リーガルテック導入に必要なプロジェクトマネジメントの基礎知識
本記事では、リーガルテックを導入し、社内で定着させるにあたって最低限押さえておきたいプロジェクトマネジメントの基礎知識について説明します。リーガルテックの導入方法について悩まれている方の一助になれば幸いです。
プロジェクトマネジメント手法と規格はリーガルテック導入に活用できる
プロジェクトマネジメントとは、期限までにプロジェクトを成功に導くようコントロールすること、またはその手法 をいいます。
プロジェクトマネジメントの手法はJIS Q 21500:2018として規格化されています(参照:https://www.kikakurui.com/q/Q21500-2018-01.html)。
プロジェクトの規模によっては「そこまでする必要はないんじゃないか?」と思われるような細かい部分もありますので、リーガルテックをいくつか導入した筆者の経験から、プロジェクトマネジメントの知識として最低限知っておくべきポイントを紹介します。
リーガルテック導入の目標設定
まずするべきことは、リーガルテックを導入するプロジェクトの目標を立てることです。
6W2Hで整理
多くの場合、リーガルテック事業者は先進的企業の導入事例を使ってセールスをしてくると思います。それを見て、「うちもこんなふうになれたらいいかも」と、心が動かされることもあるでしょう。
しかし、他社が導入したからといって反射的に真似して導入するのは失敗のもと です。まずは、
- 当社のどんな課題を解決したいのか
- 誰が使用するのか
- いつから使用できるのか
- どのような対象に使用するのか
等を明確にしておきます。プロジェクトの行く末を左右する選択に迫られたとき、明確な目標があれば、それを拠り所に決断をすることもできます。
目標は、6W2Hを意識して明確に設定 します。電子契約を例に考えると、
- 当社従業員の週3リモートワークを実現するために(Why)
- 調達部が(Who)
- 電子契約サービスを(What)
- 当社の取引先上位100社を巻き込んで(Whom)
- 調達部が関与する売買契約・請負契約全般において(Where)
- 2022年4月から(When)
- 年間240万円のコストの範囲内で(How much)
- 契約の都度相手方に打診し(How)
導入する、といった具合です。
なぜ導入するのかの「Why」が最も重要
筆者の経験では、6W2Hの整理において最も重要になるのは、Whyの「なぜそのリーガルテックを導入するのか?」 の部分です。
無数にあるリーガルテックサービスを片っ端から見ていくと、各サービスが持つ特徴に引き込まれて、本来実現したかったこととは違うサービスを選んでしまうことがあります。また、リーガルテックの導入に向けて社内のルールを整備していると、例えば手間の部分とコンプライアンスの部分でトレードオフの関係になってしまうことがあります。
そのようなときにWhyをしっかり定めていると、導入目的の原点に立ち返り,正しい判断ができるからです。
導入目標の設定が完了したら、その内容を必ずプロジェクトに関わるメンバーに共有します。この共有により、プロジェクトの進行においてメンバーの納得が得られやすくなり、結果としてプロジェクトがスムーズに進むようになります。
リーガルテック導入計画の建て方
導入目標の設定が完了してメンバーへの共有を終えたら、目標の達成に向けた導入計画を立てていきます。
最小要素へ分解する
導入計画を立てるための最初のアクションは、目標を要素に細かく分解していく ことです。電子契約の導入を例にとった場合は、
- リーガルテックサービスの選定
- 社内ルールの見直し
- 試験運用
- 関係部署への周知
- 運用開始
といった要素があり、このうち「リーガルテックサービスの選定」をさらに分解すると、
- リーガルテックサービスの情報収集
- 仕様確認
- セキュリティチェック
- 社内稟議
- 発注
などが考えられます。この時点で少なくとも2段階目まで要素分解をしておくと、スケジュールが立てやすくなります。
要素ごとに時間を割り付ける
次のアクションは、各最小要素に所要時間を割り付けていく 作業です。
この時点ではひとまず期限は無視し、要素ごとに費やされる想定時間を考えます。時間の見積りができれば、次は以下のようにExcel等でパッと見て分かるように並べていきます。
このとき、例えば「仕様確認トライアル」と「セキュリティチェック」のように、中には並列で進められる作業もあるはずなので、並列の場合は列が重なるように並べていきます。
クリティカルパスを把握し全体スケジュールを調整する
このように、タスクと所要時間をExcel等で図示しながら整理することで、プロジェクトの全工程を線で結んだ時に最長となる経路 が見えてきます。これをプロジェクトマネジメント用語で「クリティカルパス」といいます。
リーガルテック導入でクリティカルパスとなりやすい代表的なものに、社内のワークフローを変更することについての手続きが挙げられます。たとえば電子契約導入プロジェクトでは、以下のようなアイテムが挙げられます。
- 現行の押印申請書に関係する部署・責任者・担当者をリストアップする
- 「受付担当者による申請書の形式面確認」「部署間の申請書移動」等、リーガルテック導入により変更となる/省略できるプロセスを特定する
- 当該プロセスに関わる関係者に変更/省略の了解を取る
- ワークフローを規律する社内規程の修正案を作成する
- 当該社内規程の修正につき取締役会等の承認を得る
クリティカルパスにかかる時間を確認し、期限に間に合わないことが分かった場合は、さらに要素の中から時間を短縮させることができそうなものや、並列作業ができそうなものを探し、期限に間に合わせられるように調整していきます。
リーガルテック導入プロジェクトの実行
導入計画を立て終えたら、いよいよプロジェクト実行の段階です。
残念ながら、プロジェクトがすべて計画どおりに進むことはほぼありません。そのため、プロジェクトがどう動いているか、どう修正すべきかが分かるようにしておく必要があります。そこで重要になるのが①ツールを活用したタスクの管理と②定期ミーティングです。
ツールを活用したタスクの管理
要素の段階では実際に実施するアクションが定まっていないことがよくありますので、その要素から 実施すべきアクションをタスクに落とし込む 必要があります。例えば、前述の「電子契約サービスの情報収集」であれば、
- 電子契約導入ガイドブックを読了する
- 弁護士等が主催する電子署名法解説セミナーに参加する
- A社に資料請求し、問い合わせする
- A社の担当者と面談し、情報を得る
- B社に資料請求し、・・・
等について、最低限「実行者」「開始日」「終了日」を決め、消化していきます。
タスク管理のツールには、Backlog・Trello・Asana・Jira・Jootoなど様々なものが存在していますが、タスク同士の関連性を含めて把握できるツールを使うとよい でしょう。
定期ミーティングの実施
タスク管理をしていれば定期ミーティングは不要では?という意見もありますが、筆者は、実行した結果をスピーディに修正するために、定期ミーティングが非常に重要 であると考えています。
プロジェクトの内容にもよりますが、頻度は週に1回は欲しいところです。これにより、タスクの進捗が上手くいっていない場合など、プロジェクトの進行に影響を与える要素の発見が早まり、早めに遅れに気づくことが可能になるからです。
その場でリカバリー策まで議論できビハインドを短くできるだけでなく、自分以外のメンバーが担当する関連タスクへの影響もコントロールしやすくなります。
専門書籍やコンサルティングサービスを活用する
本記事では、リーガルテックを導入するためのプロジェクトマネジメントについて、最低限のアクションを説明しました。
繰り返しますが、大半のプロジェクトは残念ながら思いどおりには進んでくれません。だからこそ、①目標をと計画を立て(PLAN)、③実行し(DO)、③計画の進捗を確認し(CHECK)、④修正する(ACTION)ことが必要になります。
プロジェクトマネジメントをリーガルテック導入に役立てたいという場合、筆者のおすすめの入門書は『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』(日本実業出版社, 2017)です。本書の知識は、事業部が進行するプロジェクトを法務としてサポートする際にも活用できますので、一読をおすすめします。
またクラウドサインでも、電子契約の導入支援・定着支援コンサルティング を提供しています(お知らせ:クラウドサインが電子契約導入後の支援メニューを拡充。「定着支援コンサルティング」サービス提供開始)。こうしたプロフェッショナルサービスの活用も検討してみてはいかがでしょうか。
(文: あいぱる、画像: show999 / PIXTA)
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