契約実務

2024年度改正の裁量労働制の変更点を解説 専門業務では何が変わる?

従業員が自身の勤務時間を決定できる裁量労働制は、特定の職種に制限があるものの、働き方改革の推進に伴い注目を集めている労働時間の取り決め方法の1つです。

当記事では、2024年の改正ポイントも交えつつ、この裁量労働制に関する制度概要や導入時の留意点について説明します。労務に従事しており専門業務型裁量労働制の改正ポイントを知りたい方はぜひ参考にしてみてください。

専門業務型裁量労働制とは

厚生労働省の公式サイトによれば、専門業務型裁量労働制とは「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」を指します。

専門職に適用される裁量労働制であり、2024年度以降は以下20職種が対象となっています。

1.新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2.情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組
み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同
じ。)の分析又は設計の業務
3.新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和
25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)
の制作のための取材若しくは編集の業務
4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5.放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6. 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆる
コピーライターの業務)
7.事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用す
るための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの
業務)
8. 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわ
ゆるインテリアコーディネーターの業務)
9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10.有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基
づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11.金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12.学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主と
して研究に従事するものに限る。)
13.銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づ
く合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
14.公認会計士の業務
15.弁護士の業務
16.建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
17. 不動産鑑定士の業務
18. 弁理士の業務
19. 税理士の業務
20. 中小企業診断士の業務

出典:専門業務型裁量労働制について|厚生労働省

専門業務型裁量労働制を導入する場合には、労使間で法定上の必要事項を定めた労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署への届け出(正式名称「専門業務型裁量労働制に関する協定届」)の提出が必要です。さらに、個別の労働契約や就業規則にも、裁量労働制に関する規定を明記する必要があります。

専門業務型裁量労働制に関する協定届のテンプレートは厚生労働省の公式サイトにある「主要様式ダウンロードコーナー (労働基準法等関係主要様式)」でダウンロード可能なため、これから専門業務型裁量労働制を導入する場合は入手してみてください。

専門業務型裁量労働制の主な改正ポイント

裁量労働制は実労働時間ではなく、労使で定めた時間によって労働時間を算定する制度ですが、2024年4月に制度の見直しが行われました。以下で改正の主なポイントを見ていきましょう。

「対象業務」が追加された

2024年4月の制度の見直しにより、従来の19業務に加え「銀行または証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査または分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加され、専門業務型裁量労働制の対象業務は全部で20業務になりました。

追加された業務の具体例としては銀行や証券会社の顧客に対して企業の合併や買収に関する業務を行うM&Aアドバイザーが挙げられます。

手続きに「労働者本人の同意」が追加された

2024年4月より、労使協定において定める現行の7項目に3項目(下記の⑥⑦⑧)が追加され、また⑩の項目が変更されます。

【2024年4月から労使協定で定める項目の一覧】
①制度の対象とする業務
②労働時間としてみなす時間
③対象となる業務の遂行手段や時間配分などに関し、労働者に具体的な指示をしないこと
④対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
⑤対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置
⑥制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
⑦制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
⑧制度の適用に関する同意の撤回の手続き
⑨労使協定の有効期間
⑩労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処置措置の実施状況、同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること

2024年4月以前は労働者本人の同意は必要とされていませんでしたが、専門業務型裁量労働制の開始にあたって、⑥の「制度の適用にあたって労働者本人の同意を得る」手続きが採用された点が大きな変更点と言えるでしょう。

改正後は、上記の事項を労使協定に定め、締結後は協定の内容に沿った制度運用が求められます。運用について不明点がある場合には、最寄りの都道府県労働局又は労働基準監督署に問い合わせて確認しておきましょう。

健康・福祉確保措置の追加

厚生労働省の公開している資料「専門業務型裁量労働制について」によれば、以下のいずれかを選択し、実施することが適切であり、1、2からひとつずつ以上実施することが望ましいとされています。

【1:長時間労働の抑制や休日確保を図るための事業場の適用労働者全員を対象とする措置】
① 終業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)
② 深夜業(22時~5時)の回数を1箇月で一定回数以内とする
③ 労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除
④ 連続した年次有給休暇の取得

【2:勤務状況や健康状態の改善を図るための個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置】
⑤ 医師による面接指導
⑥ 代償休日・特別な休暇付与
⑦ 健康診断の実施
⑧ 心とからだの相談窓口の設置
⑨ 必要に応じた配置転換
⑩ 産業医等による助言・指導や保健指導

まとめ

裁量労働制は、労働時間の管理を従業員に委ねる働き方改革のひとつです。労働者と企業が合意した期間で労働時間が設定されます。当記事で見てきた通り、2024年4月から制度が改正されますので、今後必要な対応を確認し、適切に導入しましょう。

なお、厚生労働省のリーフレット「専門業務型裁量労働制の解説」によれば、専門業務型裁量労働制を受けることに関する労働者本人からの同意については、口頭のみではなく、書面や電磁的記録など確実な方法で取得することが適切とされています。 また、同意に関する労働者ごとの記録は労使協定の有効期間中およびその満了後3年間保存する必要があります。

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