2020大会延期を合意した「付属合意書No.4」の重み
2020年9月に東京都から申し入れたオリンピックの開催延期について、IOCと合意した「付属合意書No.4」。そこには、日本政府としての開催保証文言が記録されていました。
2020大会の開催延期を合意した文書「付属合意書No.4」が存在した
東京都らとIOC(国際オリンピック委員会)が締結した 「開催都市契約2020」に記載された契約条件のいびつさが、今年になってさまざまなメディアで取り上げられています。
▼中止権限IOCのみ 開催都市契約で明記(日本経済新聞2021年5月7日)
東京五輪・パラリンピックの開催に否定的な海外報道で、たびたび指摘されるのが「開催都市契約」の存在だ。
(中略)
契約で「中止する権利を有する」と明記されているのはIOCのみ。都やJOCには中止に関する権限の記載はない。
この「東京都側には契約上の解除権がない」「(国際契約によく見られる)不可抗力条項すらない」といった問題点については、昨年の3月時点で弊メディアでも指摘していたところでした(関連記事:あまりにも不平等なIOCと東京都の「開催都市契約」)。
そうした心配もありながら、東京都および日本オリンピック委員会からIOCに電話会談により「延期」が申し入れられ、IOCと合意のもとで2021年7月開催となったのは、周知の通りです。
一方で、この 延期を勝ちとるために、開催都市契約に必要な修正を施す修正契約書「付属合意書No.4」が新たに結ばれたことについては、ほとんど報道・注目されていない ように見受けます。
「首相がIOCに対し成功開催を保証」の重み
これだけ大きなイベントを、前代未聞の感染症を理由に延期したわけですから、口頭合意だけではなく、こうした契約書を締結するのは当然といえば当然です。
しかし、その 「付属合意書No.4」の内容をあらためて確認してみると、大変気になる一文が含まれている ことに気が付きます。
この「付属合意書No.4」は、原契約である「開催都市契約」の契約当事者であった、
- 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
- 日本オリンピック委員会
- 東京都
- IOC(国際オリンピック委員会)
の4者が当事者となった契約書です。
にもかかわらず、本来その契約当事者ではないはずの 日本国首相による(電話会議での口頭の)2021年開催保証発言が、わざわざ文書化され、契約書に記録されている のです。
WHEREAS, during this call, the Prime Minister of Japan Mr. Abe Shinzo has declared and guaranteed to the IOC the full support and commitment of the Japanese Government towards the successful staging of the Games in the year 2021
この電話の中で、日本国首相安倍晋三氏はIOCに対し、2021年における大会の成功開催に向けた日本政府の全面的な支援及び約束を宣言し、保証した。
企業人として契約書を作成している立場から交渉場面を想像するに、東京都側からわざわざこのような文言を入れる動機はないはずであり、IOC側が起案し東京都らにサインさせたと思われる、なんともいやらしい文言です。
政府はオリンピック成功開催保証の責任を負うか
一般論としては、契約書に当事者としてサインしない第三者の発言が契約書に刻まれたからといって、その第三者当人が意思をもってサインをしていない以上、義務が生じるものではありません。もしそんなことが認められてしまえば、知らないうちにあなたが他人の借金の保証人にされてしまうようなトラブルが、毎日のように起きることでしょう。
とはいえ、このケースでいえば、
- 首相が電話会議に同席した
- 日本政府は東京都より上位の行政機関である
こともあり、その責任を問われれば「日本政府として保証した覚えはない」で逃げ切るのは、相当に難しいように思われます。
加えて、原契約「開催都市契約」の第5条において、政府からの保証を取り付けることが開催都市東京都の義務として明記されて(契約上”つながって”)います。
よって、少なくとも契約書上、原契約および付属合意のサイナーとしての東京都が、この政府発言の責任を負うことは避けられないと言えそう です。
契約解除交渉の適切なタイミングはいつだったか
最後に、この 「付属合意書No.4」が締結されたタイミングが作り出す重み についても、触れておきたいと思います。
本契約は、
- 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が2020年9月29日に
- 日本オリンピック委員会が2020年9月29日に
- 東京都が2020年9月30日に
- IOCが(理事会を経て)2020年10月7日に
それぞれサインをし、発効しています。
問題となるのは、この 2020年9月〜10月というタイミングで、東京都から延期を申し入れ、(政府が「2021年成功開催」を保証するという前提で)IOCと合意をした経緯がありながら、今になって契約書に定めのない契約解除を申し入れたとして、その解除に伴う損害賠償責任は感染症を理由に免責されるべきと言えるか? という点です。
現在、世界中で今回のオリンピックを強行開催することの是非が問われていますが、この批判は決してIOCだけに向けられたものでなく、東京都にも向けられています。昨年10月の時点と比較し、他国では感染症拡大の押さえ込みに成功している都市もある中、開催都市東京都(および保証人たる日本政府)として、いまだその道筋を立てられていないことに対する批判です。
選手や都民の安全を優先して契約解除を申し入れるにしても、その判断をする時期は適切と言えるのか。
それならあの時言ってくれれば、他の対処ができたかもしれないのにと言われないか。
これからあらためての交渉をするにせよ、東京都らとしての立場は、昨年時点よりもさらに苦しいものとなったように思われます。
(橋詰)
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