契約に関する事例・判例・解説

「サイバーパンク2077」利用規約のパンクな特徴7つ


2020年12月10日に発売されたオープンワールドゲーム「サイバーパンク2077」の利用規約が変わっていると評判になっています。法的な側面を中心に、その特徴を7つにまとめてみました。

(1)目に飛び込んでくる黄色がすごい

サイバーパンク2077の利用規約の画面に飛んだあなたは、ゲームのキーカラーである原色イエローの背景 にまず面食らうでしょう。

一般的なサービスの利用規約画面といえば、十中八九、「白地の画面に黒字」で文字が並ぶいかにも法律文書然とした画面です。

ゲーム会社であっても「黒背景に白字」がせいぜいのところですが、この派手な色づかいからして「お、この利用規約は普通じゃないな?」という期待感を高めてくれます。

(2)要旨と要約にコストがかかっている

そうして利用規約を読み始めてすぐに気づくのが、ゲームのパンクなノリをそのまま持ち込んだ言葉遣いで要旨と要約が添えられている 点です。

利用規約の冒頭には、この要約の著者について、以下のように紹介されています。

右側の短い要約版は、法律用語の解釈に詳しい、ナイトシティ在住の生粋のサイバーパンクが書いてくれたものです。

ゲーム世界そのままの荒い言葉遣いのキャラクターが、長い利用規約をいい感じで要約してくれているというわけです。

ゲームキャラクターが法律文書を要約するなんて、いったいどんな表現になるんだろう?

日本語翻訳だけをとっても相当の手間とコストをかけて力を込めて作成しているおかげで、プレイヤーはついつい最後まで利用規約の画面を読み進めてしまいます。

(3)利用規約本文も挑発的でクスッと笑える

右側の要約部とは対照的に、左側に位置する利用規約本文はまじめな書き振りが徹底される・・・のであれば予想の範囲内。

しかし、まじめ一辺倒であるはずの本文も、その予想をいい意味で裏切りユーザーを楽しませようと仕掛け ています。特に、ウェブサービスの利用規約を読み慣れている法務関係者は、きっと第17条を読んで吹き出してしまうことでしょう。

17.その他の法的事項
ここに書くのは、弊社の弁護士らがここに含めるよう提案 した、その他いくつかの「法的事項」です!

ゲーム会社としてはこんなつまらないことは書きたくないけど、弁護士が「書かないと大変なことになるぞ」とうるさいので、しょうがなく置いておきます。的な…。それにしても、会社としての法的リスクマネジメントを自社のWillとは重ねず、客観的な必要性からと位置付けファンを味方に付ける手法は、かなりの上級テクニックですね。

右側で要約をしてくれているサイバーパンクな例の彼からも、この一言が添えられます。

「すげえ!」とビビる話は、何ひとつ入っていない。スーツでおめかしした 弁護士どもが、いろいろ余分に、わかりきった説明を入れやがっただけだ。やつらはいつでも、そういうのばっかやるよな?

必要以上に弁護士のみなさんを煽っていくスタイル(笑)。

(4)二次創作ガイドラインもリリース段階で織り込み済み

堂々と利用規約からリンクを張るかたちで、二次創作ガイドラインが別紙でしっかりと用意 され、リリース直後のプロモーション効果を阻害しないように配慮しているところは、この利用規約を作成した開発会社の抜け目のなさを表しています。

ゲーム会社としては、YouTubeやInstagramなどを使ってユーザーに口コミを投稿してほしい。けれど、事業者の金ヅルには使われたくない。そうしたジレンマの中で、二次創作ルールをつくろうとしても明確な線引きが難しいものです。こっそりと後からウェブサイトに掲示したり、ゲームプロデューサーのSNSを通じて発表している事業者も多いと思います。

多少の反発が発生したとしても、炎上する前に「Golden Rules(黄金則・原則)」だけでも明示して先手を打っておくのは、今の時代の賢い方法と言えます。

(5)紛争解決手段としてODRを提案

少し専門的な話になりますが、この利用規約で一番ボリュームを取っている条項が15条と16条です。アメリカにおける仲裁合意をはじめとした、紛争解決手段に関する一連の取り決めについて規定しており、カウントしてみたところ、全文22128字中4327文字、全体の20%を占めています。

その中でも、他のウェブサービスやゲームサービスの利用規約ではあまり見かけない条項が、オンライン紛争解決(ODR Online Dispute Resolution)プラットフォームの利用を提案 する条項です。

16.2 非公式な紛争解決
弊社とお客様はともに、両者間の紛争を略式に解決するための合理的かつ誠実な努力を行うことに合意します。例外的な事情がない限り、弊社としては通常、この紛争解決期間は30日間とすることを提案します。その期間内に解決されない場合には次の段階に進みますが、そこではお客様の居住地によって対応が変わります。お客様が欧州連合の居住者の場合には、お客様は欧州委員会が運営するオンライン紛争解決プラットフォームを通じて苦情を申し立てることができます。詳細はこちらをご確認ください:https://ec.europa.eu/consumers/odr/

日本でも、訴訟ではペイしない少額で大量の紛争をITで解決するべく、内閣官房を中心としてBtoCサービスにおけるODRの活用が検討されています。その流れを汲んで、こうしたODR条項を積極的に置く利用規約が今後増えていく可能性もあるのではと感じました。

(6)重要な箇所には「重要:」とはっきりラベリング

利用規約はどんなものであれ長さがあります。当然、読んでいると疲れてきます。だからこそ、「ここは重要なポイントですよ」というメリハリをいかにつけるか がポイントです。

「サイバーパンク2077」の利用規約では、

  • 仲裁条項
  • 法的拘束力のある文書の明示

の2箇所について、「重要:」とはっきりラベリングされています。

(7)パンクでも守るべきセオリーはきっちり守る

その重要ラベリングがされているのが、この利用規約を法的にも有効なものとして成立させている以下の記載です。

解釈の余地がどうしても広くなりすぎてしまう 要旨や要約部分はあくまでわかりやすさの演出であること明言 しており、この文書を作成したCD PROJEKT S.Aが、利用規約の可能性を追求しながらも、法的な重要性をないがしろにしていないことを再確認させてくれます。

プライバシーポリシーが日本語化されていないとか、12月10日前に公開されている段階から「最終更新日 12月10日」になっていたとか、ツッコミどころもいろいろあるでしょう。

しかし、つまらない儀式になりがちな利用規約を読む行為を少しでも楽しく・前向きなものにしようとする、ゲーム会社ならではのパッションが込められた、よい利用規約だと思います。

画像: サイバーパンク2077オフィシャルサイト https://www.spike-chunsoft.co.jp/cyberpunk2077/ 2020年12月10日最終アクセス

(橋詰)

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