SLA(Service Level Agreement)とは?サービスレベル契約の定め方と注意点
本記事では、SLA(Service Level Agreement)について、実際の企業で用いられているSLAを参照しながら、SLO(Service Level Objective)と比較しながら解説します。クラウドサービスを利用するユーザーとして、SLAの法的な位置付けと効果、注意点を理解しておくことは有用です。
SLAとは
SLA(Service Level Agreement、サービスレベル契約)とは、ユーザーがサービスを提供する者との間で、サービスの品質について合意する契約のことを言います(影島広泰『法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典〔第2版〕』(商事法務、2021年)より)。
ベンダーが仕様を決定して制作したソフトウェアをサービスとして提供するSaaSやクラウドサービスなどでは、その品質・機能・性能等について、ユーザーとの間で認識に齟齬が発生し、トラブルになることも少なくありません。
そうしたトラブルを未然に防ぎ、発生したとしても問題解決を容易にするために定められる文書がSLAです。
実際のSLAはどのように定められているのか
AWSのSLA
百聞は一見にしかずということで、クラウドサービスのSLAを実際に見てみましょう。以下は、Amazon Web Servicesが提供するサービスの中でも代表的なクラウドストレージサービス「Amazon S3」のSLAの抜粋です。
このSLAでは、表に書かれた月間稼働率を下回らないようにAWSが商業的に合理的な努力を払うことが約束されています。その上で、もし実際の月間稼働率を下回るような品質でしか提供できなかった場合には、顧客が支払うサービス利用料の中から、下回った度合いに応じて返金(サービスクレジット)を受け取ることができると書かれています。
具体的には、月間稼働率が95%を下回った場合には、100%の返金が受けられることが、この表により定められています。
サイボウズのSLO
日本のクラウドサービスはどうでしょうか。サイボウズは、SLAではなくSLO(Service Level Objective、サービスレベル目標)として、以下のように定めています。
後述するとおり、SLAではなくSLOとしているサービスでは、保証ではなくあくまで目標値としてその数値を掲げているものがほとんどです。この場合、利用規約の中に実際の損害賠償責任等の有無や水準が別途定められているケースが多くあります。
サイボウズにおいても、利用規約第20条に、
サイボウズは、本サービスの提供にあたり、本規約第 17 条(サービスの停止)に定める場合を除き、サイボウズが設置したサービス網の異常により、連続 24 時間を超えて本サービスが停止しないことを、お客様に対して保証するものとします。サイボウズが保証事項に違反したことを確認できた場合であって、お客様からの請求があった場合には、
サイボウズの選択により、違反事実が発生した月の翌月以降のサービス料金の減額、サービス期間の延長または違反事実が発生した月のサービス料金の全部もしくは一部の返金を行うものとします。この場合のサービスの減額料金、延長期間または返金額は、本サービスの停止時間について連続 24 時間停止毎に日数を計算し、その日数相当分から最大1ヶ月分までの間でサイボウズが決定するものとします。
と、SLOとは異なる連続24時間単位での返金保証規定を別途定めています。
SLA作成・策定時の注意点
SLAで定める内容
SLAで定める内容は、サービスごとに異なりますが、可用性・機密性・完全性などの項目に対応した条件が、上記のような表形式で記載されることがほとんどです。
具体的には、
- サービスの稼働率
- レスポンスにかかる時間
- 障害発生時の通知
- 障害回復までの時間
- データのバックアップ
などが挙げられます
SLA違反の責任
SLAに定められたサービスレベルを達成できなかった場合の責任の処理方法は、SLAによって様々です。
一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が作成した『デジタル時代のIT法務と契約実務』によれば、以下3つに大別されます。
(1)保証型
SLAで定める基準未達時には損害の発生の有無にかかわらずSLAで定めた範囲で違約金を支払う責任を負います。
2.1に挙げたAmazon S3のSLAは、このタイプに該当します。
(2)努力目標型
SLAで定める基準未達時には、目標値達成のためのサービス内容の見直し等の対策を実施することを責任とし、違約金などを発生させません。
2.2に挙げたサイボウズのSLOは、このタイプに該当します。
(3)混合型
サービスレベル項目によって、保証型と努力目標型を変えるタイプをいいます。
定型約款に該当するSLAの変更
SLAにおいて、たとえばAWSのように「月間使用可能時間がxx%を下回った場合、利用料のyy%を返金する」といった条項を定めると、当該SLAは利用規約と一体の文書として、定型約款として取り扱われるものと考えられます(民法548条の2第1項)。
このように定型約款に該当するSLAとなると、当該SLAの変更を行う場合、
- 変更の効力発生時期を定め、かつ、
- 定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知
しなければ、変更後のSLAがユーザーとの有効な合意とならなくなる点、注意が必要です(民法548条の4)。
参考文献
- 電気情報技術産業協会ソリューションサービス事業委員会『民間向けITシステムのSLAガイドライン〔第4版〕』(日経BP、2012年)
- 経済産業省『SaaS向けSLAガイドライン』(2008年)
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今すぐ相談この記事を書いたライター
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。