フリーメールアドレスで締結する電子契約のリスクと注意点
フリーメールアドレスを利用した電子契約が問題視される理由
電子契約に否定的な見解をお持ちの方々がしばしば指摘される点として、「相手がフリーメールアドレスでも契約が締結できてしまうなんて、なんだかリスクがありそうで怖い」というものがあります。
フリーメールアドレスとは
ここでいうフリーメールとは、一般に「インターネットに接続さえできれば、誰もが無料で利用できる電子メールサービスのアドレス」を指します。
代表的なものだけを挙げても、下表のとおり、世界でも有数のインターネット企業がこぞって無料のフリーメールサービスを提供していることが分かります。
提供事業者 | フリーメールアドレスのドメイン | メールボックス容量 |
---|---|---|
@gmail.com | 15GB | |
Microsoft | @outlook.com, @hotmail.com, @live.jp | 15GB |
Apple | @icloud.com, @me.com | 5GB |
AOL Asia Limited | @aol.jp | 無制限 |
Yahoo | @yahoo.co.jp | 10GB |
読者の皆様も、このうちいずれかは個人で利用された経験をお持ちなのではないでしょうか。
フリーメールアドレスを利用した電子契約はなぜ不安を引き起こすのか
こうしたフリーメールアドレスを利用した電子契約を見ると、とたんに電子契約を利用することに不安に駆られる方は少なくありません。その不安は、なぜ発生するのでしょうか。
それは、一般に信頼性が低いフリーメールアドレスが原因となって契約の相手方の「なりすまし」が発生しやすくなること、万が一なりすましが発生した際に追跡と責任追及が難しくなると考えられていることが原因です。確かに、信頼できないメールアドレスから送信されるいわゆるフィッシングメール等、メールを使った詐欺行為はインターネットの黎明期から枚挙にいとまがなく、そうしたものを連想してしまうのも無理はありません。
この不安は、まったくの見当違いとまでは言わないものの、その根元的な理由を整理していくと、
- フリーメールアドレスを利用すれば直ちに危険というわけではないこと
- フリーメールアドレスを用いた電子契約にもリスクを低減する対処法が存在すること
が分かります。
電子契約で用いられるメールアドレスの種類と本人性
以下、改めてフリーメールサービスとそれ以外のメールサービスにおけるアドレス発行手順と、その性質の違いを比較しながら、それぞれのアドレスが持つ本人性の違いを紐解いてみます。
フリーメール(@gmail.comや@yahoo.co.jp等)の発行手順
サービスの登録画面にブラウザでアクセスし、希望するメールアドレス(ドメイン名を除くユーザーネーム部分)とともに、入力フォームの項目に従って氏名等のユーザー情報を入力することで、無償でメールアドレスとメールボックスを提供するのが、いわゆるフリーメールサービスです。
フリーメールサービスのアカウントを作成する際に入力するユーザー情報は、あくまでそのユーザーの自己申告に基づくものとなり、公的身分証明書などの提示は求められません。したがって、本当に本人のものであるか(第三者がなりすまして登録しようとしていないか)は、検証されないことが通常です。
ただし、GoogleやYahooなどでは、その登録の際に再設定用の携帯電話番号や保有するメールアドレスの登録を求めるプロセスがあります(関連記事:Google アカウントの作成)。これにより、悪用を目的としたようなメールアドレスの濫造を防止しようとする意図が伺えます。
プロバイダメール(@so-net.ne.jpや@biglobe.ne.jp等)の発行手順
個人が自宅からインターネットに接続する場合、回線契約とともに何らかのプロバイダと有償契約することになります。この時に、プロバイダからユーザー向けにメールアドレスが発行されます。これがプロバイダメールです。
プロバイダ契約は有償契約ですが、利用登録の際に入力するユーザー情報については、フリーメールサービスへの登録作業と同様にユーザーの自己申告に基づくものであり、公的身分証明書などの提示は通常求められません。
ただし、有償契約であるため、以下の情報の提出は当然に必要となります。
- 契約に必要な書類や請求書の送付先住所
- クレジットカード情報等
さらに、事前に工事済みの住居等でない限り、ケーブル等引き込みや開通工事などで居宅に訪問等も行うプロセスも発生します。
身分証明書等の提示までは求められないものの、こうした支払情報の登録や開通工事プロセスの存在が、事実上の本人確認機能を発揮していると評価することもできるでしょう。
キャリアメール(@docomo.ne.jpや@i.softbank.jp等)の発行手順
いまや国民の80%以上が保有している携帯電話。その回線契約を行う際に取得できるのが、いわゆるキャリアメールです。
2006年4月1日に施行された「携帯電話不正利用防止法」(携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通話役務の不正な利用の防止に関する法律)により、携帯電話事業者は、ユーザーとの契約時に契約者の本人確認を行う義務を課されています。
この本人確認の場面では、公的身分証明書として
- 個人の場合:運転免許証/パスポート/マイナンバーカード等
- 法人の場合:登記事項証明書又は印鑑証明書
の提出が求められます。
こうした法令に基づく手続きが定められていることにより、携帯電話事業者が第三者としてメールアドレス利用者の本人性を確認していることになりますので、キャリアメールのアドレスは、フリーメールやプロバイダメールと比較し、高い本人性を備えたメールアドレスであると言ってよいでしょう。
ただし、公的身分証明書を偽造されたり、携帯電話を取得後にその回線契約を不正に譲渡されてしまうケースもあるため、完全に本人性を保証するものではないことにも注意が必要です(携帯電話不正利用防止法は、利用者に対してこのような譲渡を罰則付きで禁止しています)。
企業ドメインメール(@bengo4.comや@cloudsign.jp等)の発行手順
法人間のビジネス上の連絡手段として、最もユニバーサルに利用されているのが、企業ドメインのメールアドレスです。
ローカルな商店でもない限り、インターネットの利用なしにビジネスをすることは不可能な時代となりました。企業は、その設立とともに独自ドメインを取得し、代表者以下従業員にメールアドレスを発行していることと思います。
企業ドメインのメールアドレスは、名刺等にも印刷されるビジネス上重要なものだけに、就業規則等に基づき、企業の情報システム管理者が厳格な発行プロセスを経て従業員にメールアドレスを発行し、以降はその従業員本人のみが知るパスワード等を設定することが通常です。
したがって、企業ドメインのメールアドレスも、フリーメールやプロバイダメールよりも高い本人性を備えたメールアドレスと言えます。
メールアドレスの種類と違いまとめ
以上を大まかに区分・整理すると、一般論としては
- 本人性が相対的に低いのは、フリーメールやプロバイダメールのアドレス
- 本人性が相対的に高いのは、キャリアメールや企業ドメインメールのアドレス
ということになります。
「一回性の高いメールアドレス(捨てメアド)」を避けることがポイント
このように見ていくと、フリー メールやプロバイダメールのような本人性が低いメールアドレスを利用した電子契約は締結すべきでないという結論になりそうですが、必ずしもそうではありません。
フリーメールがその発行プロセスにおいて「第三者による本人確認」を経ていないのは事実です。しかし、Gmaiのような高機能なフリーメールアドレスをメインの連絡手段とし、長期間にわたり、様々な人との連絡や取引に用いているようなユーザーは、少なくありません。このような場合、そのフリーメールアドレスの利用実績の積み重ね自体が、本人との紐付き度合いと信用を担保するものとなります。これは、本人確認プロセスのないSNSのアカウントが、本人により長期間利用・発信が継続されることで、そのアカウントに本人性が化体するのと同様です。
加えて、前述の通りGmailやYahooメールなどのフリーメールサービス提供事業者も、社会の要請に応える形でセキュリティ向上にコストをかけています。最近では、登録から携帯電話のSMS機能を利用した2要素認証を行うことを半強制的に求めてくるようにもなっています。
たしかに、インターネットの黎明期に存在した「捨てメアド」、すなわち簡単な手続きメールアドレスを無尽蔵に生成できてしまうようなフリーメールサービスのアドレスを利用するのは、電子契約においては避けるべきでしょう。
一方で、一回性の高いメールアドレスではなく、取引の相手方が長期間・複数の取引先との連絡に利用していることが確認できているメールアドレスであることを事前に確認しておくことにより、「電子契約を締結しようとしていた相手が本人ではなかった」というトラブルも回避しやすくなります。
(文:橋詰)
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