入社手続きで必要な書類とは|書類ごとの作成方法や企業側の注意点を解説
従業員が企業に入社する際は、企業側と採用者側の双方が様々な書類を用意する必要があります。
会社によって独自に提出を求める書類もありますが、なかには労働基準法などの法律によって交付が義務付けられている書類もあるので注意が必要です。
本記事では、企業側と採用者側の双方の立場ごとに、入社手続きで必要となる書類について解説します。
入社手続きで主に必要な書類(企業側が準備するもの)
企業側が新入社員を迎え入れる際に準備しなくてはいけない書類は主に以下の5つです。
・労働条件通知書
・雇用契約書
・給与振込先の届書
・健康保険被扶養者異動届
・扶養控除等申告書
それぞれ、書類の概要や交付が必要とされる理由を簡単に解説します。
労働条件通知書
労働条件通知書は、企業側が入社する従業員に対して労働条件について明示するために交付する書類です。
労働条件通知書には、雇用契約の内容や労働時間、賃金、休日、有給休暇など、基本的な労働条件が具体的に記載されています。
企業などの使用者が労働契約を結ぶ際には、労働条件通知書などの書面を通じて、労働条件を明示する義務があると労働基準法第15条により定められています。また、2024年4月の法改正によって、雇い入れ後の職務の範囲や勤務地に変更の可能性がある場合は、その点も詳細に記載しなくてはいけなくなりました。
雇用形態がアルバイトや契約社員であっても、労働条件は明示しなくてはならず、労働条件通知書の交付を怠ると罰則を受ける可能性もあるので注意しましょう。
雇用契約書
雇用契約書は、従業員と企業のあいだで結ばれる契約書で、労働条件や義務を明確にするための契約書です。雇用契約書の交付は法律で義務付けられてはおらず、雇用契約自体は口約束だけでも成立します。
ただし、賃金や労働時間、更新の有無などについて明確に記載された文書が無いと、労働者の権利が守られない恐れがある上に、後々トラブルに発展する可能性もあります。そのため、企業側と採用者側が透明性を担保された契約を結ぶために、雇用契約書を用意しておくと安心でしょう。
また、雇用契約書は「労働条件通知書兼雇用契約書」などといった名称で、労働条件通知書と一緒にまとめて発行するケースもあります。ひとつの書類にまとめて発行する方法は下記の関連記事を参考にして見てください。
給与振込先の届書
給与振込先の届書は、従業員が自分の給与を振り込んでもらう口座を指定するための書類です。
給与振込先の届書には、銀行名、支店名、口座番号、口座名義などの詳細情報が記載されます。企業はこの届書に基づいて、毎月の給与を従業員の指定口座に自動的に振り込みます。
この手続きにより、給与支払いが迅速かつ正確におこなわれ、現金での手渡しに伴うリスクや手間を削減できるでしょう。
健康保険被扶養者異動届
健康保険被扶養者異動届は、従業員が健康保険に加入し、扶養家族(配偶者や子どもなど)を保険の被扶養者として追加・削除する場合に使用する書類です。
企業は従業員からこの書類を受け取り、加入している健康保険組合や日本年金機構に提出します。被扶養者として認められた家族は、従業員の健康保険に加入し、医療費の一部が保険で賄われます。
扶養する家族がいない従業員は、健康保険被扶養者異動届の提出は不要です。
扶養控除等申告書
扶養控除等申告書は、所得税や住民税の計算に必要な情報を提供するための書類です。健康保険被扶養者異動届とは異なり、扶養している家族(配偶者や子ども)の有無に関わらず全ての従業員に提出してもらう必要があります。
扶養控除等申告書では、従業員が扶養している家族(配偶者や子どもなど)について申告し、その家族に対して扶養控除が適用されるかどうかの判断材料となります。扶養控除が適用されることで、従業員の課税所得が減少し、支払う税金が軽減されることになります。
入社手続きで主に必要な書類(採用者側が準備するもの)
企業に採用された新入社員側は、入社手続きにおいて以下の書類が必要となります。
・年金手帳
・源泉徴収票
・マイナンバー
・雇用保険被保険者証
年金手帳
年金手帳は、従業員が日本の公的年金制度に加入していることを証明する書類です。企業は、従業員の年金手帳を確認することで、厚生年金に適切に加入させるために必要な基礎年金番号を把握できます。
年金手帳は、従業員の将来の年金給付に直結する重要なものです。企業側が年金手帳を確認し、適切な加入手続きを行わなければ、従業員が将来年金を受け取る際に不備が生じる可能性があるため、必ず提出してもらいましょう。
源泉徴収票
源泉徴収票は、従業員が前職で受け取った給与とそれに伴う所得税の納付状況を示す書類です。
企業は、入社手続きの際に源泉徴収票を受け取り、新たに支払う給与に対して適切な所得税を計算し、源泉徴収をおこなう必要があります。源泉徴収票がないと、税金の計算が不正確になり、結果として従業員が過大または過小に税金を支払う結果になる可能性があるでしょう。
企業は従業員の税務処理を正確に行うために、新入社員から源泉徴収票を受け取り、適切に税務署に報告する責任があります。
マイナンバー
マイナンバーは、日本に住民票がある一人ひとりに割り当てられた12桁の個人識別番号であり、税金や社会保障に関する手続きを行う際に必須です。
企業は、入社手続きで従業員のマイナンバーを収集し、年末調整、社会保険や雇用保険の加入手続き、源泉徴収票の発行など、各種行政手続きで使用します。マイナンバーがないと、これらの手続きを正確かつ効率的に行えず、従業員に対して適切な社会保障や税務の処理ができなくなる可能性があるため、必ず提出してもらう必要があります。
マイナンバーカードをすでに取得している場合は両面のコピー、まだ取得していない場合はマイナンバーが確認できる書類(住民票など)と身分証明書の2つを提出してもらいましょう。
雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者証は、従業員が雇用保険に加入していることを証明する書類です。
企業は、入社手続きで雇用保険被保険者証を受け取り、従業員を新たに雇用保険に加入させるか、既存の保険番号を引き継ぐ手続きを行います。雇用保険は、従業員が失業した際の生活保障や、育児休業給付などの支援制度に関わるため、適切な加入が求められます。
雇用保険被保険者証がなければ、従業員はこれらの給付を受け取ることができないため、企業は迅速かつ確実に手続きをおこなう必要があります。
入社手続きで会社によっては必要な書類
会社によっては、入社の際に以下のような文書が求められるケースもあります。
・入社誓約書
・住民票記載事項証明書
・卒業証明書
・健康診断書
・機密保持誓約書
・免許・資格関連の証明書
入社誓約書
入社誓約書は、従業員が会社の規則やポリシーを守ることを誓約する書類です。具体的には、就業規則の遵守、企業の資産や情報の適切な取り扱い、秘密保持・守秘義務などに関する内容が記載されており、従業員は企業から交付された誓約書に署名・押印をして提出します。
企業は入社誓約書を入社時に求めることにより、従業員に会社のルールや方針を明確に伝え、従業員による企業の利益に反する行為を未然に防げるでしょう。
また、従業員による違反行為があった場合の法的な対応や懲戒処分の根拠となる重要な書類ともいえます。
入社誓約書の記載例や、法的な効力については下記の関連記事も参考にしてください。
住民票記載事項証明書
住民票記載事項証明書は、従業員の現住所や戸籍に関する基本的な情報を確認するための書類です。
企業は、従業員の住所を正確に把握し、社会保険や税務手続きに対応できる状態をとるために住民票記載事項証明書を提出するケースもあります。また、緊急連絡先として親族などを登録する際にも、連絡先が正しいかどうかが確認できる証拠ともなります。
卒業証明書
卒業証明書は、従業員が特定の教育機関を卒業したことを証明する書類です。
企業は、応募者が採用時に申告した学歴が正確であることを確認するために、卒業証明書の提出を求めるケースがあります。特に、学歴が採用条件に影響する場合や、特定の資格やスキルを求める職種においては、卒業証明書の提出が重要となるでしょう。
健康診断書
健康診断書は、従業員が健康であるかどうかを確認するための書類です。従業員に健康診断を受けさせることは企業側の義務ですが、事前に健康状態を把握しておく必要がある場合は前職での健康診断書を提出してもらいましょう。
企業は、健康診断書を入社時に求めることで、従業員が業務を遂行できる体調であるかを判断し、必要に応じて適切な健康管理を行います。特に、身体的な負荷がかかる業務や、健康状態が業務に影響を与える可能性がある場合には、健康診断書は重要な役割を果たすといえるでしょう。
機密保持誓約書
機密保持誓約書は、従業員が業務上知り得た企業の機密情報を第三者に漏洩しないことを誓約する書類です。
機密保持誓約書によって、知的財産や顧客情報、技術、戦略など、企業にとって重要な情報を保護できる可能性が高まります。また、従業員に機密保持誓約書に署名して提出してもらうことにより、情報漏洩や競業避止義務違反があった際の法的対処が可能となり、企業のビジネスを守るための防御策と位置付けられます。
免許・資格関連の証明書
免許・資格関連の証明書は、従業員が特定の業務を遂行するために必要な資格や免許を所持していることを証明する書類です。
企業がこの書類を入社時に提出を求めるのは、従業員が業務に必要なスキルや資格を持っていることを確認するためです。特に、専門職や技術職では、この証明書が必須となる場合が多く、従業員が適切に業務を遂行できるかどうかを確認するために重要な書類といえます。
入社時の書類の取り扱いで企業側が注意すること
入社時の書類の取り扱いにおいて、企業側は以下の3点に注意しましょう。
・交付義務のある書類は必ず渡す
・書類の提出は余裕を持って行う
・書類の管理は適切に行う
交付義務のある書類は必ず渡す
企業によって、従業員の入社時に交付する文書はさまざまですが、交付義務のある書類は必ず従業員に渡さなくてはいけません。
たとえば、企業側は、労働基準法第15条によって労働条件が明示された書類は必ず交付しなくてはいけないと定められています。
法律によって交付が義務づけられている書類の交付を怠ると、労働基準監督署から指導や是正勧告が行われる恐れもあるうえ、30万円以下の罰金といった罰則を受ける可能性もあります。
また、適切な書類交付を行わないと、企業としての信頼を損なう結果となり、今後の採用活動にも悪影響を及ぼすでしょう。
書類の提出は余裕を持って行う
入社手続きで企業側が受け取る書類の中には、適切な社会保険や雇用保険などの手続きのために、特定の機関に提出しなければならないものも多いです。
たとえば、「雇用保険被保険者資格取得届」は、入社日の翌月10日までに、事業所の所在地管轄のハローワークに企業の担当者が提出する必要があります。
しかし、従業員からの各種書類の提出が遅いと、社会保険や雇用保険など各種手続きが間に合わず、適切に処理ができないリスクがあります。
そのため、従業員から書類を提出してもらう期限は余裕を持って設定し、少しでも早めに提出してもらうようにしましょう。
書類の管理は適切に行う
入社手続きで企業が受け取る書類の中には、マイナンバーなどの個人の重要な情報が含まれるケースも多いです。
社員の個人情報などが記載された書類を紛失すると、会社への信頼感が損なわれるうえ、情報漏洩として個人情報保護委員会へ報告する必要が生じるなど多大なリスクが生じます。
書類管理のルールやワークフローを明確化し、従業員の個人情報の管理は適切に行えるような仕組みづくりが重要といえます。
入社手続きで必要な書類の提出方法
入社手続きで必要な書類は、原則としては会社から指定された方法で提出するのが前提です。
そのうえで、選択肢として考えられる以下の3つの提出方法について簡単に紹介します。
会社に持参する
内定式や入社オリエンテーションなど、入社手続きのタイミングで書類を持参して提出するように求められるケースもあります。
自分で書類を持参する場合は、特に紛失のリスクに気をつけましょう。入社前に重要な書類を紛失してしまうと、入社先の信用を一気に損なう可能性が高いといえます。
電車の網棚の上など、忘れやすいところに置いたりせず、肌身離さず持ち運べるリュックなどにまとめてしまって持参するようにしましょう。
郵送で提出する
企業によっては、入社手続きに必要な書類は郵送で提出するように指示される場合もあります。
郵送で送る際は、送付書類だけでなく、送付内容や年月日・差出人などについて記載した送付状も同封し、普通郵便ではなく記録の残る簡易書留で郵送するようにしましょう。
電子交付
入社手続きに必要な書類は、全て電子化が可能です。書面での交付が法律で義務化されていた労働条件通知書も電子化が解禁され、入社関連書類について、電子契約を導入している会社も増えてきています。
入社時に必要な書類は数も多く、提出期限がシビアなものなども含まれますが、各種書類を電子化して一元管理することで、提出漏れや紛失のリスクなどを防げます。
労働条件通知書兼雇用契約書の電子化については、下記の関連記事を参考にしてください。
無料でダウンロードして使える「Word版 労働条件通知書 兼 雇用契約書ひな形ファイル」を公開
クラウドサインでは、厚生労働省による労働条件通知書ひな形をベースとして、
・労働条件通知書電子化の要件を満たしつつ
・労働者と雇用契約を締結した証拠を確保できる
書式として作成した「労働条件通知書兼雇用契約書ひな形」のWordファイルを作成しました。前述した令和6年4月からの労働条件明示ルール改正にも対応したひな形となっています。
下記リンク先フォームからダウンロードできるため、労働(雇用)契約の締結に今すぐ使えるWord形式のひな形をお探しの方はご活用ください。
ひな形無料ダウンロード
クラウドサインでは従業員との労働(雇用)契約を電子契約サービスで締結する際の契約書のひな形を作成しました。労働(雇用)契約の締結に今すぐ使えるWord形式のひな形をお探しの方はダウンロードしてご活用ください。
まとめ
本記事では、入社時に提出が必要となる書類や、書類の取り扱いに関する注意点などについて詳しく解説しました。
労働条件通知書などの、法律で交付が義務づけられている文書についても電子化が認められており、昨今では入社時の手続き書類の提出に電子交付を導入している企業も増えています。
今後の法改正などのタイミングで、さらに入社手続きに必要な書類に変更があった場合なども、書類の管理フローが電子化されていれば迅速かつ適切なアップデートが可能です。ぜひ入社手続きをDX化して、業務の効率化を図ってください。
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今すぐ相談この記事を書いたライター
弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部
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