ビジネス専門誌に投稿された押印文書の電子化に関する注目論文
令和2年5月以降次々と公表されている政府見解を受け、電子署名法の新解釈を踏まえた押印文書の電子化に関する法律論文がビジネス系専門誌に多数投稿されています。その中から、特に抑えておきたい5つの論文をピックアップし、それぞれの見どころをご紹介します。
(1)吉岡正嗣「“押印慣行”の見直しに向けた最新議論」(ビジネス法務2020年11月号)
押印に関する規制改革を行政内部から推進されている内閣府参事官による発信。なぜ・どうして押印慣行を見直すことになったのかの背景、電子署名法の新解釈が生まれた経緯を抑えるのに最適な論文です。
ビジネスサイドの押印に対する不満が爆発した背景が、「押印の他律性」にこそあることを指摘した上で、政府から発出された「押印についてのQ&A」「電子契約サービスに関するQ&A」の趣旨を概説します。
明治23年商法にまで遡った代表印と社印の使い分けについての考察は、国家として押印代替手段の未来をいかに描くべきかについての問題提起とも受け取れ、大変興味深い内容です。
(2)水井大・荻原理志「リーガルテックの概要と利用上の注意点」(旬刊経理情報2020年10月1日特大号)
政府見解の電子署名法解釈を、当事者型・事業者型電子契約のそれぞれに当てはめた場合、その法的有効性がどの程度認められるのかを整理 した論文です。
電子契約の周辺領域として注目されるリサーチツール・契約書作成&レビューツールについても広く概観し、客観的な立場から各サービスを取材、固有名詞を挙げながら機能面のPros / Consを検証します。
なお、指図型電子署名の法的効力を説明する図表において一部誤植があったとのこと。筆者のお二方が修正版をビジネスロイヤーズに投稿してくださっています(電子契約サービスの動向と概論)。こちらもあわせてご覧いただくと良いと思います。
(3)宮内宏「電子文書の公的認証制度を整理する」(ビジネスガイド2020年10月号)
厳格な本人確認を実施して電子証明書を発行する認証サービスという側面から、安全性を重視した電子契約サービスの選び方 に力点を置いた論稿です。
筆者が、当事者型電子契約サービス事業者の顧問弁護士でいらっしゃることもあって、事業者型電子契約の利用拡大には慎重なスタンスのコメントがされています。
従来型の電子署名サービスの長所についても十分に理解した上で、新しいタイプの電子署名と比較検討したい、そんなニーズにマッチする論文と言えます。
(4)宮川賢司・渡部友一郎「金融機関の現場で起こる電子署名の問題点」(週刊金融財政事情2020年9月28日号)
金融機関のように、厳格な権限確認と運用体制が求められる業態で電子契約サービスを利用する際、契約締結前/締結時/締結後のそれぞれのタイミングで何を確認しておけば有効な契約の成立を根拠づけられるのか。その方法を丁寧に考察する論稿。
・AMTニュースレターにて電子署名法を詳細に解説してくださった宮川賢司先生(関連記事:無料・中立・信頼できる電子契約の情報源リスト)
・ビジネスロー・ジャーナル2020年10月号掲載「電子署名法の再興」で立法経緯まで遡って研究された渡部友一郎先生(関連記事:「電子署名法第3条Q&A」の読み方とポイント—固有性要件はどのようにして生まれたか)
のお二方による、単なる法的知識の整理にとどまらない実践に踏み込んだ内容になっています。
また、これまでの電子契約関連の論稿ではあまり触れられることのなかった、個人情報を含む電子契約の締結が電子契約サービス事業者への第三者提供にあたるか いった論点にも触れられています。
(5)福岡真之介「電子署名法3条の推定効についての一考察」(NBL No.1179 2020年10月1日号)
他の文献に先駆け、3省より発出された令和2年9月4日付3条Q&Aが述べる3条推定効発生のための固有性の要件につき詳しく解説 した、信頼のおける論文。
3条Q&Aの問4の記載を元に、事業者型電子署名においても身元確認(実際にその行為を行う利用者が実在する特定の存在であることを確認すること)が要件に含まれると主張する一部の見解に対し、以下のとおり否定的な見解を述べています。
①電子署名法3条の「本人だけが行うことができる」の文言は、同法2条3項にもあり、同法施行規則2条にその基準が定められているところ、同条には、暗号の困難性の水準についてのみ定められており、身元確認に関する規定はないこと、②立法経緯から、固有性の要件は暗号の強度(アルゴリズム、鍵長)が十分であることを意味し、利用者の真偽の確認(身元確認)は敢えて要件とされなかったと考えられることから、固有性の要件に利用者の身元確認は不要であるとするのが妥当であると考えられる。
電子署名法3条による推定効発生の意義、押印同様の二段の推定が成立するか についても紙幅を割いて説明があり、押印と電子署名とを対比して整理したい方にも分かりやすいものとなっています。
以上、今回ご紹介した専門誌はいずれも原則年間契約の定期購読誌ではありますが、一部大型書店や法律専門書店では販売もされています。ぜひ出版社や書店等にお問合せください。
(橋詰)
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