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商慣習による押印法制のリ・デザイン—規制改革推進会議が示す電子署名法の新解釈


規制改革推進会議が「クラウド技術を活用した電子署名」に注目し、その利用拡大に向けた方針を明文化。商慣習の変化によって、法令の解釈が変わろうとしています。

新しい商慣習となりつつある「クラウド技術を活用した電子署名」

先日、5月12日に行われた内閣府規制改革推進会議第10回成長戦略ワーキンググループにおいて、弁護士ドットコムおよび日本組織内弁護士協会より、電子契約普及のための法改正に関する提言を行いました(関連記事:「デジタルファースト」を加速するための電子署名法・商業登記法等の規制緩和の必要性)。

これを受けて、翌週5月18日付第6回規制改革推進会議で、「書面規制、押印、対面規制の見直し」が議題として上程されています。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200518/200518honkaigi02.pdf  2020年5月22日最終アクセス
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200518/200518honkaigi02.pdf 2020年5月22日最終アクセス

この文書では、旧来型の電子署名ではない、「クラウド技術を活用した電子署名」が新しい商慣習として認識され、法令のありかたを見直す必要性 がこの文書にはっきりと記されています。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200518/200518honkaigi02.pdf 2020年5月22日最終アクセス
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20200518/200518honkaigi02.pdf 2020年5月22日最終アクセス

このような提言がWG委員の皆様の共感を得ることができたのも、書面・押印という古い慣習に縛られず、時代の先駆者(アーリー・アダプター)としてクラウド型電子契約を率先してご利用いただき、新たな商慣習として育ててくださっている多くのユーザー様の力によるところが大きいと思います。

当事者型電子署名の限界

一方で、旧来型の電子署名の方式にこだわりたい側の抵抗にも、根強いものがあります。2020年5月28日付日本経済新聞電子版に、世瀬周一郎記者の署名記事として、以下のような記事が掲載されました。

クラウド上の契約に法的リスク 20年前施行の法が壁に

従来有効だとされてきた電子署名は、ICカードを用いた方法や、クラウド上であっても「当事者型」と呼ばれる形式だ。利用者が認証サービスを手掛ける事業者に自らを証明する書類などを提出し、事業者が電子証明書の入ったICカードや電子ファイルを発行。それを使って当事者同士が署名をする。ただ双方が電子証明書を持っていなくてはならないという面倒さがあった。
もちろん契約の方式は本来自由であるため、クラウド上で結んでも成立する。トラブルで裁判になった場合はこうして結ばれた電子契約書や、事業者が提出するログ情報なども証拠になりうる。しかし有効性を巡る過去の判例はなく、当事者同士が署名した紙や電子の契約書に比べると証拠能力が劣り、「法律上不利益に働く可能性がある」(藤原総一郎弁護士)。

念のため、「有効性を巡る過去の判例がない」のはクラウド型だけでなく、ICカードを用いた当事者による旧来型(当事者型)の電子署名にもありません(関連記事:電子契約・電子署名の有効性が争われた判例はあるか)。しかし、この旧来型にこだわる法律家は、当事者が認証局から電子証明書を取得する方法を推奨してきました。

もちろん、電子証明書をあまねくユーザーに発行すれば利益を得られる電子認証事業者の立場としては、そのような「当事者型」が理想かもしれません。では なぜこの「当事者型」がこれまで普及してこなかったのでしょうか?

それは、自社だけでなく 契約の相手方に過度な負担を強いるスキームとなるから です。

取引・契約の相手方に過度な負担を強いる「当事者型」電子署名が普及しなかった理由
取引・契約の相手方に過度な負担を強いる「当事者型」電子署名が普及しなかった理由

電子証明書の発行を署名者ごとに受けることを必須となると、ユーザーは、その取得に必要な手続きはもちろん電子証明書の取得コスト(1年で約1万円)負担をその人数ぶん求められます。

一度きりの購入で済むならまだよいのですがそうではなく、法令上5年以内と定められた更新期限ごとにこれを購入し直す必要も出てきます。加えて、取得の際に法人代表者の印鑑証明書や住民票を認証局に提出しているため、人事異動、転職、転居等が発生しこの認証が依拠した根拠文書に変化があれば、別途手続きが必要にもなります。

実はほとんど知られていないものの、国を挙げて普及をめざすマイナンバーカードには、この電子署名機能(電子証明書)が無償で内臓されています。それですら、カード自体の普及はおろかこの署名機能を有効化して利用するユーザーがいないことが、「当事者型」の浸透の限界を証明しています。

商慣習の変化を原動力に未来をリーガルデザインする

この事実に気づいたユーザーは「当事者型」を選択せずに「クラウド型」を選び、そしてクラウド型のユーザーがユーザー同士のネットワーク効果によって普及が爆発的に始まりました。

こうして生まれた新たな商慣習が、これまで硬直的だった各省庁の法令解釈をも変えようとしています。

5月12日の規制改革推進会議第10回成長戦略ワーキング・グループに先立ち、法務省・総務省・経済産業省が示した、電子署名法に関する「論点に対する回答」と題する文書。この中で「民間事業者間の契約において活用が進んでいる一部の電子契約事業者が利用者の指示を受けて自ら電子署名を行うサービスについても、電子署名法第三条による電磁的記録の真正な成立の推定を得られるよう、必要な措置を検討すべきではないか」との内閣府からの問いに対し、3省から以下の解釈が示されました。

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200512/200512seicho04.pdf 2020年5月22日最終アクセス
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200512/200512seicho04.pdf 2020年5月22日最終アクセス

ここで新たに述べられているのは、現行電子署名法による推定効が直接的に得られないとしても、間接的にはそれと同等の文書の真正が認められると考えてもよいだろうとの見解。随所に保守的な部分は残りつつも、まだクラウドサインのご利用社数が1万社そこそこだった2017年にこれと同じ質問を所管省庁にぶつけても、ここまで踏み込んだ回答は返ってこなかったはずです。

こうした変化の兆しを逃さず、ではもう一歩進めていかにしてクラウド型電子契約に推定効を及ぼすかがリーガルデザインの仕事の真骨頂であり、今それに向けて関係各所とのディスカッションを重ねているところです。

クラウド型電子契約に対するお客様の支持が商慣習を変え、その力によって、日本の押印法制が大きくリ・デザインされようとしています。

画像: CORA / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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