NFTアートがもたらす新たな取引価値と著作権紛争の火種
ブロックチェーンを使った著作権保護や、NFTアートの可能性に関する話題を、たびたび目にするようになった。
写真についてもこれらを活用した権利保護ができればよいのだが、一眼レフで撮影したとしても、使用するレンズの焦点距離(倍率)が同じであれば、似たような構図の写真になったりもする。
そんな特性を持つ表現手法で、著名な写真家が撮影した写真と同じような内容が出来上がったら、著作権の侵害になってしまうのか?
ブロックチェーンやNFTと、写真にまつわる撮影者の著作権を今一度確認しながら、カメラマン目線で起こりうる状況を考えてみたい。
約75億円の値段がついたNFTアート
ブロックチェーンは、データの改ざんを防止し、かつ透明性を担保しながらその取引の履歴をデータに残すことができる技術だ。
これを可能にしたのは、ネットワーク上のそれぞれのPCが情報の差を検証しながら更新していくという仕組みによるものだ。情報を保管していたサーバーが落ちてアクセスできないとか、データを消去して情報が確認できなくなるということは、ほぼ無くなる。
しかし裏を返せば、データに誤りがあっても削除や変更はできない。データ量は増え続けるし、データの整合性を確認する必要があるために、処理速度は従来の中央集権型のクライアント・サーバー方式に比べ劣ってしまう。
2021年3月、BeepleのNFTデジタルアートが、6900万ドル(約75億円)で落札 されたことが話題になった。ミュージシャンの The Weekendは、未発表曲を含む複数のオーディオビジュアル作品をNFTで出品し、49万ドル(約5400万円)で落札 された。
NFTアートの可能性と課題—芸術家追及権を仕組み化することで起こること
NFTはNon-fungible tokenの略称で、非代替性トークン、つまり代わりになるものが無い世界に1つのデータ を意味する。
ブロックチェーンをベースにしているため、先にも述べたようにデータの非改ざん性と透明性という利点がある。クリエイター自身が、NFT化することで自分のオリジナルであるという証明が可能になる。
ファイル自体のコピーが可能であっても、NFT化した人の情報や、所有者の情報、来歴が残ることから、創作物の真贋や正確な権利移転の客観的な確認もでき、デジタル取引のあり方を変えうる力 を持っている。
NFTの価値はそれだけに留まらない。従来、クリエイターの創作物は、売却後の利益しか手に入らなかったが、世界最大級のNFTマーケット「Opensea」には、創作物の2次販売においても利益が手に入る仕組みがある。公開当初は二束三文の値しかつかなかった作品が、後に価値が大きく変わった場合などでも、創作者に利益が入る。EUで 芸術家追及権として認められる権利を、仕組みとして実装 しているのだ。
もちろんまだ過渡期であるため、注意が必要だ。「Opensea」とそれ以外での異なるマーケットにおいて、2次販売の利益が正しく分配されるかなど、マーケットによる互換性は不透明だ。
NFT化の際や販売時にはイーサリアムを使用する。現在、このイーサリアムのトランザクション(手数料)が高騰しているため、低価格な商品売買時には手数料が懐に響く。今後のテクノロジーの進化によって改善が見込まれてはいる。
アートとしての写真もNFT化し、芸術家追及権が行使できれば、画像投稿サイトに投げ売られていたような写真の価値や取引のあり方も、変わっていくかもしれない。
著作物としての写真
ところで、そもそも 写真は著作物なのか? これはYesでもあり、Noでもある。
著作権法第10条第1項第8号には、写真の著作物が挙げられている。ただしすべての写真が著作物として当てはまるわけではない。大前提として「思想又は感情を創作的に表現」している必要がある。
文化庁は、具体的に著作物として写真が認められないケースとして、以下のように例示する。
Q:駅前等に設置されているセルフサービスのスピード写真機で撮影した、証明写真は著作物として保護されますか。また、保護される場合、この写真の著作者は誰になるのでしょうか。
A:一般に著作物として保護されないと考えられます。著作権法第10条第1項第8号で保護される写真の著作物とは、写真によって何を表現しようとするのかという意思決定、構図をいかにとるかの判断、シャッターチャンスをいかに計るかなど一連の活動における創作性を評価するものと考えられます。スピード写真機による証明写真などは、単に座ったら自動的にシャッターが切られる仕組みであり一般に創作性が認められないので、写真の著作物ということはできません。
思想又は感情を創作的に表現した写真とは
「思想又は感情を創作的に表現」した写真とはなんだろう。
道すがら、夕焼けが美しいからと何気なしにパシャリ撮った写真。普段からそのロケーションをよく知っていて、時間によってつく陰影、明るさなど細かいディテールを把握した上で撮った写真。
思想や感情を創作的に表現したか否かを、どうやって判断できるというのか。
中山信弘「著作権法」では、
写真が著作物たり得るのは被写体の選択。配置・組み合わせ、光線のとの関係(順光・逆光・斜光)、ぼかし、ある部分の強調、構図・トリミング、シャッターチャンス、シャッタースピード、絞りの選択(被写体深度の設定)、アングル、ライティング、レンズ、カメラの選択、フィルムの選択、現像・焼付(現在のデジタル写真にはない)等により、写真の中に思想・感情が表現されているからである
と、著作物としての写真を説いている。写真の著作権が争われたSM写真事件、ドルフィンブルー事件、グルニエダイン事件、真田広之ブロマイド事件などの判例から導き出されたものだ。
さらに同書では、
写真を客観的に見て、そこから被写体とは別個の思想・感情の創作的表現であるか否かを判断することは困難な場合が多く、例えば素人が自動焦点カメラで撮った写真であっても、著作物性を否定することは事実上難しいであろう。
とも述べている。
石垣調査写真事件(仙台高裁 H9・1・30 平成7年(ネ)207号)においては、アマチュアが撮った写真についても、著作物性を認める判決となった。
写真の類似認定
人が シャッターボタンを押した数だけ著作物が生まれるとしたら、その数はあまりにも膨大だ。ドアップで桜の写真を撮った人たちが、権利は己のがものとして罵り合う姿を想像すると、ちょっとおもしろいけれど、現実にはそうならない。
似たような写真が出来上がることは想像できるから、トラブルになることはそうそうない。しかし揉めるときは揉める。
写真の類似で著作権を争った中での有名な事件として廃墟写真事件がある。2人のプロ写真家が同じロケーション(廃墟)で撮影を行い、その写真の類似性により著作権の侵害を争った事件だ。結論から言えば、著作権の侵害とは認められなかった。
原告がロケーションを表現の独自性と主張していた点については、
本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。
として否定した。翻案についても、写真から受ける印象が異なるとして同じく否定されている。
その一方で、二人のカメラマンがそれぞれ撮影したスイカの写真の類似性をめぐって争われたスイカ写真事件の控訴審では、著作権侵害を認める判決を行っている。
判決は、物体の配置についての創意工夫という点において、創作が生まれたこと、撮影者が撮影の参考にしたという言葉など様々な点をもって侵害と認めている。
このことから、人為的な配置と人の手が加わっていない自然的な状況を撮影に加え、元あったものを参考にしたという経緯から、著作物性の判断が分かれる結果となった。
新たな紛争の火種
ブロックチェーン技術を利用した著作権保護の仕組みに、登録したコンテンツに対して、機械学習を用いて類似コンテンツを自動検索し、登録した内容に対しての盗用・流用あるかを判断するというものがある。NFTアートとの親和性は高そうである。
一方で写真は、これまで見てきたように、著作権侵害の有無について、非常に判断がしにくい。類似性の確認が容易になることで、声や資本力の大きい権利者による指摘が強まらないか。弱い立場の人間が、活動を萎縮するような状況にならないか。
さらに現時点では、NFT化した人物が、その制作物を制作者や著作権者であるかは、確実に保証されていないことも多い。実際にロシアのアーティストの絵が無断でNTF化されてしまい、大きな問題となった。可視化されていないだけで同様のトラブルは起こっているはずだ。
せっかくの 新しい技術が紛争の種になり、業界自体が萎縮したり、わざわざ自身の著作を守るための防衛策を講じなければならなくなる のは、かなりしんどい。
(写真・文 宗田)
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