電子契約の基礎知識

メール認証の電子署名は建設業法「本人確認措置」要件を満たすか


この記事では、建設・不動産業の電子契約化に関わる改正建設業法「本人確認措置」要件について解説します。メール認証を用いるクラウド型電子署名によっても、建設業法施行規則の要件を満たした契約の電子化が可能です。

令和2年改正建設業法施行規則で新設された「本人確認措置」要件

ここ数年日本企業に広がる働き方改革により、建設・不動産業界でもITを活用した業務改善が推進され、そこにコロナ禍を背景とした押印廃止の波が押し寄せています。

これをさらに後押しする規制改革の一環として、

  • デジタル改革関連法可決成立に伴う宅建業法の改正(2021年5月12日)
  • 特定商取引法の改正(2021年6月9日)

が行われ、宅地建物取引におけるITを用いた重要事項説明が完全に電子化可能となるだけでなく、事業者が交付すべき契約書面等の完全デジタル化も認められることとなりました。来年2022年は、建設・不動産業界の電子契約化が一気に進む年になる と考えられています。

この影響から、不動産売買やリフォーム工事等のペーパーレス化を検討されるお客様が増えたことで、建設業法が定める電子契約時の「本人確認措置」要件についてご質問をいただくことが多くなりました。

令和2年改正建設業法施行規則が定めた「本人確認措置」要件
令和2年改正建設業法施行規則が定めた「本人確認措置」要件

この建設業法施行規則(旧13条の2改め)新13条の4 2項3号「当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること」の定めは、令和2年(2020年)10月の法改正により新設された要件です。

しかし、改正が急だったこと、そして改正から1年が経とうとしている今も国土交通省によるガイドライン・解釈通知が出されていないことから、どの程度の本人確認措置レベルが求められているのか、条文上明らかでない という問題があります。

メール認証を用いるクラウド型電子署名が改正建設業法施行規則の要件を満たす根拠

この論点に関する情報を求めるお客様のニーズにお応えすべく、クラウドサインでは、9月7日13:00から匠総合法律事務所の秋野卓生先生を講師にお招きし、ウェブセミナーを開催しました

  1. 認証局等を利用した、厳格な本人確認を必要とする当事者署名型の電子契約は必須か?
  2. メール認証等を用いた、利便性を重視する事業者署名型の利用も認められるのか?

お客様からいただくこの質問について、クラウドサインでは、メール認証を用いるクラウド型電子署名によっても、建設業法施行規則の要件を満たす と考えています。

その根拠として、以下3点を挙げます。

建設業法が契約方式を指定した立法趣旨

長年、実務家として建設業法と向き合い研究を重ねられてきた秋野先生がウェブセミナーで特に強調されていた点が、建設業法の立法趣旨 に立ち返った解釈論です。

匠総合法律事務所の秋野卓生先生を講師にお招きし、ウェブセミナーを開催
匠総合法律事務所の秋野卓生先生を講師にお招きし、ウェブセミナーを開催

建設業法では、民法上は口頭でも良いはずの契約方式自由の原則を上書きして書面契約の締結を義務付け、平成13年(2001年)に施行した改正建設業法によって電磁的方法の技術的基準も指定しました。

このように、建設業法が契約書面や電磁的記録を残すことを義務付けたのはなぜでしょうか?その立法趣旨を紐解くと、発注者が当初の契約にはなかったはずの仕事を後から口頭で受注者に強要し対価を支払わないなど、弱者となりがちな受注者を保護することを目的としたものでした。

この建設業法が目指す「弱者保護」の立法趣旨に立ち返ると、大手ゼネコンやデベロッパー等発注者の利便性のためでなく、二次請け・三次請けを含めた中小規模工務店等の受注者が身を守るために有用な契約手段を選択肢として認めていく 必要があります。

令和3年建設業法施行規則の改正は、20年前に定められた電磁的な契約方法に関する古い規定を改め、大企業に好まれる従来型の厳格な契約方式に限定することなく、最新のクラウド型電子契約サービスも選択できるよう変更したと捉えるのが自然というわけです。

令和2年10月14日グレーゾーン解消制度回答

また、この建設業法施行規則第13条の4第2項第3号の解釈については、主務官庁である国土交通省が、ある企業のグレーゾーン解消制度の応答の中で示した事例があります(関連記事:事業者署名型電子契約と本人確認—令和2年建設業法グレーゾーン解消制度で明らかにされた新解釈)。

https://www.meti.go.jp/press/2020/10/20201014002/20201014002-1.pdf 2020年10月20日最終アクセス
https://www.meti.go.jp/press/2020/10/20201014002/20201014002-1.pdf 2020年10月20日最終アクセス

2020年10月1日の改正建設業法施行規則の施行直後、10月14日に公開されたグレーゾーン解消制度の回答において、国土交通省は、

​​③契約当事者による本人確認措置を講じた上で公開鍵暗号方式による電子署名の手続きが行われることで、契約当事者による契約であることを確認できると考えられること

すなわち、

  • 契約当事者同士がメールアドレスを用いた本人確認措置を行った上でクラウド上で電子契約を行なっているのであればそれで足りる
  • クラウド事業者が第三者として本人確認を行うことは要件ではない

旨の見解を示しています。

国土交通省建設業課法規係への問合せに対する回答

さらに、クラウドサインでは、2021年8月に建設業法を所管する国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課法規係との面談を行い直接確認 も取っています。

あえて確認を行った理由は、平成30年1月に、当社が改正前の建設業法施行規則を前提としたグレーゾーン解消制度を利用して適法性確認を済ませていた経緯があり(関連記事:グレーゾーン解消制度を活用して、クラウドサインによる契約の適法性を確認しました)、その後に行われた施行規則の改正によって、当該グレーゾーン解消申請の再提出が必要であるかを確認するためでした。

この問い合わせに対し、

今回の建設業法施行規則改正は、規制強化を目的としたものではない。したがって、弁護士ドットコムが提出し適法との見解を取得済みのグレーゾーン解消申請を提出し直す必要もない

との回答を得、改正後の建設業法に基づく電磁的方法として、引き続きクラウドサインご利用いただけることを確認しています。

追加変更工事受発注のトラブル防止に電子契約を活用する

以上、改正建設業法施行規則により、新たに「本人確認措置」が要件として明記されたものの、これまで同様、建設請負契約にクラウド型電子署名が活用可能 であることが確認できました。

さて、法的な問題はクリアになったとはいえ、ただでさえ紙の契約書の取り交わしが多かった建設・不動産業において、そのすべてを電子契約に移行するのは大変だとお考えかもしれません。

この点につき、9月7日のウェブセミナーで秋野先生は、

  • 請負工事が終了した後の少額リフォーム工事や、有償メンテナンス工事の受発注については、契約手続きの面倒さから口頭契約に甘んじていた実態がある
  • まがりなりにも書面締結できている請負契約書を無理に電子化せず、これまで書面化できていなかった追加変更工事から電子契約を活用してはどうか
  • 手軽で便利に証拠を残せる電子契約を活用すれば、働き方改革のみならず、下請けいじめが横行する業界構造のコンプライアンスも改善するはずで、そこにこそ電子契約の価値があるのではないか

と、力説されていました。

建設工事の現場に居ながらノートPC・スマートフォンで締結できる電子契約クラウドサインを活用し、建設請負契約におけるトラブル防止にお役立てください。

(文:橋詰、画像:elise / PIXTA)

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