契約に関する事例・判例・解説

準委任契約に収入印紙は必要?不要なケースや印紙額・貼り忘れのリスクを解説

準委任契約とは

準委任契約とは、特定の業務や事務処理を行うことを依頼し、受託者がその業務を遂行する契約形態です。準委任契約は、民法第656条に定められています。

(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
【引用:民法 e-gov

準委任契約の場合、受託者はその業務において「善良な管理者の注意義務」を負いますが、成果物の完成を保証する義務はありません。

たとえば、コンサル業務や会計業務のように、成果の完成ではなく業務そのものの実施を目的とする場合に多く用いられます。

準委任契約は信頼関係に基づく契約であり、業務内容や範囲を明確に定めることが重要です。

準委任契約書に収入印紙が必要なケース

準委任契約のなかでも、契約書が印紙税法で定める「第一号文書」や「第7号文書」にあてはまる場合には、収入印紙が必要となります。
ここでは、各文書に該当する契約の内容や定義について説明します。

第1号文書の場合

第1号文書は、印紙税法別表第一の課税物件表において、「無体財産権の譲渡に関する契約書」と定義されています。

このため、たとえ準委任契約であっても、契約内容が無体財産権の譲渡に関するものであれば、印紙税が課税される対象となる可能性があります。

具体的な契約書の例としては、以下のようなものが挙げられます。

・システム開発業務委託契約書
・プログラム業務委託契約書
・ソフトウェア業務委託契約書
・アプリ業務委託契約書

無体財産権とは、簡単にいうと「目に見えないものの権利」を指しており、著作権、特許権、商標権、意匠権なども該当します。

第7号文書の場合

第7号文書は、印紙税法施行令第26条において、「売買の委託に関する契約書」や「売買に関する業務の継続委託に関する契約書」として定義されています。
第1号文書と同様に、これらの契約書に該当する場合も印紙税が課税される可能性があります。

具体的な契約書の例としては、以下のようなものが考えられます。

・販売店契約書
・代理店契約書
・特約店契約書
・アフィリエイト契約書

ただし、契約期間が3か月以内で、契約の更新について規定がない場合は、印紙税の課税対象外となります。

契約の期間や更新条件に注意を払い、該当するかどうかを慎重に確認することが重要です。

準委任契約で収入印紙が不要なケース

次に、準委任契約で収入印紙が必要ないケースについて説明します。印紙が不要となるケースには、いくつかの条件があります。以下に具体的な事例を挙げて解説します。

報酬が一万円未満の準委任契約

印紙税法では、契約における報酬額が一定の基準を超えない場合、収入印紙を貼る義務は生じません。具体的には、準委任契約の報酬が一万円未満のケースが該当します。

この非課税範囲は、契約書に記載された報酬額が基準を満たすかどうかによって決まります。

報酬額が一万円未満であれば、印紙税法上で「小額契約」とみなされ、印紙の貼付義務はなくなります。

業務範囲の取り決めのみ記載の準委任契約

業務範囲だけが記載された準委任契約書で、金銭の受け渡しに関する記載がない場合、収入印紙は必要ありません。

契約書の中で報酬や金銭のやり取りが明示されていない場合は、印紙税法の課税対象外となります。

ただし、後日報酬や支払方法に関する合意が追加される場合、その時点で再度契約書を作成し、その内容に応じた印紙税が発生する可能性があるため、注意が必要です。

紙ではなく電子で結ばれた電子契約

電子契約は、印紙税法の対象外です。印紙税法では、契約書が「書面」であることが課税要件となっていますが、電子契約書は「書面」に該当しないため、印紙税が課されません。

印紙税は物理的な書類に対して課税されるものであり、電子的に交わされた契約書には印紙を貼る必要がありません。

これにより、契約書の作成や管理が効率化され、コスト削減にもつながります。

準委任契約書に貼り付ける印紙の金額

先ほど説明したように、準委任契約書で結ぶ契約書が第1号文書か第7号文書に該当する場合、取引金額に応じて収入印紙を貼る必要が出てきます。
ここでは、各文書にかかる印紙税額を説明します。

第1号文書の印紙税額

第1号文書の場合、取引金額に応じて印紙税額が異なります。具体的な金額は、以下の表を参考にしてください。

取引金額 収入印紙の金額
1万円以下 非課税
1~10万円 200円
10~50万円 400円
50~100万円 1,000円
100~500万円 2,000円
500~1,000万円 1万円
1,000~5,000万円 2万円
5,000万円~1億円 6万円
1~5億円 10万円
5~10億円 20万円
10~50億円 40万円
50億円以上 60万円
記載なし 200円

第7号文書の印紙税額

第7号文書の場合、取引金額に関わらず、一律4,000円分の収入印紙が必要となります。

準委任契約書の印紙税はどちらが負担する?

準委任契約書の印紙税は、印紙税法第3条に基づき「課税文書の作成者」が負担することが定められています。
しかし、契約書を双方で共同作成した場合、印紙税は両者が負担する義務があります。

(納税義務者)
第三条別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

2一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
【引用:印紙税法 - e-gov

契約書が2通作成される場合、印紙代は両者で折半する形で負担するのが一般的です。

準委任契約書の印紙貼付を怠ったらどうなる?

次に、準委任契約書に収入印紙を貼らなかった場合にどうなるかを説明します。余計な税金を支払うことになる可能性もあるため注意しましょう。

過怠税の対象となる

準委任契約書に収入印紙を貼り忘れた場合、過怠税(かたいぜい)が課されることになります。過怠税は、本来支払うべき印紙税のほかに、税務署から追加で課せられる税金です。
もし過怠税が課される前に、貼り忘れに気づいた場合は、速やかに対応することで、過怠税の支払いを回避することができます。

契約書自体は有効になる

印紙を貼り忘れたとしても、準委任契約書自体の法的効力には影響を与えません。

つまり、契約書が有効であることに変わりはなく、契約に基づく権利や義務はそのまま履行されます。

印紙税はあくまで税金の支払いに関する義務であり、契約書に印紙を貼ること自体が契約の成立や効力に影響を与えるわけではないからです。

したがって、契約書を作成し、両者が署名した段階で契約は成立しています。

契約書の控えには印紙は必要ない

印紙税法では、契約書の原本が課税対象となるため、契約の写しやコピーには印紙を貼る義務はないとされています。そのため、契約書の控えに印紙を貼る必要はありません。

準委任契約書に記載すべきこと

準委任契約書に記載すべきことを項目ごとに確認していきましょう。

契約の目的と内容

準委任契約において最も重要なのは、契約の目的と内容を明確にすることです。受任者が行う業務の具体的な目的とその範囲を明確に記載することで、双方が期待する業務内容や成果物について認識の相違を避けることができます。

たとえば、受任者がシステム開発を行う場合、その開発の目的(業務システムの構築)や範囲(特定の機能を実装する)を明記し、どのような方法で業務を達成するのか、またその成果物がどのような形で納品されるのかを明示することが大切です。

これにより、業務進行中のトラブルを未然に防ぐことができ、契約終了後に成果物の受け渡しもスムーズに行えます。

報酬と支払条件

準委任契約では報酬の額や計算方法を具体的に記載することが必須です。

報酬が時間単位で支払われる場合、単価や予想時間に基づいた計算方法を明示し、金額に関する疑問を未然に防ぎます。

また、銀行振込や口座振替などの支払方法、支払日および遅延時のペナルティなどについても記載しましょう。

契約期間

契約の開始日と終了日が定められている場合には、契約期間を明確に記載することが重要です。

契約期間が明確であれば、期限内に業務が完了しなかった場合の対応策を事前に考慮できます。

また、契約期間満了後に契約延長の条件や更新手続きについても取り決めておくことが求められます。

契約更新に関する詳細を契約書に盛り込んでおくことで、契約終了後の不明点やトラブルを防ぐことができます。

業務の権限と義務

受任者の権限範囲を明確にすることは、業務の進行において非常に重要です。

受任者がどのような権限を持ち、どこまで業務を遂行するかを契約書に記載することで、双方が業務の進行具合を把握しやすくなります。

また、受任者と依頼者双方に求められる義務についても触れておく必要があります。

たとえば、納期の遵守や業務の質を確保する義務、または契約条件を守る義務などが考えられます。

このように、権限と義務を明確にすることで、業務の進行がスムーズに行われ、トラブルを避けることができます。

秘密保持に関して

秘密保持に関する条項は、準委任契約において非常に重要です。

業務を通じて知り得た情報が企業秘密や顧客情報である場合、その情報を適切に扱うことを明記する必要があります。

秘密情報の取り扱いや保護の範囲を具体的に定めることで、契約終了後に情報が不正に流出することを防ぎます。

契約解除の条件

契約違反があった場合や双方の合意による解除が可能な場合について、その条件を具体的に定めることが大切です。

解除後の対応策も契約書に盛り込んでおくと、解除時に双方が納得のいく形で進行でき、後々のトラブルを避けることができます。

また、解除の手続きや解除に伴う損害賠償責任なども明記しておくと、契約解除後の対応がスムーズに進みます。

損害賠償責任の範囲

損害賠償責任に関する取り決めは、契約書に記載しておくべき重要な項目です。

損害賠償責任が発生する条件やその範囲を明確にすることで、紛争を最小限に抑えることができます。

また、免責事項や賠償責任の上限についても定めておくとよいでしょう。

紛争解決の方法

紛争が発生した際の解決方法(調停、仲裁、訴訟など)についても、契約書に記載することが望ましいです。

また、国内の企業や個人と契約をする際は、紛争発生時の解決場所(裁判所)を事前に決めておきましょう。

自社から離れた裁判所でトラブルを解決しようとすると、余計な時間やコストがかかってしまうからです。

準委任契約を結ぶ際の注意点

最後に、準委任契約を結ぶ際の注意点を確認しておきましょう。

印紙税を確認する

契約書に印紙税が必要かどうかを事前に確認することが大切です。印紙税の金額や税区分(第1号文書、第7号文書など)について正しく理解し、適切な金額を納付しなければ、過怠税が発生する可能性があります。

書面で契約を結ぶ

口頭での合意だけではなく、契約内容は必ず書面で明文化する必要があります。契約書には双方の署名捺印を行い、契約の効力を確保します。書面契約を締結することで、後のトラブル防止にも繋がります。

まとめ

準委任契約において収入印紙が必要なのは、契約書の内容が印紙税法で定める課税文書に該当する場合です。

たとえば、無体財産権に関する契約や売買委託契約書は収入印紙が必要で、貼り忘れると過怠税が発生します。

収入印紙がなくても契約書の効力には影響がありませんが、余計なコストがかかるため注意しましょう。

なお、電子契約の場合は印紙税が不要となります。契約書の作成や管理も効率化されるため、紙の書面で契約を進めている企業は電子契約の利用を検討してもよいでしょう。

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この記事を書いたライター

弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部

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