電子契約の基礎知識

【2023年最新版】電子契約に関する法律とは?電子契約の有効性を支える法律を解説

電子契約の法律—電子契約の有効性と規制を理解するために知っておくべき法律まとめ

契約書などの書面の電子化を検討している方の中には電子契約に関する法律を確認したい方もいるのではないでしょうか。この記事では、電子契約に関する法律をまとめて紹介いたします。企業の契約業務の電子化を進めるにあたり、電子契約を利用する際に知っておくべき主な法律を分野別にリストアップしていますので、電子契約に関する法律を確認しておきたい方は参考にしてみてください。

1. 電子契約に関する法律とその分類方法

デジタル庁が設置されて以降、政府を挙げてデジタル社会に対応するための法改正が急ピッチで進んでいます。企業においても、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進められており、そのDXの一丁目一番地が「電子契約の導入と浸透」と言っても過言ではありません。

企業の契約業務の電子化を進めるにあたり、知っておくべき法律はたくさんあります。一方で、その法的リスクの検討に尻込みをしてしまい、なかなか電子契約の導入に至らないという企業も少なくないようです。

そこで以下では、電子契約に関する法律を、

  • 電子契約の有効性を支える法律
  • 電子契約の利用者を保護する法律
  • 電子契約関連サービスを提供する事業者を規律する法律
  • 電子契約の税務に関する法律

の4つに分類して、詳しい関連記事へのリンクもご紹介しながら、押さえておくべき知識を解説していきます。

電子契約に関する法律を4つに分類して解説

電子契約に関する法律を4つに分類して解説

2. 電子契約の有効性を支える主な法律

2.1 民法

企業と企業、企業と個人など、私人間における契約のルールを定めた法律が民法です。民法では「契約方式の自由」が明記され、契約の成立に書面は必要ないという大原則が明文化されています(民法522条2項)。

第522条 (1項省略)
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

この契約方式自由の原則により、取引基本契約・秘密保持契約・売買契約・業務委託契約・請負契約・雇用契約など、ほとんどの契約において電子契約が利用可能となっています(関連記事:電子契約の利用可能範囲と改正民法522条 —契約方式自由の原則とその例外

2.2 電子署名法

電子署名の法的有効性を定めた法律が、電子署名法です(関連記事:電子署名法2条・3条のポイント解説)。

電子署名法2条で定義される「電子署名」を、本人が電子ファイルに施すことで、電子化された契約書等の真正な成立が推定されることになります(電子署名法3条)。

第2条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(略)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

クラウドサインに代表されるクラウド型電子署名サービスによっても、この電子署名法が定める電子署名の要件を満たしうることについては、政府が公式見解として「電子契約サービスQ&A」を文書で出しています(関連記事:デジタル庁の「電子契約サービスQ&A」を解説 —電子署名が法律上有効となる条件の政府見解とは)。

2.3 民事訴訟法

電子契約で作成される契約書PDFファイルであっても(「紙の契約書」の場合と同様に)当然に「証拠となり得る」といえます。これは、民事訴訟法247条の定める自由心証主義(その内容としての「証拠方法の無制限」)により、争いがないとされている点です。(関連記事:電子契約入門—第5回:電子契約の証拠としての利用

第247条 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

なお、厳密にいえば、現行法の下では、契約書PDFファイルという電磁的記録そのものが証拠となるというよりは、その電磁的記録を記録した「媒体」(CD-RやDVD-Rなどのメディア)が民事訴訟法231条の「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(いわゆる「準文書」)として扱われることになります。

第231条 この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

3. 電子契約の利用者を保護する主な法律

3.1 電子契約法(電子消費者契約法)

電子契約法とは、電子商取引における消費者の救済措置を定めた法律です。電子消費者契約法とも呼ばれています。

消費者の操作ミスによって、本来意図していなかった商品の注文やサービスの利用申し込みを行なってしまった場合、電子消費者契約法が定める錯誤無効制度の特例により、救済されるケースがあります(電子契約法3条)。

第3条 民法第九十五条第三項の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その意思表示が同条第一項第一号に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであり、かつ、次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(略)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

3.2 特定商取引法

特定商取引法では、消費者保護を目的として、特定の契約類型に対し、契約内容を書面化して消費者に交付する義務を課しています。

これまでは例外なく書面交付が義務とされ、電子化が認められませんでしたが、法律の改正により2023年6月1日からは事業者が消費者に対して交付すべき契約書面等について「消費者から事前の承諾を得ること」を前提に電磁的方法による交付が可能になりました。

第13条 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利又は役務につき売買契約又は役務提供契約の申込みをした者から当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供に先立つて当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領することとする通信販売をする場合において、郵便等により当該商品若しくは当該権利又は当該役務につき売買契約又は役務提供契約の申込みを受け、かつ、当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、その申込みを承諾する旨又は承諾しない旨(その受領前にその申込みを承諾する旨又は承諾しない旨をその申込みをした者に通知している場合には、その旨)その他の主務省令で定める事項をその者に書面により通知しなければならない。ただし、当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領した後遅滞なく当該商品を送付し、若しくは当該権利を移転し、又は当該役務を提供したときは、この限りでない。
2 販売業者又は役務提供事業者は、前項の規定による書面による通知に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該販売業者又は当該役務提供事業者は、当該書面による通知をしたものとみなす。

なお、この電子化の承諾取得方法について、具体的な規律内容が検討されています(関連記事:「書面交付」義務が「書面承諾取得」義務に?改正特定商取引法附帯決議への疑問)。特定商取引法についてより詳しく知りたい方は経済産業省の公式サイトにある「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」も参考にしてみてください。

3.3 労働基準法

労働基準法およびその下位法令である労働基準法施行規則では、労働者への労働条件通知について、労働者の希望により書面ではなく電気通信の送信によっても行うことができるようになりました(労働基準法施行規則5条4項)。

第5条 (1〜3項省略)
4 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(略)第二条第一号に規定する電気通信をいう。 以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法 (当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

もともと、採用(内定)通知を書面により行うことで行われていた書面交付ですが、雇用契約を電子契約で締結することにより、この条件を満たすこともできます(関連記事:「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を電子契約化する方法【Word版ひな形ダウンロード付】

3.4 下請法(下請代金支払遅延防止法)

企業規模(資本金の額)に差がある事業者が請負契約を締結して下請取引を行う場合、下請法3条の定めにより、親事業者となる発注者が下請事業者に対し、書面を交付する義務を負います。

この書面交付義務は、下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則(3条規則)第2条1項により下請事業者による承諾により、書面の交付に代えることができるとされています。

第2条 親事業者は,法第3条第2項の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは,公正取引委員会規則で定めるところにより,あらかじめ,当該下請事業者に対し,その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し,書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た親事業者は,当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは,当該下請事業者に対し,法第3条第2項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。ただし,当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は,この限りでない。

3条規則の条件を満たし、書面の交付に代えることができる電磁的方法の一つが、クラウドサインのようなクラウド型電子署名を利用する方法です(関連記事:下請法の書面交付義務と3条書面の電子化実務—公取・中小企業庁による承諾書ひな形

3.5 建設業法

建設業法では、工事請負契約の締結方式について、書面による締結を原則としつつ、相手方の承諾により、電子契約による締結を認めています。

第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(略)
3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。

政令(建設業法施行規則13条の4第2項)に、具体的な技術基準が定められています(関連記事:建設業法グレーゾーン解消制度による電子契約の適法性確認—建設工事請負契約の電子化がさらなる規制緩和)。

3.6 借地借家法

不動産関連業務において「書面の作成・交付」を義務付けていた法律に、借地借家法があります。

借地借家法は、22条2項、38条2項により、定期借地・定期建物賃貸借契約は公正証書等書面によるべきと義務付けていましたが、2022年の改正により、電磁的記録によっても契約を行うことができるようになりました(関連記事:【日本初の不動産電子契約事例も紹介】デジタル法改正で始める不動産契約電子化のメリットとデメリット)。

第22条 存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
2 前項前段の特約がその内容を記録した電磁的記録(略)によってされたときは、その特約は、書面によってされたものとみなして、前項後段の規定を適用する。

第38条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

3.7 宅建業法

不動産取引において欠かせない重要事項説明書(いわゆる35条書面)、宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(いわゆる37条書面)の2つの書面について、2022年の法改正により、宅地建物取引士の押印が不要とされ、さらに

  • 媒介・代理契約締結時の交付書面
  • 指定流通機構(レインズ)登録時の交付書面(登録証明書)
  • 重要事項説明書(いわゆる35条書面)
  • 宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(いわゆる37条書面)

について、相手方の承諾を条件として、電磁的記録での交付が認められることとなりました(関連記事:宅建業法改正による不動産取引の電子契約化—重要事項説明書等の押印廃止・電子交付が可能に)。

4. 電子契約関連サービスを提供する事業者を規律する法律

4.1 電子署名法

電子契約関連サービスの中には、本人の身元確認を行う「認証局」と呼ばれるサービスを付属的に提供するものがあります(関連記事:電子署名法の「認証業務」とは—特定認証業務・認定認証業務との違いとその意義)。

このような認証局による本人認証サービスを「認証事業」と呼びますが、電子署名法は、この認証事業を規律する条文を定めています。

第2条 (1項略)
2 この法律において「認証業務」とは、自らが行う電子署名についてその業務を利用する者(以下「利用者」という。)その他の者の求めに応じ、当該利用者が電子署名を行ったものであることを確認するために用いられる事項が当該利用者に係るものであることを証明する業務をいう。

第4条 特定認証業務を行おうとする者は、主務大臣の認定を受けることができる。

4.2 電子委任状法

かなりマニアックな電子契約関連サービスとして、企業の代表者等が従業員に電子署名権限を移譲したことを証明する「電子委任状」を発行するものがあります。

この電子委任状を発行する「電子委任状取扱業務」を規律するのが、電子委任状法です。

第2条 (1〜2項略)
3 この法律において「電子委任状取扱業務」とは、代理権授与を表示する目的で、電子契約の一方の当事者となる事業者の委託を受けて、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により、電子委任状を保管し、当該電子契約の他方の当事者となる者又はその使用人その他の関係者に対し、当該電子委任状(略)を提示し、又は提出する業務をいう。

2018年1月より制度がスタートしていますが、2022年11月現在で6事業者に止まっており、ニーズは限定的です。

5. 電子契約の税務に関する法律

5.1 電子帳簿保存法

電子帳簿保存法とは、電子取引(電子契約)を行なった際のデータ保存に関する義務を定めた法律です。所得税および法人税を納税する企業が電子取引を行った場合、電磁的記録(その取引のデータ)を保存しておく必要があります(電子帳簿保存法7条)。電子取引の電磁的記録保存制度では、令和5年12月末まで一部書面保存が許容されていますが、令和6年1月からは電子取引データのままの保存が義務化されます。

第7条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

電子契約を単にPDFファイルとしてサーバーに保存するだけでは、民法や電子署名法上で有効なものとして取り扱えても、電子帳簿保存法の要件を満たさず税務リスクが存在することに注意が必要です。電子契約におけるデータ保存の具体的な要件を知りたい方は「契約書の「データ保存」と電子帳簿保存法—電子契約データ保管の注意点」も参考にしてみてください。

 

5.2 印紙税法

契約書に収入印紙を貼ることで納税を行う義務は、印紙税法第2条および第3条に定められています。

第2条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。

第3条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

用紙等に課税事項を記載し行使する、つまり紙の書面に書いて交付することが課税文書の「作成」行為となりますが。電子データは紙ではありませんし、送信はしますが交付はしません。よって、電子契約(データ)を締結(送信)することは課税文書の「作成」に該当せず、印紙税は課税されないという解釈になります(関連記事:収入印紙が電子契約では不要になるのはなぜか?—印紙税法の根拠通達と3つの当局見解

6. まとめ

以上、電子契約に関する法律についてまとめました。

契約ごとである以上、関連する法律は多数ありますが、ここに挙げた法律を理解しておけば、電子契約に関する法的リスクについてはほとんどをカバーできると思います。

デジタル社会に対応できる企業体質へと変革するためにも、電子契約を規律する法律を正しく理解しておくことは、これまで以上に重要となるはずです。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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