OneNDAのそこが聞きたい—今Hubbleからこれを仕掛けた理由
面倒で不毛なペーパーワークと捉えられてしまいがちなNDA(秘密保持契約)の締結作業をリ・デザインし、意味のあるコミュニケーションに生まれ変わらせたい。そんな強い思いをもって「OneNDA」プロジェクトを立ち上げた株式会社Hubbleの早川CEOと酒井CLOに、法務パーソンからの疑問を遠慮なくぶつけてみました。
「OneNDA」がクリエイティブコモンズ方式を選ばなかったのはなぜか
—NDAを統一する「OneNDA」プロジェクトが、各メディアで早速評判になっていますね。サインのリ・デザインで喋っていただくことももう残ってないかもなあ…と思ったりもしつつ、株式会社Hubble のCEO 早川晋平さんとCLO 酒井智也先生にお時間をいただきました。
早川:
そんなことないですよ!橋詰さんからはリリース直後にもいろいろ質問をいただいていて、自分たちも考えを整理するよいきっかけをいただいていますし。
酒井:
サインのリ・デザインの読者層である法務の皆さま向けには、まだまだお伝えしきれていないことがあると思うので、今日はそんなお話ができたらよいなと思っています。よろしくお願いします。
—では早速、このOneNDAプロジェクトに興味を持つ法務担当者の代表として、質問させていただきます。まず思ったのが、クリエイティブコモンズライセンスのような、「秘密情報開示条件の類型化」という手法を選ばなかった理由を教えていただきたいです。
酒井:
そこからですね。わかりました。
NDAをシンプルにする方法として、クリエイティブコモンズ(以下CC)ライセンスのような類型化・パターン化を図るという方法も、当初検討段階では選択肢の一つとしてありました。ですが、外部の有識者やお客様とのディスカッションの中からNDAの課題を抽出する中で、著作権ライセンスをパターン化するCC方式は2つの点で馴染まないのではないか、という結論に達しました。
1点目が、CCの場合は1:Nのライセンス関係であるのに対し、NDAは基本的には1:1の情報開示関係であるという点。そして2点目が、CCの場合は著作権者が対象情報のコントロール権を支配する立場なのに対し、NDAはその相互性・双方向性が強いという点です。
特に2点目は重要で、今回のOneNDAでは、できるだけイーブンな条件でのNDAを広めていきたいという思いもありましたので、CC方式ではないほうがよいだろう、と考えています。
—確かに、CCのスキームを持ち込むと、秘密情報の開示者が被開示者に対して厳しい条件を振りかざす方向に傾いてしまいそうですね。
酒井:
私たちは、契約をコミュニケーションとして捉えなおし、デザインし直したいという思いが強くあります。とはいえ、コミュニケーションを複雑にしないようにという点も、このプロジェクトでは重視しているポイントです。
当社がいくつかのパターンを提示してしまったがために、当事者Aがパターン1を希望し、反対当事者Bがパターン2を希望するというように、かえって交渉や合意を複雑化させてしまうのではないか、という懸念もありました。
—とはいえ、M&Aや知財ライセンスの場面でのNDAとなると、両者公平な条件のNDAひな形では馴染まず、開示者に有利な条件にしたい、というニーズはありませんか?シチュエーションによって、いくつかのNDAポリシーが並べられていて、そこからユーザーが選択できると、より使いやすくなるのではと思ったりもします。
酒井:
その点はおっしゃるとおりです。今後、そうしたパターン分けも行なっていく可能性は十分にあります。それでも、いまは一つのNDAポリシーで取引に必要な秘密情報をやりとりする趣旨に賛同いただける企業にお集まりいただければと考えています。
「OneNDA」コンソーシアムの位置付けと紛争解決手続の具体的イメージ
—続いて気になる点が、紛争の解決についてです。OneNDAのサイトや規約を拝見すると、Hubbleが運営主体となる「OneNDAコンソーシアム」(以下本コンソーシアム)に賛同企業が参加するスキームを採用した、とあります。この賛同企業AとBの関係は法的にはどういう関係なのでしょうか。万が一秘密保持義務違反があったとき、本コンソーシアムやHubbleという組織が間に入っていることで、紛争解決が複雑化しないのでしょうか。
酒井:
本コンソーシアムについては、
- 民法上の組合
- 権利能力なき社団
- 利用規約に基づくサービス提供者とそのユーザー
こういった整理がありえると思います。ただ、1については、出資要件や共同の事業性要件が要求されることや、2については多数決原理を採用しなければいけないこととされ、1や2と考えてしまうと、参加へのハードルがあがり、かつコンソーシアム運営においても負担になっていく可能性があると考えました。
そこで、より多くの方に参加いただき、このプロジェクトを一緒に大きなものにしていきたいという思いのもと、3のサービス提供者と利用者、と考えています。
—その場合、たとえばA社が開示した秘密情報をB社が漏洩したときに、Hubbleがプラットフォーマーとして、中間責任を背負うのかという議論もでてきそうです。
酒井:
メルカリ等のCtoCサービス同様、「OneNDA」コンソーシアム参加規約に基づいて、当事者の責任において当事者間で解決していただくということがベースで、それによって紛争解決が複雑化するとは考えていません。
一方で、具体的な紛争解決の手続きがイメージできたほうが安心して本コンソーシアムに参加できるというのも、おっしゃるとおりだと思います。そういった声にお応えできるように、紛争解決のプロセスをわかりやすくサイト上でもお示ししていく予定でいます。
「OneNDA」秘密保持ポリシー策定のプロセス
—そして、出来上がった「OneNDA」秘密保持ポリシーも拝見しました。完成するまでの策定プロセスについても教えてください。
早川:
当初は、GitHubに仮案を公開して、オープンに議論を仕掛けていこうかとも考えていましたが、Hubbleのメンバーで議論を重ね、外部の有識者と検討をして策定しました。
—ベースにしたひな形は何かありますか?
酒井:
経済産業省のひな形をベースにさせていただいています。経産省のご担当者もご紹介いただきお話を伺うことができました。外部の有識者としては、シティライツ法律事務所の水野祐先生、末永麻衣先生にご協力をお願いしています。
水野先生には1年前にこのプロジェクトを企画したタイミングで役員3名でお伺いし、話をさせていただきました。水野先生がCCの理事でもいらっしゃることもあって、今回のプロジェクトに関しては、水野先生にぜひともアドバイザーとして参画いただきたいと思いましたし、末永先生はメルカリのリーガルグループマネージャーとしても活躍され、企業がいかにこのプロジェクトに賛同していくか等について、的確なアドバイスをいただきました。
—おお、あのシティライツがアドバイザーでいらしたんですね!
早川:
え、それって言っていいんでしたっけ。ダメなのかと思って必死に隠してました(笑)。
酒井:
先生方からはOKもらってますよ(笑)。秘密保持ポリシーの文言についても、Hubble上でかなり密に先生方とコミュニケーションをして固めたものになります。
なぜ、今、Hubbleが「OneNDA」をやるのか
—それにしても、大きな志をもった社運を賭けたプロジェクトですよね。そしていじわるな言い方をすれば、ひとつのNDAで済むならバージョン管理ツールのHubble自身を否定しかねない。それでもこれをHubbleとしてやろう、と考えたのはなぜですか。
酒井:
これに関しては、私がHubbleにジョインする前から、早川が個人として強い思いを持って取り組みたいと言っていたことなんです。
早川:
受託の仕事などで食いつないでいた時代、それこそ何通もNDAの締結を迫られましたが、当時は契約の文言なんてまったくわかりませんでした。ですので、外部の顧問弁護士としての酒井にレビューをしてもらい、OKだったらその旨返事をするということを繰り返していました。
そのうちに、「秘密をどのレベルで管理しなければならないか」をビジネスをやっている自分が読んで理解してなければ実行も伴わないはずなのに、弁護士がOKといえばOKと伝え、NGだったらNGと返すというただの作業になっているのはおかしい、と疑問に思うようになったんですね。
「民法では契約方式の自由が認められている」とか、「口頭でも成立する」と言っても、契約書はとりあえず結んでおかないと前に進められないのが現実のビジネスだというのは、理解しているつもりです。でも、そうまでして手間をかけて結んでいる契約書の中身は、誰も読まないし理解しようとしていない。それはおかしいと思いました。
ペーパーワークの面倒さどうこうの前に、契約の内容を自分自身で理解してきちんと守るという部分が形骸化しているのがおかしい、という問題意識です。
—単に紙の契約書を作ったり印鑑を押したりするのが面倒だから端折りましょう、ではないということですね。
早川:
そうなんです。OneNDAの見え方として、どうしても「スピードUP」「手間の削減」というところばかりがフィーチャーされてしまいますし、もちろんその効果は大きいと思うのですが、みんなが「自分が相手とどんな約束をしているのかを理解できるようになる」状態が、OneNDAで目指したいことですし、コミュニケーションツールとしてのHubbleのプロダクトが目指すゴールともつながっていて、決して矛盾するものではないと考えています。
酒井:
もう一つ付け加えると、このプロジェクトの大きな目的の一つは、統一的なルールを設定することで、秘密情報の取扱いに関する新たな管理意識が醸成されることだと思っています。
NDAを締結すれば安心ということではなく、自社の秘密情報を開示する際に、秘密情報を誰にどのように提供するのか、情報の重要性や性質から、開示情報の範囲と開示範囲をどうコントロールするかが、自社の秘密情報を守るために重要かつ実効性があると思います。そして、OneNDAにより、何を秘密情報として取り扱うか、漏洩が起こった場合には損害をどう回復するかがしっかりと理解されていけば、NDAを締結することに対する過度な期待をよせることよりも、秘密情報を自らコントロールしていくべきであるという新たな管理意識が醸成されていくと考えています。
また、こうしたプロジェクトは、誰がやるか、そしていつやるかということが重要だと思っています。早川と私が出会った2年前からの思いを、一定のお客様にご支援いただけるようになったこのタイミングでHubbleという器を使って仕掛けていきます。
早川:
エンジニアの働き方を格好良くしたAppleのように、リーガルの働く皆さんを、洗練されたデザインの力を持ち込んで格好良くする、使っていただくユーザーが気分良く仕事ができる状態にするのが、Hubbleの存在意義だと思っています。契約をリ・デザインするOneNDAへ参加いただける企業が一社でも多く集まっていただければうれしいです。
(聞き手 橋詰)
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