PWC税理士法人『電子帳簿保存法の制度と実務』 —契約書デジタル化とインボイス制度の関係
電子署名に課されていた法規制が次々撤廃されていく中で、最後の障壁としていま経理担当者を騒がせているのが、電子帳簿保存法との関係です。本書『電子帳簿保存法の制度と実務』は、税務専門家の立場から、電子契約導入を中心とする経理業務のデジタル化と税務上の注意点をまとめています。
税務の観点から電子契約に関する法規制を整理
これまで、裁判・紛争解決視点での有効性ばかりが取り沙汰されてきた、電子署名・電子契約。
一方で、いま法務・税務担当者は、契約書や請求書等の証憑文書のデジタル化にあたり、税務上の適法性をどう担保すべきかで頭を悩ませています。2022年1月に電子帳簿保存法が改正されたためです。
当メディアの電子帳簿保存法の改正ポイントまとめ記事(関連記事:電子取引における電子帳簿保存法改正対応のポイント)でも解説しているとおり、企業の取引に関する電磁的なやりとり(EDI・ネットバンキング・電子メール・電子契約)について、紙に印刷するのではなく、電子取引データのまま一定期間保存し、国税等の調査の際に容易に検索でき、その真実性を担保できるようにしておく義務が、違反時の罰則とともに強化されます。
同法の規定ぶりのわかりにくさもあいまって、管理部門担当者における電子取引データ保存義務の認知度・理解度は必ずしも高くありません。この点に関し様々な機関がアンケートを実施していますが、2022年10月時点で対応を完了していると回答した経理担当者は15%前後にとどまっています。
契約書をデジタル化するにあたり、税務担当者としてどのような法令を学び、どこから手をつけるべきか?電子帳簿保存法の法令解説に加え、全体像の把握と実務への落とし込み両面を担保するのが、本書『電子帳簿保存法の制度と実務』です。
インボイス時代に備え法人税法・消費税法からひもとく電子帳簿保存法の取引データ保存義務
「経理業務に関する書類の電子化」を考えるとき、税務の観点からは、帳簿書類の備付けと保存の原則を定める
- 法人税法(青色申告法人・連結法人/普通法人)
- 消費税法
の2つと、それらの例外について定める
- 電子帳簿保存法
との関係を理解することがポイントです。なぜなら、企業のバックオフィスを支える経理担当者としては、令和5年(2023年)10月1日よりはじまる適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)のスタートを見据えた上で、書類のデジタル化を考えておく必要があるからです。
ところが、電子帳簿保存法を解説し、その中で契約書の保存義務について言及する文献はあっても、その原則としての法人税法との関係、消費税法および電子インボイス制度との関係まで企業実務に照らして論じた文献はなかなか見当たりません。
これに対し本書は、電子インボイス制度の実務対応についてもカバー。細かな実務への落とし込みが必要になるからこそいきなり各論に飛び込まず、全体像を大きく捉えたいという読者ニーズに応えるものとなっています。
議事録・登記利用を含めた電子署名法制の全体像にも詳しい
さらに、本書のオビに、
「経理DXを加速させる改正電子帳簿保存法への対応と電子契約導入のすべて」
とあるとおり、後発の強みを生かし、これまでのどの法律書よりもすっきりと電子署名法制の全体像をまとめているのも特徴です。
電子契約導入をガイダンスする書籍のほとんどが、取引先との契約の電子化に関する言及にとどまる中、
- 内部者に権限を移譲する電子委任状
- 議事録等の内部文書の電子化
- 法務局に提出する登記申請書類への電子署名の活用
についても、最新の情報に基づく解説があります。本書のメインテーマである電子帳簿保存法の観点からの指摘とあわせ、電子署名法制をここまで幅広く捉えて整理した書籍は貴重です。
一般企業のバックオフィス部門の皆様は、電子署名法に関しては、ここに書かれた知識を把握しておけば、2025年までは十分に戦える網羅性を備えていると言ってよいでしょう。
海外10カ国における契約デジタル化の税務に関する法制度まとめつき
最終章は、グローバルネットワークを持つPwCならではの付加価値情報として、以下10カ国に関する契約書のデジタル化法制を解説。
- 米国
- 英国
- ドイツ
- EU
- ブラジル
- 中国
- 香港
- 台湾
- シンガポール
- インド
電子帳簿・電子取引の保存義務を課す(日本の電子帳簿保存法に該当する)各国法令の概要に加え、「税務上、電子署名・電子契約を用いることに懸念はあるか」という視点から端的にまとめています。
本書によれば、ドイツ・EU・香港はやや注意を要するものの、それ以外の国々ではデジタル原則が導入され、大きな支障はないようです。
諸外国における法務的な観点から電子署名の有効性や利用上の注意点をまとめた文献はいくつか存在しますが(関連記事:事業者署名型のクラウド契約は外国でも使えるか?—佐々木穀尚=久保光太郎編『電子契約導入ガイドブック[海外契約編]』)、税務面に注目した情報はほとんどなく、概要を把握できるだけでも購入の価値はあります。
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今すぐ相談この記事を書いたライター
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司
弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。
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