デジタル・ガバメントとはOSである —若林恵『次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』
「行政のデジタル・トランスフォーメーションなんて言ったところで、また税金の無駄遣いで失敗するに決まっているよ」。そう悲観する前に、目を通しておくべき本があります。
多様化する人々の暮らしに対応可能なOSへアップデートが必要
- 「小さな政府」によって、「最小コストで(効用を)最大化する」こと
- 「大きな政府」によって、「個別のニーズに個別に応える」こと
これらは人=公務員を増やしても両立できなかったが、その 両方を得意とするデジタルテクノロジーを活用し、つなぎ合わせることで実現可能である ことを、エストニア・インド・スウェーデン・デンマーク・イギリス等の成功事例を紹介しながら解説する本書。
日本の何をデジタル化すればよいのか?ハンコをデジタル化しさえすれば勝手にフォーメーションしてくれるのか?誰もが感じているこの疑問に対し、本書P26は以下のように答えます。
「デジタルトランスフォーメーション」って、ずっとビジネスの領域での話が主体だったわけですけど、ビジネスが変わって民間のサービスが変わっていくと、それにつれてみんなの生活も変わっていきますよね。
—はい。
その結果社会の動き方が変わってくると、それまで社会を形づくっていたシステムと、実際の生活とがずれていってしまうわけです。簡単に言うと、アプリケーションはどんどん新しくなっているのに、OSが古いままなのでアプリそのものがうまく作動しないということになっちゃうんです。
—そのOSが「行政府=ガバメント」ということなわけですね。
人々の暮らしがデジタルで多様化しても、行政インフラというOSが昔のままでは手間は増えるばかり。だからOSのアップデートが今こそ必要である、というわけです。
平井大臣と政府CIOの発言から予想する「日本版インディアスタック」構想
では、その行政という「OS」をアップデートするにあたり、どこから手をつけるべきか?この課題解決に責任を負うデジタル担当相に就任した平井卓也議員が就任直後から再三再四強調しているのが、IDとしてのマイナンバー(カード)の活用と、それを軸にしたシステム間のAPI連携 です。
▼ 平井大臣と語る「日本のデジタル戦略」(YouTube NewsPicks Channel)
デジタルは人と人をつなぐ、人間中心の社会をさらに進化させるもの。今回のコロナ禍では、今までのデジタル投資が全然役に立たず国民を助けられなかった…(中略)。各省でバラバラ、国と地方でバラバラのものをつながるようにする。クラウドに持っていけるものは持っていく。で、マイナンバーカードについては、日本はIDないままデジタル化をすすめた。それは無理なんですよ。おまけに名前の読み方もFIXしてない社会で、いままでよくやってきたんですよ。
国民IDを徹底し、APIで各サービスをつなぐ。まさにこの発想で組み立てられているのが、インドのデジタル化政策「インディアスタック」です。以下本書P63-66より引用します。
インド政府は2009年から国民IDである「Aadhaar(アーダール)」をデジタルインフラの基盤として整備することに着手して、現在までに13億人に対して国民IDを振り終えています。(中略)インド政府がデジタルIDというインフラの次につくったのは、社会を「ペーパーレス」にしていくためのインフラです。
—どういうことですか?
社会の中ではいろんな書類がやりとりされますね?契約書だったり、請求書だったり、領収書だったり。そうした書類には公的なものもたくさん含まれています。それをデジタル上でやりとりしようと思ったら何が必要になりますか?
—公的な書類だったら実印とかが必要になりますね。
そう、社判や実印が必要ですよね。じゃあデジタル空間内で使える実印や社判をつくろうというのがインド政府の考えたことです。
—ははあ。でも実印ってハンコ屋さんに注文してつくってもらうものですよね。
ですからインド政府がやったのは、みんな実印をつくってあげることではなく会社や個人が銘々で「公的なデジタル実印=電子署名」(e-sign)をつくることのできる「規格」を用意してあげるということです。デジタル用語を使うと、誰でも使うことのできる「API」を用意して公開したということです。
—オープンAPIというヤツですね。
Aadhaar相当するマイナンバーの付与が完了している日本がやるべきことは、各省庁・自治体システムと人をAPI(Aplication Proguraming Interface)で横串につないでいく「日本版インディアスタック」の構築です。
コロナ禍直前の2020年1月に開催された、Govtechカンファレンス『中央官庁のデジタル化と自治体との連携』@東京ミッドタウン日比谷。ここで私が見た 政府CIO上席補佐官 座間敏如氏によるスライドは、API活用モデルを志向 していることを確信させるものでした。
上述の、平井大臣による「バラバラのものをつながるようにする」というコメントからも、日本政府がこれからインドをモデルにデジタル化を進めようとしていることが見て取れます。
クラウドサインも行政のデジタル化を支援
そして2020年10月、クラウドサインに行政デジタル化の専門部隊「デジタル・ガバメント支援室」を新設 したことを、プレスリリースにて発表させていただきました。
▼ クラウドサインにデジタル・ガバメント支援室を新設。官公庁・自治体に向けた行政手続きのデジタル化を推進
このたび当社が新設した「デジタル・ガバメント⽀援室」では、官公庁や地⽅ ⾃治体を対象に、⾏政⼿続きのデジタル化推進の⽀援を⾏ってまいります。 既にクラウドサインのWebAPI の活⽤に向けて検討を開始している⾏政機関もあり、各所で急速な改⾰が求められています。これに対応すべく、これまで当社が取り組んできた、複雑な組織構造における電⼦契約の運⽤コンサルティングの実績を活かし、官公庁・地⽅⾃体向けのプログラムを開始します。 また、電⼦契約の領域における法律やセキュリティ分野の専⾨家による監修によって蓄積されたナレッジを提供し、⾏政の推進するデジタル化を後押ししてまいります。
これまでのITゼネコン的発想に囚われない、WebAPIをベースにした未来志向のインフラづくりを通じて、行政のデジタル化を全力で支援していきます。
(橋詰)
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