新型コロナウイルスでもキャンセルできない「展示会出展契約」
新型肺炎の拡大を回避すべく、政府がイベントの自粛を要請。一方で法人間の商談を伴うビジネス展示会は中止とならず、来場者数が期待できないまま開催され続けています。そんな展示会に関する規約をチェックしてみました。
政府によるイベント自粛要請がはじまるも、粛々と開催される法人向け展示会
2019年11月に発見されて以降日本にも上陸し、2月27日時点で国内175人と感染者数が拡大しはじめている新型コロナウイルス。事態を重く受け止めた政府が、企業および国民に対してイベントの中止要請を出すまでに至っています。
安倍晋三首相は26日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、今後2週間は全国的なスポーツや文化イベントの中止や延期、規模縮小を要請した。「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要」と述べた。
(日本経済新聞 2020年2月26日)
すでにJリーグやプロ野球をはじめとするスポーツ興行が日程変更または無観客試合を決定したり、著名アーティストのコンサートが急遽中止となるなど、社会経済に大きな影響もではじめました。
一方、このようなある種の非常事態でも粛々と開催されているのが、法人間取引の商談・プロモーションを目的としたビジネス展示会(見本市) です。
実際に会場に赴いた来場者のツイートなどでも報告されているように、ウイルスへの感染リスクを勘案した企業の自粛・リスク回避行動により、現地が閑散とし異様な雰囲気を帯びてしまっている現状があります。
契約上は出展拒否が認められず、不可抗力も通用せず
イベント自体は決行されているものの、出展社が出展をドタキャンしているこの状態。複数の大手展示会運営企業が提示する展示会出展契約を見てみると、出展者にはなかなか酷な条件が課されていることに気づきます。
まずは、出展社がキャンセルを望む場合の条件についてです。多くの展示会出展契約で、開催日まで3〜4ヶ月(展示会規模等によって異なる)を切って以降は、キャンセル料として出展料100%の支払い義務 が課されています。
また今回あらためて出展契約を見直して気づいた特徴が、直前で 「出展しない自由」を認めていない という点です。多くの出展契約で、主催者が開催を決めた以上は出展スペースにブースを設置し、人員を最低1名張り付かせることが出展社の義務として課されています。
展示会の広告を見て来場するお客様のためにブースで商談ができるよう待機すること、会場に割り当てられた小間に空きを作らないこと、展示会に盛況感を出すことが義務として負わされているというわけです。この義務に照らすと、前述のツイートの状況はこれを遵守していない出展社が出始めているという状況が見て取れます。
とはいえ、今回のような指定伝染病の拡大リスクや政府の自粛要請があるのであれば、いわゆる「不可抗力」として出展社を免責してもよいのではないか?そうした疑問も当然に湧いてきます。この点、各展示会契約の不可抗力条項を見てみると、そのほとんどが
- 「疾病」による政府および官公庁による規制または命令は、不可抗力事由に該当
- 不可抗力事由の発生を受け、主催者判断で展示会を中止判断することがある
- 主催者判断による中止の場合のみ、出展社に出展料の一部が払い戻される
という条件となっており、不可抗力を理由とする出展社側からの出展拒否を認めていません。
展示会を運営している主催者側も、数ヶ月前から大きな会場と多数の運営スタッフをおさえ、来場者の集客をするために広告等の原価を発生させており致し方ない部分もあるかもしれませんが、契約上は来場者がほとんどいないと分かっていても出展社は出展するかしかない、ということになります。
「営業禁止」をし得ない以上、企業の展示会問題は今後も続く
セミナー等の講演や記者会見等の企業イベントについては、オンラインでの開催と視聴に切り替える動きも広がりはじめています。
しかし マンツーマンの商談を伴う展示会は、業界最大手1社だけで年間200日以上主催されており、今後もほぼ毎日のようにどこかで開催 されます。政府が企業の通常の営業活動まで禁止することは想定できず、上記のように一定期間を過ぎると出展社からのキャンセルもできないとなると、ビジネス展示会については開催はすれども人集まらずの状態が今後も続くことが予想されます。かくいう弊社も、3月から4月にかけてすでにいくつかの展示会やイベント出展を予定しており、決して他人事ではありません。
一般消費者を対象としたイベントはほとんどが中止・払い戻しを選択する一方、法人間の話だけに宙に浮いたかたちとなりそうなこのビジネス展示会の問題。過度な萎縮が必要以上にビジネスを停滞させてしまうという懸念もある中、ウイルスという目に見えないリスクを前に、主催者も出展社も判断に苦慮しています。
(橋詰)
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