法の考え方では、承諾したという意思表示が記載された書面を、受け取り側(消費者)が確認できる状態になったタイミングとされています。そのため、これを電子承諾通知にそのまま適用すると、承諾通知メールが受け取り側(消費者)のメールボックスに届いた時点となります。
まとめ
電子契約法は、B2CのEコマースの普及に伴い増加してきた「既存の民法では対応しきれない問題」に対応する手段として施行されました。
これにより、Eコマースを展開する事業者は、「消費者の操作ミスによる意図せぬ契約の発生を回避する措置」を取ることと、「消費者から申し込まれた契約に対する承諾の連絡を消費者に送付する」必要が出てきました。これからオンラインショップを開設することになった企業のご担当者の方々は電子契約法を理解し、Eコマースにおいて「事業者が取るべき措置」を行っていきましょう。
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