差し入れ形式書類での電子契約の活用
請求書・見積書・通知書・誓約書といった、相手方の押印が不要な差し入れ形式書類を電子契約サービスでカバーすることの問題点を解説し、具体的な対策と運用方法のパターンを紹介する。
差し入れ形式書類への電子契約活用とその問題点
電子契約の目的の一つは、押印業務に関連する業務を無くすことにある。その目的を達成するために、契約当事者の双方が押印する契約書のみならず。請求書・見積書・通知書・誓約書のような「差し入れ形式」の書類も電子化の対象とすべき だろう。
契約当事者の双方が合意をする電子契約の場合は、自社の締結権限者及び相手方の締結権限者が電子契約サービス上で承認をし、フローが完結する。これに対し、差し入れ形式の書類の場合、紙の書類では一方の当事者のみが押印することを踏まえると、電子契約上で電子署名する者も一方の当事者のみで良いということになる。
そして、このような差し入れ形式書類にも電子契約を活用すれば、以下のメリットが享受できる。
①押印が不要になること
②リモートでの承認が可能になること
③意思を相手方に伝えるまでの時間が早くなること
しかし、ここで疑問が生じる。電子契約サービスはそもそも契約当事者が一つのプラットフォーム上で書類を承認・同意することで契約を締結に至らせるサービスではないのか?一方の当事者のみが電子契約サービス上で承認した場合、相手方にどうその意思を伝えるのだろうか、という疑問である。
差し入れ形式書類に電子契約サービスを活用するメリット・デメリット
そこで紹介するのが、以前このメディアで紹介した「自社のみ電子署名」の応用テクニックである。(関連記事:電子契約を受け入れない取引先への対応策「自社のみ電子署名」)
差し入れ形式の書類を電子契約サービスを利用して実施する場合、具体的にどのような方法が取りうるか。それぞれの方法ごとのメリット・デメリットとあわせて、以下に場合分けして説明する。
運用方法その1:PDF添付メール送付型
最もシンプルな方法は、自社のみを承認者に含めた状態で承認フローを完結させ、出来上がったPDFをメールに添付して相手方に送付する方法 だろう。「自社のみ電子署名」の、相手方に送付するまでの流れのみを切り取ったパターンである。
この「PDF添付メール送付型」のメリットは、電子契約サービス上でのやり取りが自社のみで完結することだろう。
一方で、デメリットも2点ある。①相手方が受け取っていることの記録を残しにくいこと、②PDFメールを転送する作業が必要になることだ。
相手方が受け取っていることの記録を残すためには、相手方にPDF付きで送付したメールを保管・管理する必要がある。事業部の担当者のみに任せてしまうと、退職等によりその人のメールボックスにアクセスできなくなると、記録が消えてしまう。そのため、例えば法務部でメールを一括管理することが必要になる。
また、事業部の担当者が、相手方の担当者にメールを送付する作業も忘れられる危険性や作業の手間を招くため、デメリットになるだろう。
運用方法その2:共有者設定型
2つ目の方法は、共有者機能を利用する方法だ。具体的には、承認フローに設定する承認者自体は自社のみとするが、あらかじめ共有者として相手方の担当者を設定しておき、承認フロー完結後に担当者に自動で共有通知をとばすという方法 である。
共有者設定機能がどのようなものかについて、一例としてクラウドサインのヘルプページに詳しい説明があるので、確認してみて欲しい。
メリットは、最初に共有者の設定をしさえすれば、メールを転送するといった手間が発生しないことにある。
デメリットとしては、電子契約サービスにもよるものの、その案件の送信者でなければ共有者設定がされているかどうかが分からない場合があるということだ。送信者が誰になるかも注意が必要だ。
ただし、この方法は共有者機能を持つ電子契約サービスに限られるため、この機能を設定できる電子契約サービスを選定しておくことがポイントだ。
運用方法その3:相手方巻き込み型
3つ目の方法は、承認フローに自社の締結権限者と相手方の担当者とを入れて申請する という方法である。
この場合、相手方の担当者は、締結権限者である必要はない。相手方にはあくまで到達したという事実が分かればいいのであり、会社の権限者としての合意を促すものではないからである。また、その観点に立つと、相手方の担当者が承認する必要もないことになる。
この「相手方巻き込み型」のメリットは、なんといっても電子契約サービス上で相手方に到達したという記録が残ることだろう。
デメリットは、もし相手方の担当者が承認しなければ、「先方確認中」といったようなステータスがずっと残ってしまうということである。残っていて問題ということは無いだろうが、電子契約サービスの使用者としてはすっきりしない思いがあるだろう。この点は、電子契約サービス側の今後の対応に期待したいところだ。
各運用方法のメリット・デメリットのまとめ
以上、中間的まとめとして、ここまで紹介した運用方法のメリットとデメリットを表形式で整理する。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
PDF添付メール送付型 | ・電子契約サービス上でのやり取りが自社のみで完結し、シンプルになる | ・送付メールを保管・管理する必要がある ・PDF付きのメールを転送する必要がある |
共有者設定型 | ・メールを転送する等の手間が発生しない | ・共有者に設定されていることが管理者等には分からない場合がある |
相手方巻き込み型 | ・電子契約サービス上に、相手方に到達した記録が残る | ・電子契約サービス上に見かけ上未完了の案件が残る |
紙の場合の管理レベルと比較して具体的方法を検討する
読者のみなさまは、紙で誓約書等を差し入れる場合に、差し入れた事実が分かるような証拠書類を保管・管理されているだろうか。例えば、特定記録の場合の受領証等は保管・管理するよう、ルールが徹底されているだろうか。
業務の進め方によっても変わる部分ではあるが、例えば 事業部が郵送をしているような場合では、差し入れた証拠書類を管理し切れていないケースもある ように思う。また、仮に管理できていても、その管理には一定の手間がかかり、いざ必要になったときに探し出すのも一苦労だろう。
こうした一方的通知の証拠書類としての保管・管理の現実は、誰も触れたがらない、根深い問題なのである。上記を踏まえ、あらためて検討してみたい。
紙と同等の管理レベルでよしとするなら「PDF添付メール送付型」
紙での管理が完全では無かったのなら、電子契約の場合に果たして完全を求める必要があるのだろうか。常に・すぐに出せる必要になっておらずとも、いざというときに検索(もはや発掘といった方が適切かもしれないが)をすることで発見できるなら、それで良い のではないか。
そのように考える場合は、運用方法その1の「PDF添付メール送付型」で問題ないだろう。少なくとも、デジタルになっている分、紙の束がおいてあるだけの状態よりはマシになっているはずである。
紙を超えた管理レベルを求めるなら「相手方巻き込み型」
紙で実現できなかったことこそ、電子契約で実現すべきではないだろうか。煩雑に散らばった管理書類やデータを、一つのシステム上でなるべく手間をかけずに管理したい。
そう考えるなら、運用方法その3の「相手方巻き込み型」を検討してほしい。相手方を承認フローに入れておくだけで、例え承認がされなかったとしても、到達の記録が電子契約サービス上にずっと残るのだ。
当然、検索は非常に容易であり、メール等を別途溜めておく必要もない。かける手間から得られるリターンは大きいはずだろう。
結論—筆者が推奨する運用方法
なお、筆者が強く推すのは、「相手方巻き込み型」 だ。この方法は「相手方に自社の意思を示す」だけにとどまらず、「相手方がその意思を受け取ったことを示す」ことも実現するのである。電子契約サービスの本来の用途とは異なるかもしれないが、電子契約サービスの果たす役割を広げる一つの方法となるだろう。
以上、本記事では、差し入れ形式書類における電子契約の活用方法について紹介した。いずれの方法も今後活用が広がっていくだろうと思われる。
本記事を見ている方には、それぞれの特性を理解していただいた上で、最も各社に適した方法を採用していただければと思う。
(文:あいぱる、画像:makaron / PIXTA)
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