あまりにも不平等なIOCと東京都の「開催都市契約」
国際オリンピック委員会(IOC)と東京都らが締結した契約書について、橋本聖子大臣が「大会開催の延期が可能と読みとれる」と発言。その契約内容は東京都らにあまりに不利な条件となっていました。
一般公開された国際オリンピック委員会(IOC)との契約書をチェック
オリンピックというイベントが、民間NPOである「国際オリンピック委員会(IOC)」によって仕切られていること、そしてそのIOCが定めた厳格なルールに従い、開催地に立候補した都市に運営が委託されるビジネスモデルとなっていることは、メディアでもよく取り上げられる話題です。
実は、この IOCと開催都市との間のルールを定めた「開催都市契約」が、東京都オリンピック・パラリンピック準備局のWebサイト上で公開されている ことをご存知でしょうか?
この契約書は、85条の秘密保持義務を別途締結された付属合意書によって一部免除することにより、合法的に開示されています。
開催都市契約によって東京都らが一方的に背負う義務と責任
開催都市契約は、付属文書を除く本体だけで全87条もある、かなり大部な契約です。
しかし、その中身を根気よく見ていくと、「ここまで一方的な契約を、都民にさしたる説明もなく結んで問題ないのだろうか?」と驚かずにいられないほど、IOCにとって一方的に有利な契約条項の見本市・オンパレード となっています。
その中でも特に東京都サイドに不利であることがわかる条項群を7つ、翻訳版からピックアップしてみました。
(1)東京都サイドがすべての運営責任を負担
東京都および日本オリンピック委員会(NOC)は、第1条により、スタジアム等を建設し大会を行うのに必要な資金を集め、人を動員し、イベントを運営する責任を一身に負っています。
これに対し、第13条に基づきIOCが提供するのが、エンブレムやマスコット等の利用権およびチケット・放映権等の収入分配(レベニューシェア)権です。
この相互関係が開催都市契約のコア部分となります。しかしIOCの仕事はといえば、競技によって発生する無形の財産権を開催都市にライセンスし、金の流れを仕切るだけに過ぎません。
(2)「お・も・て・な・し」も契約上の義務に
通常のビジネスの契約であれば、契約書に書かれたことが合意のすべてであり、仮にどこかで口頭で合意した事実があっても排除すると明記されるものです。契約の世界ではこれを口頭証拠排除原則(Parol Evidence Rule)と呼んだりします。
これに対し本契約第7条では、立候補過程で東京都側がIOCに宣言した内容も、すべて契約の義務となると定められています。
たとえば、2013年のIOC総会で東京都がプレゼンテーションした「お・も・て・な・し」を提供するのも、契約上の義務の一つということになります。
(3)IOCに発生する損害迷惑の一切を補償・防御
さらに第9条では、大会に関しどんなトラブルが起きようとも、東京都らは、ライセンサーであるIOCおよびその関連会社に発生する損害を補償し、免責し、防御する義務を負っています。
この条項をみただけでも、異常なほどの一方的契約条件であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
(4)選手や関係者の宿泊施設も提供
最低でも選手・関係者ら16,000人が収容できる宿泊施設、いわゆる「選手村」を用意する義務が第29条に定められています。
この義務を果たすために建設されたのが、東京都中央区の大規模再開発エリア「HARUMI FLAG」です。
大会終了後はリフォームの上、マンションとして売り払われることが決まっています。万が一、大会期日が延期されたら、マンションの引渡し日も遅れるのでしょうか。
(5)財産権はすべてIOCに帰属
第41条には、大会に関する財産権もIOCが「永久に独占」できると高らかにうたわれています。まるでドラえもんに出てくるジャイアンのような口ぶりです。
(6)IOCが得るライセンスフィーは20%以上、しかも税負担なし
2月時点の試算では少なくとも100億円以上の剰余金が発生すると見込まれているこの大会。第44条の定めにより、IOCは大会で計上される剰余金の20%を、資金調達リスクを負うことなく、運営の労もなく得ることができます。
しかし、開催都市東京都には直接の分配はありません。東京都は、一方的に事業運営リスクだけを負っていることになります。
さらに第50条では、本来IOCが納めるべき税金相当額までも、東京都らが負担させられる条件が課されています。企業間のライセンス契約でドラフトする例をたまに見かけますが、よほどの事情がない限り相手に拒絶される条件です。
(7)IOCからのみ契約解除と大会中止が可能
今回のパンデミックのようなことがあっても、契約を解除し大会を中止する権利はIOCのみが裁量を持つということが、第66条に書かれています。また、2020年中に大会が開催されない場合にも、IOCが解除できる旨が書かれています。
橋本聖子五輪相が言う「2020年中は延期可能」は本当か?
民間NPOに過ぎないIOC相手に、なぜ公共団体がここまでへりくだらなければならないのか?と疑問に思うような条項がずらりと並んでいます。一般企業同士であれば、このような契約書を修正なしに受け入れることは考えられないレベルであり、不平等契約の教科書として教材指定 したいぐらいです。
そんな開催都市契約書に関し、今ホットな話題となっているのが、東京オリンピック競技大会担当大臣を務める橋本聖子氏が「大会開催日程の延期も可能と解釈できる」と発言した件についてです。
▼ 東京五輪、政治日程を左右 IOCに開催判断権限 「5月」節目か
東京五輪の契約には開催延期に関する明確な規定はない。「20年中に開催されない場合」はIOCが中止を判断できるとの規定はある。
橋本聖子五輪相は3日の参院予算委で「解釈によっては、延期は20年中であれば(可能だ)と取れる」と述べた。
—日本経済新聞 2020年3月12日
新型コロナウイルスが世界的な流行をみせ、WHOがついにパンデミックを宣言。大会の開催を危ぶむ声が出始める中で、この橋本大臣の主張の根拠はどこにあるのか。
記事前段のIOCによる解約権については先ほど見たとおりですが、後段の延期を可能とする解釈について開催都市契約第71条をみてみると、確かに、パンデミックは「締結日に予測できなかった不当な困難」であると主張できそうであり、それによって合理的な変更の考慮を要求できるとあります。
ただし、それを受け入れるかどうかはIOCの裁量に委ねられます。莫大な施設建設費や運営責任を負わされながら、こうした不可抗力ともいえる事態にあっても、東京都らは「考慮の要求」しかできない のです。
こうした一方的な契約内容でも従うのが立候補の条件だったといえばそれまでなのですが、通常のビジネスセンスでは受け入れがたいほどの不平等な契約内容を甘く見積もったそのリスクが、今回の新型コロナウイルスの流行で現実のものとなってしまったといわざるを得ません。
(橋詰)
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