「契約事務取扱規則」の改正によって実現する国と企業のクラウド型電子契約
日本の契約文化の変革に向けた法令整備が、政府のリーダーシップによって次々と進んでいきます。今度は、国と企業との契約の電子化を阻んでいた「契約事務取扱規則」の改正です。
国と企業の電子契約で民間のクラウド型電子契約が利用可能に
2020年11月23日祝日の日経新聞朝刊2面に、日本の契約業務における脱ハンコとデジタルトランスフォーメーションにインパクトあるニュース が掲載されました。
政府は企業と取引する際に民間の電子署名サービスを利用できるよう年内に関連規則を改正する。(中略)国の契約に関するルール「契約事務取扱規則」は電子契約する場合は政府の電子調達システム「GEPS」を通すよう定める。利用に必要なICカード取得に数万円かかるなどの課題があった。規則改正により民間の電子署名サービスを使ってGEPSを通さずに契約できるようにする。
今回は、このニュースを理解するための前提となる、国との契約における契約方式の自由を過度に規制してきた現行法制の概要と、これが変わることになった経緯を解説します。
国との電子契約の方式を定める「会計法」と「契約事務取扱規則」の改正
今回改正の見込みが報じられたのは「契約事務取扱規則」という、かなりマイナーな法令です。
第二十八条 次の各号に掲げる書類等の作成については、次項に規定する方法による法第四十九条の二第一項に規定する財務大臣が定める当該書類等に記載すべき事項を記録した電磁的記録により作成することができる。
一 契約書
二 請書その他これに準ずる書面
三 検査調書
四 第二十三条第一項に規定する書面
2 前項各号に掲げる書類等の作成に代わる電磁的記録の作成は、 総務省に設置される各省各庁の利用に係る電子計算機と各省各庁の官署に設置される入出力装置並びに契約の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用して当該書類等に記載すべき事項を記録する方法 により作成するものとする。
3 第一項第一号の規定により契約書が電磁的記録で作成されている場合の記名押印に代わるものであつて法第四十九条の二第二項に規定する財務大臣が定める措置は、電子署名(電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)第二条第一項の電子署名をいう。)とする。
「会計法」の下位法令にあたるこの契約事務取扱規則28条2項が定める「総務省に設置される〜記録する方法」により、国と民間企業等とが電子契約を締結する方法が、政府電子調達システム「GEPS」を通した契約方式に限定されています。
しかも、このシステムを利用するためには「マイナンバーカード」または「指定された民間電子証明書」を利用することが方式指定されており、これらを利用する必要がないのがメリットであるクラウド型電子契約サービスが利用できません。
2020年7月に電子署名法の解釈が整理され、クラウド型電子契約サービスも法令に定める「電子署名」に該当することが明らかとなりました(参考記事:「電子契約サービスに関するQ&A」三省連名発表の意義)。にもかかわらず、電子署名法が認めたはずのクラウド署名が、どういうわけか別の法令である契約事務取扱規則が邪魔をして、事実上国との契約に使えない状態となっている のです。
今回、内閣府の規制改革推進会議デジタルガバメントWGの2020年11月17日会合においてこの問題が議論され、会計法を所管する財務省より、クラウド型の電子署名も利用できるよう契約事務取扱規則の改正を行うことが表明された というのが、記事冒頭で紹介した日経報道の背景となります。
「地方自治法」も改正の方針で普及が進むクラウド型電子契約
デジタルガバメントWGでは、地方自治体と民間企業との電子契約のあり方についても議論され、東京都と茨城県から、クラウド型電子契約サービスの利用を可能とすべきとの提言 がなされています。
以前よりサインのリ・デザインでも取り上げているとおり、地方自治法による電子契約規制は、日本のDXを阻む過度な規制の一つでした(関連記事:電子化に規制が残る文書と契約類型のまとめリスト)。この規制に対して当社や新経済連盟からだけでなく、当事者である地方自治体から具体的に声をあげていただいたことは、非常に大きな意味を持ちます。
こうした地方自治体からの要望に対し、同WG回答資料3-3において、
と、電子署名法よりも厳しい制約をクラウド型の電子署名に課して排除するつもりはないと、総務省も地方自治法について見直し方針を表明 しています。
国との契約に加え、地方自治体との契約においても利用できるようになれば、クラウド型電子契約サービスのさらなる普及が期待できます。
(橋詰)
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