取締役会議事録もクラウド型電子署名で—2020年5月29日付法務省新解釈の解説
法務省が、会社法施行規則の解釈を明らかにし、クラウド型電子署名が取締役会議事録作成に用いる電子署名としても適法であることを認定しました。
日本経済新聞朝刊一面に掲載された「法務省がクラウド型電子署名を適法認定」のニュース
2020年5月31日付日本経済新聞1面に、これまでの業界の常識を覆すニュースが掲載されました。
▼ 取締役会の議事録承認 クラウドで電子署名 法務省、手続き簡素に
法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。(中略)署名と署名に必要な鍵をサーバーに保管し、全ての手続きがクラウド上で済む。当事者がネット上の書類を確認し、認証サービス事業者が代わりに電子署名するのも可能となる。
取締役会に出席した取締役及び監査役は、会社法の定めにより、取締役会議事録に署名又は記名押印をしなければなりません(会社法369条3項)。そして、この「署名又は記名押印」を電子化するには、「電子署名」が必要でしたが、その要件は以下のとおり定められていました(同条4項,会社法施行規則225条1項6号,2項)。
今回のニュースは、クラウドサインのようなクラウド型電子署名が上記会社法施行規則第225条2項を満たす電子署名であることを、法務省として初めて公に認めた ものになります。
法務省から経済団体への新解釈通知全文
法務省は、2020年 5月22日開催の規制改革推進会議成長戦略WGに提出した論点に対する回答と題する文書 で、以下の硬直的な見解を出していました。
電子署名法の解釈として,御指摘のいわゆる「リモート署名」又は「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」であっても,電子署名法第2条第1項各号の要件を満たすものについては,同条に規定する「電子署名」に該当するものであると解される。ただし,この場合であっても,「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」は,電子契約事業者が自ら電子署名を行うサービスであって,当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される。このように整理される場合には,出席した取締役又は監査役が「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」を利用して電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録に電子署名をしても,当該電子署名は取締役等の電子署名ではないこととなり,会社法第369条第4項の署名又は記名押印に代わる措置としては認められないこととなると考えられる。
その後1週間に渡る関係各所の協議の末、この見解が180度変更されました。新経済連盟様より、5月29日金曜日の夕刻より法務省民事局参事官室が各経済団体へ周知した文書 を回覧していただきましたので、その全文を掲載させていただきます。
会社法上,取締役会に出席した取締役及び監査役は,当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また,当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には,署名又は記名押印に代わる措置として,電子署名をすることとされています(同条第4項,会社法施行規則第225条第1項第6号,第2項)。
当該措置は,取締役会に出席した取締役又は監査役が,取締役会の議事録の内容を確認し,その内容が正確であり,異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって,いわゆるリモート署名(注 サービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管し,利用者がサーバにリモートでログインした上で自らの署名鍵で当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの)や サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても,取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして,当該取締役会の議事録について,その意思に基づいて当該措置がとられていれば,署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものである と考えられます。
このとおり、新解釈では、「サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても」すなわちクラウドサインのような事業者署名型についても、署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると明確に述べています。
なお、当編集部が得ている情報によれば、この新解釈について特に会社法施行規則の改正は行わないとのこと。本日時点ですでにこの新解釈が有効なものとなります。
法務省の新解釈がクラウド型電子署名の実務に与えるインパクト
以前弊メディアの記事(議事録の電子化に関する法的規制と電子署名)でも解説したように、上記会社法施行規則が定義する「電子署名」がクラウド型を認めているかは、長らくグレーでした。
特に保守的とならざるを得ない法務省の立場は、「ローカル署名」(ICカード等物件を要するタイプの電子署名)を要件としているとささやかれていました。実際、法務省に問合せてそう回答されたという話もよく聞きますし、他社プロダクトとの差別化セールストークとして使っていたローカル署名事業者も、決して少なくありません。
今回の規制改革推進会議の過程でこのグレーゾーンがオープンに議論された結果、社外を含む各取締役・監査役への回覧・押印がクラウド型電子署名でOKと認められたわけです。これにより、各役員が個人負担で面倒な認定認証サービスを契約せずにすみ、実務がスムーズに回るようになることは間違いありません。
そしてこの新解釈は、単に「クラウド型電子署名が堂々と取締役会議事録にも使えるようになった」以上の、非常に大きなインパクト を持っています。というのも、先ほどみた 会社法施行規則225条2項の「電子署名」の定義は、会社法だけでなく、電子署名法をはじめとする180の法令で用いられている「電子署名」の定義とほぼ同様の文言となっているからです。
つまり、今回の法務省の新解釈は、これら180の法令に定義された「電子署名」の解釈をクラウド型電子署名にも広げたに等しい、 クラウド型電子契約ユーザーにとって大きな可能性を秘めた新解釈となります。
残るは商業登記法施行規則の改正
さて、会社法施行規則との関連で今後の動向が気になるのが、電子署名で作成された議事録が登記実務上も通用するのか、という点です。
この点、商業登記法施行規則において、登記申請およびその添付書類に必要となる電子署名の定義が定められています。原則として、代表者については商業登記電子証明書による電子署名が必要とされ、その他の役員は法務省が指定するローカル署名タイプを要求してきた実態があり、これが登記手続きの妨げになってきました。
このような制度となっていたのは、事前に法務局に登録させていた法人実印と登記申請を照合することで、法務局が法人の本人認証(身元確認)をスムーズに行いたかったからにほかなりません。
しかし、時代は変わりました。法務省もこの規制改革推進の動きを受け、商業登記法施行規則の改正や改正前の実務変更を機動的に行なっていく 方向であると聞いています。
クラウドサインも、引き続き内閣府・法務省・新経済連盟をはじめとする関係各所と連絡・連携をとり、この規制改革の動きを推進して参ります。
画像:shuu / PIXTA(ピクスタ), Mazirama / PIXTA(ピクスタ)
(橋詰)
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