覚書とは?契約書と覚書の違い・作り方・ひな形・リスク・注意点のまとめ【サンプルファイル無料DL】

「覚書」とは?契約書と覚書の違い・作り方・ひな形・リスク・注意点のまとめ

契約書を締結するほどではないものの、お互いの合意内容を残しておくために作成する実務的文書が覚書ですが、そこにはどのようなリスクが隠れているのでしょうか。当記事では「覚書」とは何か、契約書と何が違うのかやリスク、注意点を詳しく解説します。

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1. 覚書(おぼえがき)とは

1.1 簡易的・付随的な合意文書に用いられるタイトル(表題)

覚書とは、簡易的な合意または付随的な合意であることを示すために作成する文書のことをいいます(田中豊『法律文書作成の基本[第2版]』(日本評論社、2019)352頁)。

覚書に近い語句として「念書」なども使われます。英語では、LOI(Letter of Intent)・MOU(Memorandum of Understanding)が日本語の「覚書」「念書」に相当します。

もっとも、「契約書」と「覚書」の違いは、単なる文書のタイトル(表題)の違いに過ぎず、合意を表すものである以上は文書としての法的な効果は変わりません。しかし後述するように、もともとの「覚書」の語の意味が多義的であったことから、企業間取引等においても誤った認識で不用心に用いられることが多い語句であり、注意が必要です。

1.2 広辞苑に記載されている「覚書」の定義

ここで、広辞苑に記載されている「覚書」の定義を確認してみましょう。

  1. 忘れないように書いて置く文書。メモ。
  2. 当事者間の合意の証明のために作成する法律文書。
  3. 〔法〕国家間における情報伝達の一形式

1のように、「打合せの内容を確認するために取り交わすメモ」程度の認識のビジネスパーソンもいれば、2のように明確に「合意の証拠としての法律文書」と認識して使用するビジネスパーソンもいます。そのため、混乱が生じがちな言葉となっているわけです。

1.3 法律用語辞典に記載されている「覚書」の定義

では、専門の辞典で「覚書」はどう定義されているでしょうか。有斐閣法律用語辞典第4版を調べてみます。

  1. 第二次大戦後、連合国最高司令官が日本の占領管理に関して発した指令の形式の一つで、最も多くもちいられたもの
  2. 国家間における文書による情報伝達の一形式。それ自体は条約ではないが、その内容によってはその交換により国家間に合意が成立したとみなされるので、その意味で、覚書の交換は広義の条約の一種といえる。
  3. 民間協定についていうこともある。

1や2にあるとおり、法律用語としては国家間の指令や条約という重たい文書を意味する場合もあることが示唆されながら、こちらでも3のように「民間協定」すなわち民対民の契約書を表す語句としても用いられることが明記されています。

覚書(おぼえがき)とは

2. 契約書と覚書との違い

2.1 契約書とは

実務上では、「契約書」と「覚書」はどのような使い分けがされているのでしょうか。改めて契約書の定義を確認しておきます。

契約書とは、「当事者同士の意思表示が合致することで成立する法的な効果が生じる約束(=契約)の内容を記した文書」です(民法522条1項)。

契約書を締結した効果として当事者に権利と義務が発生することは、ビジネスパーソンとしては常識として理解されているものと思います。具体的には、相手方が契約を守らなかった場合、履行するよう請求したり、損害賠償の請求をしたり、契約の解除をしたりすることができますし(民法414条、415条、541条、542条)、相手方が義務を履行しない場合には、訴訟を提起し、勝訴判決を得て強制執行をすることができます(民法414条1項)。

このときに、どのような内容の契約を結んだかを記した文書、すなわち契約書があれば、訴訟を有利に運ぶことができます。

2.2 契約書を覚書とタイトルを変えただけでは法的な効果に違いはない

このような契約書に対して「覚書」とタイトルに付けられる文書は、契約書と比較してさほど重要ではない・かんたんな合意・約束を記したものに過ぎないと考えられている傾向があります。

長瀨佑志 ・長瀨威志『契約実務ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、2017)34頁には、企業法務の実務に携わる弁護士のつぶやきとして、以下のようなエピソードが紹介されています。

実務上、あまり、契約書になじみのない営業担当の方などから、「今回の取引は長年の取引関係のある顧客との間でもありますし、『契約書』まで作らずに、『覚書』だけでもいいですよね。」ですとか、「保証人をつけたいのですが、『契約書』では角が立つので、『念書』でもいいでしょうか。」といったお問い合わせをいただくことがあります。
ご相談の背景として、「●●契約書」というタイトルの書面よりも、「●●に関する覚書」「●●に関する念書」といったタイトルの書面の方が、契約としての効力・拘束力が弱いというイメージがあるようです。また、企業によっては、「契約書」であれば決済権限者の決済【原文ママ】が必要となる一方、「覚書」「念書」については、担当者限りで作成することを認めている場合もあるようです。
しかし、契約書のタイトルの決め方については、法律上特段ルールはなく、「売買契約書」と記載しようが、「売買に関する覚書」と記載しようが、その法的効力に違いはありません。

現実のビジネスシーンの実務では、「契約書」ではなく「覚書」とタイトルをつける契約文書のほうが、総ページ数や条文数も短く、ボリュームの軽い文書となる場合が多いのも事実です。

しかし、上記引用部の弁護士コメントにもあるとおり、タイトルが「契約書」であれ「覚書」であれ、本文に書かれた内容が「当事者同士の合意・約束」を記した文書であれば、契約書と覚書には法的な効果に違いはありません

3. 覚書の作り方

3.1 覚書の作り方

覚書も契約書の一種ですから、その作り方も契約書の作り方に準じます

一般的には、A4用紙2〜4枚程度で

  1. 前文(契約当事者の表示および覚書締結の背景)
  2. 合意した内容
  3. 秘密保持義務
  4. 有効期間
  5. 協議
  6. 後文(何通作成し双方がどのような形式で保有するか)

等について、3〜10箇条程度の条項に分けて記載され、最後に記名押印または電子署名欄が設けられます。

3.2 覚書の具体例—経済産業省のひな形

覚書の作り方の具体例として、経済産業省が工業製品の型の取扱いに関する覚書をひな形化し、解説書とともに提供しています(参考:型の取り扱いに関する覚書(ひな形)の解説書)。

このようなものを参考に、作成すると良いでしょう。

覚書の具体例—経済産業省のひな形

3.3. 覚書に印紙は必要か

「覚書であれば、印紙は必要ない」といった誤解をされているビジネスパーソンも少なくありません。

しかし、ここまで解説してきたように、契約書と覚書はそもそも法的効果は変わらないわけですから、記載内容から印紙税の課税対象文書に該当すれば、覚書にも契約書同様に収入印紙を貼付し、消印を施す必要があります。これを忘れると、悪意のない誤解であっても、過怠税等の対象となり得ます。

なお、覚書をクラウドサインのような電子契約で作成すれば、印紙は不要となります(関連記事:収入印紙が電子契約では不要になるのはなぜか?—印紙税法の根拠通達と3つの当局見解)。

4. 覚書のメリットとデメリット

4.1 覚書のメリット

あえて「契約書」ではなく、「覚書」とすることで得られるメリットもあります。それは、契約書とタイトルに記された文書と比較して、相手方に柔らかい印象を与え、合意が得られやすくなる可能性が高くなるというメリットです。

このメリットを得たいがために、基本的な合意内容を「●●契約書」として締結し、もっとも揉めそうな(つまり当事者間においてもっとも関心の高い)合意内容を「●●契約書に関する覚書」などとして別紙で抽象的な文言で合意しておくような“工夫”も、実務ではしばしば見受けられます。

  • 書面に契約内容をあからさまに書くことをよしとしない
  • 契約交渉段階から直接的な衝突や争いごとを好まない

こうした日本的契約慣行について、川島武宜『日本人の法意識』(岩波新書、1967)114頁は、こう述べています。

契約内容の不確定性は、西洋の人には不安感を与えるのに対し、日本の人には安定感を与えているのである。後に述べるように、わが国においても、銀行・信託・保険等の契約は、まさに「微に入り細をうがって」こまごまと規定されており、また銀行や信託会社や保険会社は、そのような契約内容を確定的のものにすることに、たえず努力している。しかし、それは例外的現象であって、我が国の多くの取引においては、欧米式の虫めがね的契約書は作られていないのであって、もし企業の安定発展のために努力しつつある人々がそのような契約書を必要と考えるならただちにそれを作るはずであるのに、それを作らないのは、それを必要と考えないからだ、と推測するほかはないのである。

日本的な契約慣行のもとでは、文書のタイトルを「契約書」とせず「覚書」とするほうがなじみやすいという点は、覚書の否定し難いメリットと言えます。

4.2 覚書のデメリット

一方で、本来は契約書として厳密な権利義務を確定的に記載すべきところ、上述したような日本的契約慣行を許容した覚書を多用すると、問題も生じやすくなるデメリットが、覚書にはあります。

具体的には、契約書ではなく覚書としてあいまいな文言で権利義務を規定したために、紛争発生時やその後の訴訟において具体的な権利・義務が存在したことを主張しにくくなる可能性は高まります。また、契約書に付随する覚書が増えるほどに、文書の一元管理が困難となり、事情を知らない者が契約内容の実体を把握することは困難になっていきます。

その結果、解決にも時間を要することとなりがちな点は、覚書を濫用することのデメリットと言えるでしょう。

5. 「覚書サンプルWordファイル」の無料ダウンロードフォーム

経済産業省の「工業製品の型の取扱いに関する覚書」はPDFで公開されており、そのまま自社用に修正して利用できるフォーマットにはなっていません。使える契約書のかたちにWordファイルに整形するのも面倒です。

そこでクラウドサインでは、3.1で解説したシンプルな覚書のサンプル条項を電子ファイルに起こし、アウトラインや見出し等に標準的な契約書の書式・スタイルを当てた覚書サンプルWordファイルを公開いたします。こちらの覚書サンプルWordファイルは、フォームからご請求いただくことで無料でダウンロードが可能です。

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6. 覚書のリスクと注意点のまとめ

以上、契約書と覚書とは、本質的には法的な効果に違いがないことについて解説しました。

一方で、日本的な契約慣行においては、「覚書」とタイトルにつけることで自社側も相手側も心理的障壁が不用意に下がり、本来慎重に検討すべき契約を安易に締結してしまっていることも分かりました。この点は覚書のリスクと言うべきでしょう。

また、「覚書なら印紙が不要」といった誤解が蔓延すれば、印紙税の滞納やペナルティとしての過怠税リスクも高まってしまいます。

こうしたリスクの芽を摘むために、自社内で不適切に「覚書」が濫用されていないかに注意し、もしあれば契約書と同様に覚書も漏れなく管理する必要があります。契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」の活用をご検討ください。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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