法律・法改正・制度の解説

電子帳簿保存法とは?企業の管理部門責任者が知っておくべきポイント

電子帳簿保存法とは?企業の管理部門責任者が知っておくべきポイント

この記事では、電子帳簿保存法について解説します。法律の成り立ちから、企業の管理部門責任者として知っておくべきスキャナ保存・電子取引の電磁的記録保存に関する制度の概要と、最近の法改正のポイントを押さえた上で、企業が電子帳簿保存法に対応することのメリットを理解しましょう。

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法の正式名称と目的

電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、平成10(1998)年に施行された法律です。

財務省が所管し、会計帳簿や国税関係書類を電子化する際のルールが規定されています。デジタル化が進展し、企業においても書類や文書の電子化が進む中、国税関係帳簿書類の適切な管理と保存体制を確保させることが目的です。

電子帳簿保存法とe-文書法との違い

企業の書類の電子化に関する法律としては、e-文書法が有名です。

e-文書法は単独の法律ではなく、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」および「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の総称です

平成10年に施行された当時の電子帳簿保存法は、総勘定元帳や売上元帳等の「国税関係帳簿書類」を電子的に保存することを(部分的に)認めたものでした。これに対し、平成17年に施行されたe-文書法は、民間事業者に保存が義務付けられている書類の電子保存を、原則としてすべて容認するための法律として制定されました。

e-文書法の施行に伴い、同年に改正電子帳簿保存法も施行され、紙で保存していた領収書や請求書等をスキャナでイメージファイル化して、電子ファイルとして保存が認められました。これによって、後述する国税関係書類スキャナ保存制度のスタートしたわけです。

現在では、スキャナ保存だけではなく、PDFファイルや電子データなどの電磁的記録を含む様々な電子化での保存が、電子帳簿保存法によって認められています。

電子帳簿保存法の概要と最新改正ポイント

スキャナ保存制度

電子帳簿保存法が定めるスキャナ保存制度とは、紙で受領した国税関係書類をスキャナ等で電子化し、画像(電子ファイル)の形式で保存することで紙文書の廃棄を可能とする制度です(電子帳簿保存法第4条第3項、同法施行規則第2条第5項から第9項、電子帳簿保存法取扱通達法第4条関係)。

この制度の導入によって、紙で受領した領収書や請求書をスキャナで電子化し、適切なプロセスを経ることで、紙の原本が廃棄でき、ペーパーレス化を実現することができるようになりました。

紙の原本廃棄後は、電磁的記録(スキャン作業により電子化された電子ファイル)が原本となり、これを7年間の法定期間(欠損金の繰越控除を受ける場合は最長10年間)保存する義務を負います。

電子取引の電磁的記録保存制度

電子帳簿保存法が定める電子取引の電磁的記録保存制度は、PDFファイルや電子データなどの電磁的記録で送付または受領した取引情報を、電磁的記録のままで保存することを義務付けるものです(電子帳簿保存法第7条、同法施行規則第4条)。

令和2年(2020年)の改正によって、立替経費精算時等にキャッシュレス決済で受領できる電子明細を規定の方法で保存すれば、領収書・レシートを紙で保存しなくてもよいとされました。

これにより、キャッシュレス決済の積極的導入によるペーパーレス化が推進しやすくなりました。

令和3年・令和4年の最新改正ポイントと注意点

スキャナ保存制度はここ数年、繰り返し改正され要件緩和が続けられてきました。特に令和3・4年度の改正では、以下6点について大きく緩和されました。

  1. 運用開始のための税務署への申請が不要となった
  2. 領収書受領者による電子化の際の自筆の署名が不要となった
  3. 電子化入力期間がすべて2か月+おおむね7営業日と統一された
  4. 一定の要件を満たせばタイムスタンプの付与が不要となった
  5. 適正事務処理要件の適用が不要となった
  6. 検索要件が緩和された

こうしたスキャナ保存制度の規制緩和がすすめられた一方で、電子取引の電磁的記録保存制度においては、一部で運用が厳格化されるという事態も起きています。

特にPDFファイル形式で受領した電子請求書を、紙に印刷して保存している企業は注意が必要です。令和3年度の電子帳簿保存法の改正により、これまで認められていた「電磁的記録を印刷して紙で保存すること」が認められなくなったためです。

この改正については企業等からの批判が強く、令和4年度改正により、書面保存廃止の件は2年間の宥恕期間が設けられました。これにより、令和5(2023)年12月末までは、電磁的記録をデータのまま保存することができない等のやむを得ない事情がある場合に限り、出力した書面を整理保存し税務調査を受けた際に提示することができるようにしていれば、書面保存することが可能とされました。

しかしながら、これはあくまで一時的な「宥恕」措置であり、令和6(2024)年1月からは、電磁的記録で受領したものは、電磁的記録のままで保存することが必要になるため、注意が必要です。

電子帳簿保存法に対応するメリット

企業全体のメリット

電子帳簿保存法に対応し、領収書や請求書の電子化によってペーパーレス化を行うことで、多くの当事者に様々なメリットが生まれます。

企業にとって最もわかりやすいメリットは、ペーパーレス化です。紙で原本を作成し郵送するコストや、紙の文書を永年保存する手間やスペースにかかるコストなど、様々なコストの削減につながります。

企業内で行われる経理手続きに関し、立替経費精算・請求書処理に費やしていた人件費リソースを、本来行うべき業務に使う時間に当てることができるのも、見逃せないメリットでしょう。

経理部門のメリット

経理部門側におけるスキャナ保存のメリットとしては、事務作業やそれに伴うミスの発生頻度が減ることに加え、これまで必要とされていた「相互けん制」や「廃棄時の定期検査」が原則不要になり作業を軽減できることが挙げられます。

人の手による紙から電子への情報転記がなくなれば、データの改ざんや入力ミスがなくなりますので、経理部門において、申請された内容の値を一つ一つ確認することも不要になります。

さらに、電子取引の電磁的記録の活用により、スキャンまたは撮影された紙の領収書や請求書の画像も添付されなくなれば、従業員によるスキャン・撮影ミスのチェックする必要もなくなります。

なお、相互けん制や定期検査の作業については明確な作業内容の定義というものはなく、「運用する企業において『ここまでやれば不正を防止できる』と思えるやり方で実施する」ことが求められます。

従業員のメリット

従業員に一人一人にもメリットがあります。第一に、入力や申請処理の作業負担が、従来に比べ格段に軽減されるという点です。

令和3年度の改正により、電子化の期限が最長で2か月+おおむね7営業日となり、領収書への自署が不要、定期検査不要で廃棄可能など、大幅な緩和が実現しました。これにより従業員がスマートフォンで紙の領収書を電子化したら、すぐにその場で廃棄することも可能になります。リモートワークの促進にも寄与するでしょう。

また、キャッシュレス決済の履歴がそのまま証憑として認められることにより、データの入力ミスが発生しなくなります。コーポレートカード活用促進も進めやすくなり、立替払いの負担も大きく減ることが期待されます。

まとめ

電子帳簿保存法は、企業が国税関係帳簿書類を電子化して適切に管理・保存することを目的として、スキャナ保存制度や電子取引データの保存制度を導入した法律です。

令和3・4年度の改正では、スキャナ保存制度の要件緩和が行われ、申請不要、自筆署名不要、電子化入力期間の統一などが実現しました。電子取引の電磁的記録保存制度では、令和5年12月末まで一部書面保存が許容されていますが、令和6年1月からは電子取引データのまま保存が必要になります。

電子帳簿保存法に対応することで、企業全体、経理部門、従業員に様々なメリットが生まれ、ペーパーレス化による業務効率の向上やコスト削減が可能です。

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この記事を書いたライター

弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部

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