電子契約の運用ノウハウ

契約管理台帳入力項目「書類情報」の最適解とは

本記事では、契約書台帳に記録する項目としての「書類情報」について、管理部門の担当者としてどのような項目を設定するべきなのかを考察しました。これから契約管理の方法を見直したい、契約台帳を整理したい方は必見です。

契約管理台帳の「書類情報」とは

本記事でいう 「書類情報」とは、契約書の台帳に入力し契約管理に活用する情報項目のこと を指します。

「メタデータ」や「管理項目」といった呼ばれ方をすることもありますが、本記事ではクラウドサインの用語法に合わせて「書類情報」で統一します。

具体的な書類情報のイメージとしては以下の図のとおりです。

https://help.cloudsign.jp/ja/articles/1436680 クラウドサインのヘルプページより
https://help.cloudsign.jp/ja/articles/1436680 クラウドサインのヘルプページより

契約管理台帳の入力実務をされている方は分かると思いますが、この書類情報が一項目でも増えると、入力実務者の負担は大きく増加します。

入力を長期間継続し、費用対効果を最大化するためには、なぜそれらの書類情報が必要なのかをしっかりと検討・整理し、入力の負荷を必要最小限に抑えることが重要 です。

「書類情報」が必要な理由と具体的な入力項目

書類情報を入力し契約管理台帳を作成することが必要とされる理由は、主に以下の6点にあると考えます。

  1. 検索をしやすくするため
  2. 内容の理解を手助けするため
  3. 分析のため
  4. 期日管理のため
  5. 契約ステータス(状態)管理のため
  6. 法務部員の評価のため

それぞれ、詳細を説明します。

1.検索をしやすくするため

「書類情報」を入力する目的のうちもっとも重要なのは、過去締結した契約書を検索しやすくする手がかりとしての役割・機能を果たす ことです。

実務としては、管理台帳で契約書を探し出し、そこに記載された情報から紙の契約書であれば保管キャビネットから引っ張り出したり,電子契約であればPDFを閲覧・ダウンロードします。

この観点からは

  • キャビネット管理番号
  • 契約書のタイトル
  • 契約相手方名称
  • 契約締結日

といった情報が必要になります。

2.契約の概要把握のため

企業の創業期から脈々と管理台帳を引き継がれている場合は、契約書の内容を把握する際に、契約書そのものをいちいち紐解くのではなく、管理台帳から契約の概要だけでも把握できるよう、主要なポイントを「書類情報」として記録していくケース もあります。

これは契約書が紙でしか存在しなかった時代に、過去の契約書の確認の都度保管キャビネットから引っ張り出してくることが非常に煩わしかったため、少しでもその負担を軽減する目的です。

  • 取引金額
  • 物件所在地
  • 秘密保持義務の有無
  • 損害賠償・違約金・解約金

など、その会社にとってよく結ばれる契約書の特徴によって必要な「書類情報」が変わります。

しかし、電子契約の場合はもちろんのこと、紙の契約書の場合であってもスキャンしてPDF化し、オンライン上や自社サーバー上で確認できます。このようにすればいつでも内容が確認できるにもかかわらず、脈々と引き継がれた「書類情報」を転記し続けている場合は、一度その「書類情報」が本当に必要かについて見直すべきです。この点については後述します。

3.分析のため

「書類情報」は、過去に締結した契約書の傾向を分析 するために用いられることもあります。

例えば、部署ごとに締結された契約書件数を調べ、契約件数の増減を経営戦略の一つの基準にすることや、法務部員ごとに割り振る担当部署の選定の基準にすること等に使用されます。最近では、電子契約率の推移を調べることに使用されることも多いと思います。

この観点では、実施したい分析方法にもよりますが、

  • 担当部署
  • 契約類型(秘密保持契約、取引基本契約、ライセンス契約等)
  • 契約方法

といった「書類情報」が用いられます。

4.期日管理のため

契約管理台帳を 契約書の期日管理のために用いているケース もあると思います。その場合は、「書類情報」に日付情報が必要となります。

この観点で必要になるのは、

  • 契約開始日
  • 契約終了日
  • 自動更新の有無
  • 解約通知期限

といった「書類情報」です。これらの「書類情報」を元に、例えば『契約終了日の1か月前になったら事業部の担当者に連絡をする』といったルールを考え、ルールに沿って実施していくことになります。

5.契約ステータス(状態)管理のため

管理台帳に、現在有効な契約書のみを記載するのではなく、まだ締結には至っていないものの締結作業中であるものや、既に失効しているもの等の状態のものも記載する場合 があります。そのような場合は、今契約書がどういった状態にあるのかというステータスを把握するための「書類情報」が必要になります。

これがあることにより、例えば特定の相手方との有効な秘密保持契約書の有無を調べたい場合に、既に失効しているものを検索対象から除外することができ、正しい判断をすることができます。

この観点からは、「書類情報」として

  • 手続中
  • 継続
  • 失効
  • 締結中止

といったものが考えられます。

6.法務部員の評価のため

最近の傾向として、「書類情報」を法務部員の評価に用いるケース もあるようです。

評価は、例えば法務部員ごとの年間の担当件数を調べることや、1案件に対してどれくらいのスピードで回答をしているか等の情報を収集し、分析することで実施されます。

そのためには

  • 法務部担当者
  • 受付日時
  • 回答日時
  • 対応所要日数

といった、評価をしたい基準に合わせた「書類情報」が必要になります。

契約書管理が可能なリーガルテック・ツールとの関係

管理台帳を作成するITツールは、Excel一辺倒だった時代は終わり、選択肢が大幅に増加 しています。

最近はクラウドサイン、Hubble、LegalForceキャビネ、Holmes(ContractS)など、数え上げるとキリがないほどのリーガルテックサービスがその役割を担うようになりました。これらのリーガルテックとの相性を考えて「書類情報」を設定することで、上記の1から6のいくつかの目的の達成を簡単にすることができます。

例えば、クラウドサインであれば、「書類情報」として「解約通知期限」又は「契約終了日」を設定していると、それらの日の1か月前に、クラウドサインの管理者宛にメールにて以下のように通知が来る機能があります。

https://help.cloudsign.jp/ja/articles/2040693 クラウドサインヘルプページより
https://help.cloudsign.jp/ja/articles/2040693 クラウドサインヘルプページより

この機能を活用することで上記4の目的の達成が容易になるので、期日管理がしたいのであれば「解約通知期限」と「契約終了日」は「書類情報」として用いるべき、ということになります。

他にも、Hubbleであれば「受付日」「所要日数」「初回レビュー日数」といった「書類情報」が自動で収集されるため、上記6の評価に用いるための情報を簡単に取得できます。(Hubbleのヘルプページ「ドキュメントリストの初期設定項目」参照)。

今回は一例としてクラウドサインとHubbleを挙げましたが、その他のリーガルテックにも管理台帳の作成者をサポートするための様々な機能が搭載されています。

筆者の実体験に基づく契約台帳で管理すべきおすすめ「書類情報」

本記事では、契約書の管理台帳に用いられる「書類情報」の設定の考え方を実例に基づいて説明しました。

筆者の所属企業では、従来はExcelのようなデータベースを用いており、そこでは上記2の内容把握を重視した「書類情報」が設定されていました。そのため、30点を超える非常に多くの「書類情報」が存在し、管理担当者は新たな案件を作成する際に1件ごとにかなりの時間を費やしていました。

筆者は法務部に所属して依頼、管理台帳のメンテナンスをずっと担当しています。その 経験から言えるのは、管理台帳から内容を把握するために記録し続けた「書類情報」が役に立つことはほとんど無く、結局は、過去の契約書の内容確認の依頼を受けるたびに毎回のごとく保管キャビネットから契約書を引っ張り出すことになる、ということです。

その苦痛を糧にして、クラウドサインを導入し、管理台帳をクラウドサインに統一することを決意してから、管理の目的を上記1、4、5に定めました。そこから「書類情報」として台帳に記録する項目は、

  • 契約書のタイトル
  • 契約相手の名称
  • 契約締結日
  • 契約開始日
  • 契約終了日
  • 自動更新の有無
  • 契約書ステータス
  • 契約方法
  • 管理番号

など、計14点の情報に絞りました。

契約管理台帳で管理する項目は、一度設定すると、後からの変更が難しくなります。これから新たな管理台帳ツールを導入される方には、そのツールを用いてどのようなことを実現したいかを深く考えた上で「書類情報」を設定することを強く推奨します。

(文: あいぱる、画像: coolkishmish / PIXTA)

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