電子契約の運用ノウハウ電子契約の基礎知識

電子契約入門—第5回:電子契約の証拠としての利用


島田法律事務所パートナー弁護士 圓道至剛先生執筆による「電子契約入門」。第5回は、いよいよ電子署名の証拠としての利用価値について、当事者署名型、事業者署名型(立会人型)、そして当事者指示型の3類型に分けて解説します。

民事訴訟において電子契約を証拠として利用できるか

前回は、電子署名の意味や仕組み、そして、「タイムスタンプ」と「長期署名」について説明しました。

今回は、電子署名を用いるタイプの電子契約の方法により契約を締結した場合を想定して、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)をどのように証拠として利用するかについて、話を進めることにします。

(1)電子契約は民事訴訟における証拠となり得るか

そもそも、電子契約の方法により契約を締結した場合、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)は、民事訴訟における証拠となり得るのでしょうか。

この点は、民事訴訟法247条の定める自由心証主義(その内容としての「証拠方法の無制限」)との関係からして、契約書PDFファイルであっても(「紙の契約書」の場合と同様に)当然に「証拠となり得る」といえます(これは、争いがないと思われる点です。)。

民事訴訟法247条

裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

なお、厳密にいえば、現行法の下では、契約書PDFファイルという電磁的記録そのものが証拠となるというよりは、その電磁的記録を記録した「媒体」(CD-RやDVD-Rなどのメディア)が民事訴訟法231条の「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(いわゆる「準文書」)として扱われることになります。

この点について、現在、法制審議会において検討が進められている民事裁判手続のIT化の議論の中で、電磁的記録そのものを証拠調べの対象とする規定を民事訴訟法に設けることが検討されているところです(令和3年2月法務省民事局参事官室「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」(※)の「第8 書証」をご参照ください。)。

https://www.moj.go.jp/content/001342958.pdf

以下では、記載の都合上、便宜的に、電磁的記録(契約書PDFファイル)を記録した「媒体」を含む趣旨で、「電磁的記録」や「契約書PDFファイル」という表記を用いることにします。

(2)電子契約の「成立の真正」をどのように証明するか

上記のとおり契約書PDFファイルが(「紙の契約書」の場合と同様に)民事訴訟における証拠となり得るとして、実際に契約書PDFファイルを民事訴訟の証拠として用いる場合には、「紙の契約書」を証拠として用いる場合と同様に、当該契約書PDFファイルについてその「成立の真正」を証明する必要があります(民事訴訟法228条1項・231条参照)。

それでは、契約書PDFファイル(以下では、電子署名が付与されたものを想定します)を民事訴訟の証拠として用いる場合に、どのように契約書PDFファイルの「成立の真正」を証明するのでしょうか。電子署名が付与された契約書PDFファイルについても、実印による押印のある「紙の契約書」の場合のように、「二段の推定」を用いた証明ができるかが問題となります。

電子契約に「二段の推定」が及ぶということの意味

ここで、前提として、電子署名が付与された契約書PDFファイルについて「二段の推定が及ぶ」ということの意味を確認しておきましょう。これは、論者によって、「二段の推定が及ぶ」ということの意味が(主に「一段目の推定」との関係において)異なっているために、議論に「すれ違い」が生じているように見えるケースがあるためです。

そもそも、「二段の推定」における「一段目の推定」とは、連載第2回で説明したとおり、「判例による推定」です。「紙の契約書」による契約の場合、最高裁判所の判例によって、「印影が本人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、当該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定される」とされている訳ですが、電子契約の場合について、上記とパラレルに考えた場合の「一段目の推定」であるところの、「電子署名が本人の署名鍵によって付与されたものであるときは、反証のない限り、当該電子署名は本人の意思に基づいて付与されたものと事実上推定される」という判断を示した最高裁判例はまだありません(なお、この点を正面から判示する裁判例も、まだ見当たりません。)。

一段目の推定
一段目の推定

それゆえに、「一段目の推定」が「判例による推定」であるという点に着目した場合には、契約書PDFファイルについて、「紙の契約書」の場合と同様に、「一段目の推定」として「判例による推定」が及ぶということはあり得ず、およそ契約書PDFファイルについて「二段の推定が及ぶ」ということはあり得ないことになります。

一方で、「一段目の推定」で認められているところの「推定の内容」に着目した場合には、契約書PDFファイルについて、判例(裁判例)はまだ存在しないものの、もし民事訴訟でこの点について争われた場合には裁判所によって(「紙の契約書」の場合の「一段目の推定」と同様の)事実上の推定を認める判断がなされると見込まれるのであれば、契約書PDFファイルについても「一段目の推定」が及ぶということがあり得ることになり、ひいては「二段の推定が及ぶ」こともあり得ることになります。

以下では、後者の考え方に立って、契約書PDFファイルについて「一段目の推定」と同様の推定を認める判例(裁判例)がまだ存在しないとしても、「紙の契約書」の場合の判例による「一段目の推定」と同様の事実上の推定が裁判所によって認められるであろうと見込まれることを含めて、「一段目の推定」が及ぶといい、また「二段の推定が及ぶ」といういい方をすることとします。

当事者署名型電子契約について「二段の推定」は及ぶか

それでは、まず、当事者署名型電子契約に「二段の推定」が及ぶかについて、検討することにします。

ここで、当事者署名型電子契約とは、連載第3回で説明したとおり、契約当事者が、契約締結の証として、契約当事者の署名鍵を用いて、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)に電子署名を付与することにより契約を締結するタイプの電子契約をいいます。

(1)当事者署名型電子契約について「一段目の推定」は及ぶか

さて、当事者署名型電子契約の場合、電子署名が付与された契約書PDFファイルについて、実印による押印のある「紙の契約書」の場合と同様に、「一段目の推定」は及ぶでしょうか。

そもそも、本人の印章(主に実印)について判例上「一段目の推定」が認められることの背景には、「実印」とされた印章は本人によって適切に保管され、みだりに他人に使わせないことが通常であるという事実(社会通念)が認められることがあるものと考えられます。

そうすると、当事者署名型電子契約の場合についても、署名鍵とされた電子データ(それを含む媒体、又は、それを利用するために必要な情報)は本人によって適切に保管され、他人に使わせないことが通常であるという事実(社会通念)が認められると考えられることからすれば、電子署名が付与された契約書PDFファイルについても「一段目の推定」は及ぶものと考えられます。

(2)当事者署名型電子契約について「二段目の推定」は及ぶか

では、当事者署名型電子契約の場合、電子署名が付与された契約書PDFファイルについて、「二段目の推定」は及ぶでしょうか。

この点に関して、連載第4回において言及したとおり、電子署名法3条は、以下のように規定して、「二段の推定」における「二段目の推定」(法律上の推定)に係る民事訴訟法228条4項と(概ね)同様の規定を置いています。

電子署名法3条

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

この規定から分かるように、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの」(具体的には、契約書PDFファイル)に対して、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)」という要件を満たすもの(要するに、3条電子署名)が付与されているときは(※)、当該契約書PDFファイルは「真正に成立したものと推定」される(3条推定効が及ぶ)ことになり、「二段目の推定」が及ぶことになります。

※ なお、連載第4回で説明したとおり、3条電子署名に該当すると認められるためには、当然ながら、その前提として、電子署名法上の電子署名(2条電子署名)に該当する必要がある点には注意が必要です。

要するに、契約書PDFファイルに「3条電子署名」が付与されていれば、「二段目の推定」が及ぶということができるのです。

二段目の推定
二段目の推定

そして、当事者署名型電子契約の場合、契約当事者の署名鍵を用いて契約書PDFファイルに電子署名が付与されているところ、当該電子署名をするために「必要な符号」(具体的には、署名鍵及び電子署名行為をするためのPINコードなど)及び「必要な物件」(具体的には、署名鍵が格納されたICカードなど)を適正に保管することにより本人だけが行うことができることとなるものに該当するのであれば(※)、3条電子署名が付与されているといえ、「二段目の推定」が及ぶということができます。

※ 一般的な当事者署名型電子契約のサービスで用いられている電子署名であれば、これに該当するものと考えられます。なお、厳密に言えば、当事者署名型電子契約については、ローカル署名型とリモート署名型(いずれも、連載第6回で説明します。)に分けて検討する必要があり、ローカル署名型の当事者署名型電子契約については、「二段の推定」(の「二段目の推定」)が及ぶと一般的に考えられていたのに対し、リモート署名型の当事者署名型電子契約については従前議論がありました。最近は、リモート署名型であってもやはり「二段の推定」(の「二段目の推定」)が及ぶと有力に主張されているところです(内閣府の規制改革推進会議の成長戦略ワーキング・グループ第10回会議(令和2年5月12日)の資料1-2「論点に対する回答(法務省、総務省、経済産業省提出資料)」参照。https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200512/agenda.html)。

事業者署名型(立会人型)電子契約について「二段の推定」は及ぶか

次に、事業者署名型(立会人型)電子契約に「二段の推定」が及ぶかについて、検討することにします。

ここで、事業者署名型(立会人型)電子契約とは、連載第3回で説明したとおり、契約当事者が、契約締結の証として、電子契約事業者に対して契約書PDFファイルに電子署名を付与するよう求め、これを受けて電子契約事業者が(契約当事者の署名鍵ではなく)電子契約事業者の署名鍵を用いて、契約のために作成された電磁的記録(契約書PDFファイル)に電子署名を付与することにより契約を締結するタイプの電子契約をいいます。

結論として、従前、事業者署名型(立会人型)電子契約については、以下で示すとおり、そこで付与される電子署名について、3条電子署名該当性が否定される(また、その前提としての2条電子署名該当性も否定される)という理由から、「二段目の推定」が及ぶ余地はなく、したがって「二段の推定」は及ばないと解することが一般的でした。そして、現在も(後述する当事者指示型電子契約に該当すると認められるものを除いては)その理解が妥当であると考えられます。

(1)2条電子署名に該当するか

(当事者署名型電子契約については検討を省略しましたが)事業者署名型(立会人型)電子契約で付与される電子署名については、まず2条電子署名該当性が問題となります。

なぜならば、連載第4回で説明したとおり、そもそも広義の電子署名の中には2条電子署名に該当するものと該当しないものがあり、後者の例として、立会人が電磁的記録の改ざん防止を目的として当該電磁的記録に電子署名を付与したような場合が挙げられるところ(電子署名法2条1項1号の「目的」の要件を満たさないケース)、事業者署名型(立会人型)電子契約では、(事実行為として)まさに立会人としての電子契約事業者が電子署名を付与しているからです。

事業者署名型(立会人型)電子契約の場合、従前は、電子契約事業者が電子署名法2条1項1号の「当該措置を行った者」であると解されることから、電子署名法2条1項1号の「目的」の要件を欠くとして、そこで付与される電子署名については2条電子署名該当性を否定する理解が一般的でした。そして、現在も(後述する「2条Q&A」の示す要件を満たすと認められるものを除いては)その理解が妥当であると考えられます。

(2)3条電子署名に該当するか

次に、(2条電子署名該当性の議論を措くとして)事業者署名型(立会人型)電子契約で付与される電子署名について、3条電子署名該当性が問題となります。

3条電子署名と認められるためには、前記のとおり、「本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われている」ことが必要です。

そうであるところ、事業者署名型(立会人型)電子契約については、従前、(電子契約事業者の電子署名があるものの)「本人による電子署名」がないとして、3条電子署名とは認められないと解することが一般的でした(※)。そして、現在も(後述する「3条Q&A」の示す要件を満たすと認められるものを除いては)その理解が妥当であると考えられます。

※ 前掲の成長戦略ワーキング・グループの資料1-2「論点に対する回答(法務省、総務省、経済産業省提出資料)」には、事業者署名型(立会人型)電子契約についても3条推定効が及ぶかという点について、法務省等の回答として「ご指摘の「電子契約事業者が利用者の指示を受けて自ら電子署名を行うサービス」について、現行法下での規律を説明すると、上述の通り、電子署名法第三条の推定効が働くためには、電磁的記録の作成者本人による電子署名が必要である。当該サービスは、契約当事者ではなく、電子契約サービス提供事業者が、当該事業者自身の秘密鍵を用いて電磁的記録に電子署名を行うものであることから、当該電磁的記録の作成者を当該契約当事者とする場合には、同条の「本人による電子署名」には当たらず、推定効は働き得ないと認識している。」と(特段の留保を付することなく)記載されており、2020年5月時点の行政見解が、事業者署名型(立会人型)電子契約で用いられる電子署名は(一律に)3条電子署名には該当しないというものであったことが分かります。

当事者指示型電子契約について「二段の推定」は及ぶか

以上の検討のとおり、事業者署名型(立会人型)電子契約については、従前は、3条電子署名該当性が否定される(また、その前提としての2条電子署名該当性も否定される)という理由から、一律に「二段の推定」が及ばないものと解することが一般的でした。

もっとも、弁護士ドットコム株式会社の訴訟サポート資料の過去のバージョンにも記載されていたように(※)、事業者署名型(立会人型)電子契約であってもそこで用いられる電子署名が3条電子署名に該当し、「二段目の推定」が及ぶと解する余地があるのではないか、という点の検討は、一部の電子契約事業者等によって続けられていました。

※ 訴訟サポート資料の初版の脚注13には、「以上では、保守的に捉えて、本サービスにおいてAとBの電子署名が用いられていないという整理を行っている。もっとも、考え方によっては、AとBが(本サービスを利用することにより当社の電子署名を用いて)自ら電子署名を行ったと理解することもでき、このような考え方に立つとすれば、(本サービスの内容を踏まえて本人が電子署名を行ったことを立証することにより)電子署名法3条の推定効が生じる(可能性がある)ことになる。」という記載があります。なお、この記載は、(後述する)2020年7月以降に相次いで示された行政見解を踏まえて訴訟サポート資料が改訂されたことにより、その役割を終えたものとして、削除されています。

それでは、事業者署名型(立会人型)電子契約について「二段の推定」が及ぶことは一切ないのでしょうか。

この点については、2020年7月以降に相次いで発出された行政見解(※)が参考になりますので、以下、説明します。なお、以下では主に「二段目の推定」について説明し、「一段目の推定」については、後掲のコラム「当事者指示型電子契約と「一段目の推定」」で説明することとします。

※ 近時の行政見解はあくまで行政解釈であって、司法(裁判所)が同様の解釈を採るという保証がある訳ではありませんが、そうであるとしても法務省も関与して示された見解であることからすれば、相当程度、その信頼性は高いといって良いものと考えられます。

(1)2条電子署名に該当するか

2020年7月17日、総務省、法務省、経済産業省の連名で「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(※)(以下「2条Q&A」といいます。)が公表されました。

http://www.moj.go.jp/content/001323974.pdf

2条Q&Aでは、以下のとおり、事業者署名型(立会人型)電子契約であっても、一定の要件を満たすものについては、電子署名法2条1項にいう電子署名(2条電子署名)として認められる、との見解が示されています。

電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的に当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。

このため、利用者が作成した電子文書について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化を行うこと等によって当該文書の成立の真正性及びその後の非改変性を担保しようとするサービスであっても、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。

そして、上記サービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には,これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。

したがって、上記の要件を満たすものであれば(※)、事業者署名型(立会人型)電子契約で付与される電子署名についても、2条電子署名該当性が認められると解されます。

※ なお、2条Q&Aが公表されたことを受けて、あたかも事業者署名型(立会人型)電子契約において付与される電子署名には一律に2条電子署名該当性が認められるかのように読める記載を目にすることがありますが、当然ながら、事業者署名型(立会人型)電子契約であっても、2条Q&Aの要件を欠くことから、そこで付与される電子署名に2条電子署名該当性が認められないものもあることになりますので、この点には注意が必要です。

(2)3条電子署名に該当するか

2条Q&Aの公表に続いて、2020年9月4日には、総務省、法務省、経済産業省の連名で「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(※)(以下「3条Q&A」といいます。)が公表されました。

https://www.moj.go.jp/content/001327658.pdf

3条Q&Aでは、以下のとおり、事業者署名型(立会人型)電子契約であっても、一定の要件を満たすものについては、同法3条による(「二段の推定」における)「二段目の推定」が及ぶ旨(3条電子署名に該当する旨)の見解が示されました。

その上で、上記サービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するには、更に、当該サービスが本人でなければ行うことができないものでなければならないこととされている。そして、この要件を満たすためには、問1のとおり、同条に規定する電子署名の要件が加重されている趣旨に照らし、当該サービスが十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が必要であると考えられる。

より具体的には、上記サービスが十分な水準の固有性を満たしていると認められるためには、①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセスのいずれにおいても十分な水準の固有性が満たされている必要があると考えられる。

(中略)

以上の次第で、あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの、一般論として、上記サービスは、①及び②のプロセスのいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる。したがって、同条に規定する電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたと認められる場合には、電子署名法第3条の規定により、当該電子文書は真正に成立したものと推定されることとなると考えられる。

なお、3条Q&Aは、①のプロセスにおいて十分な水準の固有性を満たしている例として、2要素認証を受けなければ措置(電子署名)を行うことができない仕組みが備わっている場合を挙げており、また、②のプロセスについては、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み等に照らして、契約書PDFファイルが利用者の作成に係るものであることを示すための措置として十分な水準の固有性が満たされているものと評価できるものである場合には、固有性の要件を満たすものと考えられる、としています。

したがって、上記の要件を満たすものであれば、事業者署名型(立会人型)電子契約で付与される電子署名についても、3条電子署名該当性が認められると解されます。

そして、以上の近時の行政見解を踏まえて、一部の電子契約事業者は、「二段の推定」が及ぶ(と解し得る)ように事業者署名型(立会人型)電子契約の建付けを調整することを行った上で、自社の提供する電子契約サービスは(単なる事業者署名型(立会人型)電子契約ではなく)(行政見解の示す各要件を満たしていることにより)「二段の推定」が及ぶ「当事者指示型電子契約」(あるいは「当事者指図型電子契約」)であると説明するようになっています。

以上を整理すると、以下の表のようになります。

電子契約に「二段の推定」が及ぶか
電子契約に「二段の推定」が及ぶか

「二段の推定」が及ばない場合の「成立の真正」の証明

以上で説明したとおり、事業者署名型(立会人型)電子契約の中には、「二段の推定」が及ぶと解されるもの(「当事者指示型電子契約」、あるいは「当事者指図型電子契約」と言われるもの)と、「二段の推定」が及ばないと解されるもの(通常の「事業者署名型(立会人型)電子契約」)の双方が含まれることになります。

それでは、電子契約について「二段の推定」が及ばない場合には、どのように電磁的記録の「成立の真正」を証明するのでしょうか。

「二段の推定」が及ばない電子契約の場合には、電子契約に係る電磁的記録(契約書PDFファイル)の「成立の真正」を(契約の相手方当事者が争う場合には)当該電磁的記録以外の証拠によって証明する必要があります。

契約書PDFファイルの「成立の真正」の証明方法としては、例えば、契約締結に至る交渉経緯を示した議事録やメモ、電子メールの内容などから、そのような内容の契約を当該契約書PDFファイルによって締結したことが合理的であることを証明する方法や、契約締結に用いられた電子メールアドレス(事業者署名型(立会人型)電子契約の場合には、契約締結において電子メールアドレスが重要な役割を果たすことについては、連載第6回で説明します。)が契約の相手方当事者によって利用されていたものであることを、相手方当事者の名刺などを用いて証明する方法など(※)が考えられます。

※ 2020年6月に内閣府、法務省、経済産業省の連名により発出された「押印についてのQ&A」 ( https://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf )の「問6」も参照。

また、事業者署名型(立会人型)電子契約の場合には、電子契約事業者による電子契約サービスの内容などの説明資料も重要な証拠となります。

連載第2回で「文書の「成立の真正」をどのように証明するか」として説明したとおり、「紙の契約書」による契約の場合に、「二段の推定」によることなく、「成立の真正」を直接に裏付ける証拠として、例えば、契約当事者等が一箇所に集まって契約締結行為をした場合の、立会人などの第三者的な立場の人物の供述などが考えられます。

事業者署名型(立会人型)電子契約の場合には、電子契約事業者は、契約当事者による契約締結行為の各過程において契約書PDFファイルに対して機械的に電子署名を付与することから、契約締結行為の場面において立会人のような役割を果たすことになります。それゆえ、電子契約事業者から、電子契約サービスの内容や契約締結行為の各過程を説明した資料(※)の提供を受けることができれば、契約書PDFファイルの「成立の真正」を証明する上で重要な証拠となるといえます。

※ 弁護士ドットコム株式会社のクラウドサインの場合には、連載第4回で言及した「クラウドサインによる電子契約の締結等に関する説明書」(訴訟サポート資料)がこれに該当することになります。

コラム:当事者指示型電子契約と「一段目の推定」

以上の説明では、当事者指示型電子契約について「二段目の推定」が及ぶことを説明するに留めており、「一段目の推定」についての議論を省略しています。しかしながら、当事者指示型電子契約について「二段の推定」が及ぶというためには、当然ながら、「一段目の推定」も及ぶといえる必要があります。
それでは、当事者指示型電子契約について、「一段目の推定」は及ぶといえるでしょうか。この点については、著者が知る限り、詳細に論じている文献等は見当たりません。

そこで検討するに、もし、電子契約の場合の「一段目の推定」の意味を、上記「電子契約に「二段の推定」が及ぶということの意味」で示したような、(「紙の契約書」による契約の場合とパラレルに考えた場合の「一段目の推定」であるところの)「電子署名が本人の署名鍵によって付与されたものであるときは、反証のない限り、当該電子署名は本人の意思に基づいて付与されたものと事実上推定される」というものであると限定的に理解するとすれば、当事者指示型電子契約では(事実行為として)電子契約事業者が電子署名をするに際して「電子契約事業者の署名鍵」を用いており「本人の署名鍵」を用いていないことからして、およそ「一段目の推定」は及ばない、ということになってしまうように思われます。

しかし、「一段目の推定」が経験則に基づく事実上の推定であることからすれば、電子契約の場合の「一段目の推定」の意味を上記のように限定的に理解する必要はなく、経験則に照らして「本人による電子署名」(本人の意思に基づく電子署名)があることを推定させるような事実であれば、「一段目の推定」における前提事実たり得るものと考えられます。

そして、当事者指示型電子契約の場合には、3条Q&Aの示すような「十分な水準の固有性が満たされている」といえるサービス内容であることを前提とすれば、本人(利用者)が電子契約サービスを利用するために必要となるIDやパスワード、電子メールアカウント、そして(スマートフォンを利用して二要素認証を実施するケースを想定した場合の)スマートフォンをそれぞれ適切に保管して他人に使わせないことが通常であるといえることを踏まえると、経験則に照らして、本人のIDやパスワード、電子メールアカウント、スマートフォンが利用されて(電子契約事業者に指示して)電子署名を付与する行為が行われたという事実から「本人による電子署名」(本人の意思に基づく電子署名)があることを推定できると考えることは十分に可能であると考えられます(同様に、通常の事業者署名型(立会人型)電子契約についても、電子契約サービスを利用するために必要となるIDやパスワード、メールアカウントをそれぞれ適切に保管して他人に使わせないことが通常であるといえるのであれば、(「二段目の推定」はともかくとして)「一段目の推定」が及ぶと解する余地はあるということになります。)。

本連載では、上記の意味で、当事者指示型電子契約についても「一段目の推定」は及ぶと考えることが可能であることを前提とした記載をしています。

参考文献

  • 福岡真之介「電子署名法3条の推定効についての一考察」(NBL1179号34頁以下)

連載記事一覧

著者紹介

圓道 至剛(まるみち むねたか)

2001年3月 東京大学法学部卒業
2003年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
2009年4月 裁判官任官
2012年4月 弁護士再登録(第一東京弁護士会)、島田法律事務所入所
現在 島田法律事務所パートナー弁護士

民事・商事訴訟を中心に、金融取引、不動産取引、M&A、日常的な法律相談対応などの企業法務全般を取り扱っている。

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