特定商取引法改正によるサブスク規制導入と申込み画面表示規制の強化
本記事では、2022年6月および2023年6月に施行される改正特定商取引法の内容について解説します。これまで、書面での交付が義務付けられていた特商法書面の電磁的交付が可能となる一方で、サブスク規制を強化、さらには通販・ウェブサービスの表示義務までもが厳格化される見込みです。
デジタル社会化に合わせた特定商取引法の改正
改正特定商取引法が、2022年6月に施行されることとなりました。
改正法施行から1年後の2023年6月には、消費者の申込みの内容を記載した契約書面を交付する義務(特定商取引法4条ほか)について、消費者の承諾を条件として、電磁的交付とすることが認められます。
もともとの法案作成時は2022年6月全面施行が予定されていたものの、国会審議のプロセスにおいて、消費者の承諾の取得方法等に関する具体的な定めをどのようにするか消費者被害への影響を考慮することが求められ、衆議院で法案を修正、電磁的交付の部分については施行が2023年6月に伸長された経緯があります。
総務省統計でも、いまやモバイル端末の個人別普及率は81.1%、スマートフォンに絞っても67.6%を超え、「持たざる者」の方が少なくなったこのデジタルファースト社会で時代遅れとなっていた特商法が、ようやく現実を直視したと言って良いでしょう。
サブスク取引に限らないネット通販・ウェブサービス全般に関わる規制強化
さて、こうして「書面の電子化」について順当なデジタル規制緩和が進んでいく一方で、今回の改正では、サブスクリプション課金を悪用する詐欺的な定期購入商法への規制強化も盛り込まれる こととなりました。
これに加えて、ウェブサービス事業者全体に影響を与えそうな規制として注目しておかなければならないのが、改正により第12条の6として新設される「特定申込みを受ける際の表示」義務 です。
第十二条の六 販売業者又は役務提供事業者は、(中略)電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により顧客の使用に係る電子計算機の映像面に表示する手続に従つて顧客が行う通信販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み(以下「特定申込み」と総称する。)を受ける場合には、当該特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面に、次に掲げる事項を表示しなければならない。
一 当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量
二 当該売買契約又は当該役務提供契約に係る第十一条第一号から第五号までに掲げる事項
2 販売業者又は役務提供事業者は、特定申込みに係る書面又は手続一 が表示される映像面において、次に掲げる表示をしてはならない。
一 当該書面の送付又は当該手続に従つた情報の送信が通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示
二 前項各号に掲げる事項につき、人を誤認させるような表示
一部省略しても長く・読みにくいこの表示規制の趣旨は、「初回無料」などとうたいながら、複数回の購入継続を要件とする、悪質な「定期縛り」を規制する目的のはずでした。しかし新設されたこの12条の6の条文をよく読むと、そうした悪質なサブスク規制に止まらない、ネット通販やウェブサービス全般の申込み画面表示に対する規制の厳格化を伴うものとなっている ことに気づきます。
ウェブサービスの申込み画面における表示規制を拡大
改正前の特定商取引法においては、14条1項2号・省令16条1項に基づき「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」を定め、商品についての定期購入契約の申込みの際に契約期間(商品引渡し回数)、金額(各回ごとの代金・送料・支払総額)、その他特別の販売条件が定められるべき旨が規定されていたものの、商品の売買契約および役務提供契約の申込み画面について、具体的な表示内容は規定されていませんでした。
2022年6月施行の改正法では、先に紹介した12条の6が新設され、あわせて11条も改正されたことにより、「当該特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面」に、下記事項を表示する義務が課されます。
- 売買する商品・特定権利または役務提供する役務の分量(第12条の6第1項第1号)
- 対価(第11条第1号)
- 引渡・移転・提供の時期(第11条第2号)
- 支払の時期及び方法(第11条第3号)
- 申込み期間の期間の定め(第11条第4号)
- 申込みの撤回または解除に関する事項(第11条第5号)
そして、これらの項目のすべてについて、一体として「映像面」=ユーザーのPCやスマートフォンの申込み内容最終確定画面に表示する必要があります。
消費者庁が「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」を公開
では、PCやスマートフォンの画面において、具体的にどのような表示を行えば、この新しい表示義務を果たしたことになるのでしょうか。
改正特商法の表示義務を具体的にイメージできる資料として、消費者庁は2022年2月9日付で「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」を公開しています。
このガイドラインの11ページ以降には、
- 書面表示の場合/画面表示の場合
- 単発購入の場合/定期購入の場合
に分けた上で、それぞれ具体的な表示方法を例示しています。
このような画面例を消費者庁から示していただけるのは大変良いことです。このサンプルを見ただけでも、表示義務をすべて満たした際の情報量が膨大な量になることが実感できます。
一方で、実際にこれがPC・スマホ画面で表示された時に、一般人がこれらを注意深く読む気になるのかについては、かなり疑わしいものにも感じられます。
URLリンク参照方式による表示は全面禁止ではないが非推奨に
これまで、特定商取引法11条が定める表示義務を果たす際に、消費者が大量の文字で面食らわないようにする工夫として採用されていた実務が、返品特約を含む法定文言をまとめた「特定商取引法に基づく表示」のページを参照するURLリンクを購入申込み画面等に設置する方法でした。
例えばAmazonでは、注文確定画面に以下赤線部のようにURLリンクが設置されており、リンク先に特定商取引法11条が要求する詳細な返品条件等が記載されています。
新設された改正特定商取引法12条の6の表示義務についても、同様にURLリンク参照方式を採用し、消費者に混乱を与えないように工夫したいというのは、事業者として当然に考えているはずです。
しかし、今回の「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」では、書面と異なりスペースの制約が少ないインターネット取引において、改正特定商取引法12条の6の表示はすべての項目を最終確認画面で網羅的に一覧できるようにすることが望ましく、URLリンク参照方式で行うことは「妨げられない」とされたものの、推奨されない表示方法という位置付けとなっています。
②最終確認画面(特定申込みに係る手続が表示される映像面)における表示
インターネット通販における最終確認画面については、購入する商品の支払総額を計算して表示するなど、消費者の入力内容に応じて表示内容を出力することが可能であり、また、画面のスクロールが可能であるため、はがきなどの書面に比してスペース上の制約は少ないことから、原則として表示事項を網羅的に表示することが望ましい。他方、消費者が閲覧する際に用いる媒体により画面の大きさ及び表示形式が異なるという点や、例えば、複数の販売業者が販売する商品をまとめて購入することが可能なモール型のインターネット通販サイト等においては、商品ごとに販売条件等が異なる可能性があるという点などに鑑みると、表示事項に係る全ての説明を最終確認画面上に表示すると、かえって消費者に分かりづらくなる場合も想定される。このような事情に鑑みて、消費者が明確に認識できることを前提として、最終確認画面に参照の対象となる表示事項及びその参照箇所又は参照方法を明示した上で、広告部分の該当箇所等を参照する形式とすることは妨げられない
「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」の18ページの画面具体例にも、URLリンク方式を採用する際の注記があります。
特にスマートフォンでの取引を想定した場合、法律が求める表示項目の網羅性を担保しようとすると、大量の文字を長いスクロールで読ませることとなってしまいかねません。
ウェブデザイナーとしては、URLリンク方式の一部採用も検討しつつ、法的要件の充足と見やすさの両方を担保する工夫が必要です。
まとめと今後の展望
書面の電子化とサブスク規制が目的だったはずの今回の特商法改正が、なぜか通販ビジネスやウェブサービスすべてに関わる表示義務にまで飛び火し、拡大してしまった今回の特定商取引法改正。
昨今、D2C(Direct to Consumer)がビジネスキーワードとなっているように、ウェブを通じて消費者に直接販売を行わない事業者はむしろなくなっていく傾向にあります。
そうしたトレンドの中で、今回の改正特商法の施行は大きなインパクトとなることは必至で、サブスク事業者だけでなく、多くのウェブサービス各事業者が対応を求められることとなるはずです。
関連リンク
機能や料金体系がわかる
資料ダウンロード(無料)詳しいプラン説明はこちら
今すぐ相談こちらも合わせて読む
-
法律・法改正・制度の解説
利用規約を全部読んで同意するユーザーは何%?—公正取引委員会「デジタル広告の取引実態に関する中間報告書」
利用規約 -
契約実務
利用規約の同意取得方法ベストプラクティス—米国判例にみるサインインラップ・ブラウズラップの採用リスク
利用規約プライバシーポリシー -
法律・法改正・制度の解説
法律文書作成サービスが超えてはならない一線—グレーゾーン解消制度の法務省見解
リーガルテック弁護士法グレーゾーン解消制度 -
法律・法改正・制度の解説
リーガルテックと弁護士法—AI契約審査サービスの適法性に関するグレーゾーン解消申請
法改正・政府の取り組みリーガルテック弁護士法グレーゾーン解消制度 -
法律・法改正・制度の解説
2020年個人情報保護法改正がプライバシーポリシーに与える影響
法改正・政府の取り組みプライバシーポリシー -
法律・法改正・制度の解説
プライバシーポリシーのトレンド分析—GDPRに学ぶ多言語化対応の必要性
プライバシーポリシーGDPR