明司雅弘ほか『クラウドサイン導入・活用ハンドブック』—法務パーソンが電子契約で作る新しい商慣習
本記事では、第一法規より出版された新刊『クラウドサイン導入・活用ハンドブック』を紹介します。クラウドサインを実際に導入した企業の法務責任者たちが、電子契約サービスの比較、選定、導入、定着にいたるプロセスのノウハウと経験談を自らの言葉でリアルに語り尽くす、ユーザーによるユーザーのためのクラウドサイン導入ノウハウ集です。
クラウドサイン導入企業の法務責任者による電子契約導入ノウハウ集
日本だけでも20以上はあると言われる電子契約サービス。電子契約ベンダー各社は、顧客の成功談をインタビューし、自社サービスのアピールにつながるよう「導入事例」をウェブサイトに公開しているのが通例です。こうした記事を電子契約導入の参考資料とされている企業も少なくないはずです。
本書『クラウドサイン導入・活用ハンドブック』は、そうしたベンダーによるアピール目線の成功事例集とは一線を画し、導入企業の責任者自身が自ら汗をかいて見出した運用定着までのノウハウを、いままさに電子契約を取り入れようと奮闘している後続ユーザーに向け、顧客自身の言葉で伝える書籍となっています。
本書では、まさに導入・定着がうまくいかずに困っている導入担当者が、明日から使える方法論を提供することを志向しており、共著者が実際に使用した分析ツールや説明資料などをふんだんに盛り込み、読者が具体的にどのような進め方をすべきかイメージが湧きやすいように意識して執筆している。(P12)
貴重なノウハウを開陳してくださったのは、現役の企業法務パーソンとしてご活躍中のみなさま。いずれの先生方も、早期からクラウドサインをはじめとする電子契約サービスだけでなく、さまざまなリーガルテックを活用し企業内から法務の変革をリードしてきた実績をお持ちの方々です。
電子契約の定着に必要なのは多機能なシステムよりも組織変革に対する覚悟
電子契約サービスを導入する企業が最初に悩むポイントは、たくさんあるサービスの中から、自社が採用すべきサービスをどうやって絞りこんでいけば失敗せずに運用定着できるか、という点でしょう。
コロナ禍以降、取引先から電子契約を受け取って締結することも珍しくなくなりました。そうした利用体験をきっかけに、採用実績や評判も加味しながら2〜3社程度を選択し、機能と価格の比較をすることになるはずです。当然、本書でもそうした比較・選定プロセスで失敗を犯さないためのチェックポイントを指摘した上で、その要件を満たすサービスの一つとしてクラウドサインを紹介しています。
しかし著者らは、そうしたシステムの機能的な優劣よりも、本能的に「変化」を嫌う組織の抵抗をいかに乗り越えるかが成功のポイントであると述べています。
電子契約の利用に際しては事前に取引先に案内し、場合によっては取引先が安心してくれるまで何度も説明する必要が生じる。「競合他社はこれまでどおり紙と判子で取引してくれるのに、御宅は電子契約を強要するんだな」といったネガティブな反応を受けることも少なくない。法務部門が電子契約サービスを導入して全社に展開するだけでは、取引先との間で慣れ親しんだ紙と判子の契約締結手段を継続する力学が働くのは自然の摂理なのである。
そのため重要なことは、電子契約の導入担当者がいかに全社を巻き込んだ組織改革を推進できるかに尽きる。(中略)最先端技術を導入しても、結局利用するのは従来の業務に慣れ親しんだ私たち人間であり、その変革の道のりは変化を嫌うメカニズムを乗り越えて組織を動かすプロジェクトマネジメント次第な部分が大きい。(P16)
また、こうした精神論だけを述べて終わりではなく、実際にその抵抗を乗り越えた著者らが編み出した工夫、利用した資料・ツールなどについても具体的に紹介。これから組織変革に立ち向かう法務パーソンの皆様をお助けします。
契約業務フローのデジタル化はどうして失敗するのか
著者らが所属する企業は、いずれも数百人〜数千人の従業員を抱えるそれなりの規模を伴った組織体です。そうした組織体において、いままで紙と判子で回していたワークフローを一気にデジタル化しようとすれば、必ずと言っていいほどつまずきが発生します。
本書4章には、そうした契約業務フローのデジタル化の過程で、多くの企業が失敗しがちな理由について、企業で実際にその変革を担った経験者ならではの鋭い洞察が言語化されています。
ある申請書をワークフロー化する場合に、これまで申請者は「どの部署に」申請しなければならないかを知っていれば申請できたものが(帳票は「部署名」は記載されているが、「誰に」申請するかまでは記載されていない)、「誰に」申請するかを申請者に選択させるという新たなワークフローを設計した場合、そのワークフローは何のための効率化かわからなくなってしまう。(P74)
実際の業務に携わらないトップマネジメント層からすれば、紙の申請書に存在していた申請項目を、パソコンのキーボードで入力できるフォームに変換し、「これで我が社もデジタル化完了だ」と思ってしまいがちです。反面、それを入力させられる従業員からすれば、「紙の申請書のほうがスムーズに業務が回ってたのに」となりがちなのは、こんなところにも理由があるわけです。
本書を読めば、契約業務フローのデジタル化については、そうした失敗をせずに済むことになります。
電子契約導入プロセスでは「実はやらなくていいこと」の見極めが重要
電子契約の導入は、契約業務において「これまでやれていなかったが、やったほうがいいこと」を整理するチャンスでもあります。たとえば判子時代には口で言うほど徹底はラクではなかった契約台帳の整備などは、電子契約導入によって改善しやすい業務の一つです。
一方で、「やったほうがいいこと」を増やしすぎると、プロジェクトは失敗します。契約業務が企業のリスクマネジメントに関わるものである以上、より安全に・より厳格にという方向にエスカレートしていく傾向にあるからです。
たとえば、無権代理(権限のない従業員による契約締結)リスク対策のために、電子契約の前になぜか書面で署名権限の確認を徹底したくなるのはどの会社にも見られる傾向ですが、著者らはそうした傾向に警鐘を鳴らします。
このような「やったほうがよさそうだが、実はやらなくていいこと」の見極めは難しいところですが、本書は、一定規模以上の企業の法務責任者として知見を持つ著者らが、理屈だけではなく経験を踏まえた「肩の力の抜き方」もレクチャーしてくれます。組織として許容できるリスクの塩梅までは知り得ない法学者・外部弁護士が執筆した類書との、大きな違いともなっています。
これからの法務パーソンがつくる新しい100年の商慣習
クラウドサイン事業責任者である橘は、本書『クラウドサイン導入・活用ハンドブック』の役割について、「はじめに」で以下のように述べています。
電子契約はその利便性が評価されて需要が高まり、法的安定性もしだいに獲得し始めている。しかしながら、電子契約を自社内で、あるいは取引先との間で利用する上でのガイドラインの整備が未だなされておらず、 判子が印章管理規程に基づき代理決裁プロセスを雛形化したように、電子契約でも業務や組織の改革プロセスを雛形化する必要がある。電子契約に関する法的見地からの解説論文・書籍は、主に弁護士により流布されつつあるが、 クラウドサインの自社内での全社導入プロセスを実施するのは企業内にいる法務部員達である。全社導入プロセスにより行われるのは全社の業務改革であり、組織改革であり、 DX (デジタルトランスフォーメーション)である。一朝一夕にはいかない社内改革を実現する具体的プロセスを明記し、他の企業でも再現可能な形式でガイドライン化し、世に広める必要がある。
判子を利用した契約は、100年以上の時を経て日本独自の商慣習として誰もが認めるものとなりました。2000年に電子署名法が作られてから本格スタートした電子契約ですが、この日本で商慣習として完全に定着するまでには、もう数十年の時間がかかるのかもしれません。
そうしたデジタル時代の契約商慣習を作っていくのは、本書著者のみなさんをはじめとするこれからの法務パーソンです。クラウドサインも、そうした重責を担う法務パーソンのサポート役として、不断に変化を続けていきます。
オンライン出版記念イベントを3月18日(金)開催
本書籍の出版を記念して、3月18日(金)オンラインにて著書の皆様にご登壇いただくイベントを開催いたします。ぜひお気軽にご参加ください。
日時:2022年3月18日(金)12:00~13:30
実施方法:参加費無料。Zoomにて開催
申込方法:以下のイベント申し込みページからお申込みいただいた後、ウェビナーURLをお送りいたします。
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