法律・法改正・制度の解説

不動産契約の電子化と不動産登記手続きの実務—登記所は電子契約に対応できるか

不動産契約の電子化と不動産登記手続きの実務—登記所は電子契約にどこまで対応できるか

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の施行に伴い、それまで押印や書面交付が必要だった不動産取引について、新たに電子契約が認められるようになります。では、法務局における登記実務はこれらにどこまで対応しているのでしょうか。法務省に問い合わせました。

1. デジタル社会形成整備法による借地借家法等の改正および不動産登記令等の改正

令和3年(2021年)5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」により、それまで押印と書面交付が義務付けられていた不動産取引のさまざまな契約書類について、電子化が認められることとなりました。

このデジタル社会形成整備法に基づく借地借家法等の改正については、1年越しの令和4年(2022年)5月18日に施行されることが決定しており、不動産業界ではこの2022年が電子契約化に向けた大きな転換点となります。

1.1 デジタル社会形成整備法によって新たに電子化が認められた契約・特約

ここで、デジタル社会形成整備法の施行により、令和4年(2022年)5月18日より新たに電子化(電磁的記録による締結)が認められることとなった契約・特約を確認しておきましょう。

(1) 整備法35条関係

① 定期借地権の設定に係る特約(借地借家法22条2項)
② 定期建物賃貸借の契約(同法38条2項)
③ 建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨の特約(同法39条3項)

(2) 整備法44条関係

終身建物賃貸借の契約(高齢者の居住の安定確保に関する法律52条2項)

(3) 整備法58条関係

被災地短期借地権の設定を目的とする契約(大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法7条4項)

中でも、(1)①の定期借地権設定契約・②の定期建物賃貸借契約の電子化が認められたのは、不動産業界において大きな変化と言えます。

1.2 対応する登記令の改正

上記1.1の契約類型について新たに電子化(電磁的記録による締結)が認められたことに対応して、関連する登記に関する法令も改正され、オンライン登記申請時に電磁的記録を添付情報として提出できることとなりました。

(1)土地区画整理登記令

定期借地権の設定に係る特約を電磁的記録によってすることができる旨の規定が追加されたことに伴い、規定の形式的な整備が行われました。

(2)不動産登記令

  • 定期借地権の設定に係る特約
  • 定期建物賃貸借の契約
  • 建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨の特約
  • 終身建物賃貸借の契約
  • 被災地短期借地権の設定を目的とする契約

を電磁的記録によってすることができる旨の規定が追加されたことに伴い、別表33のイ・ハおよび別表38のイ・ハ・ホに所定の電磁的記録を添付情報とすることができる旨の規定が整備されました。

以上の改正法令施行については、令和4年(2022年)4月27日付官報(号外第92号)に掲載されています。

令和4年(2022年)4月27日付官報(号外第92号)

2. 不動産取引時の押印・書面原則は廃止されたものの、登記時に添付する電磁的記録の作成手段については緩和措置なし

こうして不動産契約の電子化がさらに進み、登記の際に提出を求められる添付情報に電磁的記録(電子ファイル)が活用できる範囲が広がっています。

一方で、その電磁的記録に措置すべき(押印に代わる)電子署名と電子証明書については、どのような要件が求められているのか、今回改正された条文では新たな規定が見当たりません。

今回の法改正以前より、不動産登記の添付情報として利用できる電子証明書については、不動産登記令15条において準用する同令14条。不動産登記規則52条2項によって指定され、「添付情報を記録した磁気ディスクの記録作成方法について(令和元年7月1日改定)」として法務省ウェブサイトに掲示されています。

添付情報を記録した磁気ディスクの記録作成方法について(令和元年7月1日改定)

法務大臣によって指定された民間の特定認証業務電子証明書の中には、すでにサービスを廃止したものもあり、現在も利用できる電子証明書としては、以下5種類に限定されていました。

  • 公的個人認証サービス電子証明書(マイナンバーカード署名)
  • 電子認証登記所電子証明書 (商業登記電子署名)
  • 土地家屋調査士法施行規則に基づき法務大臣が指定した電子証明書
  • 司法書士法施行規則に基づき法務大臣が指定した電子証明書
  • 「電子認証サービス(e-Probatio PS2)」(氏名及び住所により電子署名を行った者を確認することができるものに限る。)
  • 指定公証人電子証明書

今回、この電子署名に関する規制緩和がないとすれば、この中で、民間企業が電子契約に用いるものとして現実的な選択肢は商業登記電子署名しかなく、また個人事業主や個人の地主等を電子契約の相手方にする場合は、マイナンバーカード署名を用いる必要がある、ということになります。

3. 法務省の回答は「不動産登記についてはこれまでと変わらず、原則商業登記電子署名またはマイナンバーカード署名が必要」

この点につき、サインのリ・デザイン編集部で不動産登記を所管する法務省民事局民事第2課を取材したところ、以下の回答を得ています。

Q1 この度、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行され、借地借家法関連で登記添付情報として電磁的記録の提出が認められるようになったが、ここに記録する電子署名・電子証明書については、規制緩和は行われていないのか。

A1 (確認のためしばらく電話を保留された後)添付情報としての電磁的記録は、不動産登記において登記令14条が指定する商業登記電子署名or マイナンバーカード署名を用いることが原則であり、規制緩和は行っていない。

Q2 今回の整備法により、民間の電子契約サービスを使って契約ができるようになったが、この方法によって契約を締結した場合は添付情報をどのように提出すればよいか。

A2 想定していない。不動産登記においてはこれからの課題と考える。

Q3 書面による登記実務における契約書コピーへの原本証明・原本還付の手続きのような形で、民間電子契約サービスで締結した電磁的記録に、商業登記電子署名 or マイナンバーカード署名を用いて原本証明のための電子署名を付して提出できないか。

A3 電磁的記録の場合、原本還付の概念が想定されていないので、受け付けられない。

Q4 民間電子契約で締結した電子契約ファイルに、商業登記電子署名 or マイナンバーカード署名を上書きする方法ではどうか。

A4 登記所で電子証明書が確認できればおそらく受け付けられるだろう。

以上をまとめると、登記を通せる不動産取引とするためには、現段階でも契約の段階から商業登記電子署名 or マイナンバーカード署名を用いることを前提としている、ということになります。

借地借家法等に存在した規制を緩和し電子化を推進しようという中で、登記手続きについてはそもそも緩和の必要性が検討された様子もなく、後手に回っていることが分かります。電子契約に民間サービスを用いた場合の登記所実務の現状としては、Q&A4で示された方法による対応が求められそうです。

同じ法務省でも、民間電子契約サービスを用いた登記添付情報の提出ニーズにすぐに対応した商業登記のケースとは、スピード感に雲泥の差があります(関連記事:法務省が商業登記に利用可能な電子署名サービスにクラウドサインを指定)。不動産取引の完全電子化をこれまで以上に推進するには、法務省のさらなる対応を待つ必要があります。

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