36協定の押印廃止—そしてチェックボックス方式へ
最後まで印鑑が残るだろうと思われていた36協定をはじめとする労働関係書類について、押印を廃止することが決定されました。
36協定の押印が不要に
厚生労働省が、36協定をはじめとする書類に、今後押印を求めない方針 であると報じられました。8月27日の労働政策審議会労働条件分科会にてすでに了承済みとのことです。
▼労使協定書類の押印廃止 厚労省、企業の業務効率化後押し(日本経済新聞 2020年9月7日)
厚生労働省は2021年度から、残業時間に関する労使間の36協定(サブロク協定)など約40の企業の労働関係書類について押印の義務をなくす。テレワークが普及するなか、紙の行政書類に押印するために出社するといったケースがある。業務の効率化で企業の生産性を高める狙いだ。
裁量労働制に関する報告書などが対象になり、特に36協定が企業にとって影響が大きいと見込まれる。36協定の提出は労働基準法で定められており、19年の届け出件数は178万件に及ぶ。
先日、労働者派遣契約の完全電子化が認められる見込みとのニュースをお知らせしたばかりですが(関連記事:労働者派遣契約の完全電子化解禁へ—派遣法施行規則の令和3年1月改正)、重要な労働条件に関する手続文書から押印が消えるという、象徴的な変化となります。
厚生労働省の抵抗とデジタルガバメントWG委員の反論
36協定とは、正しくは「労働基準法第36条に基づく時間外労働・休⽇労働に関する協定届」といいます。従業員を時間外・休日労働させる際には必ず必要となる文書です。
法令上は必要的記載事項が網羅されていれば書式は自由ではあるものの、実際はほとんどの会社が厚労省が定める様式を用いて提出しており、届出に際しては記名・押印⼜は署名しなければなりません(労働基準法法施⾏規則第59条の2)。
この36協定の押印廃止と電子化について、コロナ第一波の最中に行われた規制改革推進会議デジタルガバメントWGにおいて、厚生労働省は、
- 「利用率は低いが(本人または社会保険労務士の電子署名を用いた)電子申請システムをすでに提供している」
- 「36協定は重要な届出文書であり、押印の重みが必要である。」
- 「民間の電子認証サービスは信用できないため採用できない」
という態度を取っていたことが、令和2年6月5日付「『行政手続における書面主義、押印原則、対面主義の見直しについて(再検討依頼)』」の結果概要」に残っています。
これに対し、デジタルガバメントWGの委員らは6月18日の第11回会議で以下のように反論し、押印の必要性再考を強く求めました。
- 「本人が理解していることイコール言葉遣いとして記名・押印があること、となってしまっていて、このまま放置するとどんどん記名押印が増えていく一方ではないか。 本人が確認するという儀式と記名・押印とは違う」
- 「押印によって真正性を担保しているというお話がある(略)。 仮に、これが実印でないとすれば、民事訴訟法上の作成者が誰かということの立証として、これだけでは不十分だとなります。さらに、実印で印鑑証明書まで取られて、かつそれらの印影をちゃんと照合しているということでなければ、ほぼ意味がない」
- 「現状の電子申請率ということですけれども、これはシステム導入時の失敗事例の典型例」
このような激しいやりとりが何度か繰り返され、施行規則によって押印を義務付けていた文書の徹底的な電子化に向けて、労働政策審議会に諮ることとなったのです。
押印廃止後の新36協定は「チェックボックス方式」に
第163回労働政策審議会労働条件分科会の資料には、押印廃止後の新36協定のイメージ図 が添付されています。
新しい36協定届の様式では、記名のみで押印を廃止、当事者または社会保険労務士による電子署名も不要とし、チェックボックス方式が採用 されました。
同資料の説明では、このチェックはあくまで協定届の届出印の代替であって、協定書(労使協定そのもの)への同意を意味するものではないとされています。また、「新たに設けるチェックボックスにチェックがない場合、形式上の要件を備えていないものとする。」との記載もありました。
押印が必要な労基法省令様式のリスト
また、同労政審資料には、労働基準法が押印を求める省令様式の一覧 もまとめられています。今後、これらの36の様式についても電子化を行なっていくとされています。
労働基準法 | 同施行規則 | 様式名 | 過半数代表者記載 |
---|---|---|---|
第18条第2項 | 第6条 | 貯蓄金管理に関する協定届 | レ |
第19条第2項 | 第7条 | 解雇制限・解雇予告除外認定申請書 | |
第20条第1項但書後段 | 第7条 | 解雇予告除外認定申請書 | レ |
第32条の2第2項 | 第12条の2の2第2項 | 1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届 | レ |
第32条の3第4項 | 第12条の3第2項 | 清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届 | レ |
第32条の4第4項 | 第12条の4第6項 | 1年単位の変形労働時間制に関する協定届 | レ |
第32条の5第3項 | 第12条の5第4項 | 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届 | レ |
第33条第1項本文 | 第13条第2項 | 非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書・届 | |
第36条第1項 | 第16条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する協定届 | レ |
第36条第1項 | 第16条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する協定届 (限度時間を超えて時間外・休日労働を行わせる場合(特別条項)) | レ |
第36条第1項 | 第16条第2項 | 時間外労働・休日労働に関する協定届(新技術・新商品の研究開発業務に 従事する労働者に時間外・休日労働を行わせる場合) | レ |
第36条第1項(読替) | 第70条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する協定届(適用猶予事業・業務に従事する 労働者に時間外・休日労働を行わせる場合) | レ |
第36条第1項(読替) | 第70条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する協定届(事業場外労働に関する 協定の内容を付記して届け出る場合) | レ |
第36条第1項(読替) | 第70条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する労使委員会の決議届 | レ |
第36条第1項(読替) | 第70条第1項 | 時間外労働・休日労働に関する労働時間等設定改善委員会の決議届 | レ |
第41条第3号 | 第23条 | 断続的な宿直又は日直勤務許可申請書 | |
第38条第2項 | 第24条 | 集団入坑の場合の時間計算特例許可申請書 | |
第38条の2第3項 | 第24条の2第3項 | 事業場外労働に関する協定届 | レ |
第38条の3第2項 | 第24条の2の2第4項 | 専門業務型裁量労働制に関する協定届 | レ |
第38条の4第1項 | 第24条の2の3第1項 | 企画業務型裁量労働制に関する決議届 | レ |
第38条の4第4項 | 第24条の2の5第1項 | 企画業務型裁量労働制に関する報告 | |
第34条第3項 | 第33条第2項 | 休憩自由利用除外許可申請書 | |
第41条第3号 | 第34条 | 監視・断続的労働に従事する者に対する適用除外申請書 | |
第41条の2第1項 | 第34条の2第1項 | 高度プロフェッショナル制度に関する決議届 | レ |
第41条の2第2項 | 第34条の2の2第1項 | 高度プロフェッショナル制度に関する報告 | |
第71条 | 第34条の4 | 職業訓練に関する特例許可申請書 | |
第78条 | 第41条 | 業務上傷病に関する重大過失認定申請書 | |
第90条 | 第49条第2項 | 就業規則にかかる意見書 | レ |
第104条の2第1項 | 第57条第1項第1号 | 適用事業報告 | |
第104条の2第1項 | 第57条第3項 | 預金管理状況報告 |
クラウドサインにもPDFの上にチェックボックスを設置できる機能があります。これを使った労働基準監督署への届出についてもぜひチャレンジしてみていただきたいところです。
(橋詰)
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