ユーザーが理解できない利用規約の存在意義—消費者庁「デジタル・プラットフォーム利用者の意識・行動調査」
ユーザーは利用規約をどの程度理解できるのか?
先日ご紹介した公正取引委員会による利用規約の読了率調査では、規約を全部読む利用者がたったの5.5%に過ぎないことが明らかになりました(関連記事:利用規約を全部読んで同意するユーザーは何%?—公正取引委員会「デジタル広告の取引実態に関する中間報告書」)。
これに関連して、消費者庁でも、「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」が開催され、事業者が優越的地位を濫用し、利用者に不当条項への同意を強制しているのではないか といった問題意識に基づき、調査と議論が行われています。
その第6回(2020年5月19日)の資料として公開された「デジタル・プラットフォーム利用者の意識・行動調査」に、利用者の利用規約理解度に関する興味深い調査と問題提起が掲載されていました。
形式的には読了しても、実体的にはどうせ分からないからいいやという「あきらめ同意」が横行
この消費者庁調査でも、公取調査同様に利用規約やプライバシーポリシーが流し読みしかされていない実態が明らかにされています。その上で、読了率調査よりもさらに深掘りを試みているのが、利用者が形式的に規約を読んだとしても、果たして実体的に正しい理解にまで到達しているのか、という点です。
調査結果を見ると、利用規約を読もうという意欲のある回答者群に対し、「結局内容は理解できたのか」を問うと、30%近くが「いいえ」と回答。その理由として、読むべきポイントや言葉の難しさを挙げています。
さらに本調査では、規約に対する 理解度調査を自己申告回答ベースにとどめず、いくつか具体的な規約の文言例を提示し、その意味を回答させる方法によっても確認 しています。
下記の3問のテストでは、3000人を超える回答者のうち、回答分布グラフの緑色に該当する回答者を除いては、質問文で赤字となっている規約文言例の法的効果を正しく理解しないまま(ある程度読んで理解したつもりになって)同意をしてしまうことがわかります。
計測しやすい「規約読了率」に対して計測困難な「規約理解度」
ユーザーはの規約読了率を高める工夫や方法はいくつか考えられます。たとえば、
- 規約末尾までスクロールしないと同意ボタンが押せない仕組み
- PDFをダウンロードし閲覧しないと同意できない仕組み
- あえて規約を複数ページに分割しページ遷移をすべて完了してはじめて同意が可能となる仕組み
などです。過去には、規約を隅々まで読んだ人だけが賞金1万ドルをもらえるキャンペーンを実施した旅行保険会社もありました(Squaremouth Awards $30,000 in a Contest They Thought Would Last One Year, but Was Won in 23 Hours)。
一方、規約理解度の正確な計測・把握はきわめて困難 です。言語としては読めても、条文が想定するシチュエーションにユーザー自身がおかれる可能性に対する想像、有利・不利のあてはめを正しく脳内でできているかを、技術的に計測できる方法は思いつきません。せいぜい、今回の消費者庁の調査のように、理解度テストを利用者に受験してもらうしかないでしょう。
法的文書を読むトレーニングなど受けているはずもない一般ユーザーに、規約を強制的・形式的に読了させて同意は得ることはできても、その内容を理解したことを確認できない以上、本当の同意とは言えないのではないか?あらためて、その事実を突きつけられる調査です。
画像:EKAKI / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
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