契約実務

売買契約書の保管期間とは?改正電子帳簿保存法との関係や注意点を解説

企業の営業活動において重要な文書である売買契約書は、適切な手段で保存することが求められます。また、法律によって保管期間が定められているため、取り扱いには厳重な注意が必要です。本記事では、売買契約書の保管期間や保管方法を詳しく解説します。また、2022年の電子帳簿保存法の改正に伴う売買契約書を電子保存する際の注意点についても紹介します。

なお、売買契約書の書き方については「売買契約書とは?書き方と種類を解説【Word版ひな形ダウンロード付】」を参考にしてください。

売買契約書の保管期間は7〜10年間

売買契約書の保管期間は法律によって定められており、会社法関連の契約書は10年間、法人税法関連の契約書は7年間の保管が義務づけられています。保管期間前に破棄してしまうと、追徴課税などの罰則を受ける恐れがあるため、リスクを回避するためにも契約書は総じて10年間は保管しておくのが安心といえます。

※参考:国税庁標準文書保存期間基準(保存期間表)

会社法による保管期間

会社法では、「事業に関する重要な資料」は10年間保管しなくてはいけないと定められています。

(会計帳簿の作成及び保存)
第四百三十二条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
2 株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。
【引用:会社法 - e-Gov 法令検索

売買契約書は、取引先とのお金や商品のやり取りを示す重要な資料であるため、10年間は保管しなくてはいけないといえるでしょう。

法人税法による保管期間

法人税法では、契約書を含む税務関係の帳簿書類は、7年間保管しなくてはならないと決められています。
また、青色申告法人が赤字繰越をしていて、欠損金が生じている場合は10年間の保管が求められます。そのため、売買契約書をはじめとした書類は10年間保管しておくのが安心といえるでしょう。

(帳簿書類の整理保存)
第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
(欠損金に係る帳簿書類の保存)
第二十六条の三 内国法人が法第五十七条第一項(欠損金の繰越し)の規定の適用を受けようとする場合(当該内国法人が通算法人である場合には、他の通算法人が法第六十四条の七第一項(欠損金の通算)の規定により当該内国法人の法第五十七条第一項の欠損金額について同項の規定の適用を受けようとする場合を含む。)には、当該内国法人は、同項の欠損金額が生じた事業年度の第五十九条第一項各号(帳簿書類の整理保存)に掲げる帳簿書類(法第五十七条第二項の規定により当該内国法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされたものにあつては、当該帳簿書類又はその写し)を整理し、第五十九条第二項に規定する起算日から十年間、これを納税地(同条第一項第三号に掲げる書類又はその写しにあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
【引用:法人税法および法人税法施行規則 - e-Gov 法令検索

売買契約書の保管期間の起算日は?

売買契約書の保管期間の起算日は、会社法と法人税法それぞれについて以下のように定められています。

【売買契約書の保管期間の起算日】

根拠法 起算日
会社法 事業年度終了日(帳簿閉鎖日)の翌日
法人税法 事業年度終了日の翌日から2ヶ月が経過した日

根拠法によって保管期間の起算日が異なるため、法人税法の起算日に合わせて事業年度終了日の翌日から2ヶ月は保管しておくのがいいでしょう。

不動産売買契約書は安易に破棄しない

売買契約書のなかでも、不動産に関する契約書は法律で定められた保管期間を過ぎても安易に破棄しないことが推奨されます。特に土地などの不動産に関しては、契約期間が50年間を超えるものも珍しくありません。税務調査の際には売買契約書の提示を求められるケースが多い点や、当事者からのクレーム対応を迅速かつ適切に行うためにも、安易に破棄せずに契約が続く限りは保管しておくことがおすすめです。

売買契約書の保管方法

売買契約書の保管方法としては、以下の3つの手段が検討できます。

・紙の書面
・マイクロフィルム
・電子データ

それぞれメリットやデメリットが異なるため、事業形態に合わせて適切な保管方法を選択しましょう。

紙の書面

売買契約書は、紙の書面での保管をしている方も多いのではないでしょうか。紙の書面で売買契約書を保管するメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・紙に印刷された契約書はすぐに目に見えて確認でき、取り扱いが容易
・特別な技術や機器を必要としない<デメリット>
・時間の経過とともに紙が劣化し、読み取りが難しくなる可能性がある
・多くの契約書を保管するには専用の保管スペースが必要
・検索に手間がかかる
・火災、水害、盗難などのリスクがあり、契約書が失われる可能性がある

紙の書面は扱いが容易である一方、保管にスペースが必要であるうえ、検索性において不便である点が特に懸念されます。多くの取引を抱えている企業の場合は、電子データでの保管などを検討するべきといえるでしょう。

マイクロフィルム

マイクロフィルムとは、書類や図面などを微小なサイズに縮小してフィルムに記録したものです。紙面と比べてスペースを取らないうえ、長期保管も可能であるという点から、1958年に富士フィルムが日本で販売を開始して以来、多様な企業で利用されています。売買契約書をマイクロフィルムで保管するメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・耐久性が高く、適切な条件下で長期間保存が可能
・ 大量の契約書を小さなスペースに圧縮して保存可能デメリット
・専用の機器がないと閲覧やコピーが難しく、データの検索も手間
・マイクロフィルムの作成や保管に初期投資が必要
<デメリット>
・専用の機器がないと閲覧やコピーが難しく、データの検索も手間
・マイクロフィルムの作成や保管に初期投資が必要

マイクロフィルムは、省スペースで契約書の保管ができる点において紙よりも優れてはいますが、活用するためには専用の機器が必要となる点がデメリットといえます。

電子データで保管

売買契約書は、電子データでの保管も推奨されています。電子データで保管するメリット・デメリットは主に以下の通りです。

<メリット>
・物理的なスペースを取らず、大量の契約書をコンパクトに保管できる
・ファイル名やキーワードで検索することで特定の契約書を素早く見つけられる
・保管コストや契約業務にかかる人的コストなどを削減できる<デメリット>
・ハッキングやデータ漏洩のリスクがあるため適切なセキュリティ対策が必要
・電子データの保管・アクセスには適切な技術や機器が必要であり、技術的なトラブルが発生する可能性もある
・電子契約サービスを利用するには取引先の合意が必要

とくに、他の手段と比較して検索性に優れている点が大きなメリットといえます。適切なセキュリティ対策を施したパソコンを利用すれば、出先などで急に契約書の閲覧が必要となった場面でも役に立ちます。

一方で、電子保管のデメリットとしてはハッキングやデータ漏洩のリスクも挙げられますが、セキュリティ対策が講じられた適切な電子契約サービスを利用すればそのようなリスクも回避できるでしょう。

売買契約書を電子保存する場合の注意点

2022年の電子帳簿保存法の改正によって、売買契約書などの文書の電子データ保存における要件が緩和された一方で、一部の罰則などに関する規制が強化されました。売買契約書を電子保存する場合には、改正電子帳簿保存法に対応して以下の点に注意しましょう。

・真実性を確保する
・見読性を確保する
・過去の契約書も検索可能にする
・マニュアルを備え付ける
・納税地で閲覧可能な状態で保存する

それぞれ簡潔に紹介します。

真実性を確保する

売買契約書を電子データで保存する場合は、不正な改ざんを防ぐために、法令を遵守する形で真実性を確保する必要があります。真実性の確保については、電子帳簿法施行規則第9条に則り、以下のいずれかを行わなくてはいけません。

・あらかじめタイムスタンプが付与された取引情報を受け取る
・取引情報の受け取り後、速やかにタイムスタンプを付与するとともに、保存の実施者・監視者に関する情報共有ができる環境を整える
・訂正や削除の確認ができるシステム、あるいは訂正や削除が不可能なシステムで受け取り・保存を行う
・訂正や削除防止に関する事務処理規定を設定し、それに準じた運用を行う

せっかく契約書の電子保存に踏み切った場合でも、これらの要件を満たしていないと、改めて紙面での出力が必要となったり、他のシステムを導入しなくてはならない可能性もあります。契約書を電子データで保存する際は、真実性確保の要件を満たしているシステムを慎重に選ぶ必要があります。

見読性を確保する

見読性の確保とは、言葉の通り見て読み取れる機能を用意しておくことです。売買契約書を電子保存する場合は、契約書をパソコンのディスプレイ上で確認したり、紙面へ印刷したりなどの手段によって、必要な時にいつでも閲覧できる状態を保っておく必要があります。

過去の契約書も検索可能にする

売買契約書を電子保存する際は、過去の取引に関する契約書を検索できる機能を備え付けなくてはならないと電子帳簿法施工規則によって定められています。具体的には、以下の3つのいずれでも検索できるようにしておく必要があります。

・取引年月日
・取引金額
・取引先

これらの項目で検索ができるように命名規則を整えるか、検索機能が備わっている電子契約サービスを利用しましょう。

マニュアルを備え付ける

売買契約書を電子保存する場合は、事業に関わる関係者全員が閲覧および管理ができるようなマニュアルを備え付けなくてはいけません。企業のなかの限られた技術者のみが契約書の閲覧ができるような状態は認められないため、検索方法や出力方法などを簡略にまとめたマニュアルが必要となります。

納税地で閲覧可能な状態で保存する

電子保存された契約書も、紙面での契約書と同様に法人税法および会社法に則り7〜10年間の保存が求められます。それに加えて、法人税法の定めにより納税地で閲覧できる状態で保存する必要があります。

契約書データを保存するサーバー自体は海外も含め納税地以外の場所でも問題ありませんが、納税地にあるPCからインターネット経由で契約書を閲覧できる状態にしておきましょう。

2022年の電子帳簿保存法改正による変更点

2022年の電子帳簿保存法の改正により、契約書の電子データにおける要件や規制などがさまざまに変更されました。ここでは、電子帳簿保存法の改正により規制緩和された点と規制強化された点をそれぞれ簡潔に紹介します。

なお、契約書のスキャナ保存と電子帳簿保存法改正対応のポイントについては「契約書のスキャナ保存と電子帳簿保存法改正対応のポイント」も参考にしてください。

規制緩和された点

電子帳簿保存法の改正により規制緩和された点は主に以下の通りです。

・税務署への事前申請が不要になった
・タイムスタンプの付与期限が契約書受領後3日以内から2カ月以内が緩和された
・適正事務処理要件の廃止によりスキャナ保存の負担が軽減された
・以前は複雑だった検索機能要件が「取引年月日・取引金額・取引先」の3つのみに緩和された

スキャナ保存を希望する場合、以前は税務署への事前申請が必要でしたが、法改正により不要となりました。また、検索機能の要件が緩和されるなど、各企業にとって電子契約サービスを比較的容易に検討できるようになったといえるでしょう。

規制強化された点

電子帳簿保存法改正により規制強化された点は主に以下の通りです。

・保存された電子データについて改ざんや隠蔽が認められた場合、45%の重加算税が課されるなど罰則が強化された
・電子取引の文書については電子データでの保管が義務づけられた

法改正以前は、国税関係帳簿書類を電子データで受け取った場合でも、紙面へ出力して保管することが認められていました。しかし、法改正によって電子データで受け取った契約書や帳簿などの文書は電子データで保管が義務づけられました。

2022年の法改正以後、電子契約を管理するシステムや業務フローが整っていない企業に関しては紙面での保存を例外的に認める猶予期間も定められていましたが、2024年1月からはすべての企業で電子取引書類の電子データ保存が義務となったため注意してください。

まとめ

本記事では、売買契約書の保管期間や電子保存する場合の注意点などについて解説しました。2022年の電子帳簿保存法改正に伴い、領収書や契約書などの文書を電子データとして保存する必要に迫られる場面は増えてきました。企業の求める形態にあった電子契約サービスを導入し、スムーズにDX化を促進しましょう。

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この記事を書いたライター

弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部

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