電子契約導入を成功させるためのステップとは?メリット、注意点、導入手順を徹底解説
電子契約は、インターネット上で契約を締結できるシステムで、従来の紙ベースの契約と比べて、時間やコストを大幅に削減できます。さらに、セキュリティやコンプライアンスの強化にも貢献することから、近年注目されています。
このように電子契約は多くのメリットをもたらしますが、導入前にいくつかの注意点を考慮しておかないと、「せっかく導入したのにメリットを感じられず、社内展開がうまくいかなかった」といった失敗につながる可能性があります。
そこで本記事では、電子契約を導入するメリットをおさらいした上で、注意点や失敗例、電子契約サービスの導入ステップを詳しく解説します。電子契約の導入を検討している企業担当者様は、ぜひ参考にしてください。
電子契約とは?
電子契約とは、インターネット等の情報通信技術を利用し、電子ファイルに対して電子データ(電子署名・タイムスタンプ等)を記録して締結する契約のことをいいます。従来の紙の契約書のように印刷や押印、郵送などの手間がなく、パソコンやスマートフォンから簡単に契約手続きを進めることができます。
厳密な定義が求められる法令では、電子契約は以下のように定義されています(電子委任状法2条2項)。
この法律において「電子契約」とは、事業者が一方の当事者となる契約であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう。
電子契約を支える電子署名の技術には、大きく分けて「当事者署名型」と「事業者署名型(立会人型)」の2つのタイプがあります。
- 当事者それぞれが自己の負担で署名鍵を準備する「当事者署名型」
- クラウド事業者が利用者に署名鍵を提供する「事業者署名型(立会人型)」
ここで用いられる技術の特徴別に電子署名のタイプをさらに細かく分けると、以下3つの電子署名タイプに分類することができます。
- ローカル型電子署名(ローカル署名)
- リモート型電子署名(リモート署名)
- クラウド型電子署名(クラウド署名)
近年では、3つ目のクラウド型電子署名を搭載した電子契約サービスが主流となっており、導入コストを抑えながら、オンラインで手軽に電子契約を始めることができます。
電子契約の仕組みについて詳しく知りたい方は下記記事もご一読ください。
電子契約を導入するメリット
電子契約を導入することで、企業は様々なメリットを享受できます。主なメリットは以下の通りです。
1. 業務効率化
電子契約は、契約書の作成、締結、保管、管理など、あらゆる契約業務を効率化します。従来、紙の契約書で行っていた印刷、押印、郵送、保管などの作業が不要になるため、大幅な時間短縮につながります。また、契約書の検索や参照も容易になり、必要な時にすぐにアクセスできるようになります。
2. コスト削減
電子契約は、紙の契約書に比べて、印刷費、郵送費、印紙代、保管場所などのコストを削減できます。特に、大量の契約書を扱う企業にとっては、コスト削減効果が大きくなるため、見過ごせない効果です。
なお、電子契約で収入印紙がなぜ不要になるのかを詳しく知りたい方は下記の関連記事もご一読ください。
時間短縮
電子契約は、契約締結までの時間を大幅に短縮できます。従来、郵送でやり取りしていた契約書が、電子契約では数分で相手に届き、すぐに承認を得ることができます。
例えば、顧客から何らかのサービス申込み手続きが必要なビジネスを想定してみましょう。従来の書面の契約ではサービスの申し込みから提供までに1〜2週間かかります。しかし、電子契約の導入により契約締結までのリードタイムが短縮でき、顧客は申し込んだその日からサービスを開始できるようになります。
4. リスク管理の強化
電子契約は、改ざん検知機能やアクセス制限機能など、セキュリティ対策が充実しているため、契約書の紛失や改ざんのリスクを低減できます。また、契約書のバージョン管理や履歴管理も容易になり、コンプライアンス強化にも貢献します。
5. 内部統制の強化
サービスによっても異なりますが、一般的な電子契約サービスであれば、「いつ・誰が」電子契約を送信・承認したのかといったプロセスが把握できるようになるため、内部統制を強化することができます。
契約業務の流れや進捗が把握できるようになることで、業務の透明性の確保と責任・権限の明確化につながり、企業のガバナンス向上にも繋がるでしょう。
電子契約を導入する際の注意点
電子契約は多くのメリットをもたらしますが、導入前に考慮すべき注意点もいくつか存在します。導入を検討している場合には確認しておきましょう。
1.導入や運用のコストがかかる
電子契約システムの導入には、初期費用や月額利用料などのコストが発生します。システムの種類や利用プランによっても費用は大きく異なりますが、クラウド型の電子契約サービスを利用する場合、月額(または年額等)の利用料がかかります。支払い方法は毎月の場合や1年分まとめての支払いの場合もあるため、導入前に確認しておくのが良いでしょう。
なお、電子契約サービスのなかには有償のプランを契約する前にお試しができるように無料のプランを設けている場合もあります。その場合には利用料は発生しませんが、ひと月で締結できる契約件数が限られているなどの制限があるため、無料のプランを検討している方は留意しておきましょう。
2. 取引先からの承諾等が必要な場合がある
電子契約に対応していない取引先との間で電子契約を締結する場合には、先方から電子契約の利用に関して承諾を得る必要があります。先方の状況によっては電子契約ではなく紙での契約締結を希望する場合もあるため、柔軟な対応が求められるでしょう。
また、契約の種類によっては、契約相手方の承諾・希望・請求を書面で得なければ電子契約での締結ができない場合もあります。例えば、建設工事の請負契約・下請との受発注書面については、建設業法により事前に相手方の承諾が必須である旨が規定されています。
電子契約で締結したい書類が契約相手方の承諾等が必要かどうか確認したい場合は下記記事もご一読ください。
電子契約導入でよくある失敗例
電子契約導入でよくある失敗例として「最初は印紙代削減目的で総務で導入したものの、総務で押印をする書類自体の件数が少なかったため社内にアピールできるような成果が出せず、社内展開に苦戦した」というケースが挙げられます。
このような失敗を避けるためには、導入前に各部署の契約書の種類や件数、コストなどを調査し、費用対効果の高い契約書から優先的に電子化を進めることが重要です。また、現場担当者の意見を聞きながら、受け入れられやすいテーマから始めることも、社内展開を成功させるためのポイントです。
次項で電子契約の導入を成功させるための手順を詳しく解説しますので、確認しておきましょう。
電子契約の導入を成功させるための手順7ステップ
電子契約導入を成功させるためには、以下の手順で進めることが重要です。
1. 情報収集
電子契約に関する情報を幅広く収集しましょう。電子契約の概要、メリット・デメリット、導入事例、システムの種類、選び方など、基礎知識を網羅的に把握することが大切です。
近年、電子契約の導入を検討する企業は増加傾向にあります。特に、2022年以降はリモートワーク目的よりも、業務効率化やコスト削減を目的として電子契約サービス導入を検討する企業が多い傾向があります。
情報収集のポイントとしては、次の3点が挙げられます。
- 最新動向の把握:電子契約に関する最新の法改正情報や技術動向を把握しましょう。
- 導入事例の把握:自社と同業種や同規模の企業の導入事例を参考に、導入効果や注意点などを把握しましょう。
- 電子契約サービスの比較検討: 様々な電子契約サービスの特徴や機能を比較検討し、自社に最適なサービスを選べるように情報を収集しましょう。
情報収集をしっかりと行うことで、電子契約導入の目的や課題が明確になり、より効果的な導入計画を立てることができます。
2. 業務課題の調査
次に、自社の契約業務における課題や問題点を洗い出します。契約書の作成・締結・保管・管理など、各プロセスにおけるボトルネックや非効率な部分を明確化しましょう。
具体的には、以下の項目を調査します。
- 契約書類の種類と件数:
どのような種類の契約書を、年間どれくらいの件数取り扱っているのかを把握します。
契約書の種類別に、件数、処理時間、コストなどを分析することで、電子契約化による効果を具体的に見積もることができます。 - 契約書の業務オペレーション:
各契約書について、作成、締結、保管、管理といった一連の業務フローを可視化します。各プロセスにおける担当者、所要時間、コスト、課題などを明確化することで、ボトルネックとなっている箇所を特定することができます。
また、業務課題を調査する際には、件数(量)と現場の声(質)の両方を収集することが重要です。
- 件数: 契約書の種類別の件数や処理時間、コストなどを分析することで、電子契約化による定量的な効果を把握することができます。
- 現場の声: 現場担当者から、日々の業務における課題や要望をヒアリングすることで、電子契約化による定性的な効果を把握することができます。
例えば、以下のような声が挙げられるかもしれません。
「契約書の印刷、製本、押印、郵送など、事務作業に時間がかかっている」
「契約書の保管場所が不足している」
「契約書の紛失や誤送が心配」
「契約書の締結状況を把握しにくい」
「取引先との契約書の内容確認に手間がかかる」
これらの声を収集することで、電子契約導入によって、現場担当者の負担を軽減し、業務効率を向上させることができるのかを判断することができます。より効果的な電子契約導入計画を策定するためにも、社内のステークホルダーの声を収集するように心がけましょう。
3. 効果の確認
電子契約の導入によって、洗い出した課題がどのように解決されるのか、具体的な効果を検証します。費用対効果だけでなく、業務効率化やリスク管理の改善など、定性的な効果も評価しましょう。
この際、各書類や部署で「金銭的価値」と「付加価値」の観点で導入する効果やメリットを確認することが重要です。
金銭的価値としては次の3つの観点が挙げられます。
- コスト削減: 印紙代、郵送費、印刷費、保管費用など、直接的に削減できるコストを算出します。
- 時間短縮: 契約締結までの時間短縮によって削減できる人件費などを算出します。
- 売上増加: 契約締結のスピードアップによって、機会損失を防ぎ、売上増加が見込める場合は、その効果を算出します。
付加価値としては次の5つの観点が挙げられます。
- 業務効率化: 契約書の作成、締結、保管、管理にかかる業務を効率化することで、担当者の負担を軽減し、コア業務に集中できる時間を増やすことができます。
- コンプライアンス強化: 契約書の改ざん防止やバージョン管理などにより、コンプライアンスリスクを低減することができます。
- セキュリティ向上: 契約書の紛失や漏洩のリスクを低減することができます。
- 顧客満足度向上: 契約締結までの時間短縮やペーパーレス化などにより、顧客満足度を向上させることができます。
- 従業員満足度向上: 契約業務の効率化により、従業員の負担を軽減し、モチベーション向上に繋げることができます。
また、電子契約導入の効果を検討する際には、導入自体が目的にならないように注意する必要があります。
例えば「電子契約を導入すれば、業務が効率化される」と漠然と考えるのではなく、「電子契約を導入することで、具体的にどのような業務がどのように効率化されるのか」を明確にする必要があります。
電子契約の導入を検討している方は、どのような付加価値が得られるのかをしっかりと見極めた上で導入するサービスを決めるようにしてください。
4. 優先順位付け
複数の課題がある場合は、優先順位をつけましょう。緊急度や重要度、費用対効果などを考慮し、優先的に取り組むべき課題を決定します。
その際、「受け入れられやすさ」と「コスト効果」の2つの観点で整理することを推奨します。
まず「受け入れられやすさ」の観点では、新しいシステムや制度を導入する際、社内の理解と協力は不可欠です。特に、電子契約は従来の契約業務フローを大きく変えるため、現場担当者や経営層の理解を得ることが重要になります。
受け入れられやすいタイプの契約書としては、以下のようなものが挙げられます。
- 日常的に利用頻度の高い契約書: 利用頻度が高い契約書から電子化することで、現場担当者のメリットを実感しやすく、スムーズな導入につながります。
- 関係する部署・担当者が限定されている契約書: 例えば雇用契約書のように、関係する部署・担当者が限定されている契約書からスモールスタートで始めることで、導入時の混乱を避けることができます。
- コスト削減効果の高い契約書: 印紙代や郵送費などのコスト削減効果が高い契約書から始めることで、経営層にアピールしやすく、社内展開を促進することができます。
次に、電子契約導入の効果を最大化するためには、コスト削減効果の高い契約書から優先的に電子化を進めることが重要です。
例えば、以下のような契約書の電子化は、コスト削減効果が高いと考えられます。
- 年間の契約件数が多い契約書: 年間契約件数が多い契約書を電子化することで、業務効率化の効果を大きくすることができます。
- 印紙代が高額な契約書: 印紙代が高額な契約書を電子化することで、コスト削減効果を大きくすることができます。
- 送付時の人件費や管理コストがかかる契約書: 営業担当者が取引先に直接受け渡している契約書や定期的に更新が発生するタイプの契約書を電子化することで、コスト削減効果を大きくすることができます。
5. 協力の取り付け
電子契約導入を成功させるためには、社内外の関係者の協力が不可欠です。経営層、法務部門、IT部門、現場担当者、取引先など、関係者の理解と協力を得るためのコミュニケーションを積極的に行いましょう。
代表的なプロジェクトチームの構成員としては、以下のメンバーが挙げられます。
- 導入推進担当者: プロジェクトリーダーとして、計画策定から実行まで、プロジェクト全体を推進します。
- 法務担当: 電子契約の法的有効性や契約書のリーガルチェックを担当します。
- 情報システム担当: システム選定、導入、運用など、IT関連の業務を担当します。
- 導入する現場担当: 実際に電子契約を利用する現場の担当者。現場の意見を反映し、使いやすいシステム構築に貢献します。
- 担当役員: プロジェクトの意思決定や予算承認などを行います。
関係者の協力を得るためには、電子契約導入のメリットを丁寧に説明し、理解と共感を深めることが重要です。協力体制を構築することで、電子契約導入をスムーズに進めることができます。
6. 製品比較
複数の電子契約システムを比較検討します。機能、使いやすさ、セキュリティ、費用、サポート体制などを比較し、自社のニーズに最適なシステムを選びましょう。無料トライアルやデモ版などを活用して、実際に試してみることもおすすめです。
特にサポート体制の充実度については見過ごされてしまいやすいポイントですが、導入時はもちろんのこと、導入後のサポートの手厚さや、サービス連携に関する知見が豊富かどうかでその後の活用状況も変わるため、念頭に置いておきましょう。
なお、電子契約サービスの比較検討のポイントを知りたい方は下記記事も参考にしてみてください。
7. 上申・稟議
導入するシステムが決まったら、経営層に上申・稟議を行います。導入目的、効果、費用などを明確に説明し、承認を得ましょう。
昨今、「業務プロセスの効率化」「働き方改革」に関する取り組みは経営者側も重視しているため、業務効率化と働き方改革が目的であることを伝えることが重要です。
まとめ
電子契約サービスの導入は、業務効率化、コスト削減、時間短縮、リスク管理の強化など、多くのメリットをもたらします。単にコストを削減できるだけでなく、長期的にみれば競争力の強化にも繋がり、ビジネスの成長を加速させることができます。
電子契約システムの導入を検討する際は、自社のニーズに合ったシステムを選び、適切な手順で導入を進めることが重要です。本記事で紹介した内容を参考に、電子契約導入を成功させ、ビジネスの効率化を実現しましょう。
なお、クラウドサインではこれから電子契約サービスを比較検討する方に向けて「電子契約の始め方完全ガイド」をご用意しています。
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