著作権侵害と戦う権利者を支えるリーガルテック —竹書房 vs Cloudflare訴訟
漫画村に代表される、著作物を違法にアップロードし無料で閲覧可能にしている「違法サイト」の存在。これに対し、コンテンツ削除申請にとどまらずに原因から根絶すべく、竹書房・東京フレックス法律事務所・弁護士ドットコムがチームを組んで挑みます。
株式会社竹書房がCloudflare,Inc.に対し民事訴訟を提起
株式会社竹書房が、webコミックガンマ連載作品バンブーコミックス「どるから」の著作者であるハナムラ氏と共同で、米国のCDNサービス事業者 Cloudflare,Inc.に対し、著作権侵害に基づく民事訴訟を提起しました。
以下、竹書房さまのプレスリリースより引用します。
訴えの内容としては、Cloudflare, Inc. が弊社が刊行する著作物を含め、多数の著作物を違法にアップロードし無料で閲覧可能にしている違法サイトにサーバーを提供していることから、違法にアップロードされた著作物を同社のサーバー上から削除するよう直接求めましたが、対応されることがなかったために、裁判所を通じて著作権侵害ページの削除と、損害賠償の支払いを求めるものです。
(中略)
加えて弊社は主に検索結果からの著作権侵害案件などについての削除申請を弁護士ドットコム様と共同して行っておりますが、本件でも証拠保全などにつきまして多大なご協力を頂き進めた事案であり、今後も著作権侵害に対し連携して対応していくことも重ねてお伝えさせて頂きます。
漫画村をはじめ、コンテンツの著作権を侵害する違法サイトが後を絶ちませんが、今回の竹書房さまによる訴訟は、侵害者がアップロードしたコンテンツについてアクセスにかかる負荷を分散する「CDNサービス」を運営するCloudflareをあえて相手方に選んでの訴訟 となっています。
証拠保全作業に「弁護士ドットコムRights」が技術協力
2019年7月にクラウドサインが主催した「Legal Tech Forum Vol.3 ー知財の未来」。
このイベントに、弊社が提供する違法サイト調査サービス「弁護士ドットコムRights」のユーザーとしてご登壇いただいたのが、竹書房さまの竹村響取締役でした。
同イベントのレポートにも残っている、違法サイト問題に対する竹村取締役の「著作権法改正の必要性を議論する前に、権利者としてできることはやり尽くすべき」という問題意識 が、今回の訴訟というアクションにもはっきりと現れています。
このイベント以降も、竹書房さまと弁護士ドットコムRightsでは、違法サイトの根絶に向けて双方に協力ができることはないかディスカッションを重ねていました。そして今回、削除を求めても応じないCDNが配信する違法コンテンツの証拠保全(ウェブサイトのデータ保存)を、リーガルテックにより自動的に行える仕組み作りで協力 をさせていただいた次第です。
東京フレックス法律事務所中島博之弁護士「著作権侵害訴訟にリーガルテックを活用するリーディングケースになれば」
竹書房さまの訴訟を代理人としてサポートする東京フレックス法律事務所の中島博之弁護士にも、お電話でインタビューを取らせていただくことができました。
—CloudflareのようなCDNを相手方として訴訟を提起するのは、中島先生のアイデアでもあったと聞きました。この訴訟戦略の意図を教えてください。
中島弁護士:
「違法サイトの根絶」をゴールとする場合、本来はアップロードした真の運営者を特定すべきなのはもちろんです。しかし、相手は身元を隠すことに長けてもいます。
実は、2019年の夏に米国で発信者情報開示の訴訟を提起し、罰則付き召喚令状(Subpoena)を得るところまでの法的措置もとっていました が、それでも真の運営者の尻尾は捕まえられずという状態が続きました。
一方、CDNを通じ、300万人を超えるユーザーに違法コンテンツの配信が続けられてしまっていました。これを見過ごすのはいかがなものかということで、CDNに対する訴訟経験を持っていた私からも今回のスキームをご提案致しました。
—CDNは通信会社に過ぎないとして、訴訟相手方にすることについては躊躇を覚える権利者もいるようです。それについてはどのようにお考えでしょうか。
中島弁護士:
CDNに対し、内容が適法かどうかについて配信前に検閲・審査を要求するのは筋違いでないか?こういったご批判をいただくことがあります。しかしそれは誤解です。
権利者としては、CDN側の対応作業に手間のかからないよう、侵害コンテンツのURLと権利者の正規コンテンツのURLを左右に並べたスプレッドシートも提供するなど、ワンクリックで著作物がそのままコピーされていることが分かるよう真摯に対応していましたが、対応をしていただけませんでした。こちらが求めているのは著作権侵害通知を送り、CDN側が著作権侵害を認識できる状態になった際、適切に処理を行って頂くという、あくまで事後的な対応 です。
竹書房さまのプレスリリースにも記載のとおり、今回の要求は、こうしたCDNの現状を改善してほしいという一点であって、原告としては、過大な要求を突きつけるものではないと考えています。
—リーガルテックは、実際に訴訟準備活動のお役に立てたでしょうか。
中島弁護士:
侵害コンテンツを証拠化し訴訟する場合、一つ一つのページごとにURLがおさまるようにPDFファイル等に保存をするという、膨大な作業に弁護士が追われることになります。この作業は弁護士の知識や経験は不要であり、生産的な作業ではありません。
今回、弁護士ドットコムRightsの協力により、CDNのサーバー上にあった本訴訟に関わる作品『どるから』の全ページの証拠保全を行うことができました。私の実作業時間は0(ゼロ)時間でしたので、大変助かりました。
出版業界の皆さんに「リーガルテックを使うことで違法サイトとも戦いやすくなった」と思っていただき、さらに違法サイト運営の意欲を挫くために、この訴訟をリーディングケースにすべく尽力したいと思います。
(橋詰)
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