「署名に問題があります」—電子署名の検証に関する3つの頻出質問と回答例
電子契約に用いられる電子署名の取り扱いに関し、特に電子署名の検証についての実務理解が追い付いていないケースは多い。電子契約を送信した際に取引先からよく寄せられる3つの質問と、その回答例について解説する。
「電子署名がされていないようなんですが…」
取引先から寄せられる質問のうち、群を抜いて多いのがこの質問である。実際には、電子署名が付与されているにもかかわらず寄せられる質問だ。
クラウドサインを例に、先に具体的な回答例を示すと、以下のようなものになる。
「電子署名はサイン画像や印影画像のような見た目で表わされるものではなく、PDFファイルに電磁的・不可視的に付与されるものです。電子署名の具体的な確認方法については、こちらのリンクをご確認ください」
この質問は、電子署名に不慣れな取引先が「電子署名」という言葉を見て・聞いて抱く先入観に背景がある。
多くの場合、「電子署名」と聞くと、署名という語からいわゆる筆跡を画像化した「電子サイン」を思い浮かべたり、印影を画像化した「電子印鑑」を思い浮かべたりするようだ。こればかりは、紙の契約書にウエットなインクでサイン・押印していた商習慣からの移行過程においては、無理もことかもしれない。
ここで取引先に説明すべきポイントは、電子署名法上、電子署名が有効となるために、目に見える画像は必要ない、という点だ。この点を書きだすと本記事内に収まりきらなくなるため、こちらの記事(電子契約でハンコの「印影」が法的に不要なのはなぜか)を参照していただければと思う。
この誤解を解いた上で、冒頭の問いに対する回答として、
(1)電子署名がどのようなものであるかの簡単な説明
(2)電子署名の確認方法
の2点を示せばすんなりと納得していただけることが多い。それを完結にまとめたものが前述の回答例である。
「署名パネルと呼ばれる場所を見ましたけど、署名者が確認できませんでしたよ?」
先の質問に次いで多いのが本質問だ。具体的な回答例は以下のようなものになる。
「確認されている署名の『バージョン』が異なるか、『署名の詳細』を開いていないかのいずれかではないかと思います。弊社の権限者の同意はバージョン●で確認できますので、バージョン●の左側にある『>』をクリックしてご確認いただけますでしょうか。具体的な確認方法については、こちらのリンクをご確認ください」
この質問をするに至る主な原因は、以下のいずれかである場合が多い。
①取引先が署名パネル上で確認しているバージョンが異なる
②確認しているバージョンは合っているものの「署名の詳細」まで開いていない
電子契約サービスにもよるが、署名パネル上で署名者が確認できるタイプのサービスは、その性質上数多くの電子署名の「バージョン」が与えられる。その際、感覚的に「締結権限者は担当者の後に承認されるのだから、きっと電子署名は最後のバージョンにあるはずだ」と思われる方が多いようで、タイムスタンプ付き電子署名のバージョンを締結権限者の電子署名だと勘違いしてしまうのである。
また、確認すべきバージョン自体は合っていたとしても、「署名の詳細」を開かなければいけないということを知らず、PDFだけでは実際の署名者も署名日時も分からないではないかと言われる場合もある。重要なのは「署名の詳細」を開いた先にある「理由」であるため、それをきちんと説明する必要がある。
これらを踏まえ、質問への回答としては、
(1) 確認している「バージョン」が異なることや「署名の詳細」を開いていないことに起因する問題であること
(2) 「バージョン」がなにか、「署名の詳細」はどのように確認できるか
(3) 各「バージョン」の意味
を示すことが良いと考えられる。
いずれにも言えることだが、この質問に至るのは、電子契約で締結することを提案する時点での説明が不足している場合に多いと思われる。これらの質問を少なくし、取引をスムーズに進めるためにも、提案時点でこれらの説明が付されている提案書のようなものを取引先に渡しておくことを勧める。
「PDFファイルを開いたら、『署名に問題があります』って表示されるんですが…」
少し前までは、これが電子契約サービスにおける最頻出の質問だった。
これに対する具体的な回答例を以下に示す。
「『少なくとも1つの署名に問題があります』という表示は、Acrobat Readerの設定によって出てくるもので、電子契約の有効性に影響を与えるものではありません。こちらのリンクよりご確認いただき、Acrobat Readerの設定をご確認ください」
この『少なくとも1つの署名に問題があります』という表示が出てくるのは、
①Acrobat Readerの設定上の問題がある場合
②実際に電子署名に何らかの問題が生じている場合
①は、使用しているAcrobat Readerに登録されている証明書一覧がアップデートされていないことに起因するもので、取引先のAcrobat Readerのの設定で解決できる。具体的な手順自体は各電子契約サービス業者のwebページ等でご確認いただければと思う。クラウドサインの場合、windowsの場合はこちら、macの場合はこちらである。
この質問への回答としては、以下3点を説明することになる。
(1) Acrobat Readerの設定上の問題であること
(2) 電子署名の効力には影響が無いこと
(3) 具体的な設定方法
②は、ほとんど起こり得ないケースだが、①の対策をした上で解決できない場合には、電子署名と対応する電子証明書が失効しているなどの、クリティカルな問題が発生している可能性がある。
以下のように、いかにもそれらしい印影画像が電子契約サービスによって付されていても、電子署名が無効になってしまっているケースもあるので、問い合わせがあったときには、その場合わけに間違いのないようにしたい。
電子メールもチャットも、誰もが最初は初心者だった
筆者は、比較的初期段階から電子契約サービスを見てきており、電子契約サービス業者もそのリテラシーの差を埋めるように操作性の良いサービスに進化している。例えば、クラウドサインも当初「AATL(Adobe Approved Trust List)」に対応していなかったために、受信者側の署名検証でエラーメッセージがよく出ていたが、その後対応することで解消した。
さて、今回3つの頻出質問について回答してきた。同じ相手方から何度も問い合わせが来ることはないので、どうか安心して欲しい。一度体験すれば、すぐに体得ができるからである。
電子契約に慣れない取引先が戸惑い、こうした質問を投げかけてくるのは、誰もが初めて電子メールやチャットを送受信する時に抱いたはずの、あの緊張・不安を感じるからだ。もちろん、私たち電子契約サービスの利用者(送信者)側から受信者に対し、わかりやすいガイダンスをして差し上げれば、初回の不安も和らぐことだろう。
なお、本記事における回答例はいずれもクラウドサインで電子署名を付した場合を想定している。その他の電子契約サービスを使用している場合は、内容が一部変わることにご留意いただきたい。
(文:あいぱる、画像:metamorworks / PIXTA)
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