注文書(発注書)・注文請書のテンプレート化と法定保存期間|Word版ひな形ダウンロード付
この記事では、取引に必要な書面を注文書(発注書)・注文請書としてテンプレート化する方法を解説します。実は、法定保存期間にも注意する必要があります。この記事を読むことで、法律上必要な事項を漏らさずテンプレート化ができるようになるほか、注文書だけで取引するリスクの判断基準がわかります。取引や契約の効率化を検討されている方はぜひご覧ください。
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注文書(発注書)・注文請書はテンプレート化して適切に保存する
日常的に受発注業務を行っていれば、効率化のために「マイ注文書」「マイ注文請書」を用意している方も多いでしょう。
しかし、こうした注文書(発注書)・注文請書について、法定の記載事項が満たされているかの取り締まりが行われたり、文書に課税されるケースもあり、違反すれば指導や罰金刑等の対象になる可能性があります。
そのため、注文書や注文請書は、法務がチェックした上で会社や部署として正式なテンプレートを作成し、保存期間管理まで適切にできる体制を作っておくことをおすすめ します。
以下、電子化を行うことのメリットとあわせて、ポイントを解説していきます。
注文書(発注書)の法定記載事項(下請取引の場合)
注文書(発注書)のテンプレート記載事項の検討に当たって、最も注意が必要なのは、下請取引に該当する場合 です。
下請取引であれば、次の事項を注文書に記載しなければなりません(下請法3条1項、下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則1条)。
- 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
- 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
- 下請事業者の給付を受領する場所
- 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
- 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
- 下請代金の支払期日
- 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
- 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
- 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法
さらに注意が必要なのは、下請取引の注文書は、原則として書面でなければならない点です。メールやシステムなどの電磁的方法により発注する場合は、下請事業者からの事前の承諾が必要 です。
注文書はシンプルな体裁が好まれます。そこで、継続的な取引では共通事項を基本契約に定め、注文書は最低限の項目にとどめることが実務上一般的です。
出所が信頼でき、かつ、無料で入手可能な注文書や注文請書のテンプレートは、以下の記事で紹介されています。下請取引ではない場合の注文書の記載事項についても触れられているので、ご参照ください。
適用範囲の広い下請法
下請法は、資本金の額が1,000万円を超えるメーカーにとっては極めて重要な法律 です。
まず、自社においてどのような下請取引が発生しているのかを把握しておかなければなりません。所属先の場合、代表的な下請取引には、以下のようなものがあります。
- 商品の製造
- 商品のパッケージデザイン
- 原材料の自社向け加工(小分けなど)
- 総付景品の製造
商品の製造やパッケージデザインの委託は典型的ですので、関連部門も容易に認識できます。他方、原材料メーカーの既存商品を自社向けに小分けしてもらうことや、総付景品の製造を委託することまで下請取引に該当するのは意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「製造業を規制する法令」というイメージが強かった下請法ですが、現在はプライベートブランド品を販売する小売業や、自社向けに下準備してもらうことが多いフードサービス業にとっても注意が必要な法律です。
親事業者は、毎年公正取引委員会や中小企業庁の書面調査を受け、自社のすべての下請取引の法令遵守状況の報告と下請事業者のリスト提出が求められます。筆者も毎年関連部署から契約書や注文書等の提供を受けて状況を確認しています。
注文請書にはフォーマットはないが印紙税がかかる場合がある
注文書と異なり、注文請書には、記載事項やフォーマットに特別の定めはありません。そのため、テンプレート化にあたっての注意事項はそれほど多くありません。
ただし、請負取引の注文請書の場合には、注文請書は契約の成立を証する書面として課税文書になり所定の額の収入印紙の貼付が必要 となります。
それがゆえに、注文請書はあえて作成されないことも珍しくありません。注文請書がなくても契約が成立するよう、基本契約で「注文書送付後●営業日以内に諾否の回答がなければ、個別契約は成立したものとみなす」としておくことも多いです。
注文書(発注書)と注文請書の法定保存期間
次に、法定保存期間を確認します。
実は、注文書や注文請書を作成する場合、法律が定める保存期間にも注意して作成する必要 があります。
誰が何(どの書類)を保存する義務を負うのか
保存期間を確認する前に、誰が何(どの書類)を保存すべきか検討してみます。
注文書も注文請書も一方から他方へと意思表示を行う一方的な文書です。原則は、原本を1通作成して相手方に送付するため、自社が作成した原本は手元に残りません。
しかし、トラブルを防ぐため、手元に控えをとっておくのが一般的です。したがって、発注者には注文書控えと注文請書原本、受注者には注文書原本と注文請書控えが残ります。
税法上、「取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」を保存することとされている ので(法人税法施行規則59条1項3号、67条1項1号)、原本であれ控えであれ、注文書と注文請書がある場合には、両方をセットで保存するのが基本です。
税法および会社法上の保存義務を遵守する
注文書や注文請書の保存期間は、税法上は原則7年 です(法人税法施行規則59条1項柱書、67条2項)。欠損金が生じる事業年度については、保存期間が10年に延長されます(法人税法施行規則26条の3第1項)。
税法より会社法に馴染みのある筆者は、取引書類の法定保存期間を検討する際、いつも若干の迷いを生じます。というのも、会社法には、「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。」という定めがある からです(会社法432条2項)。
この定めについて、会社法コンメンタールでは「事業に関する資料が後日の紛争時に証拠資料となり得ることは十分に予想されることであり,(略)そのような証拠資料となり得るかどうかという観点から判断すべき」と説明されています(江頭=弥永編『会社法コンメンタール10―計算等(1)』126頁〔尾崎〕(商事法務、2011年))。
日常の取引の注文書や注文請書は「事業に関する重要な資料」とまではいえず、税法上の保存期間をクリアすれば足りる(そのための法人税法である)と考える企業が多いでしょうし、実際、筆者の場合も社内規程上の保存期間は7年としています。
しかし、注文書や注文請書は、取引によっては紛争時には重要な証拠になる可能性もあります。そこで、会社法上の規定に忠実に、10年保存を原則にするという考え方も十分にあり得ます。
下請法が求める親事業者の保存義務
取引で作成する書類によっては、注文書や注文請書を税法上の保存対象にせず、短期間で処分してしまうこともあります。しかし、注文書や注文請書の法定保存期間については、下請法の確認も必要です。
下請取引の親事業者は、以下の事項を記載した書面(又は電磁的記録)を作成し、2年間保存しなければなりません (下請法5条、下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則1条1項)。いわゆる「5条書面」です。
- 下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
- 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は役務の提供の内容)
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をする期日・期間)
- 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者から役務が提供された日又は期間)
- 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は,検査を完了した日,検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
- 下請事業者の給付の内容について,変更又はやり直しをさせた場合は,その内容及び理由
- 下請代金の額(注文書に下請代金の額として算定方法を記載した場合には、その後定まった下請代金の額。また、その算定方法に変更があった場合は、変更後の算定方法、その変更後の算定方法により定まった下請代金の額及び変更した理由。)
- 下請代金の支払期日
- 下請代金の額に変更があった場合は,増減額及び理由
- 支払った下請代金の額,支払った日及び支払手段
- 下請代金の支払につき手形を交付した場合は,手形の金額,手形を交付した日及び手形の満期
- 一括決済方式で支払うこととした場合は,金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
- 電子記録債権で支払うこととした場合は,電子記録債権の額,下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給した場合は,品名,数量,対価,引渡しの日,決済をした日及び決済方法
- 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合は,その後の下請代金の残額
- 遅延利息を支払った場合は,遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
注文書の法定記載事項と重複する項目が多いため、その部分は注文書を保存することでカバーできます。ただし、5条書面は下請取引の経緯の記載を求めるため、注文書と重複しない項目については、適切に記録する必要があります。
法令用語としての「保存」と「保管」の違い
ここまで、法令で用いられる用語に従い「保存」を使ってきましたが、似ている表現に「保管」があります。
『法律用語辞典』(有斐閣、第5版)によれば、「保管」とは「一般に、ある物(主として他人の物)を保持して、滅失、毀損を防ぐこと」 です。「保存」との違いは、「保存」が「物を保持するという消極的なものにとどまらず、財産の現状維持のために積極的な行為を行うことをも含む」点にある といいます。
つまり、「保管」よりも「保存」のほうが高度な管理体制が求められます。
なお、契約書の「保存」と「保管」の違いを知りたい方は「契約書の「保存」と「保管」の違いとは?契約書管理の場面では「保存」が法的に正しい用語法である理由」も参考にしてみてください。
取引開始時、基本契約なしにいきなり注文書から始めてもよいか?
ここまでで、基本契約を締結した上で、個別契約書としての注文書(発注書)・注文請書を作成し、それらを保存しておくことが必要であることが分かりました。
それでは、基本契約書を締結せずに、いきなり注文書から取引を始めるのは、問題があるのでしょうか?
この質問に対する判断基準を伝授したいと思います。
「いきなり注文書」が許されるケース
継続的に取引する予定のないスポット取引で、かつ、次に挙げるケースに該当すれば、一般的には注文書・注文請書のやりとりのみでも差し支えない といえるでしょう。
- 取引金額が少額である
- 消耗品の購入などで、アフターサービスや保証の心配がない
- 上場企業や信頼できる取引先からの紹介など、相手方の信用に問題がない
- その他取引に特殊性がない
あくまで一時的なスポット取引を前提とした一般論ではありますが、上記のようなケースでは、基本契約がないことで問題がこじれてしまった場合のリスクは大きくないと考えられるためです。
「いきなり注文書」を避けるべきケース
他方、上記に当てはまらないケースでは、原則として基本契約書から締結し、いきなり注文書を避けるのがお互いのため といえます。
長期間の取引や大型・特殊な取引では、トラブルの発生確率が上がり、紙幅の限られる注文書・注文請書では十分な予防・対応ができません。
まず基本契約書を締結し、発注、納品、検収、支払といった取引のルールや万一の時の対応について、可能な限り定めておくのが賢明です。
電子契約の導入で注文書のテンプレート化と長期保存の悩みを解消
以上のとおり、下請取引の場合、注文書には法定記載事項がある上その遵守状況の確認が定期的に求められます。また、受注確認により契約の成立を証することになる注文請書は、課税文書として収入印紙の貼付が必要になる場合があります。加えて、注文書・注文請書は、税法、会社法、下請法により保存が求められます。
日常的に交わされる注文書・注文請書を書面で作成して長期間保存するのは、スペースもままなりませんし、調査やトラブル対応のため閲覧しようにも骨が折れます。この問題を解決するためにも、電子契約の導入によってテンプレート化を推進し、収入印紙を不要とし、長期保存の効率化 を検討すべきです。
クラウドサインのような電子契約サービスを活用することにより、自社オリジナルのテンプレートをアップロードできユーザーに適切な書式の利用を促せるほか、電子化によって保存スペースや保存環境の維持についてもコストをかける必要がなくなり、法令遵守との両立がしやすくなります。
なお、クラウドサインでは発注書 兼 発注請書のひな形をご用意しました。サービス等のお申し込みおよび承諾時に使える発注書 兼 発注請書のひな形をお探しの方は下記リンクから無料でご入手できますので、ダウンロードしてご活用ください。
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(文・イラスト:いとう、画像:taniascamera / PIXTA)
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